最強剣(?) 異世界ジゲン流
よろしくお願いします。
示現を冠する流派はそれなりにあったみたいだけど、ここでは一つに絞らせてもらおう。
「示現流はね、『一の太刀を疑わず』『二の太刀要らず』って言って、一撃必殺を信条としているんだ」
…ホントは連続技もあったみたいだけど、夢が無くなるから省略。
「構えも一つしかない。『トンボ』って言って、…構えてみて。右手で棒を振り上げた姿勢に、左手を添えるんだ。左腕の肱は胸に付けて引き締めて…動かしちゃダメだよ。そして剣を握った右の拳を相手に振り下ろすんだ。振り下ろしながら左脇を締めれば、相手のカラダを抉るように切り裂けるんだ」
…ホントは構えも色々あったみたいだけど、やっぱり夢が無くなるから省略。
「…これだけですか?」
「うん。これだけ」
ヘルマンは拍子抜けしているようだ。
「…しかしジエラ様、振り下ろすだけでは…。…相手に躱されたら?」
「なんで躱されるなんて考える必要があるの? 示現流はね、剣を振り下ろした瞬間に相手は死んじゃうんだよ?」
ホントは躱された後の対処法もあったみたいだけど…以下略。
「…………」
ヘルマンはいまいちピンとこないようだ。
そりゃそうか。「剣を振れば相手は死ぬから躱されたらどうするなんて考えるな」なんてアタマがどうかしているよ。
「それには『雲耀』を会得しなくちゃね」
「うんよう…ですか?」
示現流には『雙』…つまり相手よりも早く打ち込んで先手を取り、『越』…早く強く太刀を打つという考え方がある。
それを可能としているのが『雲耀の剣』なんだ。
「雲耀っていうのはね、雷の事なんだ。つまり示現流は雷の速度と威力で相手を必殺する最強剣なんだよ」
続けて言う。
「雷の威力と速さで一撃必殺。剣だけじゃない。一撃離脱するときも雷のように素早く行うんだ。そうすれば一対一だろうが多人数に囲まれようが問題ないよ」
そして示現流は先手必勝。
後の先云々なんて関係ない。先の先よりもなお早く!
つまり絶対に相手よりも先に攻撃して、相手の剣や防具ごと叩き斬っちゃうんだ。
ううっ。
どう考えても厨二病全開だ。
色々と多方面に申し訳ないけれど、この場はそういうコトにしておこう。
「……じゃあ、ボクが手本を見せてあげる」
ボクはここは派手にいってみようって考えて、この人間界で初めて神剣を創りだすことにした。
創り出す剣は雲耀にちなんだ雷の剣。
「『勝利』…雷撃剣!」
ナニもない虚空からカラドボルグがその姿を顕した。
精緻な紋様が刻まれているこの剣は、ある種の威容が迸っている。
それをボクはトンボに構える。
トンボの型…右手を掲げ、左の肱を胸に付ける…左肱切断の姿勢をとると、ボクのおっきなおっぱいがぐにと歪んだ。
「…んッ♡」
うう。
ボクのおっぱいなのに、未だに触るとドキドキするな…。
いや、気にしない気にしない!
ボクは道に面した荒地に向かって剣を構える。
ちょっと先には大岩が見えるけど、見渡す限りの荒地だ。
本当は示現流の立木打ち稽古が良いのかもしれないけれど、妖精の前で樹を打つのは気が引ける。
だから今回は素振りをすることにしよう。
この剣は武器として強力なだけじゃなくて、振ると虹が生まれるという視覚効果があるんだ。きっとベルフィもヘルマンも驚くだろうな。
「いましめの、左の肱の動かねば、太刀のはやさを知る人ぞなき」
カッコつけて示現流の道歌を唄ってみる。
そして「これが示現流だよっ」とか言いながら、基本の型…トンボの構えからの斬り下しを見せる。
「チェストーーーッ!!」
…ああ…声が裏返っちゃった…。
すると次の瞬間!!
ドグァアアアァ――ッッッ……!!!
トンデモナイ轟音と共に虹色の光が視界を塗りつぶす!
光と音だけじゃない。
爆風と熱、そして地面から地響きが大気を振動させて、それがビリビリとした圧力となって押し寄せてくる!
な、ナニ!?
ナニが起こってるのっ!?
ボクは内心ビビりながらそれでも残心をキメていた。
チラリと横をみると、ベルフィは魔法か何かで結界を張っているみたい。
ヘルマンは土埃をまともに浴びて咽ている。
もうもうとした土埃が消えると、目の前の風景が一変していた。
大岩が真っ二つに割られていた。
それだけじゃない。
視界の及ぶ範囲で大地が割れていたんだ。
「………」
「………」
「………」
あ、あれぇッ?
このカラドボルグって、脳内取説に『地形を変える程の攻撃力を誇る』ってあるけど、こんなにも凄いの?
それとも神剣を戦乙女が使ったから!?
こ、こんなの戦場で使えないよっ。
戦場で適当に剣を振り回しているだけで、天変地異でメチャクチャになっちゃうレベルじゃないかっ。
誰もボクの戦果を認めてくれないよっ。
チラリと見ると、ベルフィとヘルマンがポカンとしている。
「…お、お姉さま。これだけの破壊を剣の技だけで…こんな…。これが戦乙女の御力…なのですか?」
「あー…うん。ヤリ過ぎちゃったかもね。精霊さんも驚いたりしちゃったかなぁ」
するとベルフィはくねくねと腰をもじもじし始めた。
「はぁはぁ♡ 私とお姉さまの愛を邪魔するモノは…お姉さまの剛剣でまっぷたつ…♡ お姉さま。私、お姉さまたち戦乙女が戦場で生きる意味が分かったかも知れません…♡ それは愛のため闘う…ということなのですね♡」
「………」
「そして…オークから私を護ってくれたように…。お姉さまは私のコトを…「ボクの可愛い妖精に手を出すなっ」(キリッ)…みたいなカンジでェェッ♡♡」
「……あ、あのね、ベルフィ。精霊さんにお願いして裂けた大地を埋めといてくれないかなぁ?」
「…お姉さまぁ、お姉さまぁん…♡♡」
ハァハァしているベルフィをほっといて今度はヘルマンに向き直る。
「こ、これが…ジゲン流……最強の剣」
対してヘルマンは震えている。
それは己が目指すべく目標を見つけた感動からのようだ。
ボクはそそくさとカラドボルグを『黄金のチョーカー』に収納して、最初の日本刀に持ち替える。
ううっ。
「示現流を魅せてあげるよっ」とか言っておきながら今更「ちがうよっ。今のは示現流じゃなくて、カラドボルグっていう大量破壊兵器の仕業なんだ」などと言えるわけがないよ。
ボクは内心の動揺を隠しつつ、ドヤ顔でヘルマンに向き直った。
「…わ、わかった? これが史上最強剣・示現流の完成形(?)だよ! 腕力だけじゃなくて…魔力、そう! 魔力を剣の威力に乗せてるんだ! 最初は基礎からだからこんな威力は出せないだろうけど、と、とりあえずヘルマンは…そうだね。トンボの構えからの素振りをする事。一気合の内の素振り回数をどんどん増やしていって。ゆくゆくは左右30回以上が目標だよ。最初は出来る限りでいいからね」
「はいッ!」
「単に早いだけじゃダメ。左腕の肱をしっかり固定して、振り下ろすと同時に脇を絞めるんだよ?一振り一振りに気合を込めるんだ。剣の重さに任せて振り回さないっていうか、剣に十分に気と力を乗せることも忘れずにね」
「わかりましたッ!」
…ついファンタジー世界っぽく「剣の威力に魔力を乗せるんだよ」なんて適当なコト言っちゃったよ。
ボクはヘルマンに突っ込んだ説明を求められる前に彼から離れると、彼は早速トンボの構えから「ムンッ」とか言いながら剣を振り始めた。
元々木こりをやっているから、上段からの打ち下しが得意だったのかもしれない。結構サマになっている。
こっそりとベルフィが耳打ちしてきた。
「お姉さま、ヘルマンを鍛えてどうなさるんですか? …戦乙女の任務として戦場を渡り歩いて戦士の魂を導くということは聞いていますが…。ヘルマンの訓練に手間をとっていたら、魂の回収効率が悪くなるのでは?」
…いやいや、いくらボクが戦乙女だからって最初から「そろそろ戦死させよっかな?」とか言わないよ。
勿論、何時かは戦死してもらうけどさ、それはやむを得ずっていうとこだろう。
確かにベルフィの言う通り、ヘルマンを鍛えて立派な戦士にするのにこだわっていたら他の魂を回収するのに非効率だって解ってる。
だけど、ボクはヘルマンを見ていてあるコトを思いついたんだ。
ボクは少なくとも外見が女性だ。
だから戦場を求めてあちこち歩いても、女性だからっていう理由で仕官とかままならないかも知れない。
かと言って、勝手に戦場に飛び込んでしまっては、結局は双方の軍略を引っ掻き回すお邪魔虫。英雄とは程遠い。
だから、勝つにせよ負けるにせよ、どちらかの軍に所属している必要がある。
その反面、男性であるヘルマンをボクの相棒として侍らせてけば、ボク自身の仕官が叶いやすいばかりか、過酷な戦場に従事する機会が増えるんじゃないかって思うんだ。
それにボクやヘルマンの勇名が轟けば、腕に覚えのある豪傑たちが腕試しにやってくるかもしれない。
そしたらボクたちがサクっと殺っちゃえばいいんだ。
それにヘルマンに腕試しを試みる連中の中に…そうだね、フッラさんが好みそうな知性溢れるイケメンな戦士でもいたらいいなって思う。
ふふふ。
ヘルマンが豪傑になればなるほど、ボクの名声が上がるチャンスが増える。つまりヘルマンとお互いウインウインっていうワケだ。
そしたら、フレイヤとのバラ色の新婚生活が待っている♡
ボクって頭良いな!