〜警察署5〜
「ねぇ、まさか、そんな」
町田が驚愕に目を見開いて由馬に問う
「ちーが好きだから?それだけが理由で人を、みんなをころ...こ、ろしたの...?」
「好き?それだけ?何を言ってるのかよく分からないね。僕はちぃ姉が『好き』なんじゃない、『愛している』んだよ。君ごときがちぃ姉と接してることすら僕には理解できないね」
「っ...」
歪んでいる
「いい、気にするな」
「ちー...」
「精神異常者に何を言っても無駄だ」
「精神異常者?僕が?」
由馬は、ははは、と、陽気に
「人殺しに言われたくないな」
「え?」
咲真と牧野がそう言った時
パァンッ パン
銃声が響く
「サクっ!!」
咲真が撃たれたかとも思ったが、銃口は咲真の眉間から少しはずれ、後方に向けられていた。
「ちっ」
「由馬っ...!」
「なにを勘違いしてるか知らないけど、今は守ってあげたんだけど?まぁ避けられたけど」
「あっ...」
「彩?」
「あぁ、君には見えたのか。なんだろうねアレは。警官ゾンビにしてはあまりに気色悪い気がするけど」
そう言った由馬は銃を構え、咲真から距離をとった。
そして、着ていたジャケットの内側から銃を一丁取り出すと、知由に向かって投げた。
「ちぃ姉なら戦えるよね。戦えなくてもそれで自分の身は守って。使い方はきっとちぃ姉のゲームと一緒だから」
「さ、サクにもあげて」
「駄目だよ」
背後の廊下の先を黒い影がよぎる
「早く!由馬!」
「二度も言わせないで。駄目だ。話している時間と余裕はちぃ姉にはないんじゃない?ほら、早く逃げるか戦うかしないと」
パンッ ドパパンッ
廊下に得体のしれない物体の血が飛ぶ
もうその影はそこにはない
「ーーー殺されちゃうよ?」
「ちっ」
そして知由もみんなを庇うようにして銃を構えた。そのときーーー
廊下の先からそれは飛び出し、天井や壁をつたいながらこちらへ向かってきた。
警官の服をきた、2つの頭に長い尾を持つ生物が。
「!?」
「きゃぁあ!」
「みんな私の後ろへ!!」
パァンッ パンッ ドパパンッ
「効、かない...っ!?」
そしてそれは知由の目の前に。
知由に見えたのは喉の奥。
「ちー!!」
ガッ ボギボギッ
それは思い切り噛み付いたーーー
知由を押しのけて前へ出た咲真の肩へ。
「っ!!!」
「さ、く.....?」
「がぁあぁぁあぁあああ」
咲真の肩から口を離し、地面に倒れこんだ向かいに見えたのは両手に刃渡30センチほどのナイフを構えた由馬。
「逃げるよ。僕も初めて見た。頭一つ切り落としてもまだ死んでないみたいだし、今はそいつと戦うリスクは負えない」
そう言って由馬は非常階段の方に向かって走り始めた。
頬に汗を流す咲真も気を失うことなくうなづいて走り始めた。
牧野と町田も咲真に気を配りながら走り出す。
知由だけが呆然と立ったまま、その場から動かない。
「ち、よ!!早くしろ!逃げるぞ!牧野!知由を連れてこい!」
「櫻田先輩!」
戻ってきた牧野が勢いよく知由の手を引っ張り、非常階段に向かって走り出す。
知由の足取りは拙く、重かった。
"お姉ちゃん!!"
叫ばれてはっとすれば、目の前には、庇うようにして前に立つ少年。
そして、生暖かい液体が知由に降り注いだ。
一瞬でも忘れることのない過去の記憶が、知由の視界を埋め尽くしていた。