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初稽古

よろしくお願いします。


ボクが明るい未来を夢想していると唐突に15人位の男たちがやって来た。

どうやらさっきの轟音につられてやってきたみたいだ。


粗末な革の鎧でも着ている人もいれば、擦り切れた服だけの人もいる。

中には上半身裸で武器を括りつけるベルトを襷がけにしているのもいた。


だけど共通しているのは人相の悪さ。

交番とか駅前にある『この顔にピンときたら110番』なんか及びもつかない程の凶悪な人相をしている。



「…真昼間から雷でも落ちたのかと思ったら…。なんだぁ? 旅の連中かい?」


「…へへっ。最近獲物か少ねえから、懐が寂しかったんだ…って…おっほぉーーッ!? 上玉だぜぇ!?」


「こりゃあ、金目のモノと一緒にオンナも頂けるとあっちゃあ、みすみす逃す手はねえ! …野郎共、男はぶっ殺して、オンナ共をふんじばれ!! 今夜は宴だ!!」


「「「ヒャッハーーーッッ!!」」」



うわ、やっぱり山賊だ!


異世界っぽい!


だけど、これはまたとないチャンス♡



「ヘルマン、山賊だ! 殺っちゃえ!」



ボクたちはヘルマンの背に隠れるようにして山賊に対峙する。



「お姉さま、こんなヤツらなんか瞬殺では?」



ボクの横でベルフィがぽそぽそ言っている。



「そうだけどさ、ヘルマンに早いうちから殺人・・を経験させてあげないと、戦働きなんて望めないよ」



ボクやベルフィは、人間は死んだら次の世界に転移・・・・・・・するだけって知っているから、ヒトを殺しちゃうのに別に罪悪感なんて感じない。


だけどヘルマンはどうだろう。

魔物…オーク相手には奮戦していたけど、人間相手では?



「…お前たちも食えなくて山賊になったんだろう。大人しく役人に自首するといい。運良く死罪を免れたら罪を償うために今度こそ真面目に働くんだ」



ガクッ。

意表を突かれた。

なんとヘルマンは年齢に似合わず渋い声で山賊を諭し始めたんだ。



すると山賊たちが騒ぎ始める。



「ひゃははは! 俺たちゃ何人殺したかわからねえぜ! ワザワザ死罪になりに捕まりに行くワケねぇだろ!?」


「兄ちゃん! そんだけの上玉を好き勝手しておいて、この場に及んで独り占めはよくないぜぇ?」


「命が惜しければその高く売れそうな武器と女を置いて逃げな! そしたら命だけは勘弁しておいてやる。女たちは俺らが美味しく頂いてやるからよぉッ!」


「ひぇっへっへっへ! おい、そこの胸がデカいオンナ! そんなスケベな服なんか着やがって、娼婦崩れか何かか? 可愛がってやるからこっち来い!」


「エルフ娘もケツが見えそうだ! そんな格好しているんだ。誘ってんだろ! ケツ出せケツ!」



なんだよ、スケベな服って。

この服の何処がスケベなんだよ。

…まあ…ベルフィの場合は…彼女の短衣チュニックはお尻がチラチラ見えそうだから当たらずも遠からずだと思うけどさ。



ボクは今の服…タンクトップ&デニム地のホットパンツを見下ろしてみる。


…ちょっと襟ぐりが深いから胸元の谷間が際どいけどさ。

おへそが見えてるくらい裾が短いけどさ。

デニム地のホットパンツはピッチリお尻にフィットしていて、脚の付け根どころかお尻の肉が半分くらい剥き出しだけどさ…。


元いた世界の夏の某国西海岸なんて、タンクトップ&ホットパンツな金髪美女なんて普通だよ! 多分だけど!


それにベルフィの太鼓判は当てにならないけど、この世界の住人であるヘルマンも「別におかしくないと思います」って言ってくれたし。



ボクがヘルマンの陰に隠れてブツブツ言っていると、ゆらり・・・とベルフィが山賊たちに向かって歩み出た。



「スケベ…? 可愛がってやる…? 私のお姉さまに向かってなんて卑猥な言葉を!!」



するとベルフィを見た山賊たちが下品に笑う。



「すげえっ。ケツが見えそうだ! 誘ってやがるぜ!」


「おおっ。エルフってなぁ、すっげえ美形だな! だが連中は魔法使いだっていうぜ! 呪文を唱える前に襲って口を押えろ! そしたらただの小娘だ! 野郎のデカい剣に気を付けろ!」


「「よっしゃ!」」



山賊たちがヘルマン(とボク)に二人、ベルフィに向かって三人突っ込んできた!



「ヘルマン、斬れ!」



ボクが叫ぶ。


ヘルマンは咄嗟に剣を振り下ろす。

だけど目測を誤ったんだろう。

今さっき手に入れたばかりの剣の間合いを掴み損ねたのか、盛大に空振りしてそのまま地面を打ちすえた。


「馬鹿め!」



山賊が錆びたボロ剣をヘルマンに振るう。


いけないッ!


ボクはヘルマンの陰から出ると同時に抜刀する。


キキンッ


空気を切り裂く金属的な音が二連続・・・

抜刀、納刀を瞬時に二回。

居合い抜刀の常識を無視する神速剣。



「…え?」

「……?」



目の前にまでやってきた二人の山賊たちはナニが起こったのかさっぱり分からないというか、表情が抜け落ちたような有様で、ほぼ同時に胴体を切り裂かれて絶命した。


ベルフィの方も、目の前に躍り出た山賊三名をカマイタチみたいのでバラバラにして、そのままカマイタチは竜巻の様に渦を巻いて、その肉片を霧状に消え去ってしまっていた。



「……………」



山賊たちは声も出ない。それどころか「ナニが起こったんだ? 魔法か?」「巨乳の姉ちゃん…。突っ立ってるだけ…だぜ?」とか言っている。


呆気にとられて硬直している山賊を無視してボクはベルフィに言う。



「ベルフィ。キミの魔法で山賊たちの足止めをして。動けなくすればいいから」


「はいお姉さま」



ベルフィはそう言うと山賊たちをチラ見する。

すると、それだけで山賊たちの足がズブズブと地面に埋まり、そして地面が硬質化したようだ。

彼らは「な、なんだこれっ!?」「どうなってんだ!? ね、抜けねえッ!」と慌てている。



ボクはヘルマンに向き直った。



「ヘルマン。躊躇したね」


「…は。…山賊とはいえ、人を斬るのは初めてなもので…思わず」



…やっぱりね。

初めて人を斬るんだもの。ここでヘルマンを責めるつもりはない。

だけど、ここはどうしてもヘルマンに人を殺す(・・・・)事に慣れてもらわなきゃならないんだ。



「…ヘルマン。…示現流。それを学ぶにあたって、ナニが必要なのか教えてあげるよ」



示現流の剣士の根底に在るモノ。


それは憎悪(・・)だ。


図書館で借りた本によると、貧困と差別に苦しんだ彼ら薩摩の武士たちは、その不満を体外に爆発させていたんだ。


大声を上げての一心不乱の立木あるいは横木打ちが示現流の基本稽古。

どんなに怒りに塗れていても、大声を上げて木を叩きまくれば段々と落ち着いてくるものだ。


これは武術の鍛錬と同時に不満解消の手段として広く普及していたという。

そして彼らが立木打ち稽古をする際、彼らの顔はすべからく怨敵に対するそれだったという。


一説によると、木刀での立木打ち稽古の際、松の大木を三日で倒したという話もあるくらい。


つまり憎悪を剣の威力に昇華するのが示現流の稽古の要諦なんだ。




ヘルマンは紳士だ。

平穏な村での暮らし。怨敵(・・)なんか想像もつかないだろう。

だから例え話をする。



「…ヘルマン。キミが最も大切にしている物はナニ? あるいは大切に想う者は誰?」


「我が主君、ジエラ様です」



ヘルマンは即答する。


ドキッ☆


あううッ。

そんな熱意と誠実さに溢れる眼差しで言わなくても…。

ただでさえ、ヘルマンはイケメンなのに…。

例えボクが男だとしてもきゅんきゅん…じゃなくてドキドキしちゃうじゃないか。



「そ、そうかもしれないけどさ、他は? 何かない? そうだね…弱くて守ってあげたくなるようなさ…」



するとヘルマンは一瞬考えたあと、力強く「子供…少年たちです」と言い切った。



おお、未来のある子供たちが大切だなんて。

さすがヘルマン、心までイケメンだね!



「ヘルマン、示現流はね、元は自顕じげん流って言って…ううん、言葉だと分かりづらいな。つまり『を打ち出す』っていう意味があったんだ」


…。『自分の想い』という事ですか?」


「うん。心の奥にある()を打ち出して、目の前にある怨敵を滅ぼす。それがジゲンの威力の根幹さ。…ヘルマン、キミの剣は『大切な者を穢す怨敵を滅ぼす剣』。そう思ってごらん」


「俺の剣は…大切な…護るべき者を…子供たちを虐げ…不幸にする…者を…滅ぼす…剣」


「そうだよ。ヘルマン、キミが敵を斃さない限り、キミの大切な…子供たちは不幸になる。キミの剣が子供たちを救うんだ」


「俺の剣は…子供…少年を救う剣ッ!」


「…キミの()。キミが少年たちを大切に、愛おしく想う気持ちをチカラに変えて、少年たちの敵を滅ぼすんだ!」



ボクは身動き取れなくなった山賊を指し示す。



「山賊のせいで不幸になった少年達がいる。今ここでその不幸を断ち切らなくちゃならないんだ。そのキミの剣で!」



ヘルマンは山賊の前でゆっくりと剣を構える。

最早、ヘルマンの山賊を見据える目つきにさっきまでの素朴さはない。

ある決心・・・・さが伺える目つきだ。



「トンボの構え。左肱切断。左の肘は固定だからね。斬り下ろすときにしっかりと脇をしめれば抉りこむようになって相手に致命傷を与えられるからね。さ、練習台・・・は…十人いるよ。あ、そうだ。目標・・に向かって十歩くらい前から駆け寄って、踏み込みと同時に斬り込んでみるんだ。剣の間合いをしっかりつかんでね!」



ボクはヘルマンの姿勢やら剣の持ち方とかを指導するために、彼の手とか腕とか腰とかをペタペタ触っちゃったり、自然とおっぱいが当たっちゃったりしたけれど、ヘルマンは微塵も動じてはいないようだった。



「さ、この構えが無意識にできるようになってね?」



ヘルマンは無言でコクリと頷いてから、目標となる山賊から10メートルくらい距離をとるとトンボの構えをとった。


鋭い目つき。

既に彼の頭には子供達を不幸にする存在を切り捨てることしかないみたいだ。



「おおぉぉぉ……ッッ!!」



ヘルマンが怒涛の掛け声とともに剣を構えて走る!



「お、おい、冗談だろ…。…うぎゃああああぁああぁッッ!!?」



踏み込みの威力が剣に乗っているため、山賊は文字通り真っ二つになった。



「…子供達を不幸にする存在は…全て…許さん…ッ!!」


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