性能を確認しよう
よろしくお願いします。
館にボクを送り届けるや否や、トールさんは人に会う用事があるとかで自宅に帰っていった。
ボクのことはフレイヤとフッラさんが出迎えてくれたんだけど、その時に小人さんたちから受け取った『黄金の首飾り』を手渡した。
もちろんフレイヤは物凄く喜んでくれた。
「貴方様から…こんな素敵な結婚の贈り物を頂けるなんて…♡」
あれ?
この首飾りって元々はフレイヤが注文していたんじゃないかなーって思ったら、どうやら注文したこと自体をすっかり忘れてるみたいだった。注文から間が空いていたのかな?
まあそれはおいといて、ボクはフレイヤの首に『黄金の首飾り』をかけてあげる。
ボクの予想通り…いや、ボクの想像以上に似合っている。
彼女の笑顔と美しい金髪と合わさって、フレイヤの魅力が数割増しになって光り輝くようだった。
「…小人さんには感謝してもしきれないよ。ぼ、ボクのフレイヤがこんなにも喜んでくれたんだもの。………凄く似合ってるよ」
「…貴方様♡ ああ…♡ 貴方様との愛は…そしてこれからも…この首飾りと共に永遠に光り輝くわ♡」
フレイヤの腕に抱かれた我が子は、光り物に興味津々らしく、首飾りを弄ったりしゃぶったりして涎塗れにしてしまう。それでもフレイヤは「あらあら。この子ったらキラキラしたもの興味があるのかしら? それともお父様が持ってきてくれたかしら♡」って言いながら目じりが下がりっぱなしだった。
ボクたちが幸せを感じていると、そこにフッラさんが水を差してきた。
「…んんッ。ですがジエラ殿。この黄金の首飾り…相当にお高かったのではないですか?」
「え?」
「ジエラ殿。この黄金の首飾りは財政難の我が領には贅沢過ぎるということで私が注文をキャンセルしたモノなのです。失礼ですがジエラ殿も相応の持ち合わせが無かったはずでは? トール様がお立て替えになられたのですか?」
そうなの?
小人さんたちはそんな事言ってなかったけどな…。
だけど、ボクのおっぱいが弄りまわされることで売買成立だなんて言えないよ。
「あ、あれぇ? ボクの首輪と一緒にあっさりと譲ってくれたけどな? フレイヤにもよろしくって言ってたし、それに特に代価は要らないって言ってたよ?」
ボクはそう言ってとぼけてみた。
「ッ!? ふ、黄金の首飾りだけではなくて、その…黄金の首輪も代価無しでですかっ!? …くっ。あのスケベ小人共…。私だって小人国には何度も足を運んでいるのに…。私には虫ピン一本くれた事ないのに…。こんな一見の娘にまで色目使って…。フリッグ様にジエラ殿…そんなに若いのが良いっていうの?」
ブツブツ言っているフッラさんから逃れるように、ボクとフレイヤは話題を逸らす。
「そ、そうだ。小人さんが言ってたけど、ボクの首輪とフレイヤの首飾りは同じインゴットを材料にしているんだって!」
「そ、そうなの? 私たちの首飾りが同じ材料だなんて素敵ね!」
そんなやり取りをした後、ボクは不機嫌なフッラさんから逃げるようにして、自分にあてがわれた部屋に逃げ込んだ。
・
・
「……ふう。フッラさん、結構ストレス溜まってるのかな…」
フレイヤたちと別れたあと、ボクの他に誰も居ない部屋に籠ると、姿見の前に立って早速『首輪』を使用してみることにする。
手始めに…褐色系になってみよう。
ボクはチョーカーに指を添えつつ褐色っぽい肌になるよう念じながら、小人さんたちから教えられた通り「変身」と唱えてみる。
すると、一瞬でボクの肌が日に焼けたような小麦色になった。
「凄い凄い! これがボク? まるで夏の浜辺でお肌を焼いているセレブみたい!」
せ、セレブはともかくっ。
それにしても、まるっきり印象が変わっていて驚いた。
肌の色を変えただけでこんなにも別人だなんて…。
じゃあ…次に髪の色も合わせてみよう。カラダが小麦色だから、逆に銀髪なんて良いかもしれない。
瞳の色は…緑で。
そして銀髪で小麦色のオトナの美女になっちゃった。
いいね! すごくいい感じだよ!
これなら誰もボクだって分からないぞ!
現地の人に合わせるだけじゃなくて、もしかすると異世界で変装するのにも役に立ちそうだ!
せっかく日焼けしているっぽいし、セレブっぽく(?)最初に着ていたお色気ビキニを着てみる事にする。
「やっぱり…すごい…なぁ。でも…このビキニ鎧といい、さっきまで着ていた競泳水着といい、異世界じゃあ浮きまくっちゃうかもね。それに絶対問題になっちゃうよ」
□ 妄想 □
チュンチュン。
爽やかな朝だ。
ボクはのそのそとベッドから起き上がる。
昨日は大がかりなクエストを完了したんで、さすがに疲れちゃった。
本心としてはもう少し寝ていたいけど、ボクは皆の規範となる英雄さんになるんだ。
シャキッとしないとね!
ボクは洗濯した鎧…水着鎧を着用しようとベランダに出る。
「…なんだかんだ言っても、水着に慣れちゃったなぁ」
最初はボクの事をエロい目で見ていた街の人だけど、毎日の事だから慣れちゃったみたいだ。
ボクとしては有り難いけれど、……ボクを女として見てくれないってのも…。
……。
…ッ!?
ナニ考えてんだ!
ボクは男なんだし、それでイイんじゃないかっ!
「…まったく。慣れってのは……あれ?」
ないっ!
ボクの愛用の水着がっ。
「ど、ドロボーだっ!」
ボクが宿泊している宿屋さん。
そのテラスに干してあった水着鎧…ビキニアーマーが何者かに盗まれた!
・
・
・
「ふふふ。やっと手に入れたわ…!」
ここはジエラをライバル視している、とある女冒険者の宿。
無防備にもベランダに干してあった水着鎧をこっそりと拝借したのだ。
拝借…窃盗ともいう。
「これでアタシも…アイツのように…!」
ジエラは街でもこの水着鎧…下着のような恰好で出歩いている。
無論、戦闘時でも同じく水着鎧だ。
しかしながら、ジエラが数々の難クエストを達成していることから、本音はどうであれ彼女の武器や防具にあやかろうとする者もかなり存在した。
「それにしても…実際に手に取ってみると…凄いわね。ムネの一部と股間は小さい布きれ。それ以外はヒモじゃない…。どんな強力な魔力が込められているか知らないけど、よくこんな格好で人前に出られるわね。露出狂っていうよりは変態の類だわ」
ジエラの代名詞ともいえる水着鎧は有名だ。
あんな恰好で魔獣退治を難なくこなし、更にはダンジョンにまで潜ってしまう。見た目のアレさ以上の強力な魔法の防具に違いないとの噂だ。
しかし、ジエラの防具…ビキニの水着はあやかろうにも正直なところ誰もあやかりたくはなかった。
何故なら…あんなに肌を晒した露出狂じみた格好など、頼まれてもゴメンだからだ。
しかし、この女冒険者はとある方法を思いついたのだ。
「…みんなバカよね。こんな布きれ、下着だと思えばいいんじゃない。コレを着た上からいつもの鎧を装備すれば……」
彼女は鼻歌交じりに服を脱いでいく。
そして…。
「な、なんなのこのサイズ…。あ、ありえないでしょうッッ!? …し、しかたないわね。紐の部分を詰めれば…」
女冒険者は自らのプロポーションの貧しさを嘆きながら四苦八苦して水着を装着…しようとして、そのあまりの格差にブチ切れてしまった!
「やっぱり腹立つわ~~~ッ!! あんな女の装備なんて身に付けてやるもんですか!」
ブチブチッ
彼女は怒りのあまり鎧を引き千切ったのだった。
□ □ □
………。
ば、バカじゃないかボクはっ。
ナニ自虐的な妄想してるんだよっ。
……。
ま、まあボクの水着鎧が盗まれるなんてことはないと思う。
盗まれる…。
水着泥棒…。
□ 妄想 □
ないっ!
ボクの愛用の水着がっ。
「ど、ドロボーだっ!」
ボクが宿泊している宿屋さん。
そのテラスに干してあった水着鎧…ビキニアーマーが何者かに盗まれた!
・
・
・
「…ぅオウふ。や、やっと手に入れたでプしゅうーー。ぐひっ。ぐひゅふっ」
ここはとある冒険者マニア…中でも女冒険者に関係あるものを中心に、窃盗を繰り返している社会不適合者のアジト。
「せ、拙者、い、今をと、トキメク、じ、じ、ジエラ嬢の大ファンとして、こ、これくらいのあ、アイテムは所有し、して、しかるべきでありますドフォプォぉ」
□ □ □
……ひえええッ!?
じ、自分で想像して…悍ましさのあまり鳥肌が……!
でも可能性としてなくはないだろう。
この水着を盗まれないように管理はしっかりしなくちゃ。
でも、確かトールさんの説明だと、ボク意志に反して他人の手に渡ると只の布きれだけど、ボクが自分の意志で人に譲渡する場合はちゃんとした鎧なんだよね。
い、異世界で…オンナノコに…「ねえ、このエッチな水着着てみてよ」っていうシュチュエーション…。
……。
□ 妄想 □
「へえ? …ボクとパーティーを組みたいの?」
ある日、ボクに新人冒険者さんが挨拶に来た。
初々しい女の子。少女と言っても言い過ぎじゃないお年頃だ。
「は、はいっ。ジエラさんは強いし、カッコいいし、頼れるし、憧れの存在なんですっ。私もジエラさんのように素敵な、オトナの女性になりたいなーって!」
「…ふふっ」
嬉しいコト言ってくれるじゃないか。
ボクの様になりたいって?
なら、ボクが用意する鎧を着てもらおうかな!
・
・
「…じ、ジエラさん。この布…。ホントに着なきゃダメなんですか?」
「うん」
「あうう。こ、これだけは許してください…!」
「どうして? ボクみたいになりたいんでしょ?」
ボクはイジワルっぽく笑みを浮かべる。
恥ずかしがる彼女に無理やり着せてみたら、案の定だった。
「ジエラさんのはオトナで…。…丁度いいのかもしれませんけど…。私だと…その…!」
恥ずかしさのあまり泣き出しちゃう新人さん
「…くすっ。まだまだお子様だね。恥ずかしいのは自分が弱い証拠だよ。強くなれば自分に自信が持てるようになる。キミの肌を見て昂奮しているバカな男共よりも強ければ、そんなコト気にならなくなるよ」
「え…?」
「自分よりも弱い男なんてゴミだよ。ちょっかい出して来たら叩きのめせばいいんだ。…そうでしょ?」
「…そ、そうでしょうか?」
訝し気な新人さんに対して、ボクは自信を持って答える。
「うん。バカみたいに女の事を追いかけまわしている軟弱な男とか、男らしくない連中なんか殺っちゃえばいいの! そう考えればへーきへーき!」
□ □ □
………。
ボク…最後まで女の子みたいだっていわれて…。
だから死んじゃったのかな…。
ううっ。
自分の妄想で悲しくなっちゃった…。
いいや!
ナニ落ち込んでるんだ!
前世はアレだったかもしれないけれど、ボクは転生したんじゃないか!
そしてこれから真の男になるための試練が待っているんだ!
ボクは姿見の鏡に映った自分の姿を見て気合を入れるのだった。