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ある娼婦の日常 ③

よろしくお願いします。




誰もいない露天風呂。

ベルフィは長時間の三助を頑張ったんで、のぼせてダウンしている。

サギニはベルフィの介護。

スレイは貢物(チップ)である砂糖菓子を楽しんでいる。


最後のお風呂だけど、ベルフィが水精霊さんにお願いしているんでお湯が汚れたりはしていない。

いつでも一番風呂みたいに綺麗なお湯だ。


全裸でお湯に浮かぶようにしてまったりしているんだけど、そのリラックスな時間は長くは続かない。

入浴しにスレイがやってきたんだ。



「おお、丁度いい。演舞(・・)に気合いが入り過ぎて肩が凝った。頼む」



スレイはそう言うとゴロリとうつ伏せになる。

肩とか背中をマッサージしろっていうらしい。

スレイは神馬だから疲労とは無縁じゃなかったっけって思ったけど、人間形態だと違うのかな?

ボクは背中に跨って、ツボ押しとかしながら世間話をしていた。



「仕事にも慣れた?」


「うむ。皆の言うがままに動くだけて済むからな」



言うがままって…エッチな動きなんだけどな。

スレイは完全にエッチ系の踊り子さんだ。

本人は演舞のつもりっぽいけど。



背中のツボ押しマッサージから始まって、段々とストレッチ的なマッサージになる。

それから貢物…砂糖菓子や飴菓子の話になる。

スレイはかつてアースガルズにいた時には食べたことのない甘味にご満悦だ。



「それにしてもこの人間界(ミズガルズ)は良いところだ。我が演舞(・・)を披露するだけで砂糖菓子が貢がれる。このままここで暮らすのもアリだな」


「それは困るなぁ。ボクは英雄になるために戦うんだから。スレイも付き合ってくれないと困るよ」


「…しかし、そうは言うがこの人間界は平穏なんだろう? 戦の気配もないというではないか」



う。

そうなんだ。

昼間にお客さま相手に情報収集しているんだけど、どうにも国家間戦争は今のところ起こる気配すらないみたいだ。

かといって、戦争が起こるように暗躍して、万一それが露見しちゃったら大罪人。

そうなったらフレイヤのところに戻れない。



「うん。だから世の中が動くきっかけが必要なんだ。それがドラゴン退治だと思うんだけど」


「ふん。まぁ時間はある。アースガルズの連中も神の端くれだけあって気は長い方だ。気にせず己の納得いく方法で英雄に至れば良かろう」



その時だった!



「お姉さまッ! ベルフィがお背中をお流しします! いいえ、背中だけではなくて、全身余す所なく、徹底して念入りに! 全てを委ねてくださいませ!」



復活したベルフィが飛び込んできた!



「ッ!? お姉さまッ! そんなお二人で、くんずほぐれつ、なんて素敵な! ベルフィもお仲間にいれてくださいぃィッッ♡♡!!」



ベルフィが全裸で突進してくる。



「『守護(アルジス)』! ボクの貞操を守って!」



ボクのカラダの前面は濡れた日本手拭いで覆われた!

素肌にピッチリスケスケに張り付いているけど、れっきとした防具だ。

ベルフィは「ぎゃあああああぁぁぁッッ! お姉さまぁぁぁッッ! 素敵ぃぃッッ♡♡☆♡!!」(ブバァッ♡♡!♪)とか叫びながら、鼻血を吹きつつ目測を誤って湯船にダイブする。

そのまま気絶しちゃったみたいだ。


そして全裸のサギニもやってくる。



「はぁはぁ♡ ジエラさま、お背中お流しします。忍法・泡遁♡」



もうワケがわからない。






……っとまぁ、そんな感じに皆で騒いで、最後は皆でまったり入浴。

さっきまでのドタバタはどこへやら。

広い浴槽なのにボクを中心に固まっている。

左右にスレイとサギニ。そしてベルフィはボクの足の間に座りつつ身を委ねている感じだ。



「…お姉さまぁ。ベルフィ、昼間は人間の娘たちと交流を深めていますけど、本命はお姉さまですからぁ♡」


「う、うん」


「ジエラよ、お主も暇なら我と共に演舞をせんか? なぁに、客にウケる技は我が教えてやろう」


「遠慮するよ。貢物の取り分がはんぶんこになっちゃうでしょ?」


「ジエラさま、これから私はニンジャとして夜の見回りに参ります。しばし御身から離れる事をお許し下さい」


「気をつけてね。朝は午前中くらい寝てて良いからね。体調を崩したら元も子もないから」



彼女たちはウットリ顔で、全てを許してくれちゃってますって感じだ。

こ、これって、客観的に見れば王様だって手が出せない超弩級高級娼婦(?)を侍らせているって事だよね。

毎日の事だけど、我ながら凄い事してるなぁ。





うう。

そろそろのぼせちゃいそうだ。

意識がぼーっとする前にボクたちに与えられた屋根裏部屋に戻る。




そして温泉の時と同じく、仲間たちに包まれて眠る。







はぁ…。

ベルフィ、スレイ、サギニ…。

悪い娘じゃないんだけど、性的なスキンシップがありすぎて困るよ。

ヘルマンを見習って紳士的(?)にしてくれれば良いんだけど。




ヘルマンは今頃ナニをしているんだろう。


どうやら宮殿に一室を与えられて、客人扱いされているっぽいけど。



きっとヘルマンの事だもの。

ボクの目が届かなくたって稽古に励んでいるに違いないよね。

そ、それに女官とかが言い寄って来たって、頑として跳ね除けるに違いない。



だ、だって、ヘルマンはボクが選んだ戦士なんだから!

そして戦乙女(ボク)が導くに相応しい最強の戦士にするんだ!

そのためにも彼の修行の邪魔になるような、ボク以外の女なんかヘルマンに必要ないんだ!

再会したら、そこんところを分からせるために徹底して扱いてあげなくちゃ!


そんな事を考えていたら、眠気が襲って来た。



今日が終わり、また明日が始まるんだ。




おやすみなさい。

皆んな、また明日頑張ろうね。




⬜︎ 夢  ⬜︎



「…あっ」



ヘルマンに押し倒される。

自らの身体をかき抱くようにして身を守ってみるけど、どうにも隠しきれていない。



「ジエラさま。どうか俺の想いを受け入れてください」


「だ、ダメだよ。ね、ヘルマン? 夜はちゃんと休まないとカラダにも悪いし…。修行の妨げになっちゃうよ?」


「貴女が魅力的すぎて、もはや修行どころではないのです」


「ッッ!」



そ、そんな…。

ボクが魅力的過ぎるせいで…ヘルマンの修行の妨げになってるなんて…。

ヘルマンはボクの美貌とかに惑わされないはずじゃあ…。


い、いや、ちがう。

ボクは男なんだ。男らしいオーラを振りまいているはずなんだ。

でも外見は女性として凄いらしい。

きっとヘルマンはボクのギャップに混乱しているんだ。



「ぼ、ボクも頑張っているんだ。今は…その…自由に動けない身だけど、解放されたらドラゴン退治しなくちゃ。だから、ヘルマンも頑張って…鍛錬とかして…あっ?」



ヘルマンはボクの腕を握って、流れるように互いの指を絡ませる。

そして「貴女が娼婦を強いられているなど俺にはもう耐えられない。鍛錬どころではありません。気が気ではないのです」なんて、ものすごくイケメン顔とイケメン声で囁いてくる。

なんか勘違いしているのかな。

ボクの話とヘルマンの言っていることが噛み合わない。



「貴女に俺以外の男など不要というのがお分かりにならないんですか?」


「も、もちろん、ボクに必要なのはヘルマンみたいな戦士で…。だから、お店で男の人が言い寄ってきても追い払ってるし…」


「ジエラさまが穢されでもしたら俺は生きていられません。…お慕いしております」


「だ、だめ…」



ど、どうしたのヘルマン!?

ボクの漢気に気づいてくれているんじゃ!?

どうしてボクを女性扱い!?



「どうしても貴女の心が得られないとおっしゃるなら、貴女のカラダだけでも俺のモノに…! 俺だけの情婦(セフレ)に…!」


「だめぇ…っ」



うう。

どうして…。

ヘルマンはボクの理想の男なんだ。

子供の頃から夢見た〝漢らしい男”そのままなんだ。

なのに、どうしてボクを…。



……。


はっ!?


そ、そうか!

これは試練なんだ!

かつての師匠の鍛錬法。

その指導は『女性の格好をすることで、〝漢気”を逆境において鍛える』。

これはその進化系。

つまり、女として求められることで漢気を鍛える!

そうに違いない!



「ヘルマン…」


「ジエラさま…」


「ぼ、ボクが漢として未熟だから…、ヘルマンはボクを女性扱いするんでしょ?」


「………」


「や、約束して。ボクが漢らしくなった時、ボクを情婦(セフレ)じゃなくて…、ボクと、戦場で背中を預け合うような…相棒になるって。そして、カラダを重なり合うように…同じ戦場で…死ぬって…」



ボクのお願いに、ヘルマンは無言で頷く。



「だから…ヘルマン…。ボクと…ずっと、離れないで…。凄い戦士になって…。最強の…戦士に…」



ヘルマンはさらに力強く頷いてくれる。



「……へる…まん……」






ボタッ 

(ベッドの枕元の花瓶。そこに生けてあった椿に似た花の首が落ちる音)



⬜︎ ⬜︎ ⬜︎




翌日。

今日も娼館(ローレライ)は繁盛している。


ザワザワ

ガヤガヤ



そしてボクはというと、今日も今日とでお店の用心棒だ。店内に目を光らせたり、お客さまと歓談しながら情報収集している。



ヒソヒソ

「…お、おい。なんだかセフレさん、今日は…その…凄くないか?」


「ああ。雰囲気が…柔らかくなったっつーか。腰のあたりが充実してるっつーか…」


「まさか男かよ!? セフレさんは金貨一億だぜ!?」


「ぐっ。すると商売抜きで逢引きする良い人がいるってことかよ…!」



ボクの自称・ファンの男たちが小声で呻きながらプルプルしている?

何言ってんだろ? よく聞こえない。


そしたらその中の一人が思い詰めた様子で話しかけてきた。



「せ、セフレさん。最近、いい事でもあったのかい?」



え?

いい事?


いい事っていうかなぁ。

ヘルマンの夢かな。

いつもはヘルマンに無理やりだったけど、今回の夢は…。


ヘルマンの逞しい腕の中で「貴女のために最強の戦士になります!」「貴女のために死にます!」だなんて♡

あの時の彼の真剣な表情や声っていったら…お腹の奥がキュンキュンっていうか…。

と、とにかくボクが男で良かったよ。

女の子だったら虹彩が♡になっちゃう自信があるね!

ボクが男に戻ったとき、大いに参考にさせてもらうよ!



「うん♡ ボクの大切な戦士が…ネ、寝物語っていうか、ボクために最強の戦士になって死んでくれるって…♡」


「…せ、セフレさんの好みの男っつーのは…、強い戦士…?」



その問いかけにボクはしおらしく頷く。

今のところ目ぼしいのはヘルマンだけだけど、ヘルマンに匹敵するくらい強い戦士なら大歓迎かな!

もちろんヘルマンは別格♡

ボクが男に戻った時の理想なんだ。

彼くらいの男はそうそうお目にかかれないしね♡



「もちろん! 戦士としての実力があるにこしたことないけど、それよりもどんな過酷な戦場においても勇敢っていうか、戦士として立派な心構えができていれば及第かなっ!」



一応、アールガルズの戦乙女たちの理想をアピールしておく。

ボクにはヘルマンで十分だけど、彼女たちも戦士の魂(エインヘリアル)を待ち望んでるしね♡


するとボクの言葉を聞いたファンの皆さんは震えている。


ヒソヒソ

「…見たかよ。セフレさん、完全に女の顔になってるぜ」

「だが俺たちのセフレさんへの想いはこんな事じゃ萎えたりしねぇぞ!」

「おおよ。セフレさんに相応しい戦士になってやるぜ! 娼館(ここ)に入り浸ってる場合じゃねぇ!」

「俺たちアルデンス傭兵団にゃあ戦場が似合いだ。だが最近は小競り合いばかりで腕が鈍っちまったみてぇだな」



彼らは「鍛え直してくるぜ。想い人によろしくな」とか言いながら帰っていった。



……。


想い人!?

ヘルマンが!?


するとボクたちの話を聞いていた別の娼婦さんがヒソヒソ話している。

「姐さんの良い人って、強い戦士サマなんですって」

「故郷に子供を残して娼婦家業してるっていうから、てっきり…」

「どんな殿方なのかしらね。私もお相手して欲しいワ♡ 」



な、なんか勘違いされちゃってるっ!?


ま、まあいいか。

元々、ヘルマンはボクの男除けの役割もあったんだ。

セフレ(ボク)には想い人(ヘルマン)がいるっていう設定もアリかもね。

どうせ〝セフレ”は娼館勤務期間が終了すると同時にいなくなるんだし。


高潔なヘルマンが娼館(ここ)に遊びにくることなんかあり得ないんだしね。

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