自らを逆境におく
よろしくお願いします。
「…ちょっと待ってて。ボクもとっておきの鎧に着替えてくるから」
ベルフィとスレイを連れて、騎士鎧に着替えるために少し離れた天幕に戻る。
騎兵姿をお披露目するために、天幕の外で美女には神馬に戻ってもらう。
ついにこの時が来たんだ。
エルくんに「下着みたいですね」とか言われたこの格好から、ちゃんとした鎧姿をお披露目するんだ。
そうすればヘルマンの鎧を作った実績もあることだし、メイドさんや料理人さんじゃなくて軍に近い部署に就職できるに違いないんだ。
ボクは自分のカラダを見る。
天幕の中にはベルフィに用意してもらった姿見の鏡…光の精霊さんが鏡っぽくボクを映してくれていた。
自分の容姿だからピンとこないけど、どうやら凄い美人さんなボク。
白金色の…サラサラした、そしてしっとりとした輝きが天使の輪を容作っている。
見苦しくないギリギリの巨きさの美豊乳がタンプトップをパツンパツンに張り詰めさせている。
そんな胸と、安産が約束されたような骨格の腰を絶妙な曲線でつなげたキュッ♡と括れた腰まわり。
豊かなお尻の肉は小さいホットパンツからはみ出しまくりだ。
そして肉付きのいいスラリとした美脚。
「ちゃんとした鎧を着てエルくんをびっくりさせちゃう時がきたよ!」
「ナニをおっしゃるのですお姉さまッ!? お姉さまの素敵なお身体を見せつけるのに、鎧なんて不要ではないですか…きゅッ!?」
「ちょっと黙っててね」
ボクに露出過多を要求するベルフィの事を落としてから今までの事を思い出す。
ヘルマンを想って鎧を作る日々…じゃなかった。ヘルマンの鎧に集中した日々。
実はヘルマンの鎧を全身鎧にしたのも、実は腕輪で創る自分の新たな鎧がボクの全身を覆う姿をイメージしやすくするためだったりする。
そして『黄金の腕』でボクの鎧を全身鎧にするんだ。
前回アースガルズで全身鎧を願った時、創れたのはハイレグなワンピース水着だったしね。
今度こそちゃんとした全身鎧を創るぞ!
イメージする。
ヘルマンの鎧は黒いからボクの鎧も黒かったらペアルックになっちゃう。
ならボクは白だ。
白銀の鎧一択だ。
白銀の、そして美しい英雄に相応しい鎧姿をイメージする。
誰もが感嘆し、羨望の眼差しで見上げる英雄をイメージする。
この腕輪はカラダの美しさが映える…つまり露出過多な鎧になっちゃう仕様だという。
でもボクの強烈な想いでそれを覆してみせるっ!
「…よし! 『守護』! 黄金の腕輪っ、ボクに全身鎧な白銀の鎧をお願いします!!」
ボクのカラダが光に包まれる。
ついに、ついにボクは…英雄の一歩を踏み出すんだ。
そして光が収まった。
姿見の前に立つボク。
頭には装飾品のようなカチューシャのような兜。
プラチナブロンドの髪にとても似合っている。
そしてボクのイメージ通りの全身鎧が……って、あれぇッ!?
着ていたのは白のハイネックでノースリーブな競泳水着…型の鎧。
前回と同じく前も後ろもハイレグ仕様。
前は以前と比較して鋭角三角形な布地は減っている気がする。
お尻は…Tほどじゃないハーフバックだ。
さらに胸の中央部分は穴が空いていて、胸の先端近くまで豪快に見えている。
体の横側と背中側から見たら全裸に近い状態なのに、前面もこれじゃあ…胸が暴れるのを抑えてくれる程度のシロモノだ。
でも今回はそれだけじゃない。
腕と脚を覆うようにちゃんとした装甲が装備されている。
装甲もゴテゴテしてなくて、薄くて優美なシルエット。
そして競泳水着自体にも、お腹周りとかに薄い金属板が張り付いているっぽいかんじ。
「競泳水着は……前回より…酷くなったけど、腕と足に装甲が付いたのか」
…やり直し?
い、いや、前回よりも装甲部分が増えたんだ。
まだ失敗と決めつけるのは早いよ。
ボクはいろんな角度から自分のカラダを眺めてみた。
ちょっとコレは…英雄っていうより…イロモノ感が強いっていうか…。
………。
……………。
……あれ?
「…どうしたんだろう?……こうしてみると…なかなか…イケてるんじゃあ……」
よくよく考えればカラダも動かしやすいし、デザイン自体もボクの白金髪、白い肌、白銀の金属装甲付きの競泳水着が……、……まるで聖なる騎士っぽくてカッコいい………気がしてきた。
そうだ。
忘れるところだった。
ボクは内面から湧き出す漢気を鍛えるために頑張らなくちゃいけないんだ。
どんな恰好をしていても「なんという凛々しい騎士様だ。女性にしておくのが惜しい」って思われるようじゃなくちゃダメなんだ。
この程度の恰好で尻込みしてたら修行にならないよ!
いや、むしろ漢気を鍛えるためだと思えば、この程度のデザインはむしろ望むところだ!
ボクは“鷹の羽衣”を羽織る。
丈が短いからお尻がギリギリ隠せる程度だけどあえて気にしない。
そして日本刀を黄金のチョーカーに収納して、新たな武器を創り出す。
この西洋鎧に似合いそうな剣と槍を。
剣は腰に佩いて、槍を構えてみる。
「よし!」
準備が完了するのと同時に、ボクに仕えるニンジャ・サギニが報告に現れた。
しゅたっ。
「ジエラ様、重装甲の騎馬の一団がこの地に向かってまいります。その数、約50騎!」
「なんだって!?」
重装騎兵が50騎なんて絶対に山賊じゃない。
それにこの地は敵国との国境じゃないという。
するとエルくんのお出迎えだね!
「…騎士鎧が間に合ってよかった。ボクは凶悪な山賊から伯爵家の公子であるエルくんを救出した英雄なんだ。領主軍を堂々とお出迎えしなくちゃね!」
ボクは気合いを入れるために槍をキィッと振り抜いてみた。
空気の抵抗で金属的な音がして、同時に空気が焦げるような臭いが漂う。
するとサギニも苦無を握りしめて気合いを入れている。
「ジエラ様、先ず私が敵の一団を撹乱いたしますので貴女様はその後に。ですが私が敵を全滅させてしまっても構いませんでしょうか?」
皆殺しちゃダメだからっ!?
ボクは血の気が多いサギニをなだめつかせ、今まで使っていた天幕を片付ける。
片付けた野営道具をスレイプニルに積み込んだら準備は完了。
ちなみに失神しているベルフィも荷物と一緒に括り付ける。
よし、ナキアの騎兵さんと合流して、そのまま街に向かって出発だ!
「スレイプニルっ!」
(おおっ!)
軽やかにスレイプニル騎乗する。
先ずは出発前にヘルマンやエルくんにお披露目だ。
きっとボクの凛々しい騎士姿に驚くだろうな♡
「サギニ、キミは闇に潜んでその騎兵さんたちを監視するんだ。多分敵じゃないと思うけど、状況次第によっては助太刀をお願い」
「ははッ」
・
・
「どうかな? ボクの鎧は。なかなか似合ってるでしょ?」
スレイプニルから降りると、腰に手を当てつつむんっと胸を張ってみた。
金属装甲はお腹周りだけなんで、ボクの巨乳さんがユサリと揺れる。
「良くお似合いです。ジエラ様」
ヘルマンは例によって無条件で褒めてくれる。
やっぱりね。
ヘルマンはボクの凛々しさ、勇ましさが分かってるよ。
ボクの揺れるおっぱいや剥き出しのお尻とかを見ても微動だにしないんだもん。
真の漢は漢を識るんだね!
ふふふ。
さしものエルくんもボクの凛々しい騎士鎧を見たら「やっぱりジエラさんにはメイドなんか似合いませんっ。戦場で輝く女性ですね!」って言ってくれるに違いな…。
「じ、ジエラさん。…そ、そんな鎧…。しょ、正気なんですか? もしかするとこの暑さで頭がおかしく…」
ボクの予想に反してエルくんが狼狽している。
……。
仕方ないか。
まだお子様だからわかってないんだね。
英雄になるべきボクはこの程度の露出なんか問題にしないんだ。
それにこのくらいでボクの名声が霞んだら所詮ボクはその程度の存在だしね。自分に厳しくいくよ。
「平気だよ。なんたって動きやすいもん。それにこの鎧のデザインはボクの凛々しさや漢らしさを鍛えるために必要なことなんだ。鍛錬のために敢えて逆境に身を置いているんだよ」
「ぎゃ、逆境って…。…お尻をさらけ出してナニを言っているのか…。それにその恰好では胸の装甲がないじゃないですかっ。そんなんじゃ流れ矢でも致命傷ですよっ!?」
大丈夫っ。
誰にも言っていないけど、ボクは英雄として名が高まったら戦死しなきゃならない。
だからヘルマンみたいに完全装備はマズかったんだ。
それにエルくんの指摘通り競泳水着鎧の胸の中央に穴が空いている仕様だから、そこに矢を受けたら即死待ったなし!
つまり今着てるこの鎧は漢気は鍛えられるし、オマケに死にやすいというボクの理想的な鎧なんだ!
「エル。ジエラ様のお心は常人には計り知れんのだ。敢えて急所を晒すことで己に緊張を強いているのだろう」
ヘルマンがエルくんの肩に手を置いて優しく諭している。
だけどエルくんは「それでしたらお尻は関係ないじゃないですかっ。そんなにお尻丸出しでウロウロされたらこっちが恥ずかしいですっ!」と、ボクの肩に羽織った羽衣を巻きスカートにするよう強要してきた。
「えー…」
ブツブツ
「…そんな格好をしてヘルマンさんの気を引こうだなんて僕が許しま…あ、いや、何でもありません」
エルくんがブツブツ言ってる。
せっかく漢気を鍛えようと思ったのに…。
仕方なくエルくんの言う通り羽衣を巻いてみる。
するとスリットがものすごいフレアスカートみたいなシルエットになった。
またエルくんが怖い顔をする。
「まだダメです! 風が吹いたらお尻が丸見えです! もっとしっかりしたモノを穿いてください!」
「丸見えじゃないよ。最初から布地がお尻の肉に食い込んでいるかもだけど、ちゃんと鋭角三角形な部分で隠れているし…」
「ダメって言ってるじゃないですか!」
うう。
そんなぁ。
せっかく男気を鍛える修行なのに…。
でもエルくんが睨みつけてる。
パトロンには敵わない。
仕方なく外套…鷲の羽衣を羽織る事で全身を隠す。
「…まったく、ジエラさんといいベルフィさんやスレイさん、サギニさんはどうしてそんなに慎みがないんですかっ。フォールクヴァング騎士爵家再興のためとはいえ三人がかりでヘルマンさんを色仕掛けするなんて、元騎士爵家令嬢としてのプライドっていうものがないんですかっ!? …はっ? もしかして山賊に囲われてたせいで頭がおかしく…」
小声だったから最後の方はよく聞こえなかったけど、そのエルくんのなかでは未だその設定なのか。
ここはちゃんと否定しておかなくちゃ。
「ナニその色仕掛けって? そんなワケないじゃないか。ボクとヘルマンは師匠と弟子。主人と家来な関係なのっ。第一ボクは山賊に襲われていないし、それにボクは清純派なんだから誤解しないで欲しいよ。…ね、ヘルマンっ」
「はい。俺はジエラ様の容姿恰好ではなくその強さと武術に惹かれ従っているのです。…エル、オマエが心配するような事はない」
「……ヘルマンさん♡」
ヘルマンとエル君が優しい瞳で見つめ合っている。
??
な、ナニ?
ボク、こんなにもヘルマンに尽くしているのに、ヘルマンはエルくんと心が通じ合っているような…?
い、いや、ヘルマンは雇い主であるエルくんを諭してあげているだけだよね。
ヘルマンはボクに魂を捧げてくれたものね。
「…そういえばジエラさん。スレイさんはどうなさったんですか?お姿が見えませんが…?」
ぎくっ。
「あ、ああ、彼女は武術家だからね、ちょっと武者修行の旅に出ちゃったんだ。後でまた会えると思うよ」
ボクがそう言うとスレイプニルがブルルと嘶く。(ふむ。我の立場はそういうことになっておるのか)と笑っているみたいだ。
「…うむむ。スレイ殿は修行の旅ですか。俺も彼女と同様に鍛錬を続けなければなりません。ならば俺がドラゴンとやらを斃すのも修行の一環となりますね!」
「ドラゴンかぁ。やっぱり凄いのかな?」
ボクが創る『壊れない武器』で済めば良いんだけど。
『竜殺し』だったり大量破壊兵器な神剣や魔剣に頼ればカンタンだろうけど、あんまりあっさり退治したら拍子抜けすぎて英雄っぽくないし。
「ジエラ様。俺はドラゴンとやらにお目にかかったことはありませんが、要は海に棲むケモノでしょう。ならば剣で叩き斬れば倒せるのではないですか?」
「それもそうだよね! 鱗が硬そうなイメージだけど、殴り続ければなんとかなるよね!」
ボクとヘルマンがドラゴンを話題にしていると、エルくんがおずおずしながら「あ、あの…。本気で…?ドラゴン…を?」と聞いてくる。
「うん! そのためにナキアに来たんだもん! 」
ほんとは山賊の親分から偶然聞いたんだけど。
「だからさ、ドラゴンを斃したらさ、ボクをメイドさんとか料理人じゃなくてさ、兵士として採用してくんないかなぁ?」
ボクたちがそんな会話をしていたら、遠くから馬蹄の響きが聞こえてきた。




