〜鮮血〜
「〜〜〜〜〜っ!!!!!ぁあぁ!くそっ!痛えんだ、よっ!!」
咲真は思い切り警官ゾンビを蹴り飛ばした。
口の周りを血でベトベトにした警官ゾンビは地面に四つん這いに着地し、咲真と距離をとった。
傷がズクズクと痛む。
「ちっ」
思わず舌打ちをする。
(死ぬ、のか...?まぁ子供を庇って死ぬなんてイケメンな俺にぴったりじゃないか...)
「ははっ」
笑ってしまう。
それでもやすやす負けてやる気は無く、もう一度鉄の棒を持ち直して構える咲真だったが、警官ゾンビは180度向きを変えーーー跳んだ。
ブシャリッ!ブチュ、グチャ
一瞬の出来事だった。
警官ゾンビは咲真との距離のちょうど2倍はある反対側の位置ーーー突然のことに泣き止み尻餅をついていた幼い子供の頭にかぶりついた。
大口を開けた警官ゾンビに幼い子供は飲み込まれていった。
もう、助からない。
死んでしまった。
助けることができずに。
そのショックは大きかった。
状況判断が追いつかない。
咲真が呆然と立ち尽くしている間にもバキバキ、ボキボキと骨が砕ける音が響く。
ーーー今、逃げなければ
本能がそう叫ぶ。体が勝手に走り出す。
咲真はがむしゃらに走った。
後ろを振り向かず。
咲真には分からなかった。
なぜ300mも先にいる小さな子供に気付き、交番の目の前を通った自分に気付かなかったのか。
なぜ自分の攻撃を避けることができたのか。
なぜ噛みちぎることもできた筈なのに噛み付いただけだったのか。
なぜ大怪我を負った自分を狙わなかったのか。
なぜわざわざ遠い位置にいるあの子供を狙ったのか。
分からないことだらけで。
小さな子供を助けられなかったという事実だけがやけに明瞭で。
しかし、咲真はひとつ、大事なことを見落としていた。
振り向かなかった咲真は気付かなかったのだ。
警官ゾンビは咲真が走り出すと子供を食べるのをやめ、咲真が逃げるのを、じっと、じっと、見ていた。