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息抜きのはずが…

よろしくお願いします。

◇◇◇◇◇



「ジエラよ、そのようなチマチマした作業を毎日続けていたら気が滅入るであろう。我と遠出せぬか?」



黙々とヘルマンの鎧を組み立てていると、そうスレイが話しかけてきた。



「…えっ? そうだね…」



ボクとしては苦痛でもなんでもないんだけどな。

思い返せば、生前、女の子と仲良くするために「女の子が好きそうな趣味を始めれば会話が弾んで仲良くなれるぞ」とばかりにビーズ、刺繍、編み物、キルト、レースとか手当たり次第に手を出したんだ。


最初は女の子と仲良くなるのが目的だったんだけど、どんどん面白くなっちゃって夢中で腕を磨いたんだ。




でも当初の目的はというと…。


……結果的に「女の子は手芸好き」という想いは幻想だったんだと気付いて終わったんだけど。




ま、まぁ、それはともかく、ボクとしては鎧をちまちま作るのは苦痛でもなんでもない。

むしろ無心になれるんで楽しいくらいだ。

それに木陰でのそよ風が気持ちいい。



「…え? うーん…。今いいとこなんだけど…それに暑いし…」


「ジエラよ、英雄になろうという者が従者ヘルマンの鎧を一心不乱に作るというのはどうかと思うぞ。そのような些事は捨て置いて鍛錬がてら我を駆ってみてはどうだ?」



うっ。

た、確かにヘルマンを想いながら(?)彼の鎧を作るっていうのは英雄らしくないよね。

そういえば最近スレイプニルと交流していないし、スレイプニルと遠出するのもイイかもしれない。

すると鎧制作のアシスタントしてくれていたベルフィが声を掛けてきた。



「お姉さま。スレイお姉さまとお出かけなさるのですか?」


「うん。たまにはカラダを動かさないと鈍っちゃうからね」



多分『常若の林檎』の効果でボクのカラダは鈍らないと思うけど、気分の問題だ。



ボクがそう言うとベルフィが手をパチンと叩いて同意する。



「じゃあ私もご一緒します♡ お姉さまたちとデート…

「いや、妖精よ、オマエはお呼びではない。残って作業の続きでもしておれ」






ヘルマンたちに「ちょっと出かけてくるね」と言づけてから巨馬スレイプニルに跨る。


エルくんは「あんな立派な馬なんてどこにいたんだろう?」とか訝しんでいたけれど、突っ込まれると色々面倒なので特に説明もしないまま出発した。


ベルフィは「うう。お姉さまの帰りをお待ちするのも妻の役目です」とか意味不明なことを言っていた。でも可哀想だから後でフォローしておこう。






文字通り風をきって疾走するスレイプニル。




すごい…!




遠くにある景色があっという間に近づいて、そして過ぎ去ってゆく。



それでいて乗り心地も最高にいい。



根拠はないけれど理解できる。



もし、スレイプニルの走る先に断崖があろうともスレイプニルはそれを容易に飛び越えるだろう。


悪意を持った何者かが罠を仕掛けようとも、その罠は機能しないに違いない。



そうなのだ。



力強く馬蹄を響かせながら、それでいて軽やかに疾走するスレイプニル。



スレイプニルの前では、あらゆる障害なんて意味がない。



大地の全てがスレイプニルが疾走するのを妨げないに違いない。






(ははは。どうだ、ジエラよ。我が“あらゆる馬の中で最高のもの”と称される意味がわかったか?)



「うん! すごいよスレイプニル! キミさえいればボクに出来ないことなんかない! どんな戦場でも活躍してみせるよ!」





ひとしきり疾走ったあと、気がついたらあたりは荒野になっていた。



見渡す限りの不毛の土地。



もちろん村はもとより道すらない。


当然、野生の動物も見当たらない。

砂漠やサバンナに棲むような小さい小動物や昆虫はいるだろうけど、人間が食料にできそうな獲物なんか生活していそうにない。



(この辺りはそれぞれの人間たちの集落とは離れておるからな。人目をはばからず走るのに丁度いいのだ)


「へー。エル君のナキア伯国の辺境とかかな? でもこんなに荒れ果てているんじゃ開拓しようとしてもできないね。きっとそういう意味で国の境なんだろうね」



夏の日差しから護るように手で顔を覆いながらボクは改めて辺りを見渡してみる。




…あれ?



なんだかちょっと離れた辺りに……森…いや林?

さっきはあんな林あったっけ?

まあいいや。



「スレイプニル。なんだかあっちに林みたいなのがあるよ。今日は暑いし、木陰で涼んでみようよ」



ボクがそう言うと、スレイプニルは(ふむ? この辺りは何度も来ておるが我も気付かなんだ。あのようなトコロがあったとは?)と言いながら林に向かってくれた。





なんとそれは林じゃなくてオアシスだった!



この夏の炎天下を感じさせないくらい、清涼な雰囲気が辺りに満たされている。

池というよりは小型の湖と言えるくらい水量も十分で、周囲の木々は美味しそうな果実が鈴なりで、南国みたいな色鮮やかな鳥がチチチと鳴いている。



「…凄い。まるで天国みたい♡」


「ふむ。我も今まで気づかなんだ。…いやしかし、このようなオアシスがあればいくら我でもさすがに気付くはず。…だが面妖であるが邪悪な気は感じぬ?」



美女の姿になったスレイプニルは首をかしげているけれど、ボクが水辺に降り立ってパシャパシャと水遊びを始めたら「まあ、辺りは似たような景色であるし、位置を見誤ったのかもしれんな。我も涼ませてもらうか」と水辺に這入ってきた。



ボクも突然のオアシスに心が浮ついてしまう。

スレイプが紐水着スリングショットで泳ぎ始めたのを見て、ボクも本格的にオアシスを堪能することにした。


「よーし、ボクも水着に着替えちゃおうかなっ」



ボクはタンクトップとホットパンツから水着に着替える事にした。

ここにはエロい考えとは無縁のスレイプニルしかいないし、…ちょっとくらいはっちゃけてもいいよねっ♡



「『守護アルジス』! ちょっとばかり大胆な水着でっ!」



すると…ボクの身を包んでいるのは…。


やっぱりというか…とてもじゃないけど他人に見せられない、裸よりもエッチいデザインな水着鎧(?)だった。



「う、うん。ここにはスレイプしかいないし、これくらいでもいいよね?」



ばしゃーんっ


ボクもスレイプに続いて湖に飛び込む。

こんなに乱暴に飛び込んでも、流石に()だけあってエロ水着鎧も全然ズレないぞ!

まあズレなくても見えまくっているのはご愛敬だけれど…。



◇◇◇◇◇



「はぁはぁ♡ お姉さま、お姉さま…なんて素晴らしいぃぃィィ…♡♡♪」



水辺の畔。

その下草に隠れるように這いつくばりながら、このオアシスを創り上げた妖精アールヴであり同時に豊穣神でもあるベルフィが二人の美女を覗きまくっていた。


ジエラやスレイもいないというのにべルフィが大人しく留守番などできるワケはなく、こっそりと(空を飛びながら)彼女たちの後をつけてきたのだ。


そして彼女たちが一休みしそうな様子であったので、デキる妻であるベルフィは離れたところにオアシスを創り上げた。


根源精霊を中心に水や木の最上位精霊やらをコキつかうことで創りあげたオアシスは、ジエラの呟きの通り、まさに地上の天国ともいえる場所となっていた。



「はぁはぁ♡ お姉さま、あんなにも楽しそうに…。お尻やお胸を揺らしてぇぇェェ♡♡」


「す、すごい…です♡ ああ、お姉さまぁ…♡ ベルフィわ、ベルフィわあぁぁ♡♡♡」


「…でも、ここで私が飛び込んだら…お姉さまの言いつけを守れないと叱責を…。これはひょっとすると拷問ですかっ? ああ、でも…すごい…無防備に…♡♡ はぁはぁ♡」


「はわわぁぁ~~っ♡♡ もう少し…もう少しで…全部見え……ぶばっ♡♡」



なんと、ジエラ達の水遊びを覗き見ていたベルフィは、遂に昂奮に耐えきれず鼻血を噴いてしまった!


しかしベルフィは鋼の精神を振り絞る!

今まで見たこともない美の女神の饗宴を一瞬たりとも見逃すまいと、鼻血を垂れ流しながら気を失うことなく凝視しまくっていた。



◇◇◇◇◇




ボクはヘルマンたち男共の視線を気にしないでオアシス遊びを堪能してしちゃった。


しかも調子に乗ってエロい仕草をとってみたり。


でも不思議だなぁ。

心は男性なんだから、こんなエッチなポーズなんかしてたら昂奮しすぎてゲシュタルト崩壊しちゃってもおかしくないと思うけど、何故か…ちょっと恥ずかしいくらいっていうか、悪ふざけが心地いくらい。



でもま、いいか。

自分のカラダだもん。そんなもんだよね。



とにかくオアシス遊びは楽しかった!


そんな素晴らしい気分転換が終わって、ベルフィたちのところに帰還する。



「ただいまベルフィ。…ど、どうしたのっ!?」



ベルフィは木陰でぐったりしていた。



「どうしたのっ。気分でも悪いのっ!?」


「あ…あ…。お姉さま、ベルフィは…ちょっと楽園を垣間見てしまいまして…」



みるとべルフィの顔は青白い。

どうやら日射病でもないようだし、ナニかの病気なのっ!?



「ああ、ゴメンね、ベルフィ。ベルフィを放っておいてボクだけ遊びにいっちゃって…」



ボクはベルフィを膝枕しつつ彼女の額を撫でさする。



「お姉さま、お姉さまが楽しめたのなら、それでいいのです。…今度はベルフィも一緒にオアシスに連れて行ってくださいね」


「え? どうしてお留守番していたベルフィがオアシスの事を知っているの?」


「ぎくっ。あ、いえ、それは…」



ボクは膝枕であたわたしていたベルフィを見てクスリと笑う。

きっとベルフィは今日が炎天下なんで水の精霊さんに命じてオアシスを用意してくれたんだろう。

ボクはベルフィの心配りに感心した。



「うん。鎧作りが終わったら皆でいこうね!」


「はい! お姉さま、ベルフィはあの素晴らしい衣装をもう一度見たいです♡ はぁはぁ♡」


「え? どうしてボクの水着姿を…まさか見ていたのっ?」


「ぎくぎくっ。いえ、その…あの…」



まあ、恥ずかしい水着を見られちゃったみたいだけど、ベルフィを一人で置いてきたんじゃなくて、かえってホッとした。



ボクは青白い顔をしたベルフィが言い訳するのをおちょくりながら微笑ましい時間を過ごす。



今日は十分にリフレッシュな一日になった。


よーし、あともう少しで鎧の完成だ!


頑張って仕上げちゃうぞっ!




◇◇◇◇◇


ベルフィの体調不良の原因は、鼻血の出し過ぎによる貧血です。

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