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間話  ヴァルハラ宮殿にて

よろしくお願いします。

戦士の宮殿ヴァルハラにて



「ねぇ! 居たーーー!?」


「ダメっ! こっちには見当たらない!」


「っとにもう!一体何処行ったのよ、あの主神ジジイ!」


「誰よっ! 神馬スレイプニルさえなければ、主神様オーディンもフラリと遠出することは出来ないっていったの!?」


虹橋ビフレストから落ちちゃったんじゃない!?」


「…まさか、また世界樹ユグドラシルで首吊ってたりして…?」



…ここ、アース神国アースガルズの一角にあるヴァルハラ宮。


主神であるオーディンの姿がいつの間にか消えている事で、宮殿勤めのヴァルキュリー達は夜を徹して彼を探すべく奔走していた。


彼女達の苦労を知らない戦士エインヘルヤル達は、今晩も宴会でバカ騒ぎだ。


宮殿から漏れる光と喧騒と見やりながら、彼女たちは捜索疲れからか、呆然と呟く。



「あーあ、お腹すいたな…」


「あたし、明日、いやもう今日か。今日も早朝から勤務シフトが入っているんだけど…」


主神ボケジジイもお腹すいたら勝手に帰ってくるんじゃない?」



はるか上空では、ひと仕事終えた夜女神ノースが夜の帳に包まっておやすみしている。


それに引き換え自分たちは…。

今夜も宿舎に帰れそうにない。


必然的に身だしなみは適当になるが、自分たちが毎日相手にしているのは最悪の酔っぱらい連中や老人なので、「こんな姿見られてはずかしい」などと思える素敵な男性エインヘルヤルなどいないのが現状だ。



戦乙女ヴァルキュリーにもいろいろ業種があり、戦場で魂を回収する者から、自分たちの様に宮殿で英雄たちを接待するホステスじみた者がいる。


戦場仕事は所謂『3K仕事』だと容易に想像できるので、宮殿勤務を希望する者の動機は、単に「楽ができる」と安易に考えたのが殆どだった。

しかしふたを開けてみれば、こっちはこっちで最悪だったのだ。



戦士たちのお酒の相手…酔っぱらった粗暴な男たちのセクハラに耐え…。


戦士達の武器の手入れメンテナンス…いつ使うか分からない倉庫に眠りっぱなしの防具や武器に油さして、磨いて…。


そして主神オーディンに振り回される日々。


しかし先日、「内密に」ということでフレイヤに仕える女神フッラが戦士たちの武器を全て引き取るといってきた。


その提案に、「どうせ、この先もずっと酒盛りなんだから、手入れするだけ時間の無駄」と考えていた彼女たちは嬉々としてフッラの提案に従った。きっとフレイヤのところの城館フォールクヴァングの倉庫に移してくれるのだろう。


何故、フッラが武器だけを持ち去ったのかは分からない。

どうせなら防具もまとめて引き取ってくれれば良いのにと思わなくもなかったが、武器だけでも全て無くなるのは非常に有り難かった。


まあ、武具の手入れという仕事は減ったが、酔っ払いたちの相手は未だに続いているのであるが。




…とまあそれらの仕事とセクハラに追われる毎日を思うと、今にして思えば戦場を飛び交うほうがストレス発散的には良かったかもしれない。



宮殿勤めの彼女たちは一様に思う。




このままとして終わってしまうの…?


はやくこんな職場から抜け出したい。




しかしそんな彼女たちに希望の光が照らされたのだ。



「…そう言えば聞いた? フレイヤ様の話」


「うん。フレイヤ様の肝いりの計画で、戦士イケメンを大量にアースガルズに連れてくるんでしょ?」


「私はフッラ様のお婿さん探しも兼ねてるって聞いたわ。でもフッラ様ってさ、理想高すぎじゃない? だからそのおこぼれに預かれば私にもチャンスがっ!」 



彼女達は、いつの日か自分たちをこの環境から救ってくれる素敵な王子様エインヘルヤルを夢見る。


あんながさつで野蛮で汚らしい酔っ払い連中ではない。

白馬の王子様のような素敵な戦士(エインヘルヤル)がもうすぐ自分を迎えに来てくれるかもしれないのだ。


そんな夢を想いながら、いつ終わるともわからない老人オーディン捜索の為、疲れた身体に鞭を打つ。


見つけた時の恨み言を頭の中で練り上げながら。



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