ジエラに迫る男ども
よろしくお願いします。
ガラガラガラ…ッ
ドガガガ…ッ
騎馬の一団はボクたちの近くに留まる。
そして騎士の一人はボクたちを見やると、彼は慌てた様子で豪華な馬車へと走った。
どうやら馬車にはお偉いさんが乗っているみたい。
馬車の中の人からの指示があったのか、騎馬の皆さんが周囲に散る。
彼らはボクのことを見てギョッとしていたけれど、任務の最中なのかボクに声をかけることはなかった。
そして馬車からは引き締まったお相撲さんみたいな大柄な男の人、軽薄そうな男の人、地味で影の薄そうな男の子が降りてきた。
「わあっはっはっは! エルランドよ、無事であったか! 賊よりも先にこんなにも簡単に弟を見つけてしまうとはな、いささか興ざめ…。 むむっ!?」
「ははは。私のレイピアが活躍しないのも残念だけど、まぁ、見つかってよかっ…。おや?」(キラッ)
「え、エルくん、し、し、心配しました。さあ、こんなトコロでは色々大変だったでしょう。帰って疲れを落とすべきですっ。ッ!? だ、だれですか、その女の人は?」
三人の男の人の視線がボクに集まるけれど、エルくんが先に話を始める。
「…ジェローム様までがお出ましになられるだなんて。それにテオ君、兄上様…。ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。僕はこの通り元気です。山賊に囚われていたところを偶々通りかかったヘルマンさんに助けられて…」
エルくんがはにかみながらヘルマンを紹介をすると、ヘルマンがそれを受けて三人の前に進みでる。
「…田舎者ゆえ、礼儀作法についてはご容赦いただきたいのですが、ヘルマンと申します。修行のため旅をしていましたところ、偶然退治した山賊にエル…エルランド殿が囚われており、お助けした次第です」
軽く会釈をするヘルマン。
エルくんのお知り合い…貴族様に対して会釈はどうかと思ったけれど、なかなかどうして堂々としているんで不思議と違和感がない。
彼はつい最近まで木こりさんだったけど、そんな風には全く見えない。
元々すっごい精悍でイケメン貴公子な偉丈夫であるせいか、何気ない所作もサマになっている。
彼らも「わあっはっはっは!愚弟が世話になったようだ!」「名のある戦士殿とお見受けする。…うむ?貴殿に良く似た誰かを知っているような気がするが…。いや、気のせいだろう」という感じに社交辞令している。
ヘルマンと彼らが軽い挨拶を交わした後、軽薄さんが優雅に会釈しながらボクに話しかけてきた。
「失礼。名をお聞かせ頂いてよろしいだろうか? 私の名はジェローム・ブランデル。ハージェス侯爵家の者です。どうか私のことはジェロームとお呼びください」(キラッ)
軽薄さんに続けてお相撲さんなエルくんのお兄さんが声をかけてきた。
「わあっはっはっは! 抜け駆けいかんな従兄弟殿。俺の名はグスタフ・リンドバリ。そこにいるエルランドの兄で、将来ナキア伯爵を継ぐ者だ!」
…って、ええっ!?
軽薄さんとかお相撲さんだなんてトンデモナイ!
エルくんの伯爵家に続いて侯爵家っ!!?
こ、これは失礼があっちゃならないよ!
ボクは第一印象が肝心とばかりに騎士らしく毅然とした態度で挨拶する。
「ぼ、ボクはジエラ・クッコロ・フォールクヴァングと申しまふゅっ」
うう。
噛んじゃった。
お偉いさんの前で挨拶するのって苦手…。
そしてベルフィは挨拶もしないでボクの腕に腕を絡めている。
だけど彼女はお相撲さんなグスタフ…さまに興味があるっぽい。彼をジロジロと眺めている。
「ベルフィ、ご挨拶は?」
「…お姉さま、あの男のお腹は大きいですね」
「あ、あのネ…」
でも彼らは失礼なボクたちを咎めることをせずに微笑んでくれている。
そしてトンデモナイことを言い出した。
「是非、ジエラ殿を我が邸宅にご招待したい。私たち二人の将来について語り合う必要があると思うのです」(キラッ)
「わあっはっはっは! 先程のヘルマン殿といい、女性の身でその大層な槍と剣を携えるといい、中々どうして興味深い。どうだ。二人で俺の食客にならないか?」
二人してボクを見る目が真剣味を帯びて熱っぽい。
…ま、まさか。
ボク、ナンパされちゃってるっ!!?
あ、いやグスタフ様は違うか。
「え、エルくんっ。は、伯爵家の者が、み、見ず知らずの女性と10日以上一緒に居ただなんて…。いったいナニがあったんですかっ!? そ、それとも、な、ナニかされちゃったんですかっ!?」
「て、テオくん、僕はジエラさんとはナニもないよっ!」
なんだか一人には誤解されちゃってるけど…。
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二人に「ボクとヘルマン、そして寝ているもう一人と旅をしていたら、偶々山賊にエルくんの一行が襲われているとこに出くわしたんで、皆んなで山賊を退治して、それから森の中の山賊アジトの洞窟で囚われていたエルくんを救出したんです」という話をしたんだけど、彼らはボクの説明を上の空で聞いていた。
一応、ボクの説明を受けて彼らの部下である騎士さんがあちこち調査してくれているけれど、ジェロームさまがボクに纏わりついてるし、ヘルマンにはグスタフさまが質問攻めみたいだ。
ジェロームさまはボクを熱心に見つめながら「なんと美しい女性だ。美の女神がいるとするなら、それは貴女に違いない」とか歯の浮くようなセリフを言ってる。
グスタフさまはヘルマンと友人のように接していて「何という強者ないでたちだ。さぞ歴戦に勇士とお見受けする。山賊共も鎧袖一触だったろう」とヘルマンを褒めちぎっている。でもヘルマンに「ジエラさまが我が師」と説明されてボクにも興味があるっぽい。
「ジエラ殿は、どういった男性が好みなのかな?」(キラッ)
「えっ? 好みの男性ですか? えっと…男らしくて、勇敢で、紳士的で……って、なんですかっ。今はこんな話をしている場合じゃ…」
「ヘルマン殿の師匠殿、女性の身で如何なる武術を振われるか!? 俺と模擬戦でも?」
「あ、あのっ。それは出来ません…。…ボクと戦ったら…多分死んじゃいます…」(小声)
うう。
どうやら彼らはエルくんの問題が解決したんで浮ついているらしい。
さっきからボクに興味津々なようだ。
でも、ボクに必要なのは戦場で死んでくれる戦士であって、こんなお偉いさんな男の人なんか必要以上に親しくしたくない。
ジェロームさまはボクを愛人か何かにしたいみたい。
グスタフさまは…ジェロームさまと違ってボクの武術に興味ありそうだけど、伯爵公子っていうし、戦場で殺しちゃったりしたら問題だよね。
あんまりお近づきになりたくない。
なんとかすっぱり断らないと!
そう意気込むと、質問を続けてきた彼らが本命とも言える(?)質問してきた。
「ジエラ殿、それでは貴女はヘルマン殿とどういうご関係なのですかな? 私とのお付き合いの前に確認させていただかないと」(キラッ)
「わあっはっはっは! 確かに実に絵になる二人だな!」
え?
ヘルマンとボクの関係?
「主人です」
ボクがそう言うとジェロームさまが固まってしまう。
すると次の瞬間、エルくんが怒鳴りつけてきた。
「ジエラさんッッ!? 紛らわしい言い方はやめて下さいよ!」
そしてエルくんは皆に語って聞かせる。
ジエラは異国の騎士の娘。
しかし山賊に拐かされてしまい、それがきっかけで実家の騎士爵位が剥奪。
ヘルマンはジエラの家に仕える武官という関係でジエラを救出。
お家再興を夢見て旅の最中。
でも未だにジエラに仕えているのはかつての主筋という理由であり、決してジエラと男女の関係ではない。
「…というワケなんです。ヘルマンさんはジエラさんだけではなくて僕を山賊から救ってくれた素晴らしい戦士なんです。主筋のジエラさんと夫婦だなんてあり得ないですっ!」
相変わらずエルくんの中ではボクはヘルマンに救出されたことになっているみたいだ。
じゃあボクもヘルマンをダシにジェロームさんたちを拒絶することにする。
「ボク、男はヘルマンで間に合っているんですっ! 貴方がたとお付き合いするなんて考えられませんっ!」
ひし、とヘルマンの腕に絡みつく。
「だからジエラさん、どうして話を紛らわしくするんですかっ! それにいちいちそのはしたない胸をヘルマンさんに押し付けないで下さいよ! それにヘルマンさんをカラダで繋ぎ止めようとしても、もう遅…」
エルくんの中ではまだボクがカラダを報酬にヘルマンを縛り付けている設定らしい。
こればかりは断固として否定する。
「エルくんこそボクとヘルマンの崇高な絆を勘違いしないでよっ!ヘルマンはボクと共に戦場で戦うんだ。そしてヘルマンが戦場で斃れることがあってもボクがヘルマンの魂を迎えてあげるんだからっ! …そういうワケですから、ジェロームさま、グスタフさま、ボクはボクと共に戦場を駆けてくれて、そのまま死んでくれるくらいの男性しか興味ありませんからっ。せっかくのお誘いですが、きっぱりお断りさせていただきますっ!」




