山賊を片付ける
よろしくお願いします。
◇◇◇◇
ボクたちは山賊頭目の案内で森の中のアジトに向かっている
山賊頭目から聞き出した情報によるとこの辺りは森の境、そして渓流も流れているということもあって、旅人さんたちのいい休憩スポットなのだとか。
そんな休憩中の人たちが山賊たちのターゲット。
彼らはおカネを持っていそうな、それでいて襲いやすそうな旅人とかを狙っていたのだという。
もちろん狙うときは皆殺し。
だから目撃者や生き残りがいなかったから発覚すらしなかったようだ。
そんな凶悪な連中は死んじゃって当然だよね!
ちなみにアースガルズにいた時に聞いた話によると、死国…地獄にはヘルさんっていう女神様がいるみたい。
そして死国にいるのは邪悪な魂に限られるんだ。
だから彼らが反省して邪悪な存在ではなくなった時には、ヘルさんに死国を追い出されちゃう。つまり新たな人間界に転生することができるんだって。
うん、悪者は死国で反省してもらうのが一番だよね!
よーし、悪者のためにもなるし、生き残りの山賊がいたら一人残らず皆殺しにしちゃうぞ!
ボクがそう意気込んでいると、ボクの決意なんか気づきもしないベルフィがカラダを摺り寄せてくる。
「…はぁはぁ♡ お姉さまのお身体って…本当に素敵です♡」
ううっ。
さっき色々悪戯されちゃったから…。
素敵って言われても、ボクの体はフレイヤの転生術で『究極至高の美女云々』とか色々てんこ盛りされただけなんだ。
この人間界で英雄的に戦って戦死すれば男に再転生出来る。
いわば男になるまでの仮の姿だから、あんまり褒められても…。
そしてチラリとサギニの方を見やると、彼女もボクを見つめていたようだ。
慌てて視線をそらし、それからチラチラと物欲しそうな、切なそうな視線を向けてくる。
…?
もしかして、手裏剣を使いすぎて無くなっちゃったのかな?
補充ならいくらでもしてあげられるけど、でも小人のお爺さんたちに「ばら撒かんでくれ」って言われてるしな。
「サギニ、武器…手裏剣が減っちゃったりしたの?」
「い、いえっ。手裏剣は全て回収してあります。あの…このマンリキサという武器の使い方がよく分からないので、伝授していただきたい…と」
「なんだ。早くそう言ってよ。万力鎖はね、接近戦用の武器でね…」
するとベルフィが「お姉さまぁ、サギニとお話しするなら、私とぉ♡」と割り込んでくる。
左右から美少女妖精と美女妖精に挟まれてモテモテだ。
ふと見るとヘルマンは歩きながらトンボの構えからの斬り下しを黙々と続けている。
片足の無い山賊頭目は木の棒を使った簡易な松葉杖を使ってヒョコヒョコ付いて来てるけど、彼のすぐ傍でヘルマンが素振りしているものだから、ビビりまくっているみたいだ。
ボクたち一行はそんなコトをしながら和気あいあい(?)と森を歩いている。
・
・
山賊頭目の案内でボクたちは山賊アジトに到着する。
さっきの広場からそれほど離れていないところにある天然の岩穴だけど、丸太や草木で入り口を隠ぺいされていて一見してそこに洞穴があるとは気付かない。
すると留守番していた男が恐る恐るといった様子で近づいてきた。
「お、お頭、何が、起こったんで…? ……すっげえスケベな恰好した女共ですね。戦利品ですかい?」
「いいからッ! 余計な事言ってねえでこの連中を案内して差し上げろッ! 土産渡してッ、さっさとお帰り願うんだよぉッ!!」
留守番の男は重傷の頭目とボクたちを交互に見てようやく状況が飲み込めたらしく、「へへっ。旦那方、こちらへどうぞ…」と揉み手し始めた。
でも穴の中は暗くてジメジメして臭そうなんで、ちょっと這入るのが躊躇われたんだ。
そこでヘルマンが代表して調べてくれることになった。
◇◇◇◇◇
ヘルマンと留守番山賊が薄暗い洞穴を進んでいく。
所々に明り取りがあるので完全な暗闇ではなかった。
しかし所々に干し肉の食いかけやら酒瓶が転がっており異臭が立ち込めている。
「…………」
「…………」
洞穴の中には他に誰も見当たらなかったが、ヘルマンは油断なく周囲に気を配っている。
すると沈黙に耐えきれなかったのか、留守番山賊が揉み手しながら軽口をたたいた。
「…だ、旦那、スゲエ女たちをお連れなんですね? あんなスキモノそうな女共を連れていたんじゃ毎晩お疲れでしょう。ひひっ。俺もあやかりたいもんでさぁ!」
「…………」
「俺ぁ、褐色の亜人が好みですね。何処で手に入れたんです?」
「…黙って案内しろ」
「へ、へい~~っ」
・
・
洞穴は複数の広間があったが、どこも似たように不衛生だった。
しかしヘルマンがとある広間に這入ったとき、暗がりからかすかな息遣いが聞こえた。
「……ッ!? 誰かいるのか?」
隅に転がされていたのは背格好からみて少年であるらしかった。
僅かな光源からも彼がしたたかに殴られたのが分かる程で、涙の跡も無残な彼は気を失っている。
上等そうな衣類といい、山賊の一味ではないことは明白だった。
ヘルマンは少年を助け起こすと、彼は「う…あ…」と苦し気に呻く。
どうやら命に別状はなさそうだ。
「…おい、なんだ? この子は?」
ヘルマンは底冷えのするような声で留守番山賊に問いただす。
少年が目の前で傷つけられているのを見て、怒りがふつふつと湧いてきているのだ。
「…ひッ!?」
洞穴のなかの光とりの光加減のせいだろうか。
ヘルマンの整った精悍な顔がとてつもなく恐ろしく見える。
ヘルマンに睨みつけられた山賊はガタガタ震えている。
だが山賊は自分がナニをしてしまったのか、なぜ目の前の巨漢が怒っているのか理解できない。
更にヘルマンの怒りの炎に油を注ぐマネをした。
「へ、へへっ。だ、旦那。その…、アレですよ。襲った馬車から最初に連れてきたんですわ。騒ぎやがったんで、チョイと…ね。…へへっ。命さえ無事なら取引には使え…もももごごごがががッ!!」
「………俺を前にして子供を痛めつけるとはな…。そんなに死にたいのか?」
山賊は口元をヘルマンの大きな手で掴まれる。
そしてその桁違いの握力によって、ゴキリ、バキリと顎骨と頬骨を砕かれていく。
「ィィィィィーーーーーーーーーッッ!!!?!?!?」
…ぐぐもった悲鳴も長くは続かなかった。
◇◇◇◇◇
ヘルマンが洞穴に消えたあと、お留守番しているボクとベルフィ、サギニ。そしてスレイプニル。
山賊頭目は逃げる体力もないようで木に寄りかかって座り込んでいる。
サギニの戦いっぷりが強烈だったせいか、こちらをイヤラシイ目で見ることなく、ただ俯いていた。
「…それにしても妖精国から外界にでるのは久方ぶりになりますが、相も変わらず人間界は争いが多いのですね」
サギニは以前にも見聞を広めるためにとある人間界を訪れたことがあるらしかったが、そこは偶々戦場の近くだったらしい。人間たちの略奪と暴行が見るに絶えず、さっさと帰還したのだとか。
「動物も植物も己が生存のために他者から様々なモノを奪います。そういう意味では人間…山賊とやらの行為はしかるべきなのかもしれませんが。…どうにも野蛮が過ぎるように思えます」
え?
サギニ的には山賊ってアリなの?
だけど山賊を殺しまくってたじゃない?
「…ジエラ様が殺せと命じればニンジャとして任務を全うするのみです。またヘルマンだけに任せるには危険でした。そして我々妖精は仲間を見捨てたりはしません。…それに…」
「それに?」
するとサギニは不満げに言い放った。
「やつらときたら私の恰好を見て「ドスケベ」「頭がオカシイ」「痴女」 などと! ジエラ様に頂いた妖精に相応しい服を侮辱するなど到底許されることではありません!悪虐も極まれりですねっ! 妖精の誇りを穢す輩など死が相応しいですっ!」
すかさずベルフィも合いの手を入れてきた。
「そうよねっ。私も村で人間の小さな子供に「お尻が見えてる!」と笑われたわ! 下から仰ぎ見たら見えるに決まってるじゃない。 ったくもうっ。私たち妖精の美しさ、麗しさ、何よりもお姉さまに頂いたこの衣装の素晴らしさを理解できないなんて、人間は低俗な生き物よねっ!」
「はいお嬢さま。…ジエラ様に頂いた服の素晴らしさを理解できない程度ならともかく、下品極まりない欲情を向けてこられたら殺意を抑えられるか自信がありません…! 」
そう言うサギニの手には苦無が握られ、ギラリと妖しい光を放つ。
ひ、ひええっ。
こ、これはマズイどころじゃないよ!
チラリとベルフィ見る。
彼女は超ミニ短衣 。
しかも裸族なせいか人の目を気にしないんで、他人の視線に無防備だ。
で、でもこれくらいなら…なんとか。
チラリとサギニを見る。
顔を隠して、全身網タイツにマイクロビキニっぽい色物忍者。
色々とどうしようもないくらいにセクシーだ。
でもニンジャなんだから、人目を偲んで行動するんだろうから…なんとか…。
そ、それはそうと、どうやら彼女たち妖精さんにとって誇りを傷つけられる行為が最大の侮辱らしい。
それはボクが贈った服が欲望の目で見られる事も同様みたいだ。
ボクが創った服をそれほどまでに気に入ってくれたのはありがたいけど…。
で、でも、これから街の人が彼女たちを見たら…。
□ 妄想 □
「な、なんだあの女どもは。露出狂かよ!?」
「うほっ。良いケツしてんな」
「死になさい」
ドスッ
「ぎゃあああッ!?」
街に入った途端、いきなり虐殺を始めるサギニ。
騒ぎを聞きつけ、お役人さんたちも大勢駆けつけてくる。
「ここで通り魔な痴女がいるとの連絡が入ったぞ! 公序良俗違反な変態妖精は牢屋にぶち込んでやる!」
「死になさい」
ザクッ
「ぎええぇぇッッ!?」
サギニは自分の事を「露出狂」「痴女」と侮辱する人々を片端から殺しまくる。
殺された男の悲鳴と共に、「いやぁッ! アナタぁッ!?」「おとーさーんッ!?」などという悲鳴も重ねて聞こえてくる。おそらく男たちは家族がいるのにも関わらず、サギニの衣装に下卑た思いを抱いてしまったのだろう。
ヒソヒソ
「あの殺人痴女、かの名高いジエラさまにお身内らしいぜ」
「ホントかよ。ジエラさまも災難だぜ。せっかくの名声も地に堕ちるってもんだ」
「私、ジエラさまに憧れていたのに、あんなお尻丸出し殺人鬼妖精がお仲間だなんて幻滅しちゃう!」
なんと、ジエラは着々と名声を重ねていたが、サギニの凶行が全てを台無しにしてしまう。
おまけに…。
「ふん。私たちの素晴らしさが理解できない人間なんか、消え去りなさい!」
恐るべき白妖精であるベルフィの精霊魔術が猛威を振るい、大地が裂けて全てを飲み込む!
そしてそこには街があったことすら分からないほど、更地と化してしまったのだった。
□ □ □
街の人が彼女たちをエッチな目で見たりしたら……大量虐殺待ったなし!!?
そしたら絶対にお尋ね者…。
英雄どころの話じゃなくなっちゃうよ!?
ど、どうしよう!?
着替えさせるしかないけれど、彼女達はあの衣装をボクが創った最高の衣装だと思っているんだ。どう説明すればいいんだっ!?
ボクが頭を抱えそうになったその時、
「……ーーーーッッ!!」
突然洞穴の中から悲鳴が聞こえた。
ビクリとする山賊の親分。
悲鳴をあげるなんて道案内の山賊くらいしかいない。
「…あーあ。あの人、ヘルマンを怒らせちゃったみたいだね。ナニやってんだろ。こっちは色々大変なのにな…」
「良く分かりませんが要はお姉さまの敵を斃したのでしょう? あの者もそれくらい気が利いたことが出来ないと困りますよね? お姉さまっ♡」
気が利いたのかなぁ。また一つ情報源が無くなっちゃったよ。
「ジエラ様、私からみてもヘルマンはまだ未熟です。今後の為にも自重を教えた方がよろしいと思います」
…サギニもエロい目で見られることくらいで殺意を覚えなくていいのに…。その辺は自重してくんないのかなぁ。
間も無くするとほら穴からヘルマンが出てきた。
行きと違うのはその逞しい腕にお姫様抱っこされた少年…いや美少年。
「その子は?」と聞いたら山賊に囚われていたのを救出したのだという。
「案内の山賊は?」と聞いたら、顎を砕いたんで奥でのたうち回ってるとの事。
「洞穴に他に何かあった?」と聞いたら、酒瓶と干し肉があったみたい。
…ふう。
サギニといいヘルマンといい血の気が多いのが玉に瑕だよ。
それに干し肉とかの食料は貴重だけど、あんな臭いところで保存された干し肉なんか食べたらお腹壊しちゃいそうだし。
ボクは気を取り直して弱っている美少年を見る。
素人目にもわかる見事な仕立服。
絶対にお金持ちかお偉いさんのお子さんだよね。
彼が近くにあるという街から来たのは明白だ。
死んじゃった馬車の一行は彼の家族か使用人という事かもしれない。
ボクは山賊頭目にこの子は何処の子なのか聞いてみた。
でも彼は「知らない」という。
偵察していたら金持ちそうな馬車が来たんで襲ってみたのだとか。そしたらこの子がいたんで、身代金をせしめるのに使うか、それとも人買いに売るか、どっちにしろカネになる方法で処分しようとしたのだという。
「…そのようなくだらん事のために…!」
ヘルマンは剣の柄を掴んでプルプル震えている。
今にもヘルマンが山賊頭目に斬り掛かりそうだったんで、ボクは彼に自制するよう促しつつ、頭目にこれから行く海沿いの街とかについて知っている事を聞いてみた。
そしたら凄いことが分かったんだ!
海沿いの街。
街の名前はナキア。
だけど港町ではない。
何故なら沖合の岩礁地帯に水龍…ドラゴンが棲んでいるから、危なくて船とかが航行出来ないんだって。
つまりドラゴンはファンタジー世界でよくあるような守護獣とか聖獣みたいに崇められる存在ではなく、完全に害獣。
冒険者ギルドとやらに最難関クエストとして『水龍退治』が掲げられているけれど、長年にわたり名だたる英雄豪傑が失敗しまくっているという。
………。
や、やった!
まさかこんなにも簡単に英雄になるチャンスが舞い込むなんてっ。
ドラゴンとやらがどんだけ強いのかわかんないけど、ボクの『黄金のチョーカー』は竜殺しの神剣やら聖剣をゴロゴロ創ることが出来るんだ!
絶対に負けないよ!
でも簡単に勝っちゃ戦死にならない。
ある程度は使う武器に制限をかけて、辛うじて倒した後に相打ちっぽく戦死がいいだろう。
うーん。
逆にその辺りの手加減が難しそうだな。
通常の武器で攻撃が通ればいいんだけど、通らなかったら竜殺しの剣で瀕死まで追い込んでから通常武器でゴリ押しかな。
もちろん自分の防御なんか考えなしの玉砕戦法で。
あ、そうだ。
戦士の魂も集めなきゃいけないから、すぐには死んじゃマズイよね。
相打ちはナシで、そのまま殺っちゃえば良いかな。
でも竜殺しの英雄となれば、ボクが戦場なりに駆り出されたり、ガンガン腕試しを挑まれちゃうかもしれないぞっ。
何にせよ竜退治が上手くいけば、戦士の魂がどんどん転がり込んでくるだろう。
ボクが戦死するのはその後で。
そして美少年見る。
この美少年は…いいとこのお坊ちゃんに間違いない。
この子を助けた褒美に晴れ舞台を用意してもらって、ナキアの皆さんが見守るなか、華々しくドラゴンを退治すれば、誰もが疑うことのない竜殺しの英雄になれるよ!
いい!
いいじゃないか!
よーし、当面の目標が定まったぞ!
ボクはもう山賊頭目に用はなかった。
でも美少年くんが目を覚ました時に山賊を見て怯えたら拙いんで、早急に山賊とかほら穴での怖い思い出を無かった事にしたかった。
あ、良いこと思いついたぞ☆
ボクはベルフィにさっき斃した山賊たちの死体を運ぶようお願いした。
彼女は頷くと、同時に地面が蠢いたんだ。
「な、なんだっ!?」
驚く山賊頭目。
すると森の外から山賊たちの死体が動く地面に乗せられて運ばれてきた。
「ッ?ッ?ッ??」
理解できない山賊頭目を尻目に、山賊の死体が洞穴の中に運ばれていく。
死体が全部ほら穴に運ばれた後、ボクは頭目に説明した。
「…やっぱり親分なんだからさ、部下の面倒を見るべきだと思うんだよ」
「お、俺に、こいつらを埋葬しろってか!? そしたら見逃してくれるのか!?」
「勘違いしてない? キミの部下は死んじゃったじゃないか。何でキミを生かしとかなきゃならないの? 死国で助け合って頑張って欲しいんだ。頭目なんだから皆んなの面倒見てあげてね?」
「な、何だって?」
ボクがチラリとヘルマンを見ると、彼はボクの言いたいことが理解できたようだ。
頭目の首を掴んで洞穴にまで引きずり、死体が溢れている穴に向かって乱暴に放り投げる。
ドチャリという音と共にそのまま洞穴に突っ込む頭目。
お仲間の死体の山に放り込まれたお蔭なのか怪我はしなかったみたいだけど、暗がりから「ぎゃああぁあッッッ!!」とかいう悲鳴が聞こえた。
「ベルフィ、全部埋めといて」
「はいお姉さま」
ベルフィがそう言うや否や、洞穴の出入り口が閉じていく。
それどころか同時に洞穴周辺の土がもりもりと涌き上がり、洞穴そのものを埋め始めた。
「…なっ!? 見逃してくれるんじゃねえのかっ!!?」
山賊頭目は脱出しようと頑張っているけれど、次から次へと押し寄せる土砂になす術もない。
「た、助けてくれッッ!! たのむッ!!!」
「…死にたくないの? 助かるチャンスもあるよ。キミが誰かに恩を売っておいたのなら、その人が助けに来て掘り出してくれるかもしれないじゃないか。それまで食料を食い繋いで今までの悪行を反省してね。大丈夫。助けが間に合わなくて死んじゃったりしても死国で反省の続きをすればいいから」
「な、ナニ言ってやがる……!?…穴の…で……!!? ……ッッ!!」
そして頭目の声が聞こえなくなった。
洞穴の入り口が完全に閉じただけではなく、洞穴を含めた付近が完全に地面に埋没し、均され、下草が生えて、オマケに樹が生えてしまっている。
さっきまで此処に洞穴があったなんて誰も信じないだろう。
山賊の仲間が来たとしても分かんないだろうけど、まあいいよね。
争いの後はナニも残っていない。
凶悪な山賊と忌まわしい洞穴は草木の擦れ合う音、野鳥の声、遠くに獣たちの鳴き声が聞こえる平和な森の一部になってしまった。




