ある娼婦の日常 ①
よろしくお願いします。
⬜︎ 夢 ⬜︎
「ジエラさまッ! 初めてお会いした時からお慕いしておりました!」
「だ、ダメェッ!?」
ボクは…その…とある事情で娼婦として働いている…事になっている。
でも、実際にはお客さんなんか取らない。
ボクの一夜の値段は金貨1億だから、はっきり言ってネタ枠なんだ。
それなのに。
「だ、ダメだよヘルマン。ぼ、ボクを、だ、抱きたいなら…金貨1億枚用意してもらわなきゃ」
「俺のジエラ様への想いは、金貨1億に替えることはできません!」
「…そ、そんな…コト言われても…。そ、そう! ボクには心に決めたフレイヤがいるんだ! だから…だから…」
「俺の魂…身も心もジエラ様に捧げております。ジエラ様の心が得られないなら…せめて身体の繋がりを求めるのは男女の自然な流れではないですか!」
「そんな…そんなぁ…ッ!?」
ハラリ
(ベットの傍らに飾ってある花の花びらが落ちる音)
・
・
チュンチュン
朝
ヘルマンの腕枕で寝覚める。
彼に背を向ける形。
昨晩も…また…一晩中、ヘルマンの熱い猛りを受け続けちゃった…。
ヘルマンったら、
「俺を誘惑するジエラ様が悪いのです!」
とか、
「貴女に想い人がいようとも、その次で結構です!」
とか、
「大人しく俺に抱かれて欲しい!」
とか…。
………。
と、とにかく一晩中そんなカンジだったんだ。
…早く、娼館勤務を脱して…ドラゴンを退治しないと…、
このままじゃ…ボク、ボクぅぅ……。
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
「…んぁ」
チュンチュン
朝。
今度は本当の朝だ。
娼館の一室。正確には屋根裏部屋。
ボクの名前…本名はジエラだけど、今は源氏名を名乗っている。
「…ま、また変な夢を見ちゃったよぉ…。うぅ…それに…」
ボクの両腕、そして胴体は三人の美女・美少女に拘束されている。
彼女たちはいまだ眠ったままだけど、ボクにガッチリとしがみついたままだ。
白妖精のベルフィは「…お姉さまが悪いのです。そんなお美しいおカラダで私を誘惑するから…むにゃむにゃ」と寝言を言っている。
黒妖精のサギニも「…お嬢さまの次に子作りをぉ…むにゃむにゃ」とか言ってるし、正体は神馬であるスレイも「…お主は我の抱き枕ぞ。大人しく抱かれておれ…むにゃむにゃ」とか言ってる。
………。
娼館勤務になって、お城に行ったままのヘルマンに会えなくなってからずっとこんな調子。
「………ヘルマン、ちゃんと修行してるかなぁ」
まさかこんな展開になるなんて予想していなかったから、ヘルマンと連絡の取りようがないんだ。
籠の鳥状態なボクは娼館から出られない。
だけど一カ月の拘束期間が過ぎれば堂々とお城に乗り込めるんだ。
「浮気…じゃなかった、お城の女性にうつつを抜かして修行が疎かになっていないとは思うけど。……ぼ、ボクの夢に出てくるくらいだし」
そうなんだ。
かつて生前、古典の授業で聞いたんだ。
日本の平安時代の話。
それはAさんの夢にBさんが現れた場合、それはBさんが「愛しいAに逢いたい」と恋焦がれているからなんだって。
つまりヘルマンも「お会いできない間、鍛錬の成果をジエラさまにお見せしたい! 刮目あるべし!」とか考えてくれているに決まっているんだ。
夢の中でエッチなコトになっちゃうのは……。
きっと毎日のようにベルフィがセクハラするから、それに皆がボクの耳元でヘンな寝言を囁くから、きっとそれが原因なんだ。
つまり試練…精神鍛錬の一環なんだ!
そうに違いない!
……。
き、気を取り直して。
彼女たちを起こさないようにして拘束から逃れる。
「夏の普段着、そして作業着をお願いします。『守護』」
黄金の指輪に祈ることで、指輪製の防具(?)が装備される。
夏の普段着ってのは色々見えちゃってるオフショルダーなタンクトップと、際どすぎるデニムなホットパンツ。
作業着ってのはエプロンだ。ちょっと小さめだけど動きやすいから問題ない。
ガタガタッ
「…うう。この窓、どこが引っ掛かっているんだろ? よし、開いた。…うわあ、いいお天気…♡」
建てつけの悪い窓際には、小さな花が花瓶にさしてある。
花瓶は元々部屋に転がっていて薄汚れたんだけど、それをキレイにしたものだ。
花は道端に咲いていた花を差しただけだけど、殺風景な屋根裏部屋の一抹の清涼剤になってくれていた。
朝日が目に眩しい。
そして目の前にはナキアの海。
朝日に照らされた海が目に眩しく、そして宝石のように美しかった。そして爽やかな潮風。
「…キレイ♡」
ボクは高級娼館『水辺の歌姫』に勤務する娼婦兼用心棒・ジエラ…じゃなかった。セフレ。
でも娼婦とは名ばかりで、もちろんお客はとっていない。
しかも高級娼館であるお店には、…一部の例外を除いて…ボクみたいな用心棒が出張ることも滅多にない。
要するに、ボクの仕事内容は掃除洗濯炊事とかの下働きが中心だ。
そんでもってボクたちに与えられた部屋は屋根裏部屋だった。
薄汚れた屋根裏部屋を与えられたボクは、持ち前のお掃除スキルで綺麗に掃除して、そこに自前の高性能簡易天幕やら高性能毛布で快適な居住空間を作り上げたんだ。
これだけだとさすがに寂しいかもしれないけれど、ボクの(屋根裏)部屋には相棒たちも一緒にいるんで、夜は寂しいどころか理性(?)と戦いまくる毎日なんだ。
ボクは、そんな何処にでもいそうな娼館勤務の女の子(16)。
でもそれは仮の姿。
しかも正体は人間ではないんだ。
ボクの真の姿は、アースガルズからこの人間界にやってきた戦乙女…ジエラ・クッコロ・フォールクヴァングなのだ!
でも何でボクがこの人間界にいるのかっていうと…。
ボクはアースガルズにおいて戦乙女を統括する女神フレイヤに見染められ、彼女と内縁関係となってしまった。
でもフレイヤの傍に侍るのは英雄の魂でなければならない。
だから人間界に単身赴任を命ぜられてしまっていた。
そしてとある使命が課せられたんだ。
それは『人間界にて沢山の戦果を上げ、英雄として讃えられ、そして壮絶に戦死する』こと。
そうすれば晴れて英雄としてアースガルズに帰還し、フレイヤとのキャッキャウフフな生活を満喫できるんだ!
でも話は簡単じゃなかった。
今のボクは美と豊穣の女神すら霞んじゃう美貌とカラダを誇るらしく、現地の貴族様に付きまとわれてしまっているんだ。
それに出自を怪しまれて、この娼館でしばらく働いて身の潔白を証明しなくちゃならない。
なので仕方なくセフレという源氏名を名乗ってホトボリが醒めるのを待っている。
だけど大丈夫。
英雄には試練がつきものだもの。
この試練を乗り越えてみせるよ!
「よしっ。今日もいい天気。さ、頑張っちゃうぞ!」
朝日を前に気合いを入れていると、突然相棒の一人…ベルフィが全裸のまま腰に抱きついてきた!
さっきまで寝てたのに、ボクが起き出した気配で目覚めたみたい。
「お姉さま! そんな格好をしてベルフィを誘惑なさるなんて、ベルフィわ、ベルフィわぁッ!」
「と、突然ナニッ!?」
「お姉さまが悪いのです!」
「だからナニ言ってんの!?」
「ベルフィわぁぁぁッ!!」
「いやあぁぁッ!?」
ベルフィは白妖精のお姫さまで、ものすごい幻想的で夢幻的な美少女。
でも彼女はグラマーな女性が大好物なんだ。
だからボクの夏服エプロン姿に昂奮しまくっている。
そしてボクたちの騒ぎが煩かったのか、もう一人の女性が目覚める。
「…ふぁ。やかましくて寝らいられん」
ムクリと起き上がったのは相棒の一人…スレイ。
背も高くて、やっぱり彼女も物凄いグラマー美女だ。
でも彼女は人間じゃない。正体はスレイプニルっていう神馬で、変化術で美女の姿になっている。
しかも全裸だ。
そしてスレイを見たベルフィは「スレイお姉さまぁ! ベルフィわぁぁッ!」とか言いながら、今度はスレイに抱きつきに突進する。
そしてベルフィから解放されたと思ったら、今度は黒妖精のニンジャ(?)であるサギニが「はぁはぁ。お嬢さまはスレイさまにご執心な様子。ならば側室である私めにお情けを…♡」とか言って全裸のまましなだれかかってくる。彼女は女豹のような印象の野生的な美女だ。っていうか、いつの間に側室になったの!?
…とまぁ、彼女たちはお決まりとも言える朝のゴタゴタを済ませてから仕事服に着替える。
仕事服は…ちょっと…いやかなり露出が過ぎるアラビアーンな踊り子衣装。
顔バレするのがまずいから、しっかりとフェイスヴェールで顔を隠している。
だけど踊り子服の下に着るのは三者三様。
スレイはスリングショット風なエロ水着を下着代わりにしているけど、このスリングショットは『力の帯』っていう魔法の道具で、着用者の力を増幅してくれる。
スレイはそれで『脚力』を強化してるんだけど、スレイの正体はスレイプニルっていう馬なので、脚力を強化するってことは人の姿でいうところの『腕力』『脚力』を強化するってこと。
というワケでスレイは武闘家さんでもあるんだ。
スレイは「ふふっ。このオドリコ服も蹴りを繰り出しやすいな!」とか言いながら、上段に蹴りを放つもんだから丸見えだ。
そしてベルフィ。
スレイだけじゃ不公平なんで、最近になって彼女にも『力の帯』を贈った。
効果は無難に『精霊への影響力』だ。
実のところベルフィは細々とした精霊力行使が苦手らしいんだけど、これで精霊を使役することについては万能になったっぽい。手慣れた様子で帯を褌に仕上げている。
最後にサギニ。
彼女にも『力の帯』を贈った。
なお、自称・ニンジャである彼女が望む力は『忍力』(?)だった。
その効果で彼女の全然忍んでいない格好でも、ニンジャとしての忍び装束となっているらしい。
彼女は「はぁはぁ♡ 私はジエラ様の下僕として拘束されているのですね♡」と言いながら全裸全身網タイツの上から紐状の『力の帯』を亀甲縛りに仕上げている。
ちなみにこれを機会にマイクロビキニは返上したみたい。
………。
はっきり言って、ボクの仲間は色物すぎて何が何だか分からない。
でもこれも試練だ。
試練なんだ。
彼女たちの印象が霞むくらいにボクが英雄として大成すればいいんだっ!




