〜逃げるが勝ち?逃げるのも面倒だ〜
「うわーお、まじかよ。つら」
1人佇む少女の言葉は内容に比べて割と軽かった。
そして、状況に比べても。
「あ"、あ"ぁあ....ぐぇ」
(ゾンビ、だよねぇ、あれ。んー....流石にゲームじゃないから殺したりはできないよなぁ....)
少女の視線の先にはこちらにじりじりと歩みを進める男性が1人。
ただし、目は白目を剥き、血だらけである。
「うぅーん.....。....あぁ!?ちょっ」
少女がどうしようか悩んでいるといつの間にかすぐ目の前までソレは迫っていた。
「ぁあぁ"あぁ!」
口を大きく開いて少女に掴みかかろうとするソレを間一髪で避け、呟く。
「とりあえずー...逃げるかっ」
そして少女ーーー櫻田知由は走り出した。
(まぁ元は目的地だったわけだし、学校行くか)
知由は部活に行くという目的を思い出し、学校の弓道場へ向かった。
その途中、ゾンビらしきものは見ていない。
誰もが普通に生活していた。
一度走るのをやめ、周囲を注意深く観察する知由だったが、やはり特に変化は無かった。
「ふむ。よし、あとひとっぱしりっ」
パァンッ
「しゃあっ!!!」
弓道場に着くとやはりもうすでに稽古は始まっていた。ーーー普段通りに。
「やっぱりか」
知由が妙に納得した面持ちでいう。と、
「やっぱりか...じゃねぇよ!」
「っとー」
後ろから来た背の高い男子にチョップをくらいそうになった知由だったが、予想していたように避けた。
「悪りぃ、事故った。」
「言い訳は....って、え?大丈夫なのか?」
「あ、うん。こんちはー!」
それだけ言うとずかずか道場に入り自分の弓を準備する。
「え、あ、おい。櫻田、まず着替えろよ」
「んー?ちょっと待ってねー」
部員たちが不思議な目や呆れた目を向けている中、知由は弓と矢を4本持つと外へ出て行った。
それには流石にみんなが驚き、揃って稽古を一旦止め、あとを追った。
「櫻田?おい、待て」
みんなが慌てることもなく、知由は弓道場を出てすぐの道路に立っていた。
すると矢を番えはじめた。
矢を番えるということはいつでも矢が放てるということで、安全が確保できていない状態ではあまり好ましくない状態である。
ましてや、一般道でなど言語道断だ。
「櫻田!?おい!何してる!」
背の高い男子が呼びかけるが
「命が惜しかったらちょっと黙ってろハゲ」
どういうことか分からない少年と部員たちだったが、そのうちの1人が声を上げた。一応言っておくが少年はハゲてはいない。
「あれ、なんですか?」
みんなが視線を向けた先には、先ほど知由が対峙したゾンビがこちらに向かって歩いてきていた。
「ゾンビ」
それだけ言うと知由は弓を引き、ゾンビに狙いを定めーーー射抜いた。