ある娼婦の日常 ②
よろしくお願いします。
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ボクの朝は日の出と一緒だけど、まだ他の娼婦さんたちは寝ている人も結構いる。
この娼館での営業は午後過ぎから夜の初めまで。
おおよそ6時間弱しか客をとらない。
あまりに夜更けになると街は暗闇に包まれてしまうため、治安の問題上、暗くなってからも営業しているお店は限られているみたいだ。
ウチの場合は楼主のヘキセンさんが「早寝早起きが美貌と健康の秘訣だよ!」「灯りがもったいない!」という方針なので、他の娼館が営業していても店じまいしちゃって、ランプの灯も早いうちに消しちゃうもんだから朝が早い人もそれなりにいるんだ。
「おはようございます!」
「あふ…。姐さん。おはよ」
べルフィがボクを「お姉さま」と呼ぶのと、ボクの身長もそこそこ高いためか、先輩であるはずの皆さんは新人のボクに対して「姐さん」と呼んでいる。
「洗濯物はあります?」
「ああ、悪いわね」
ボクは大量のエロ下着とかを預かり、中庭の物干し台スペースに移動する。
ベルフィの助けを借りれば洗剤なんか使わなくても水の精霊さんの力であっという間にキレイに洗濯できるんだ。
「お、お姉さま。この下着…素敵ですね♡ お胸の先端と股間に、あ、穴が空いていてますよ…!?」
ベルフィはレースなエロ下着の穴に指を突っ込んで「はぁはぁ♡ 」言って遊んでいる。
「ベルフィ、おしゃべりしてないで手を動かしてよ」
「はぁはぁ♡ お姉さまが…。私のために…この下着を…着て…ぶばっ♡」
ベルフィはエロ下着姿のボクを想像したのか、鼻血を噴いてしまった。
「鼻血が洗濯物に!? もうっ。変な妄想しているから余計な仕事が増えちゃうじゃないか!?」
「ふがふが。申ひ訳あひまへん。お姉はまわ悪いにれす」
「どうしてそうなるの!?」
洗濯水は洗剤を使ってないから娼館の中庭に適当に撒いておく。
最近、中庭にある菜園の調子良いのは気のせいかな?
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洗濯物がひと段落すると、次は朝ごはんの準備。
メイン料理は昨夜のうちに仕込んでおいた料理に火を通すだけ。
あとはあり合わせで作ったスープと、買ってきたパンだから簡単だ。
家庭菜園も順調なんでシャキシャキの野菜が毎回の食卓に並ぶ。
「美味しいわぁ」
「姐さんって料理も得意なんだもの。憧れちゃう♡」
「えへへ」
食事は皆さんとの大切な交流の場だ。
「…ねぇ、セフレ姐さんは故郷に子供を残して来たって言ったわよね」
「はい。すっごく可愛い男の子です!」
「色々事情はあると思うけど、子供のためを思って腐らずに頑張りなさいよ」
「ありがとうございます!」
そうだよね!
子供…バルドルのためにも、笑顔で頑張らなくちゃね!
「うふふ。姐さんを狙う男から私たちがカラダを張って守ってあげるわ♡ …姐さんが客を取り始めないよう気をつけなくちゃ。そんな事になったら干上がっちゃうわ」(後半小声)
「ええ。だからすっごい新作下着をたくさんお願いね♡ …うふふ。姐さんの下着って全然傷まないんだもの。売ればひと財産になるわ」(後半小声)
皆さん良いひとたちだなぁ。
彼女たちの好意に応えるためにも家事と下着の創造頑張るぞ!
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ボクが館の掃除をしている間、娼婦の皆さんは昼間なのにお風呂の時間だ。
午後から営業を始めるので、皆さんはお風呂に入って肌を磨く。
ボクたちが入店するまでは井戸水で濡らした手拭いで肌を拭くことくらいしかなかったみたいだけど、ここでもベルフィは大活躍。
土、火、水の精霊さんを使って、外から目立たない敷地の一角に露天温泉を作りあげてしまった。
ちなみに妖精国には温泉が無いんで、完全にボクの案なんだけどね。
露天風呂とはいっても30人からの娼婦さん達は一度に全員入れない。
なので10人程度が複数回に分けて入浴して営業前に身体を磨くんだ。
でもベルフィは最初から最後までずっと入浴して、三助っぽく娼婦さん達の身体を洗ったりして楽しんでいる。
ボクはというと、年齢を保ち、常に美容と健康を最適化する『常若の林檎』のお陰で皮脂汚れとかとは無縁な状態だ。だから昼間からお風呂に入る必要もないし、入っている余裕もない。
昼食を作ったり、お風呂に入る人が増えてるうちに細かいところの掃除を済ませると、ボクの方も『下着屋』の準備を始める。
娼婦の皆さんは身体をキレイにしたあと、営業に向けて身支度を整えていく。
ボクも『黄金の腕輪』で創った下着を彼女達に販売する。
皆さんはボクが創造した下着を大量に所有しているみたいだけど、それでも足らないのか次から次へと新作を買い漁るんだ。
「今日は上客の予約が入っているの! でも最近ご飯が美味しくてお腹周りが不安で。…姐さん、そのあたりを解決できるものすごいのをお願いね!」
「えっと、じゃあこんなのは…。『守護』」
かなり際どいボディスーツを創造する。
「ッッ!!? な、なんて素敵なのっ♡ 刺繍の緻密さも凄いけど、体型の補正も自然に! しかも着たまま仕事ができるじゃない!」
最近食べ過ぎてちょっとふくよかになってしまった娼婦さんは補正下着に大喜びだ。
若干ふくよかになった分、おっぱいやお尻のボリュームが増したのに、腰肉はキュッとしている。
「ずるい! 姐さんっ、わたしにも同じものを!」
「私は色違いで!」
「私のは胸を寄せて上げる効果を付けて!」
するとほかの娼婦さんたちも似たような体型補正下着をどんどん注文する。
他人がもっていると欲しくなるというっていうか、とにかく購買意欲が凄いんだ。
そして戦闘準備が整った娼婦さんたちを見て、ベルフィは感慨深く呟いた。
「………す、凄いです。お姉さま。下着というものは女性を美しく魅せるのですね。…私、今まで全裸こそが女性の在るべき姿だと思っていましたが、それは誤りかもしれません」
そういうベルフィは湯上がりの火照った身体に褌一丁だ。
「…故郷の皆にも、下着の良さを分かってもらえたら…」
ベルフィは思わせぶりな視線をボクに向ける。
「う、うん。ボクで良かったら、妖精国の皆さんに下着を広めるために頑張るよ」
「嬉しい…、お姉さまぁ…♡」
ベルフィも最近は「脱いで!」と言わなくなっている。
すっかり服に対する意識が変わって、全裸よりも女性を魅力的に見せる服の良さに気づいてくれたようだった。
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「「「いらっしゃいませ。ようこそ水辺の歌姫へ♡」」」
いよいよ営業開始だ!
ボクもエプロン姿からアラビアーンな踊り子服に着替えている。
黒のツイストスリングショットははっきり言って心許ない。
サテン地っぽい捻じれ紐水着は男達の劣情を煽りまくってしまうかもしれないけど、これも試練だと思って気にしない。さらに腰の前後に垂れた薄布、そしてお決まりのコインベルトやヒップスカーフはジャラジャラしたビーズや金の装飾に溢れている。
カラダのラインは丸わかりだけど、フェイスヴェールによって顔の下半分は隠れているから、ボクの人相は分からないはずだ。
ボクの本当の姿である〝ジエラ・クッコロ・フォールクヴァング″と今の〝セフレ″の違いは髪と瞳の色だけだから、人に顔を見られたら不味いんだ。
後日、「知ってるか? 今はジエラ様は英雄として讃えられてるが、無名のときは娼館で働いていたんだぜ」なんてスキャンダルは身の破滅に繋がりかねないからね。
腰に差した二本の三日月刀はボクが単なる娼婦さんではなくて用心棒でもあるとアピールしている。
勤務を始めて最初の頃はボクを買おうとしたお客さまもいたけれど、ボクの値段は金貨一億枚という事も知られた今では、ボクにちょっかい出すような身の程知らずはいなくなった。
そんな訳で壁際の椅子に座って壁の花になりながら、周囲に不届きな客がいないか目を光らせている。
ベルフィは完全予約制なんで、予約客が来るとサッサと森乙女さんを複数召喚して丸投げするだけ。
値段は『この娼館で働く娼婦一人につき金貨一枚』(金貨30枚程度)という現実的かつ強気すぎる価格設定。最初はベルフィと遊べないと知ったお金持ちのお客様とのトラブルやクレームもあったけれど、美女から美幼女までよりどりみどりな大量のドライアードさんと遊べるということもあり、今ではベルフィにはお金持ちの固定客が複数ついている。
ちなみにベルフィだけど、仕事をドライアードに丸投げした後は客待ち娼婦さんと遊んだりしている。
スレイは最初のうちはアラビアーンな踊り子服で、お立ち台で蹴り技とかの演舞っぽいのを披露していた。
でもお客さまたちがスケベ心を発揮して、あーでもないこーでもないとお立ち台の下からの踊りの指導して、さらにスレイの好物が甘いモノだと知るや砂糖菓子をチップに更にエッチな表情や仕草を要求したんだ。
でも本人の価値観は馬のそれ。自分のダンスがどんなにエッチなのかよく分かっていないみたいだけれど、頑張って踊れば大量の砂糖菓子や飴菓子が貢がれるので気合の入り方が半端ない。
ちなみにスレイの娼婦としての値段は『金貨1000万枚』。でもセクシーダンスを鑑賞するならチップ代だけで済むから、かなりの固定客がついている。
サギニはボクの用心棒としてのアシスタント。
チョロチョロ動き回るベルフィの護衛をはじめ、踊り子や他の娼婦さんにちょっかい出す男を追い払ったりしている。
サギニも娼婦登録しているけど、値段はベルフィに倣って『この娼館で働く娼婦一人につき銀貨一枚』だ。もちろんお客さまの相手をするのはベルフィと同じ森乙女さん。でもサギニが召喚する受肉版ドライアードさんは、蔦で出来た気持ち悪い人型なんで誰も買おうとしなかった。
なお、三人を見受けする場合の条件は『セフレを身請けすればオマケについてくる』というもの。つまり、ボクの身請け代金は金貨100億枚だから、要するに不可能ってワケだね。
とまあ、そんなこんなで。
用心棒っていったって、特にやることはない。
それどころか何故かファンの皆さんに囲まれちゃうんだ。
きっとボクの英雄としての魅力が何もしなくても迸っているんだね。
「…相変わらずセフレさんは孤高だぜ」
「おう。男を寄せ付けない態度だよな。だが時々足を組み替えたりして俺たちを挑発してやがる。た、たまらん」
「ミステリアスな美女ってやつだ。だがあの素っ気なさの裏には事情があるらしい。実は男運がなくて過去に男に騙されたらしいぜ」
「はっ。そりゃ噂だろ。だがセフレさんを泣かせる男がいたらぶっ殺してやるぜ。…俺ならセフレさんに尽くすぜ。セフレさんの為なら命すらも捧げ尽くすぜ」
「「「おおよ!」」」
ボクに近いテーブルで、他の娼婦さんやスレイに目もくれずボクを眺めてお酒を飲むファン(?)の皆さん。若干鬱陶しいけれど、今のところ無害だし、ファンは大事にしなくちゃね。
なんで下品な顔をして近づいてくる男は追い払っているけれど、多くのお客さまにはフェイスヴェール越しににっこりしてみたり、ふぁさと髪をかきあげてみたりするサービスを欠かさなかった。
それだけだと暇なんで、時々彼らのテーブルでお話しとかもしてみる。
世間話だけじゃなくて、英雄として活躍できる場がないかの情報収集も必要なんだ。
もちろん、ボクの愛想笑いを勘違いするような男にはサギニが苦無を突き付けて脅したりしているけどね。
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「ジュネ、また指名するからな」
「うふ。お待ちしていますね♡」
最後のお客様が帰って閉店。
そんなこんなで今日も一日が終わる。
ボクが対応するような大きなトラブルもなくてよかった。
娼婦の皆さんは寝る前にカラダを洗いに温泉に入ったり、束の間の休憩時間で今日の売り上げを数えたりしている。
ボクも娼館の簡単な掃除と明日の朝食の仕込みをしてから、最後にお風呂に入る。
カポーン
「…ああ。今日も充実した一日だったなぁ…」




