〜譲れない〜
友情って素敵ですね←
「と、まぁ、こんな感じ」
話し終えた咲真はからっと笑った。
知由を除く全員の顔が青ざめ、怯えている。
しかし、知由は分かっていた。本当に怯えているのは部員たちではない。ましてや知由でもなく、咲真であると。
人が喰い殺されるのを目の当たりにしたからではない。
「なぁ、俺ーーー死ぬの?」
咲真は笑ったまま知由に聞いた。
部員たちはなぜそんな笑っていられるのか、と不思議に思いつつ怯えていたが、知由には泣きそうな顔にしか見えなかった。
「わからない。けど、とりあえず手当だけしよう。消毒も包帯も持ってきてるから」
そうして知由は彩に手当をするように言った。
「お、おい!まさか、連れて行く、んじゃないよな?」
田沼が不安気に知由を見つめていた。
部員たちも同じだった。怒気を含んだ目をしている者もいる。
咲真は黙っている。
「逆に聞くが、私がサクを置いて行くと?はっきり言うが、今サクを置いて行くくらいなら君達とはここでさよならだ」
「なっ、でも!噛まれてるんだぞ!?こいつだっていつかゾンビになるんだぞ!?」
「馬鹿か。確かに映画とかではそうかもな。でもあれはフィクションだ。実際そうなるかどうかは分からない。それに、例えそうなるとしても、私は絶対にサクを見捨てるような真似はしない。お前らは見てただろ。私が一番最初に連絡をとったのは誰だ。初めに言ったはずだ。ーーー本当に大切な人だけを選べ、と」
キレている。それも、知由がみんなに分かるように。
知由は口は悪いが『お前』とは普段言わない。言うときはキレているときだ。
知由が冷静にその言葉を選んだのだ。つまり、知由の示すところはーーー
"もし咲真に敵意を向けるなら、お前らを、見捨てる"
全員の背中に冷や汗が伝った。
「あっははは、知由、お前そんなに俺のこと愛してんのか、きめぇよ」
咲真が腹をかかえて笑っている。
みんな拍子抜けしていた。
咲真は、笑いすぎて目に涙を浮かべたまま言った。
「いいよ、知由。置いて行ってくれ。残念だが知由、それを言ったら俺が一番最初に連絡したのは豊さんだよ。お前じゃない」
知由が咲真を睨む。
「サク」
「自惚れんなよ」
咲真も知由を睨む。
「お前がいなくても俺は大丈夫なんだよ。調子乗ってんじゃねぇぞ」
しばらく2人は睨み合っていた。
「わかった。サクは置いて行く」
知由の決断だった。
「ちー!」
「いい、彩、サクの手当も終わった。置いて行く。サク、あとは勝手にしろ。せいぜい頑張れや」
「あぁ」
「そうと決まれば早く行こう」
複雑な面持ちのまま、彼らは警察署を目指して公園を離れた。
「はーぁ!」
みんなが去った公園のベンチで1人、咲真は横たわっていた。
嘘だった、すべて。
「あー、知由にはバレてたよなあ。だっせぇ。まぁ俺が知由を殺すようなことになるよりはまし、か」
そう言って笑ったものに含まれていたのは、自分への嘲りだった。
「あーくそ、泣くのなんて幼稚園時代以来だぞ」
涙を拭き、目を開けると、自分を覗き込む影が。
「ぐぁあ....」
「よぉ、食うか?今の俺は不味いぞ、きっと」
笑いながら静かに目を閉じる。
ブシャアッ!
鮮やかな血が、舞い散った。
「ほんとだっせぇな、何泣いてんだよ、ガキが」
「...うるせぇなぁ。つかてめぇなに戻ってきてんだよ」
そう言いながら咲真は目を開ける。
ベンチの脇には首のなくなったゾンビが横たわっていた。
ゾンビがいた場所に立っていたのは予想通りの人物だった。
「知由」
「情けねぇ顔してんじゃねぇよ。私がサクを見捨てるわけないだろ。それにこちとら人手不足なんだよ」
「来い」
知由は手を差し出した。
咲真はその手を払い、立ち上がった。
「言っただろ、俺はお前がいなくても大丈夫だって。なめんな」
そう言って公園を出たところにいる部員たちの元へ向かって歩いて行く。
「調子乗ってんのはどっちだ、クソガキが」
知由の口は弧を描いている。
咲真がみんなの待つ方へ行くとき発した小さな言葉。それはちゃんと知由の耳に届いていた。
『俺も1番最初に連絡したのは、お前だよ』