戦乙女と黒妖精
よろしくお願いします。
「はっ!」
ここはセダ村近郊の森の中。
二人の女が迫り来る豚鬼を斃し続けている。
いや、正確には戦っているのは主に褐色の女性のみで、甲冑姿の女性はオークをいなすようにさばいているだけだった。
なお甲冑姿の女性と褐色の女性は共に人間ではない。
戦闘用というよりは儀礼用ともいえる装飾性に富んだ甲冑に身を包んだ女性。
彼女は戦乙女である。
戦場を駆け、勇敢に戦い斃れた戦士の魂を天上へと誘う存在だ。
そしてもう一人。
褐色というよりは小麦色に日焼けした肌に笹穂耳…この世界の人間なら「ダークエルフ? いや、日焼けしたエルフか? ?」と思うだろう。
しかし彼女はエルフでもダークエルフでもない。
彼女は妖精国に住まう黒妖精である。
戦乙女の名はブリュンヒルデ。黒妖精の名をサギニといった。
彼女たちはとある事情でこの人間界までやってきたのだ。
サギニは粗末な弓のようなもので中空に原始的な矢を放つと、矢は異常なまでに加速し、唸りをあげてオークの急所に吸い込まれるように突き立つ。
しかしオークの急所のほとんどが脂肪の鎧で覆われているため一撃では到底倒しきれない。
そのため矢は早々に尽きてしまう。
そこで彼女は足元に落ちている石や固い木の実を手当たり次第に投げつけ、それを気流操作でオークの急所に叩き込み、怯んだオークをブリュンヒルデが追い払っていく。
ブリュンヒルデたち普通の戦乙女は単純に魂の運び屋にすぎないため、身を守る最低限の戦闘力しか持ち得ない。そのためオークのような巨漢の魔物は倒しきれなず、オークに決定打を与えるのは専らサギニの役割だった。
「おぞましいッ!」
「ぶひーっっ!?」
弾丸のような石飛礫がオークたちの急所…股間を直撃する。
情け容赦ない攻撃にオークの股間がミンチと化し、そのあまりの激痛にオーク達は股間を抑えて倒れ込んでしまう。
しかしオークの動きを止める事はできても命を断つことは困難であったので二人は逃げに徹するのだった。
・
・
・
うずくまるオーク達から逃れるようにして森の中を疾る。
振り返ってもオークたちはやって来ないようだった。
「…ふう。これで一安心…ですわね」
「ですわね…じゃないでしょっ!? ナニよその恰好は!」
「は?」
黒妖精であるサギニは自分のカラダを見下ろす。
「別段おかしいトコロはナニも?」
「ナニ言ってんのよ! 外套の内側…。ぜ、ぜ、全裸じゃないっ! そんな格好してるからあんな魔物に追いかけられる事になったんじゃないのっ!? 頭オカシイんじゃないのっ!?」
サギニは「ふっ」と笑う。
「ナニかと思えば…。私たち妖精種は天地自然と共に在る高尚な種族。肌で世界を感じるのは妖精種の嗜みです。むしろ私たちからすれば自然と対極ともいえる戦場を活動の場とする貴女達戦乙女こそオカシイと思いますよ?」
「それに」とサギニは続ける。
「貴女は戦乙女でありながら魔物からチョロチョロと逃げ惑うばかりではないですか。戦火と戯れる屈強な女戦士との噂はどうやら眉唾ものでしたか?」
「ふ、ふんっ。私たち戦乙女は護身術を嗜んでいるから己の身を護るのが身上なの。私たちが天上へと誘う戦士の魂は、あくまで戦士同士での戦いの結果、戦場に斃れた者よ。私たち自身が戦うワケじゃないわっ」
「…噂とはあてになりませんわね。その鎧も見てくれですか」
「ふんっ。戦乙女が直接戦うなんてあり得ないわ。だからあんな低俗な魔物なんか貴女が相手するのが、お・似・合・い。それに貴女こそ妖精なんだから噂に聞く精霊の魔法を見られると思ったのに、フタを開けてみれば石ころをぶつけるなんてガッカリだわ」
「…くっ。主筋の白妖精とは違い、私たち黒妖精が使える魔法は身体や飛び道具の補助程度しか…。それにこの世界は精霊の在り方が歪といいますか…。本来は今の状況でも火や水なども使えるのですが…」
「ナニをブツブツ言い訳してるのよ!」
彼女たちはそれぞれ悪態を吐きながら森の中を歩いていた。
・
・
・
しばらく歩いていると立派な土塁と掘りに囲まれた村があった。
先ほどはオークの一団に遭遇してしまったが、それを除けば概ね安全な森なのにも関わらず、この城塞のような村の備えは仰々しい事この上ない。
「あ、人間の集落のようね。ジエラ様たちをお見かけしなかったか聞いてみるわ」
「そうしましょう。私も早くお嬢様とお逢いできないと心がささくれそうですからね」
ブリュンヒルデは土塁の上にいる村人に声をかける。
「そこの人間! すこしばかり尋ねたい事があるの! 話を聞いてもらえる!?」
するとブリュンヒルデたちを見下ろした男は「に、人間だって!? お前さん方は人間じゃないのかい?」と警戒を増してしまったようだ。
「ナニ警戒させてるんですかっ」と、サギニが続ける。
「私は怪しい者ではありません。この村にディードベルフィ…いえ、ベルフィ様という夢幻的な美少女妖精がお立ち寄りになられませんでしたか?」
ブリュンヒルデも慌ててそれに倣う。
「そう! ジエラ様という、美しいなんて言葉も陳腐にきこえるっていうか、凛々しくて麗しくて…えっと、女神すらも霞むような絶世の美女を見かけなかったかしらっ!?」
すると土塁の奥でザワザワという気配がした後、土塁の隙間…入り口から数人の村人が現れ「騎士様のお知り合い のようですな。ようこそセダ村へ」と二人を歓迎したのだった。
・
・
・
「すると貴女方は騎士様と合流しようと…。それは残念でした。騎士様…ジエラ様は今朝お立ちになりました」
「行き違い…? でもよかった! もうすぐジエラ様にお逢いできるのね!」
「そうですか。ですが行き先さえ分かれば追いつくのは容易です。助かりました。…ベルフィお嬢様もそこに!」
ブリュンヒルデは村人に歓待されたあとジエラの行き先を知る事ができたが、いきなり手ぶらで合流してはジエラの心証を損ねると思い、せめて糧食だけでも持参しようと考えた。しかし金銭など持ち合わせていなかったため彼らから購入することもできなかった。
仕方ないので、彼女は村の女性に護身術の基本を教授することで食料の対価としようとした。
護身術とは言えども、彼女自身は命のやり取りの経験はないので、形式的と言うか簡単な形稽古のようなものだ。
だが護身術教室は村がオークに襲撃されたばかりということもあり、大盛況だった。
そしてサギニはというと、村の猟師が使う粗末な弓矢に目を奪われてしまっていた。
妖精種である彼女は人間のような木材加工の技術を持たない。
であるから田舎猟師の粗末な弓矢でも信じられないくらい美しく機能的な業物に感じてしまったのだった。
彼女は「あれほどの名品であるからにはおいそれと譲ってはもらえまい」と思案していると、「よお、困り事かい」と軽薄そうな男に声を掛けられた。
彼は猟師のエディと名乗った。
・
・
「…とまあ、棒術はこんな感じかしら。質問などは?」
ブリュンヒルデは洗濯竿を用いた棒術について簡単な指導を終えたあと、皆を振り返った。
すると若い村娘たちが手を挙げる。
「ブリュンヒルデ様は騎士…ジエラ様のご同輩なのでしょう?」
「ええ。私の憧れのお方です」
「な、なら教えてください。ジエラ様はどうしてあんなに肌を晒しているんですかっ? お尻なんて半分くらい剥き出しなんですよっ!」
「は?」
「ブリュンヒルデ様は全身を鎧で覆ってらっしゃるのに、ジエラ様は手足どころかおへそもさらけ出して…。まるで男を誘っているとしか…」
「そうなんです! 誘うどころか、ジエラ様は村一番の女性嫌いを一晩でモノにして連れ去ってしまったんです! き、きっと私の想像もつかないようなコトを…。うう、ヘルマン、憧れていたのに…」
「え? ええっ?」
ブリュンヒルデは耳を疑った。
何でもジエラは女嫌いの男を…誘い…虜にしてそのまま連れ去ってしまったのだという。
「ま、まさか…。ジエラ様はフレイヤ様直轄の高貴な戦乙女ですよ。ナニかの間違いでは?」
すると彼女たちは声を揃える。
「ふれいやサマってのはよく分からないけれど、ジエラ様は彼…ヘルマンと余興で試合をしたんです。あのときのあの方の濡れた瞳にはゾッとするくらいの色気がありました!」
「そう! ヘルマンのカラダを弄る手つきなんか獲物を品定めしてるみたいだったよ」
「やっぱり女同士の旅だから…ご無沙汰だったんだねえ。どんなに綺麗でお強くてもオンナってことさ」
「そ、そんな…。ジエラ様が、そんなにも好色なお方だったなんて…」
□ ブリュンヒルデの妄想 □
「んふふっ。君ってさ、なかなかイイモノを持ってるじゃない♡ ボク、お屋敷でもご無沙汰だったからカラダが夜泣きして堪らないの♡ それに一晩だけじゃボクの渇きが治まらない。アレだけじゃ物足りないんだ♡ だからぁ、ボクと一緒にきてくれないかなぁ?」
ジエラはちろりと唇を濡らすようにしてヘルマンを見やる。
彼女たち戦乙女はアースガルズに招かれた戦士と結ばれる。
ジエラはヘルマンを将来の伴侶として狙っているようだ。
「…だから…ね♡ うん、って言って欲しいなぁ♡」
「…ぐっ。お、オレを貴女の従者にしたいと…一緒に来いという…話…か」
ジエラは「そう!」と笑う。
まるで淫魔のように嗤う。
「キミの従者としての仕事内容はボクの性欲処理。報酬はボクのカラダだよ♡ 何時でも好きなだけ貪っていいからねっ♡」
□ □□
ブリュンヒルデは頭を抱える。
「うそっ、うそよ…! ジエラ様に限って…そ、そんな。そんなコトって…!?」
想像力豊かなブリュンヒルデはジエラが男漁りする様子を妄想し愕然とした。
勘違いだと思いたい。
しかし、現に村の女達が証言している。
少なくともジエラが露出の激しい服を着て男を誘ったことは間違いなさそうだ。
露出…。
露出……。
妖精の仕業か…!
ブリュンヒルデは己の同行者たる黒妖精のサギニを思い出していた。
あの女ときたらマントの下は全裸というあり得ない格好をしているのだ。
ジエラの同行者も妖精というから、きっと清廉なジエラは妖精の毒に当てられてしまい肌を晒すのに抵抗がなくなってしまったのかもしれない…!
このまま恥知らずな妖精と共に行動していてはジエラがますます破廉恥な痴女になってしまう恐れが出て来たのだ。
今のところヘルマンとかいう男を亡き者にすれば証拠隠滅は容易いだろう。
しかし時間が経てば経つほどジエラは男を漁り続け、悪い噂は収拾がつかなくなってしまう!
「…ど、どうしよう。この人間界に他の戦乙女が派遣されてきたら…!? 早くなんとかしないとジエラ様どころかフレイヤ様にも不都合な風評が避けられないわっ」
ブリュンヒルデは身につけていた『白鳥の羽衣』に魔力を通すと、彼女のカラダは小柄な白鳥の姿に変わる。
「ああっ!? 人間が鳥にっ!!?」
村人が驚くのをしり目に、白鳥に変化したブリュンヒルデはジエラが向かっているであろう街に向かって飛びたつ。
「…はやくっ。はやくヘルマンとかいう人間を始末しなくては…。露出狂の妖精共々口を封じないと…!」
ブリュンヒルデはサギニより先行してジエラ一向に追いつこうと必死に羽ばたくのであった
・
・
「へへへ。アンタ、ベルフィとかいうエルフの連れなんだってなぁ?」
軽薄そうな笑みを浮かべた 猟師のエディはサギニに声をかける。
軽薄なのは外見だけではなく、彼は猟師の仕事よりも女遊びが好きだという遊び人だった。
サギニは己の主人たるベルフィがエルフやハイエルフなどという下等種と勘違いされたことについてムッとはしたものの、無知な者への憐憫の思いからか特に訂正しなかった。
「そうですが」
エディはニヤニヤと笑う。
「へへへ。…アンタもしかしてマントの下は殆どナニも着ていねえんじゃねえのか?」
「ええ。その通りです。………だからどうだと言うのです?」
「やっぱそうかよ!ジエラとかいう騎士さまもスゲェ格好してたからよ。アンタもそうなのかなと思ったわけよ! ははっ」
サギニは戦乙女と仲間扱いされた事にカチンときたが、そこはグッと堪える。
「……よくわかりませんね。私が服を着ていないことが何だというのですか」
サギニが訝しむ。
するとエディが自分の腰に吊るした狩猟用の弓をポンポンと叩いた。
「アンタ、俺の弓を物欲しそうに見ていたからよ…。ひひひ。交換条件だ。アンタが俺を気持ちよくしてくれるならよ、この弓を譲ってやってもいいぜ?」
「……気持ちよく?」
「要は俺に奉仕をしろってこった! うひひっ。頑張り次第で俺の弓と矢を譲ってやってもいいって言ってるんだよ!」
サギニは少し考えたあと、「分かりました。では森の奥で弓矢の対価をお支払いしましょう」と、エディを誘って森へと歩いていった。
・
・
・
「この辺りまでくれば邪魔は入りませんね」
森の中の巨木に背を預ける。
サギニはそういうや否やバサリとマントを肌蹴た。
輝くばかりの白銀の髪。
切れ長の瞳。
その美貌は人間種の比ではない。しかし同じ妖精であるベルフィのように儚げな様子は感じられず、むしろ闘う者特有の凄みが感じられた。
長くしなやかな手足を含め全身鍛え抜かれたカラダではあるが、女性らしさは損なわれておらず、むしろ褐色の肌を際立たせんばかりだ。
そしてベルフィとは比較にならない程の豊かな美巨乳と美巨尻と相まって、まるで獰猛な女豹が魔法で美女化したのではないかと思わんばかりの危うい色気を放っていた。
そんな肉感的な超絶美女が笹穂耳にかかった銀髪を手櫛で整えながら、エディを興味なさげに眺めていた。
全裸の褐色美女を前にしてエディは「…ゴクリ」と生唾を飲み込む。
彼は今まで生きていた半生においてこれ程までの美女を見たことがない。
「…すげぇ」
女好きのエディは、女に無関心のヘルマンがジエラという美女をモノにしたことが羨ましくてならなかった。
目の前の褐色美女は、そんな憐れなエディへと神様からの贈り物のように思える。
「すげえカラダしてやがんな。ど、どういう奉仕をするつもりなんだ?」
「…貴方はどんな奉仕をお望みなのですか?」
あくまでクールビューティーなサギニは自らの肢体を見せつけるようにしながらエディの欲望を煽っていく。
・
・
「…そろそろ限界のようですわね」
「そうだよっ! はやくしろよっ! こっちは治まりがつかねえんだっ!!」
「…人間の男…なんという下劣極まりない」
「あ!? ナニか言ったか?」
「いいえ。…あと念のため確認させていただきますが、快楽に耐えかねて残念な結果になっても責任は負い兼ねませんよ?」
「はぁはぁ。そんな期待させること言いやがって。どうでも良いから俺をイき殺してみせてくれよっ! 我慢できねえっ!」
「そうですか。なら遠慮はいりませんね」
サギニがそう言うや否や、エディは着ている服を脱ぎ散らかしながら彼女に飛びかかる。
しかし彼を抱きとめたのはサギニではなかった。
「…森乙女よ、かの者の邪なる心を汝の虜にするといい」
エディを抱きしめているのは蔓草を媒介にして実体化した樹に宿る精霊・森の乙女であった。
・
・
そしてエディは森乙女によって、文字通り絞り尽くされる。
それままるで草木の根が栄養を吸い上げるようだった。
エディを乾涸びさせた森乙女は精霊界(?)に還ったのだろうか。
いまだに彼の身体には蔓草が巻き付いてはいるが、すでにニンゲンの形はしていない。
そして乾涸びたように横たわるエディだが、僅かながらに息はあるようだ。
だが顔は苦痛の表情ではなく、快楽の余韻なのかだらし無く涎を垂らしている。
そしてサギニは「…人間、対価はお支払いしました。それでは約束通りこの弓と矢は頂いておきます」とポツリと言い残してその場を立ち去るのだった。
・
・
サギニは全裸のまま森を歩いているが精霊の護りがあるので枝葉や害虫などが彼女の身体を傷つけることはない。
「……噂に違わず人間は下劣なようですが、この弓矢は見事ですね」
思いがけず良い弓矢が手に入ったサギニは上機嫌だった。
愛しい人から弓を贈られるのは求愛を意味するが、今回の場合は取引だ。
なんら後ろめたいことはない。
それどころかサギニは「物々交換ではなく、命を脅かすほどの快楽が取引材料とは…なんとも変わった人間界ですね」と人間界の習慣に若干呆れていた。
ちなみに弓を嗜むのは単に優雅であるからだ。
先程のオーク戦のように石や木の実をぶつけるのは彼女達妖精の美学に反する。
白妖精の護衛でもある彼女達黒妖精は、主たる白妖精が天変地異を起こすまで精霊の力を行使するのとは異なり、対人魔法や自らの身体強化や個人の戦闘補助の為の精霊魔法に長けている。
しかしサギニは知らないことであったが、彼女たちが今いる人間界では根源精霊が軒並みベルフィ支配下となっているのだ。
この世界の精霊魔法の遣い手たちは下級精霊と契約しているので気づく事はないが、妖精国出身であるサギニとしては根源精霊へのアクセスが制限されている以上、精霊魔法の威力が激減している状況だった。
であるから原因を究明するまでは弓矢や、あるいは植物を媒介とした小手先の魔法を使うのがやっとだった。
小手先の魔法…その一例が植物を媒介とする魔法である。
先程の森乙女の実体化もその一つ。
本来ならば森の中での戦闘においての援軍として便利な彼女達なのだが、森乙女は男を虜にするのに長けているため、こういった使い方もできるのだ。
そしてふと立ち止まった。
「そういえば先程の男は淫らな戦乙女の関係者と勘違いして、私にあらぬ欲情を抱いた…。そうなると、戦乙女と行動を共にしているお嬢様に劣情を抱く連中が現れるかもしれない。このままではお嬢様が穢されてしまう。…そうなってからでは…!?」
そうなのだ。
ただでさえベルフィの傍には男好きで名高い戦乙女がいるのだ。
初心で純情な白妖精に、欲望に塗れた人間が群がり、そのまま戦乙女にそそのかされて悪い遊びを覚えてしまうかも知れない。
「こうしてはいられませんっ!」
サギニは先程手に入れた弓矢を背に括りつけると、全裸のまま走りだした。
そのスピードは人間の域を超えている。
彼女たち黒妖精の肉体は鍛えられているがそれだけではない。
彼女は風の精霊に命じて空気抵抗を極力減らすどころか、更には地の精霊の力で地面との摩擦すらもコントロールしているのだ。
一歩一歩のストライドが十数メートルというトンデモナイ走法で、まるで一陣の褐色の疾風となって彼女はジエラ一向を追いかけるのであった。
「お嬢さまっ。今、サギニがお迎えにあがります! どうか、ご無事で!」




