剣への誓い
よろしくお願いします。
村を離れての小休止。
ボクとベルフィはヘルマンから離れたところで対策を練る。
勿論、ヘルマンについての対策だ。
「さて、ベルフィ。道中ヘルマンがボクを襲わないためにはどうすればいいと思う?」
「はいお姉さま。お姉さまをヘルマンから護るための名案があります。ヤツお姉さまの弟子として扱うのではなく、お姉さまの美しさをもって下僕とか奴隷として忠誠を誓わせるんです!」
「……ふ、ふうん…。美しさって…具体的には?」
「ふふふ。ジエラお姉さまの全てをヘルマンに見せつけながら奴隷となる事を誓わせるのです! それこそ全裸を! お姉さまの女神級の裸身を見れば、その神々しさでヘルマンは畏れ慄く事でしょうっ!!」
「ナニ言ってんの!?」
ベルフィは元々妖精国で裸族してたからあまり気にしないかもしれないけど、ボクは気にするの!
「何でヘルマンの前でストリップしなきゃならないんだよっ。それこそヘルマンを誘ってるみたいじゃないかっ!?」
「そうなればこっちの目論見通りです。名目上は将来的にお姉さまとヘルマンは婚約に同意している状況かもしれませんが、ヘルマンがお姉さまの色香に血迷って無理やり襲って来れば、それを理由にヘルマンを亡き者にできます! お姉さまの名誉は傷つきません!」
なるほど…。
亡き者っていうのはともかくとして、確かにフレイヤにも「男を愛さないで」って念押されている。
ヘルマンを異性として愛する事はあり得ないけれど、ボクの事を婚約者だって考えている男と旅するのは色んな意味でリスクが高い。
ここは踏み絵的にボクの肌を晒してみて、彼の反応を見てみるのはアリかも知れないぞ。
仮にヘルマンがボクに不純な感情を持ってしまったようなら「ボクのハダカに惑わされるようじゃ、武術の修行も身が入らないに違いないねっ。残念だけどボクの見込み違いだったみたいだ。どうしても一緒に武者修行したかったら婚約は解消させてもらうからっ!」という展開になってもボクが悪女(結婚詐欺師?)という事にはならないだろう。
婚約解消にヘルマンも納得してくれるはずだ。
よし、そうしよう!
だけど、さすがにヘルマンにハダカを晒すのは抵抗あるな…。
ここは『黄金の腕輪』を使って、神々しさをアピールするような衣装に着替える事でなんとか…。
「ボクが神々しく見える衣装でお願いします…。守護」
そしてボクは白のスケスケのロングドレスに様変わりした。
レースのブラから直接布地が垂れているかのようなデザイン。
裾の長さは足元まである。
フロントはスリットが大胆に走っているので、お腹から股間まで全開。それによって下着が丸見えだった。
いや、スリットどころの話じゃない。
ブラのフロントホックを外せば、このままロングドレスが脱ぎ落ちる仕様だ。
肝心の下着はレース地で、布面積が小さすぎる。
しかも頭にはティアラまで乗っている。
おお。
色々見えすぎだけど…リクエスト通り…ボクが神々しく見える…かな?
……でも何だか……。
…なんて言うか。
生前、同級生同士で回し読みしてたエロ本…高級な石鹸の国のお姫さまっぽいな。
雑誌でしか知らないけれど、男の人の前で土下座して「いらっしゃいませ♡」とか似合いそう…。
「…やっぱりこうなるのか。でもティアラは綺麗だし、ドレスの刺繍も細かいし、神々しい格好って言えばそうかもね。
ベルフィに「コレでどうだろう」と聞いてみると、彼女はボクを凝視していた。
「お、お姉さま…まさに女神…。さ、最高ですぅ♡」
「………」
と、ともかく、これでヘルマンの人間性を確かめよう!
・
・
ボクとベルフィがヘルマンの方に歩み寄る。
ヘルマンもボクたちに気付いたようで、そのまま直立不動の姿勢になった。
するとボクの周囲が不自然に輝いている。
まるで絵画にあるような女神の降臨そのままみたいだ。
まさかこれはベルフィの仕業かな?
ボクを輝かそうとしているみたいだけど、ちょっとやり過ぎ感が否めない。
でも今更後には引けないからこのまま進めることにする。
「……ヘルマン。改めてキミに話があるんだ」
「はい」
ヘルマンはいきなりのドレス姿のボクに一瞬戸惑ったみたいだけど、直ぐに真剣な表情になる。
「キミは、どんなに厳しい修行にも耐えなければならない」
「はい!」
「キミは、如何なる強大な敵、絶望的な数の敵を前にしても生き残る強さを身に付けなければならない」
「はい!」
「キミは……その…えっと…」
うう、次は何て言えばいいんだろう?
ヘルマンがボクをじっと見つめている。
気の利いた言葉が思い浮かばない…。
でもヘルマンってば全然狼狽えないで真剣にボクを見つめているんだもん。
改めてヘルマンを見やると、彼はボクの言う事を一言一句聞き逃すまいという気合が迸っている。
すごい。
ヘルマンってばボクのお色気…じゃなかった。神々しい格好にも全く動じないんだ…。
ッッ!?
お色気?
違うよ!
今、ボクがこんな格好をしていても、隠せない漢気が迸っているに違いない!
だからヘルマンはボクを見ても動じず、真剣に見てくれているに違いないんだ!
ああ、ヘルマンってば何て人を見る目があるんだろう。
ここは何としてでもヘルマンに絶対の忠誠を誓わして、ボクの事を妻だとか思わないようにしなくちゃ!
そして立派な戦士になってもらうんだ!
「…ヘルマン、ボクを見るんだ。この世で最も尊い、キミが仕える…主たるボクを見るんだ。そしてボクに誓うんだ」
「は!」
「生きるも死ぬも、全てボクの意のままに従うんだ。そうすればキミを無双の戦士となれるよう導いてあげる」
「はッ!」
「キミはボクの為に剣を振るい、ボクの前に立ちふさがる敵全てを薙ぎ払う。そして屍山血河を積み上げて、戦士の高みまで駆け上がるんだ」
「はッ!!」
「誓って欲しい。武の為に生きて武に尽くし、最後に戦場で死ぬ、と。君が戦場で死すとき、キミの魂はボクが天上まで導いてあげる」
そしてヘルマンはカバッと地面に片膝を着いた。
半裸ドレス姿なボクをヘルマンは無言で見つめてくれている。
「ヘルマン…。君に、勝利を。『勝利』」
ボクは『黄金のチョーカー』から長大剣を取り出す。
ボクが何もないトコロから唐突に武器を取り出しても、ヘルマンは些かも動揺しない。
ボクは剣をヘルマンの首筋に添える。
ヘルマンはボクから目を逸らさない。
「キミの魂は…全てはボクのモノだ。ヘルマン」
ヘルマンは激情を抑え込んだ燃えるような声で、静かに吼える。
「……我が魂をジエラ様に捧げる事を、ここに御誓い申し上げるッ!!」
・
・
ヘルマンはボクから受け取った大剣を掲げて、太陽かざしている。
その顔つきには断固たる決意が感じられた。
………これで一安心かな。
ベルフィも納得してくれただろう。
ボクは満面の笑みでベルフィの方を見ると、彼女は鼻血を垂らしながらボクに突進してきた!
「お姉さまぁッ!」
「ベルフィ!?」
「お姉さまが悪いのです! そんなにも、そんなにも魅力的な格好と笑顔でベルフィを誘惑するからぁッ♡♡♡!!」
「やめてぇッ!?」
ボクは迫り来るベルフィから逃げる。
逃げながらヘルマンを見ると、彼は周囲のごちゃごちゃなど気にも留めないように、無心で剣を振っているのだった。




