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接待

よろしくお願いします。



しばらくして。

美少年くんは落ち着いたのか、ボクにおそるおそる質問してきた。



「…貴女は…騎士…なんですか?」


「うん」



自称だけど。



「どこの家です?」


「…家? ……?」


「あの…家名といいますか、どちらの騎士爵家でしょうか?」


「…え? よくわかんないんですけど」



ボクと美少年くんの会話は噛み合っていないみたいだ。

でも彼は何か察してくれたようで、「あ、ああ。ジエラさん、でしたね。助けて頂いてありがとうございます」と丁寧に頭を下げてくれた。



「……大丈夫?疲れてない? …偶々キミの馬車が山賊に襲われているのを見かけてね。…でも助けられたのはキミだけだったんだ。…ゴメンね」


「…そうだったんですか。ボクの他は…皆…。ううっ」



彼は仲間の死に動揺し、悲しんでいたけれど、あまり悲しむとボクたちに悪いと思ったのか、すぐに気持ちを切り替えてくれたみたいだ。



美少年くんはエルランド・リンドバリと名乗った。

数えで14歳になるという。



「…僕は父に命ぜられてナキア近郊の村々を廻っていたんです。この辺りは安全だと聞いていたのに…」


「そうだったんだ…。大変だったね。でも亡くなった護衛の人たちも、天国でエル君が無事で良かったと歓んでいたと思うよ」



ボクはエルランド君…エル君の話を聞いてエル君が街の有力者のお子様だと確信した。

よしっ。ここはエル君にボクの事を売り込んで、彼を連れて街に凱旋だっ。



ボクがエル君に気に入られるための作戦を考えていると、エル君が恐る恐る声を掛けてきた。



「あの……お二人(・・・)は…ご夫婦なんですか?」



ッッ!?

え? 

お二人って、ヘルマンと…?



「ど、どどどどうしてボクがっ!?」


「…夫婦などではない。俺はジエラ様の下僕(しもべ)…」

「わーっ! ヘルマンは黙ってて!」



事情を知らない人からしたら、大の大人が女性(ボク)の下僕だなんてヘンに思われちゃうじゃないかっ。



「やっぱりそう見えますか? うふっ♡ お姉さま、この少年はなかなか良い人間で…」

「ベルフィも話がややこしくなるから黙ってて!」


「私ですか? 私がジエラ様とつがい(・・・)だなんて恐れ多い。ですが私たち妖精(アールヴ)は多くの恋人と子孫を紡ぎます。ジエラ様が望むなら、私も…やぶさかではありません♡」

「妖精さんの倫理や家族構成ってどうなってるの!?」



ぼ、ボクたちの関係とかはともかくっ!

あまりヘンな事を言ってエル君の心証を悪くするわけにはいかないんだ。


好漢ヘルマンを奴隷扱いして連れまわしているとか、女同士でハーレムしてるとか思われるわけにはいかないよ。


だから一番不審がられないであろう説明をした。



「ボクたちはパーティーを組んでいるんだ。冒険者っていうほどでもないんだけど、どこかの国に士官できればと思ってる」



ボク…自称騎士。

ベルフィ…精霊遣い。

サギニ…ナンチャッテ忍者。

ヘルマン…戦士見習い。



…おもいっきり怪しいし、何より戦力に偏りがあるパーティだな…。

でもエル君は命の恩人であるボクたちについて、ひたすらに感心してくれたみたいだ。



「…あの山賊はかなりの人数がいたと思ったんですが…お強いんですね。…ぜひ、当家にお立ち寄りください。せめてものお礼を…」



よし!

かなりの好印象なようだぞ!


でも彼は話し方はしっかりしているものの、顔色はいまひとつ芳しくない。

山賊の暴力と環境の変化に心が落ち着いていないのも一因に違いない。

あまり長話するのもなんなので、今日の所は休む事にしよう。





見上げれば星が瞬いているけれど、夜空の三分の一は森枝で覆われていて、それを下から小さな焚火たきびの炎が照らしている。


ベルフィは光の精霊で明るくしようとしたみたいだけど、情緒がなくなるので敢えて焚火にしている。


ボクたち一行。

それに新たに加わった美少年のエル君が小さな灯を囲んでいる。



夜の森は深く、虫の声、時折獣の声が聞こえるけれど、獣はボクたちの目の前に現れたりしない。


彼ら野生の本能が警告しているのかな。

神馬スレイプニル精霊遣いベルフィの力量を悟っているのかも知れない。唸り声すら聞こえてこなかった。



夜の闇の中での小さな焚火の明りとパチパチと木が爆ぜる音が、なんとなく心を落ち着かせてくれている。



夕食はベルフィが採ってきてくれた山菜とヘルマン持参の干し肉のスープだった。



ちなみに料理したのはボク。

味付けは塩だけだったけど、ベルフィたちはボクの手料理に大喜び。



「…わ、私、お姉さまの手料理…毎日…食べたいな…♡ 妖精国(アールヴヘイム)でも、ずっと♡♡」


「ジエラ様、今度お料理を教えて下さい」


「美味いです! いやはや、男料理とは比較になりません!」


「…美味しいですね。ありあわせの材料でこれ程までの料理を作ってしまうなんて…。ジエラさんはすごい料理人なんですね」



「えへへ。お代わりはたくさんあるからっ。遠慮しないでどんどん食べてねっ♡」



ボクが言うまでもなく皆すごい食欲でガツガツ食べている。


そしたらベルフィがぽそぽそ言っている。



「媚…効果の……薬草をこっそり……ておいたから、きっとお姉さまは…うふふっ♡」



よく聞こえないけど、ベルフィが上機嫌だ。



「なにブツブツ言ってるの? それにお肉しか食べてないじゃないか。山菜も食べなきゃダメだよ?」


「あ、あはっ。わ、わたし人間界(ミズガルズ)の山菜はどうも口に合わなくてっ!」


「? でもサギニは美味しそうに食べてるけど?」


黒妖精(デックアールヴ)とは好みが分かれますから! えへへっ」


「??」



よく分かんないけど、そんなこんなで和気藹々とした夕食が終わった。






さ、エル君もいる事だし、夜更かしなんかしないで寝ようか…。



ッッッ!!??


ボクは気付いた。


ヘルマンって野営の準備もってたっけ?


い、いや、彼の背負子しょいこって保存食が中心でテントとかは無かったはず。



夏とはいえ、夜は冷えるんじゃあ…?

それに天気が急変しちゃったりしたら…?


仮に雨にでもなってしまった場合、この簡易天幕ツェルトなら大丈夫だけど、ヘルマンたちをそのまま雨ざらしなんて人として問題ある…よね?




□ 妄想 □



くいくい


「ジエラ様、なにか?」


「い、いっしょに…寝よう…?」



ボクはヘルマンの服の裾を引き留めた。



「ほ、ほら、外は天気悪いしさ、あの…その…そういうワケだから! この天幕なら大丈夫だし…。へ、ヘルマンがヘンな事しないなら…だけど。その…」


「いや、私たちは主従です。そのような…」


「ダメっ。ヘルマンの事、信じてるもん! こんな嵐の夜にヘルマンのコト雨ざらしなんてできないよ! ボクのことを主と思ってくれるなら…ボク、大丈夫だから、一緒に…」


ボクは無理やりヘルマンを天幕に引きずり込んだ。





「この天幕はボク用だから…。ヘルマンは身体がおっきいから…ぎゅって寄せ合わなくちゃ…」


「じ、ジエラさま…。身体をそのような…!」


「き、気にしないで…ほ、ほら…もっと近づかないと…。遠慮しないで…いいよ?」



□ □ □




とか言ってボクの天幕に誘ったりなんかしちゃったら…。


ヘルマンの腕枕で朝チュンしちゃうじゃないか!!?


いくらヘルマンが紳士でも、女の人ボクに一緒に寝ようだなんて言われたら…据え膳だって思われても仕方なくなっちゃう!?


ううっ。

ボクは中身は男でも、身体は女の子なんだ。

いくらなんでもそんなコトできないよ!



そ、そうだ!

ヘルマンには悪いけど、ここは怪我人エルくん優先だ!



それにエル君には親御さんに「ジエラさんにお世話になったんです。どうか彼女のお願いを聞いてあげてください」って話してもらわないといけないんだ。


ちゃんと接待…じゃなかった、介抱しないと!



で、でも…



□ 妄想 □



「じ、ジエラさん。僕、その…」


「なに恥ずかしがってるの? さ、エルくん…」



毛布をたくし上げて、エルくんを誘う。

ボクは余裕あるオトナの女性なんだ。

だから怪我で弱っているエルくんを介抱するのは当然で、添い寝だって自然な流れなんだ。



「じ、ジエラさん。僕、その…ジエラさんの格好が落ち着かなくて…その…」



あ?

そう言えば、今の格好はエッチなネグリジェっぽい鎧(?)だ。

色々スケスケで見えまくっている。

だから…え、え、エルくんの生理現象が…その…。


い、いいいやっ。

年下のエルくんの生理現象に動揺なんかしちゃダメだっ。


が、がが頑張って接待しないと!



「き、気にしなくて良いよ? さ、おいで、エル…くん」


「じ、ジエラ…さん…」



ボクは優しく彼の手をとると、そのまま毛布でくるまって…




□ □ □



……。


まずいなぁ。

露出過多なネグリジェでエルくんを寝床に誘ったりしたら、ボクが『強くて信頼のおける女騎士』っていうより『年下の少年を狙うエッチな女性』って思われてもおかしくない。


だけど、だからといってエルくんと距離をとるのも問題がある。

冷たい女性って思われるのもまずいと思うんだ。


だからボクはスケスケネグリジェじゃなくて、今の格好のままエルくんと眠る事にした。



でも。



年上のお姉さんぼくが添い寝することで、少しでも不安が取り除かれればという善意による行為と、後で街のお偉いさんに「このお姉さんは強いばかりでなく、思いやりがあって、頼りがいのある立派な騎士様です」って口利きしてもらおうっていう下心からの提案だったのだけれど、ボクの思惑は真っ赤になったエル君に思い切り遠慮(拒絶)されてしまったんだ。



「大丈夫です!」「子供じゃありませんからっ!」と、ヘルマンの後ろに隠れるようにボクの好意から逃れようとするエル君。


…なんだよ。男同士照れることないのに。

あ、そうだ。今のボクは女だった。



「でもさ、急に天気が崩れちゃうかもしれないよ? だから、ボクと一緒に…」


「け、結構ですっ。男女七歳にして同衾せずって言いますし…!」



結局、エル君は最後まで抵抗しまくりだった。


仕方なくエル君のことはヘルマンに任せることにする。

急な天候の変化が心配だったけれど、それについては「馬車の中で眠ります」とのことだった。


…うう。

ボクの接待作戦、逆効果だったかなぁ。

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