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侯爵家公子の提案

よろしくお願いします。

◇◇◇



夏の日差しが強い。


ボクたちは寝台車に乗っている。

いや、寝台車っていうか、護送車をちょこっと改装して、人が苦痛なく寝れるようになった荷台なんだけどね。


寝台車に横になってるのはジェローム様。

そしてオークの死体の山を見て気分が悪くなったベルフィだった。


さらにボクたちのすぐそばにはサギニが姿を隠して控えている。

彼女の精霊魔法で周囲の気温が調整されて、更に涼やかな微風が流れているんで心地いい。



ジェローム様は夜を徹しての魔物との戦闘で体調が優れないというけれど、ベルフィもオークの山盛り死骸を見て気分を悪くしちゃったみたいで、一緒に寝かせてもらっている。


そんなんでボクはベルフィとジェローム様の介護っていうか相手をしている。



「うう…。豚が…。オークが…」



オーク嫌いなベルフィがうなされているんで、ボクは彼女の額に手を置いて様子を見る。



「大丈夫だよ。ボクが傍にいるから」


「お姉さまぁ…。ベルフィから離れないでください…。お姉さまがいらっしゃらないと…」



ベルフィは山盛りのオークの死骸を見ちゃったことでずいぶん参っているみたいだ。

カラダは心配なさそうだけど、やっぱり心の問題かな。

苦手意識ってどうしようもないよね。

するとボクを挟んでベルフィの反対側で寝ているジェローム様が声をかけてきたんで、仕方なくそちらに向き直った。



「…ジエラ殿、情けない男で済まない」(キラ…)


「は、はぁ。そうなんですか?」


「私は魔物相手は不慣れなものでね。無様を晒してしまった…」(キラ…)


「……」



ボク、ぐっすり眠っていたからよく分かんないんですけど…。

すると光の精霊の力で姿を隠しているサギニから、風の精霊を使ったであろう小声が耳元に聞こえてきた。



(ジエラ様、その男はオーク相手に逃げ惑い、結果、部隊が乱れました)



へー、そうなんだ。

オーク相手に遅れをとるなんて戦士として未熟っぽいな。

まぁ、貴族様だから戦士ではなさそうだし、戦士(エインヘルヤル)としてアースガルズに招かれることはなさそうだね。



「貴女は戦場で功績を挙げる強い男を望んでいるのだろう? さぞ、ジエラ殿は私に落胆しているのだろうな」(キラ…)



落胆というか、最初から期待すらしてないけど…。

でもボクの性格上、落ち込んでいる人に冷たくできない。

なんとなく歯のキラメキも弱々しい気がするから励ましてあげよう。



「いや、ジェローム様、『勝敗は兵家の常』っていいますし…」


「……ジエラ殿」(キラ…)


「ッ!?」



なんと、横になっているジェローム様がボクの手を握ってきた。



「な、ナニをっ!?」


「ジエラ殿に触れているだけで、私の心は癒されるのです。どうか、治療だと思って…」(キラ…)


「あううっ」



病人に対して強く出れないボクは、ジェローム様の手を振りほどくことができないでいた。

すると彼は弱々しく真剣な声でボクに懇願してきた。



「ジエラ殿…。このように辺境は魔物の脅威に晒されている。こんな野蛮な地は貴女の様な美しい女性には似合わない。どうか私と共に侯国に…いらっしゃって下さいませんか…」(キラ…)



ナニ言ってるんだこの人は!?

ボク、そういう話はキッパリお断りしたのにっ。



「こ、困りますっ」


「ジエラ殿…。貴女が戦場を求めているのは、騎士爵家再興のために猛々しい武将と結ばれる事を願っているためなのでしょう。しかし、今は敵国たる帝国との関係は小康状態。大陸諸国は平和なのです。何もお家再興するために武将を伴侶にしなければならない法などありません」(キラ…)



うう。

なんだか分かんないけど、ボクってフォールクヴァング騎士爵家再興のためにお婿さんを探してる設定になっちゃってるんだよね。

ここはムキになって否定するよりは、ジェローム様の求愛を断るダシに使わせてもらおう。



「そ、そうかもしれませんが。ボクにだって選ぶ権利がありますっ。ボクに必要なのは戦場で輝く戦士なんです。失礼ですがジェローム様は大貴族の若様ですよね。戦士を戦場に派遣して後方で指揮するお立場なんですよね? ボク、血風吹き荒れる戦場で剣林弾雨を物ともしない戦士にしか興味ありませんからっ!」



ボクが精一杯拒絶すると、ジェローム様は少し考えたようだ。



「…それはヘルマン殿のような御仁でしょうか?」


「あぇッ!? ち、違いますっ。か、彼とは単なる主従なカンケイですっ。で、でも死ぬときは一緒っていうか…」(ゴニョゴニョ)



ヘルマンとの関係を聞かれてモジモジしていると、ジェローム様は力を込めて断言してきた。



「…どうしても貴女が戦に拘るのであれば…私と共に侯国へと赴くべきでしょう。私の人脈を通じて、武門の家々と交流を深めては如何でしょうか?」


「え?」


「このような辺境の地…伯国においては精々魔物退治、賊の討伐程度の場しか与えられない。しかし、中央の社交界において公爵や侯爵の方々と誼みを築ければ、いざ、帝国との間に大規模な戦いが起こった場合に直ぐに情報が手に入ります」



そしてジェローム様は「私がエスコートいたします」「常に私の傍に侍り、貴女が望む貴族と交流を図るが良いでしょう」とか言ってきた。




…なるほど。

この提案は無下にできないぞ。

聞けばこの人間界(ミズガルズ)は、今のところ小康状態っていうか平穏だという。

するとナキア伯国を出たとしても、あてがなければボクの望む戦争なんて早々お目にかかれない。


その点、国のトップの方々とお近づきになっておけば戦場が起こる気配も分かるし、活躍する機会も増えるだろう。


それに…。



⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ 妄想 ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎



国の重鎮が集うパーティー。

ボクみたいな何処の馬の骨かわからない女騎士であっても、侯爵公子であるジェローム様の連れとなれば話は別だ。


ボクは格式高いパーティーに見劣りしないよう、見た目重視の騎士鎧で参加させて貰っていた。



「ジエラ殿。こちらは元帥閣下でいらっしゃいます」


「は、初めましてっ」


「おお、貴女のような武人がおったとは…。私の戦には是非参戦願いたいものですな」


「はい! 頑張りますっ」





「ジエラ殿。こちらは大将軍閣下でいらっしゃいます」


「よろしくお願いしますっ」


「おお、なんとも勇壮な騎士殿ですな。女性とは思えない覇気が伝わってまいりますぞ」


「えへへ」





ここは上流階級が集う高級サロン。

国家を動かす重鎮たちと交流を深めたボクは、度々このサロンで彼らに帝国とかいう潜在敵国の脅威を説いている。


「…帝国は虎視眈眈と我らを狙っています。完全なる和平などありえません。古来より、戦争がない期間とはすなわち次の戦争を始めるための準備期間です。我らは彼らの機先を制するためにも…うんたらかんたら」


「うむむ。確かにその通りだ」

「よし、ジエラ殿の進言に基づき、何時でも国家総力戦を展開できるよう予め兵站を整えておく必要があるな」

「常備軍の予算を…」



ふふふ。

皆がボクの為…じゃなかった国家の為に大戦争を起こす準備をしてくれる。

しかもボクは煽るだけ煽って「皆さん頑張って♡」とか言って逃げたりしない。



「開戦の暁にはボクは国家の礎となるために最前線、最激戦区で戦いますっ!」


「おお、期待しておりますぞ」

「うむ。ジエラ殿の雄姿が目に浮かぶようだ」





ボクはヘルマンを従卒に戦場を縦横無尽に駆ける!

更にボクの隊には重鎮の皆さんのご協力で、勇猛果敢で礼儀正しくてイケメンな戦士達を配属してもらっている。



「征くよっ!」

「「「はっ!!」」」


ボクの赴く先は全て激戦区。

華々しい戦功と引き換えに命がいくつあっても足りない地獄。

当然のことながらボクの部下であるイケメン戦士さんたちは勇敢に戦い、その命を散らしていく。

だけど彼らの(エインヘルヤル)は、アースガルズでお婿さん探しに夢中な戦乙女(ヴァルキュリー)さんたちを満足させているに違いない。


無論、アースガルズの皆さんへのお土産は味方だけじゃない。

勇敢でイケメンな敵の戦士さんを優先に斃してゆく。

その代わりブサイクで乱暴で粗暴な敵さんは見逃してあげたりする。



味方の賛辞もとどまるところを知らない。



「おお、ジエラ殿。なんという勇ましさだ」

「正に戦の申し子。戦場を照らす太陽…」

「貴女の導くところ、常勝無敗は約束されたも同然! 」




「いやー。それほどでも♡」



よーしっ。

このまま英雄に、そして華々しい戦死待ったなしっ!


フレイヤ、もうすぐ死んじゃうから待っててねっ。



⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎

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