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無気力JKの非日常生活  作者: CHEB丸
第1章
12/19

〜譲れない 2 〜

そうして咲真を加えた部員たちは警察署に向かって歩き始めた。

まだ不安な面持ちをしている者も多いが、とりあえずはまとまったようだ。


(まさか、彩がサクを、ねぇ...)

知由は何かに納得したように、ウンウンとうなづいていた。


隣にいた咲真が口を開いた。


「よくみんなが了承したな」

「まぁな」

「お前のその赤いほっぺと関係あんのか?」

「笑ってんじゃねえよ、殺すぞ」

「うぇ、これだから女子力の無い女は」





「嘘だって分かってるんでしょ?」


咲真を公園に置き去りにし、警察署を向けて歩き始めてすぐ、彩が言った。

知由は彩を黙って見つめている。


「みんな、待って」


歩いていた部員たちを止め、彩が突然頭を下げた。


「町田!?」

「咲真くんはね」


「咲真くんは、ちーにとって本当に大切な人なんだよ。咲真くんにとっても、ちーは本当に大切なんだよ」


アスファルトに、シミがひとつ。

ふたつ。

みっつ。


「町田...?」

「お願い、ちーにこれ以上、背負わせないで」

さらに深く頭を下げる。

それでも部員たちは渋い顔をしている。


「彩、いい。本当にいい。あいつは置いて行く」

そういって知由は頭を上げさせ、彩の頬に伝った水滴を拭う。

「でも...」

「いいってば。あんな奴置いていこう」



パァンッ



その音はやけに耳に響いた。

彩が知由の頬を打った音だった。


「本当に大切な人を選べって言ったのは誰よ...。後悔しないためにそうしろって言ったのは!全部嘘だって分かってるんでしょう!?ちーにとって咲真くんが大切なように、咲真くんにとってもちーが大切だって知ってるくせに!」

「さ、彩、落ち着い...」

「また...」

「え?」


「また、自分から、失うの...?」


知由が目を見開いた。



「まぁいいんじゃない?連れてって。そもそもただくっ付いてってる私らがあんま偉そうなこと言えないっしょ。その代わり知由、ちゃんと梨蔵君のこと見ててね。私らは知由ほど強くないーーー怖いんだ」

「律...」

「わ、悪かった、あんな言い方して。気が動転してたんだ。一緒に、行こう」

田沼も続いて言う。


知由は全員の顔を見渡し、うなづいた。

「ありがとう。もし、あいつが人間でなくなってしまったらーーー私が殺す」


全員が息を飲んだ。


「ちー。叩いてしまってごめんなさい」

彩が目に涙を浮かべ、知由を見上げている。

「いいんだよ、大丈夫。むしろありがとう」

「うん。ちー、あのね」

「分かってる、サクには秘密にしておく。じゃあ、行ってくるよ」


知由は急いで来た道を逆戻りした。



「違うんだけどな」


それを見つめながら、親友の勘違いに彩は苦笑いを浮かべていた。





「そういえば」


警察署へ向かう途中、彼らは駅前の広場で休憩をとっていた。口を開いたのは戸塚だった。

「梨蔵の一件で保留になっていたけど、結局その警官のゾンビがなんでそんな行動をしたのかわかるのか?櫻田」


みんな知由へ視線を集める。

知由は飲んでいた水を口から離し、特に気にしてる風もなく言った。

「いや、わかんねぇ」


「わ、わかんねぇってそんな軽く...」

「ただ、いくつか予想はたててある」

「それをみんなに教えてくれ」

「ダメだ、まだ確信がない。混乱だけ与えるわけにはいかない」


知由はピシャリと言った。


「知由、確信がなくてもいい。みんなに言ってくれ。それでなくともみんな不安なんだ。なるべく情報は共有しておいたほうがいい」

「サク...」


みんなが強張った顔のまま知由を見ている。


「はぁ...。分かったよ。まず避けた理由は単純にゾンビの知能レベルが高かったから。これはまず間違いない。単純に、とはいっても厄介なことに変わりはない。」


「ここからは2つの可能性がある。まずひとつ、サクはある程度強いと判断して弱い子供を狙った。サクに攻撃を加えられたことで判断したのかな。もうひとつは、サクの肉が固かった、から」


「「「「は?」」」」

真剣な顔で聞いてた彼らの顔が惚けた顔になる。


「何か不思議なことが?ゾンビについては分からないことが多い。なにが目的で襲うのかも分からない。ホラーとかには自分の体の一部にするための血肉を求めて...とかもあるけど、それ以外だって考えられる理由はたくさんある。もしかしたら普通に美食家なのかもよ?」


「おい、今はふざける場面じゃないぞ」

田沼が口を挟む。


「ふざけてなんかねーよ。いいか?人間は食物連鎖が激しい。それはそれは美味いらしいぞ。実際フランスの方では人間を食べた例がある。それに、人肉っていうのは幼い子のほうが筋肉繊維が細くて柔らかいんだ。少なくともこんな細マッチョの肉よりはな」


「おい...」


「でも人間には理性がある。人を殺してはいけない。もちろん食べるなんて異常だ。それが常識。そう教えられて生きてきた。しかしもしゾンビになって理性が無くなったら?分かっただろう、ありえない話じゃない」


もう誰も嘔吐することは無かった。


「まぁ、最初にも言ったけど正直分からない。直接戦ったわけでもないしな。ただ、ひとつ言えるのは、聞く限り、私たち個人の力じゃーーー絶対に敵わないってことだ」

「じゃ、じゃあどうするんだよ」

「だからこそサクが必要なんだ。サクと私の2人がかりならまだ可能性はある。その間、戸塚と田沼にはみんなの警護をしてもらう。みんなにもある程度自分自身を守って欲しい。」


みんながうなづく。

もう、この世界を死ぬ気で駆け抜けるしかないのだ。しのごの言っていられない。


「サク、肩の調子は?」

「今のところ何も。大丈夫だ、まだ戦える」

「よし、なら問題はない。あとすこし歩けば警察署に着く。みんな覚悟を決めておけ」



そうして彼らはあと少しの道のりを進み始めた。


ちらりと知由は咲真を盗み見る。



知由はたてた予想のうちあるひとつをみんなに秘密にしていた。

もちろん、先に述べた2つも考えていたことだった。


しかし、秘密にしていたものは1番厄介で


ーーー最悪な結果をもたらすものだった。




(もしそうならーーー全員、死ぬかもな)





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