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風評被害対策

よろしくお願いします。

この『黄金の腕輪(ドラウプニル)』は強力な()(?)を創造してくれるけど、その代償として腕輪製じゃない鎧を着ることができないんだ。今までで着れたのは肩掛けくらい。

だけど服なら大丈夫…かな?



「いらっしゃいま……」



店員さんはボクたちを見るや否や固まっちゃった。

そりゃそうだよね。

(ボクを除いて)色物の集団なんだ。色々と思うところがあるんだろう。


入ってみた服屋さんは新品と古着を取り扱っているけど、新品のほうがはるかにお高い。

黄金の指輪(アンドヴァラナウト)』でいくらでも黄金を創造できるけど、節約できるに越した事ないよね。


値札とにらめっこしていると、店員さんが声を掛けてきた。

こっそりと『黄金の指輪(アンドヴァラナウト)』で小さな金の粒を創造すると、それをチップ代わりに渡して、ボクに似合いそうな服を見繕って欲しいとお願いしてみる。

すると彼女は上客だと思ってくれたのか、「お客さま、とっておきの品がございます。ささ、こちらへ」とお店の奥へと案内してくれた。


そして店員さんに導かれるままに採寸室に入った。

当然のようにベルフィも付いてくる。

ちなみにスレイとサギニは店内をうろついていた。





身長やら肩幅、胸、腰回りとかの採寸が始まった。



「…なんてお美しい。それに女性にしては高身長で…しなやかに鍛えられた腕も足は長く…それでいて小顔でらっしゃいますね。サイズは上から…。信じられない。凄いわ。この胸…こんなに大きいのに形も完璧…だなんて…。きっと愛しのお方を愛する為にこんなにもお美しく育ったのですね」



それを聞いたベルフィがにっこりと頷いている。


違います!

ベルフィにはセクハラされまくっているけど、コレ・・は自前っていうか、元からです!



「…ウエストは程よく引き締まっていますし、お尻は……とてもキレイでいい形をしてます。理想的に肉厚で大きいし、骨格もとても安産型ですね」



それを聞いたベルフィがボクのお尻を「はぁはぁ♡」言いながら見つめている。



「ううっ…」



だからボクは愛されるとか受け止められるとかの話は結構なんです!

ベルフィも期待を込めた眼差しでボクを見つめないでっ!



「…それに信じられないくらいキレイな肌に髪…。羨ましいわ。………お客さま、秘訣を教えてくださいませんか?」



秘訣っていわれても…ボクの美容は神々の秘宝『常若の林檎』によって最適化されているから、お手入れも何も…。





結論からいうとボクのカラダに合う既製服が無かった。

だけど、ボクの風評被害対策なんだし、簡単に諦めるわけにはいかない。

なので適当な服がないか店員さんと相談した。



「適当な服はありませんか? ちょっとした仕立て直しならボクがしますから」


「…私はこの仕事に就いてそれなりに長いのですが、お客さまのようにお美しく、身体カラダのメリハリが御立派な女性にはお会いしたことが……お客様のカラダは…女性として究極かもしれません。そんなお客様に似合う服となると…」


「も、もうっ。そんなお世辞は結構ですからっ」



き、きっとお世辞だよねっ。

だけどボクは本当は男で、この身体は仮初かりそめだって分かっていても、こうして店員さんプロに褒められると悪い気がしない。


すると、ベルフィの表情がぱぁッ・・・っと明るくなる。



「人間っ、貴女もそう思うでしょうっ! なのにお姉さまったら、服を着ようだなんてご自分のカラダを隠してしまうようなコトばかり。野山に咲き誇る草花も、美を競い頑張っているのに…!」


「……」


「あらあら。お連れのエルフのお嬢さんの言う通り、ご自分の魅力をアピールするのは女にとって必須ですわよ。…ですがお客さまくらい美しければ既に素敵な殿方が…? その方に選んでいただくとか、その方が好みそうな服を考えればよろしいのではないでしょうか?」



…えっ?

ボクの周囲にいる素敵な殿方って、ヘルマンのこと?

ヘルマンって石鹸の国のエッチなドレスを見せても眉一つ動かさないし、それにタンクトップ&ホットパンツでも、今の鎧でも「お似合いです」とか「動きやすそう」とかいうくらいだし…。


でもそれは当然なんだ。

ヘルマンはボクの漢気を感じてくれているんだもん。

ボクがどんなアレな姿をしていたって、ボクの凛々しさを理解してくれるんだ。


でも。

ヘルマンを鍛えて、ヘルマンを忠勇無双の戦士に仕立てたら戦死してもらう予定だけど…。それまでにヘルマンが誰かに唆されちゃったら…。

そうなると、ヘルマンの師匠として彼の好みを知っておくべき?

ヘルマンはボクの漢気に感じ入ってくれてボクに仕えてくれている。

だからそれに加えて、彼の好みの服を着て、二重の意味で彼を逃がさないよう気を配るべき…?


うーん。

ボクって清純派なんだし…じゃあ清純派に相応しい服を選べばいいって事?

でもヘルマンって故郷の村の女の子に見向きもしなかったっていうし、いまいち彼の好みがわかんないんだよね…。




って、違うよ!

ヘルマンの好みを考えてどうすんの!?

彼はボクの漢気で引っ張っていくんだ!

弟子(ヘルマン)に媚びる必要なんかないよ!

案の定、ベルフィも反論した。



「間違ってますよ人間ッ! お姉さまに男なんか必要ありませんっ。お姉さまには、私のような由緒ある白妖精リョースアールヴが相応しいのですっ。見なさいこの服を! お姉さまがプレゼントしてくれた私だけの服なんですよっ!」


「えっへん」とばかりに服をヒラヒラさせるベルフィ。



だ、だけど、ベルフィの服…股下ゼロセンチ超ミニスカ短衣チュニックなんてどう思われるか…。

ボクは恐る恐る店員さんの様子を見てみる。



「…………うふふ。お二人ともそういう・・・・ご関係なんですね。人間とエルフの愛…。素敵ですね…。それにしてもエルフのお嬢様も、お連れ様に劣らず美しく魅力的ですわね…。短いスカートが躍動感あふれて……」



店員さんはきっとこの超ミニ短衣チュニックに色々と含むところがありそうだけど、それをおくびにも出さずにベルフィの意見をヨイショしまくっている。



「お姉さまぁ。私たち、人間の目からしてもお似合いみたいですぅ…♡」



ボクの腕にギュッっとまとわりつくベルフィ。

ああ…。

満面の笑みのベルフィにはあまりキツイこと言いたくない…。

話を逸らさなきゃ。



「あ…あの…。それで服の事なんですけど…」



店員さんは張り付いたような笑顔だ。



「そうですわ。お客さまのお連れ様であるエルフのお嬢さんと似た格好をしてみればよろしいかと。………これなど如何でしょう。スカート部分を思い切り短く仕立て直せば、お客さまの美脚の魅力を余すところなくアピールできます。腰の位置も高く、しっかり括れてらっしゃるのに腰幅がしっかりしておりますので…うふふ。こんな衣装はお客様のようにカラダに自信がある方でないと到底できませんわ。いえ、自信があっても勘弁してほ…げふんげふん」


「……」


「ところでエルフのお嬢様は遠い地方のご出身なのですか? このあたりでお見受けするエルフの皆さまは皆慎ましく、短いスカートなどお目にかかったことはなくて…。まあ、エルフの皆様に限らず、この街でお客様のように両足を付け根まで露出するのはハシタナイ…げふんげふん」


「……」



褒められているのかバカにされているのか分からない。





結論から言うと、既製服でボクのスタイルに合う服はなかった。

仕立て直しの件だけど、結局時間がそれなりにかかるんでお断りしたんだ。連れの門衛さんもいる事だしね。


なら仕方ない。

門衛さんにも「街中で仕事着(・・・)は控えてもらいたい」って言われていたし、仕事着…『死にやすくて漢気が溢れる鎧』が風評被害でダメになっちゃうのは避けた方が良い。

鎧姿は実際にドラゴンを退治する時まで封印するしかないね。


そうなると『黄金の腕輪(ドラウプニル)』で防具を創造するって事にして着替えるしかない。


でも、この腕輪は元々は雷神トールさんのモノで筋肉が映える鎧姿になり易いんだ。

つまりは露出度が高い。

しかも悪戯神ロキさんの魔改造でエッチっぽいシルエットになっちゃう。


ならここでリスクの高い新作をあーだこーだしながらファッションショーをしないで、以前着た服を創造するのが良いよね。


以前創造した服…つまりは夏の普段着っぽい服だ。

以前、セダ村では浮いていた服だったけど、このくらいの街なら受け入れられる…と思う。


ボクは一人試着室に入ると、いつものように『黄金の腕輪(ドラウプニル)』に指を添える。



「『守護(アルジス)。夏の普段着をお願いします」






「結局自前で用意した服になっちゃったけど…街中で鎧姿よりは良いよね?」


「キャーッ♡♡! お姉さま、素敵すぎますぅッ!」


「………」(ぽかーん)



夏の普段着(鎧)。

それはオフショルダーで緩々なタンクトップにホットパンツ。

ホットパンツは相変わらずワンサイズ小さめなサイズで、お尻の肉がかなりハミ出してる。

そして上品そうなサンダル。

でも兜…麦わら帽子は被っていない。それは町の誰も帽子をかぶっていなかったんで、仕方ないから元の鎧のカチューシャっぽい鉢金(?)を装着している。

大切な装備品の『黄金の腕輪(ドラウプニル)』『黄金の指輪(アンドヴァラナウト)』『黄金のチョーカー』も服に似合っている。

せっかくだし、武装は槍から万力鎖にしてみた。これなら目立たないぞ。



「はぁはぁ♡ お姉さま、服の裾を引っ張ったら、それだけでお胸が溢れそうですね?」


「生憎だけど、この服は特殊な鎧なんだ。そんな事してもズレたりしたいよ」


「…胸がこぼれるもなにも…脇から乳房が見え隠れしてるじゃない。信じられない痴女だわ」(小声)



店員さんは相変わらず口をポカーンと開けている。

突然着替えた事に驚いているのかな?

それはそうと買い物しなかった事を謝んないとね。



「…せっかく服屋さんに来たのに、お店の商品を買わないでゴメンなさい。お詫びに、この服のデザインを無料でお譲りします。好きに作って販売してもらって結構ですから」



ふふふ。

ボクが竜殺しの英雄になれば、英雄が普段着ている服としてこの服も流行るに決まっているんだ。

そうすればこのお店の利益に貢献できるぞ。


だけど店員さんは「お客さましか似合いません」「売れるはずがありません」と丁重に断ってきた。

せっかくの好意なのにな。残念。でも金の小粒(チップ)を渡したからいっか。



じゃあ次はサギニだね。

素肌に黒の編みタイツ…じゃなくて、鎖帷子なつもりな色物ニンジャだ。

編みタイツの下にマイクロな黒水着をしているから大切なトコロは隠しているけど…はっきり言ってチラッと見ただけじゃ編みタイツ越しに全裸っぽい。

しかも覆面姿。


………。


ダメだこりゃ。

事情を知らない人からすればまるで変質者だ。

本人は裸族だから気にしないみたいだけど、風評被害待ったなしだ。

郊外にいたときも「ちょっとマズいかな」って思ってたけど、その時に比べて、街中で大勢の視線に晒されていると思うとこっちまで恥ずかしくなっちゃう!


だからといってニンジャとして忍んでもらうっていうか…つまり精霊魔法で姿を隠してもらうのは簡単だけど、それだとサギニが可哀想だ。



「ね、ねぇ、サギニ。ちょっと着替えよう?」


「…? なぜです? ジエラさまから拝領したこの衣装は素晴らしい戦闘服です。私は黒妖精(デックアールヴ)として、このような姿で戦える事を誇りに思います」


「あ、あの…ね」



うーん。

裸族なサギニにとって肌を晒すのは何の問題もないばかりか、初めて着た素晴らしい戦闘服に入れ込んでいるみたいだ。

でも、それだと困るんだよ。

それに今は自重してくれているっぽいけど、彼女は他者からの卑猥な態度を感じるとキレ易くなるらしいんだ。そしたら連続殺人事件が…!?



「で、でもね、その格好だと、いかにも私はニンジャですって言ってるみたいじゃないか。人知れず忍んでこそのニンジャでしょ?」


「そ、それは…」


「それに…ボクとしても…サギニには普段は素顔で人間界(ミズガルズ)を満喫してもらいたんだ。戦闘時にはその格好でもいいと思うけど…せっかくキレイな顔をしているのに隠すのはもったいないよ」


「私が美しいと!? そ、それは、暗に私と子作りしたいとおっしゃっているのですかぁッ♡」(誰にも聞こえない小声)


「? だからね、ちょっとだけで良いから着替えようよ。ボクがいた人間界(ミズガルズ)でも、ニンジャさんは(テレビドラマの中では)普段と戦闘時は区別していたよ?」


「わ、わかりました。ジエラさまがそこまでおっしゃるなら、着替えるのもやぶさかではありません」



そしてサギニのニンジャ服を改装した。

改装とはいっても、新しく黒の袖なし超ミニスカ甚平みたいなのを『黄金の指輪(ドラウプニル)』で創造して、編みタイツの上から着ただけだけど。

そして覆面を外して、その切長の瞳の美貌、長い銀髪と長い笹穂耳を曝け出す。


相変わらず股下ゼロセンチなミニスカ具合だけど、全身編みタイツはそのままだし、これで某ご隠居さまにお仕えするクノイチさんっぽくなったぞ。



「なるほど。これはこれで良いものですね。そして暗躍する時は忍法(ニンポウ)…『脱衣』で戦闘服姿に。ふふふ。だれもこの姿を見てニンジャだとは思わないでしょう」


「そ、そうだね! 世を忍んでるよ! それにベルフィのミニスカともお揃いだね!」



忍法脱衣はともかくとして、ずいぶんマシになったぞ!




だけど、ベルフィとスレイ(スレイプニル)は着替えに応じてくれなかった。



ベルフィはボクからの最初のプレゼントって事で、着替えるなんてトンデモナイって感じ。

スレイは「蹴りをするのに、これ以上の服は考えられん」だって。



すると…。

ベルフィは素足に超ミニスカで、お尻が見えそうで見えないから…まあ良しとしよう。

でもスレイは…お色気チャイナドレスだから、スリットが凄すぎて…普通に立ってるだけで太ももとかお尻の肉が結構見えちゃってるけど…。


……。


まあ良いか。

肝心のボクの『漢気を鍛える鎧』の風評被害が避けられたし、一番問題あるサギニの露出度を劇的に下げられたんだ。


それにスレイのお色気だって、ボクの漢気で打ち消せるよう気合いを入れればいいんだっ!

何の問題もないよね!

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