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村を後にする

よろしくお願いします。

◇◇◇◇◇




チュンチュン。

朝。



「…ん」



ボクたちのいる小屋のスキマから朝日が差し込んでいる…。

もそもそ・・・・と動き出す。

ちょっと寝付けなかったけど、しっかりとした睡眠時間はとれたと思う。


昨夜はベルフィが「ヘルマンとやらが血迷って夜這いを掛けてくるかもしれませんっ」って言うんで、ちょっとドキドキ…じゃなくてビクビクしていた。


最初、ベルフィは「お姉さま、安心してお眠りください。ヤツが夜這いに来たら逝ってもらいますから」とか意気込んでたけど、さすがに夜這い未遂で殺しちゃうのは拙いし、ヘルマンには立派な戦士になってから戦死してもらう予定なんでそれは却下しておいた。



若干寝ぼけた頭で掛け布団代わりの羽衣をどけようとしたとき。



「あれ? ……何だか温かくて柔らかいの…が…。―――ッッ!!?」



なんと、ベルフィがボクに覆いかぶさるように、ボクのおっぱいに顔を埋めるように寝ていたんだ。



「むにゃむにゃ…」



むにゃむにゃじゃないよ!

ボクは慌ててベルフィから離れようとした。

いくらボクが女性の身体でも、心は健全な男子なんだ!



「もうっ。ベルフィったらボクを守るとか言いながら眠るだなんて。村の男の人が襲ってくるとか言うなら自分の事も…」


「んふう…。お姉さま。…お姉さまは私がお守り…します。絶対に…これ以上…男なんかに…」




ベルフィ…。

寝言…か。



………。




ヘンな娘だけど、ボクの事をこんなに想ってくれるんだ。


あんまり邪険にするのも良心が咎めるな。

情が沸くっていうかさ。


…あんまり度が過ぎなければ彼女のスキンシップ(?)にも応えてあげた方が良いか…な…?




「んんっ♡ お姉さま…お姉さまぁ…♡」



そうこうするうちにベルフィが寝ぼけてボクのおっぱいに頬ずり(ぱふぱふ)し始めた。

このままじゃボクのおっぱいがオモチャになっちゃう。


お、起こさなきゃ。



「ベルフィ、朝だよ。起きてよ? …よぉし」



ボクはピコピコ動いている笹穂エルフ耳をくにくに・・・・してみた。



「んん…♡?」 


「ベルフィ、起きて?」


「あ…あ…♡♡」



なんだかベルフィの様子が…色っぽい気がする。



……。



もうちょっと強くしてみよう…。


くにゅきゅぬ



「あ…♡ あひゃあ…♡ あん…んふぅん♡ ……あふぅ♡ あ♡ ……も、申し訳ありませんお姉さま。つい気持ちよくてぐっすりしちゃいました♡」


「…う、うん。おはよう」



ううっ。

寝ぼけまなこの超絶美少女妖精のアップにドキドキしちゃったよ。



「あ、あはは。ベルフィったら声を掛けても起きないんだもの。耳を弄ってたら起きてくれたんだ。今度からベルフィを起こす時は耳を弄っちゃうぞ?」



ボクは照れ隠しに彼女の耳を弄ってしまう。



「………」


あれ、ベルフィが硬直して…どんどん顔が真っ赤に…。



「ベルフィ?」


「お、お姉さま。あの…私たち白妖精アールヴにとって…耳を擦る行為は…求婚を意味するんです…。神聖な愛の誓い…なんです♡ …わ、私たち…昨日出会ったばかりなのに…、…婚姻だなんて…♡ こ、心の準備が…♡♡」


「は?」


「お姉さま…。昨日、素晴らしい弓をプレゼントしてくれた時から…まさかとは思っていましたが…嬉しいです。不束者ですが…末永く…♡」




な、ナンダッテ…?





「ちょっと、ちょっと待ってよっ。こっちも色々あるんだ!」



ボクは慌ててベルフィを止める。



「お姉さまがフレイ様の愛人という話ですか? 大丈夫です。お姉さまはフレイ様よりも私を選んでくださったのでしょう? 既婚者のフレイ様が何といおうと大丈夫です。頑張って私たちの仲を認めてもらいます!」


「だからフレイ様なんて逢った事ないって!」


「あ、それと私たちの長老にも挨拶が必要ですよね。白妖精が戦乙女ヴァルキュリーと婚姻だなんて前代未聞です。…でも、許されなくても私は愛に生きます♡ ああ、先達が妖精国アールヴヘイムを去った気持ちが理解できる日が来るだなんて…♡」


「そう! そうだよっ! ボクってば君の耳が可愛くピコピコしてたんでつい触っちゃったけど、良く考えたら…後先考えなかったなーっていうか、その…ボクの主のフレイヤ様もいい顔しないよっ!」


「…共に逃げましょう。フレイヤ様のお許しが出なかったら、いま私たちのいる人間界ミズガルズで、つつましく生活すれば…♡」


「ううう…」



どうしよう!?

耳を擦って神聖な愛の誓い!?


ベルフィたち白妖精リョースアールヴにそんな風習があるなんて知らなかった。



どうするっ!?


ベルフィは幸せ満面だ。


でもボクには嫁と子供が……!





そうだっ!

風習・・っていうなら…!



「あの、ね、実はボクの故郷の人間界ミズガルズでは、耳を触って求婚なんて風習は無いんだ」


「…え?」



ああっ。

ベルフィが泣きそうに…!



「だ、だけどね、嫌いって意味じゃないっていうか…親愛の証っていうか、ベルフィを大事に想っているっていうか…その…」



ああ、ボクってばナニを言おうとしているんだ。



「お姉さまっ!? ナニが言いたいんですかっ。はっきり言ってくださいっ。私、私…お姉さまに嫌われちゃったりしませんよねっ!? お姉さまは…。お姉さまは私、私の…!」



あううッ。

半泣きのベルフィにはとてもじゃないけど「この話は無しで」なんて言えないよっ。

で、でもここはとりあえず、ベルフィとの結婚話だけは否定しないと…。



「…お互い、知り合って日が浅いし……。今はその…そうだっ。相性だよ、相性っ。相性を確かめ合う時期だと思うんだ! …結婚なんてその先じゃないかなぁ」



ボクは問題を先送りにすることにする。

そして内心でフレイヤに懺悔する。


フレイヤ。

ゴメン。

なんとかうやむやにしてみせるから…。



「そ、そうですよねっ。先ずは相性を確かめなくちゃダメですよねっ! ああ、私ったら先走り過ぎたみたい…恥ずかしい…♡ 相性…♡ カラダの相性…とか♡」



ベルフィはボクの説明に納得してくれたみたいだけど、最後の方は小声だったんで良く聞こえなかった。

でも最終的には彼女は解ってくれたみたいだ。



「お姉さま! これからもよろしくお願いします! 私、頑張りますからっ!」


「うん!」





ボクはアーダさん宅、つまり村長の家で朝ご飯を御馳走になった。


村長の家は村長のトムさんとその妻アーダさん。そして末っ子のコニー君がいた。ちなみにコニー君の兄達は家庭を持っており、既に家を出たのだという。


コニー君はヘルマンさんにとても懐いており、昨夜は他のヘルマンを慕う友人たちと遅くまでヘルマンの家でお別れ会(・・・・)をしていたというので眠たそうだ。



「いやいや、騎士様のお蔭でヘルマンも本懐叶って武者修行ですか! 騎士様、遠慮なくこき使ってやってください。頑丈だけが取り柄の男ですからな! はっはっは!」


「…ジエラさん、ヘルマンと幸せになっておくれよ」


「…なんだなんだ? アーダ、女嫌いのヘルマンだぞ。おせっかいで無理やりくっつけようとしてるんじゃないだろうな? 騎士様に失礼…」

「アンタは黙ってな!」


「…はい」




そんな村長一家の団欒は微笑ましい。


そこで運よくボクは「これから西に進むと海にでて、そこには大きな港町がある」という情報を得た。



あ、そうだ。

ボクはこっそりと『黄金の指輪(アンドヴァラナウト)』で創造した、手のひらいっぱいの砂金をアーダさんに見せる。



「ま、まさか、こりゃあ…金なのかい!? こ、こんなにたくさん。あたしゃ、初めてみたよ!」



よし! 彼女の反応をみると、かなりの価値はありそうだ!

これでボクが身を売るハメになることはないな、と一安心した。



ボクは「どうか村の復興に使ってください」というと、村長さんは「村をオークから救ってくれたばかりか、土塁や堀…そしてこんな高価なもの…」を恐縮しきりだ。


黄金にビックリしてるっていうか、ボクに借りを作るのが怖いのか、村長さんは黄金を受け取るのに困っていた。


でもボクは武器や防具は自前で創れるし、黄金はでいくらでも創れるし、水の確保や森での食糧調達はベルフィがいるからね。当面の間は貨幣とかなくても大丈そう。

でも普通に考えれば黄金を無償で渡しちゃったりするのはあまり良くないかもしれないな。



…うーん。

そうだ!


ボクは「なら村の馬で一番立派な馬と、それとお塩を売ってください」とお願いした。

馬の相場は分からないけれど、おそらく足らないってことはないだろう。


するとアーダさんは満面の笑みで「そうだね。これから三人の旅路だし、いくらジエラさんの馬が立派でも三人乗りはキツイだろうね! わかったよ! とっておきの馬を用意するからね! 塩も出来る限り用意するよ!」と黄金を受け取ってくれた。



「…これだけあれば…農耕馬どころか牛や豚を五十頭以上買っても釣りが…ゲフッ!?」



アーダさんの横で村長さんが悶絶していた。





ボクとベルフィが村長さんに礼を言って家を出ようとすると、唐突にコニー君がボクたちに言った。



「騎士様…。お願いがあるんです」


「ん? なんだい?」


「どうか、どうか…ヘルマン兄ちゃんを…男に…強い男にしてください! 兄ちゃんは純粋に強くなりたがっているんです!」


「………」


「それと、それと…あの…その…。その大きなおっぱいとお尻で兄ちゃんをゆうわく・・・・しないで下さい!」


「ぶッ!?」


「こ、こらコニーっ。失礼な事を言うな!」


「だって、だって猟師のエディ兄ちゃんは…。女の人のおっぱいやお尻が大好きだって。おっぱいやお尻のゆうわくに勝てる男は存在しないって言うから…。…だから…ヘルマン兄ちゃんも…騎士様に…ゆうわくされて…。おっぱいとお尻に夢中になって…強い男になれないと思って…」



「………えーっと」


た、確かに健全な男性なら女性には興味あるだろう。

だからこのコニー君の意見は否定できない。


かといって、ボクが…ヘルマンを誘惑ぅ!?

ボクがヘルマンに襲われちゃうんじゃなくて!?




□ 妄想 □



「ジ、ジエラ様。その…なんといいますか…。その恰好は…」



え?


あ、またやっちゃった。

ヘルマンがいるってのに、上下共にスケスケなエロ下着で歩き回ってたよ。



「あははっ。恥ずかしいなっ。見ちゃった? 見ちゃったよね? 忘れてほしいなー。えへへ♡」



ボクは笑って誤魔化した。


ううッ。

どうにも慣れないな…。


ボクって生前男だったから、どうにも男性の視線っていうのに危機感薄いっていうか慣れないんだ。


昨日も豪快にヘルマンの前で水浴びしちゃって、ヘルマンに…み、見られちゃったし。



「ジエラ様…、毎日のように…俺の前に肌を晒して…。これは精神修行なナニかなのでしょうか?」


「え? いやいや、そんなつもりはないんだけどね。う~ん…」



まさか「生前は男だったからさ、つい同じ男だと思って無防備になっちゃうんだよね」なんて言えない。

すると、ヘルマンがいきなり襲い掛かってきたんだ!



「ジエラ様ッ! 俺は男なんですよ! なのにそんなにも俺を誘うだなんて…! あんまりじゃあありませんか!」


「だ、ダメぇッ!!?」


「このままでは修行に身が入らないではないですか! 師匠として弟子の性欲を解消すべきではないのですか!?」


「そ、そうなの? 師匠って弟子の性欲処理までしなくちゃならないの?」


「ジエラ様が原因じゃあないですか! 貴女がそんなにも無防備だから、俺は…!」


「…そ、そうかも知れないけどさ…」


「ですから! ジエラ様には俺を鎮める義務があるのですよ!」


「ああっ!? ヘルマン、落ち着いて! ボク、今後は自重するからぁッ! もうヘルマンの前でエッチな服とか下着とか着ないからッッ! 裸にならないからぁッ!!」


「その話は今回で十回目です!」


「あうッッ!!? ゴメンナサイゴメンナサイ…!! だから自分で何とかしてぇッ!!」




□ □ □



「…………」



ボクはコニー君に「ヘルマンを強い男にしてみせる。だから安心して」と約束した。







「…では、皆、今まで世話になった」



ヘルマンが村の皆さんの前で最後の挨拶をする。

素っ気ないのはヘルマンの性格だろう。



「うむ。達者でな」


「生き残る事を優先しろ。英雄願望なんて死を早めるだけだぞ」



村の老人たちはヘルマンの行く末を心配している。

それに対して若い男の人たちはヘルマンを冷やかしている。

…どうやらヘルマンがボクやベルフィと旅するのが妬ましいらしい。

ま、ボクも男だから、その気持ちも分からないでもない。



「ナニが女嫌いだ! 最後にとんだ上物捕まえやがって! …チクショウ、羨ましいぞ!」


「騎士様と昼も夜も訓練三昧…。うっ。鼻血が…」



子供たちはヘルマンに泣きすがっている。



「また逢えるよね!」


「兄ちゃん、オイラ…兄ちゃんの逞しいの…忘れないよ♡」




女性たちはヘルマンというよりボクに言いたいことがあるようだけど、遠巻きにボソボソ言っているのでよく分からない。



「騎士様ったら…。私たちがどんな思いでヘルマンを諦めたか…。それなのに…。一晩でヘルマンをモノにしちゃうだなんて…!」


「ううっ。まさか…剣の腕前だけではなくて…。夜の技も…達人級だなんて。…くやしいっ」




そしてボクたちはセダ村を後にする。


ボクとベルフィはスレイプニルに騎乗し、ヘルマンは村で用意してくれた馬に乗っている。

スレイプニルは傍らを走る馬に合わせて速度を手加減してあげてるみたい。


セダ村から買った馬は、かつてヘルマンのお父さんが乗っていた軍馬の血を引いているらしく、結構ガタイが良いのだという。


…それでもスレイプニルには明らかに劣っているっぽいけど…。


しかし巨漢のヘルマンを乗せるだけならともかく、スレイプニルの疾るペースに合わせるのが大変そうだ。このままじゃあ馬がへばってしまうだろう。

街に着いたらへルマンの馬も都合つけてあげなくちゃならないな。





「ヘルマン、これから街に向かうんだけど、まだまだ掛かりそうだから休憩の時に少しずつ剣を教えてあげるね?」


「はい、ジエラ様!」


「…えへへ」



嬉しい。

ボクに弟子が出来たんだ。

しかもこんな漢らしい男が!


『師は弟子を育て、弟子は師を育てる』っていうし、ボクもヘルマンから漢らしさを学んじゃうぞ♡



「お姉さま…。嬉しそうですね? やはり戦乙女ヴァルキュリーとしてヘルマンに惹かれてしまわれるんですか?」



ベルフィがボクの後ろで背中にの字を書いている。



「ち、違うよ、ベルフィ。ボクが男に惹かれるなんてあり得ない…誤解だってば!」


「そうですよね! お姉さまと私は相思相愛ですものね!」



…ううっ。

フレイヤ。

ヘルマンを立派な戦士に育てて、彼のエインヘルヤルをお土産に帰還してみせるから。


べルフィの勘違いは一時の過ちってコトで許して…!



ボクは上機嫌のヘルマンとベルフィに囲まれて、こっそりとフレイヤに謝ったのだった。

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