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勘違い 

よろしくお願いします。


「…お姉さま、もうお休みですか…?」



ベルフィがジエラの眠る小屋を訪れると、すでに彼女はスヤスヤと寝息を立てていた。

部屋の隅で外套…『鷲の羽衣』に包まりぐっすり眠っている。

昼間での凛々しい顔とは雰囲気が異なり、寝顔はむしろあどけない顔立ちだ。



「…なんて…お美しい…。お姉さま…♡」



ベルフィは「ほぅ」と熱い息を吐く。

いつまでも眺めていたい衝動にかられるが、その気持ちを抑えてジエラの外套に手をかける。



「お、お姉さまともあろう御方が…こんな人間界(ミズガルズ)で独り寝なんて…。不束(ふつつか)ですが、このベルフィが添い寝を…♡」



ベルフィはジエラの外套を捲り、そのまま彼女の腕の中へ…。



「お姉さまの寝顔は…私が独占……ッッ!?」



そこでベルフィは気づく。

なんと、ジエラのタンクトップの一部がズレており、彼女の美豊乳がほんの僅かはだけているのだ。



(え? ど、どうし…たら…いいの? あの……あの…♡♡)



目の前の素晴らしい光景にベルフィの頭の中は昂奮のるつぼと化す。



そして…


ぶばっっ。


ベルフィは盛大に鼻血を噴いてしまう!



それどころか!



「お姉さまぁァッ!!」



ベルフィは己が想いの猛りで理性の壁をあっという間に決壊させ、そのままジエラに襲いかかる!



「ふえッ!? な、ナニ? ナニが起こったの!? …ッ!?!?」



さすがに目を覚ますジエラ。

そして驚く。

なんと、ベルフィが胸に抱きついているのだ!




◇◇◇◇




「お姉さまぁッ! ベルフィわ、ベルフィわぁッ!」


「ナニやってんの!」


「ベルフィわあぁぁッッ!!」



ボクはおっぱいに纏わりついているベルフィを引き剥がそうとしたけど、腕力に任せたりしたら彼女が大怪我しちゃうかもしれない。

そう思うと力づくとはいかなくて、何とか説得をしようとした。



「お、落ち着いて! どうしちゃったのベルフィ!」


「お姉さまが悪いのです! そんなにも素晴らしいお胸でベルフィを誘惑するからぁッ!!」



鼻血まみれで抱きついてくるベルフィ。

こ、怖い!



だけどこのどうしようもない状況下で来客があった。


どんどん


それは小屋の戸を叩く音だった。



ぎええええええ~~ッッ!!?


拙いよ拙いよ!


こんな状況を見られちゃったら、村の人からの評価は真っ逆さまだ!



「ベルフィ、村の人だ! 止めてっ!」


「私たちが仲のいいトコロをみせつけてやればいいじゃないですか!」


「いいから隠れててっ。ジッとしててねっ!」



ボクはベルフィが動かないよう抱きしめてから、そのまま『鷲の羽衣』で覆い隠した。

そして壁にもたれかかるようにして上半身を起こす。




「…ど、どうぞ。開いてます」



ボクの返事と共に「失礼しますよ?」とか言いながら恰幅のいいオバチャンが這入ってきた。



「…騎士様、もう寝ちまいましたか? ……申し訳ないですが田舎者の不調法者ですから、身分を考えずに女同士腹を割って話し合いたいことがあるんですが…良いでしょうかね?」



何だか敬語に慣れていないどころか無理やり丁寧に話しててるカンジがいたたまれない。

それに身分・・だって?

良くわかんないからどうでもいいよ。

ボクが「敬語とかは大丈夫ですよ」と言ってみると彼女は途端に元気になった。



「そうかい! やっぱりジエラさんはアタシが見込んだ通り気持ちいいオンナだよっ。寝る前で悪いけど、ちょっとアタシの話に付き合っておくれ」



彼女は村長の妻でアーダさんといった。

彼女は改めて今日の事について感謝をしてくれた。

それによると、どうやらボクについて「役人でもない騎士様が突然やってきたのでナニか裏があるのではと勘ぐっている者が少なくない。だから改めて事情を説明してほしい。私が村の連中に説明する」という話みたい。



「ったく、連中の中にはジエラさんがオークを倒した見返りにナニを要求されるか分かったもんじゃない。一難去ってまた一難みたいなコトを言うのもいるんだ。恥ずかしいったらありゃしない!」



彼女は理屈より感情で行動するタイプみたいだ。

かといってボクの事情か…。



「実はボクはこの世界で戦場の英雄にならなくてはいけないんです。どこか一触即発的に仲が悪い国なんか知りませんか?」



…なんてストレートに聞けっこない。

でも戦争が起こり易そうな情報があったら是非聞いておきたいのが本音でもある。



「ひゃうッ!?」



突然ベルフィがボクのおっぱいの谷間で顔をぐりぐり(ぱふぱふ)させ始めちゃった!



「? どうしたんだいジエラさん。体調がすぐれないのかい?」


「いいえ、な、なんでもないです。…んっ♡ んんっ♡!?」



ボクはベルフィの悪戯を耐える!

鋼の精神で耐える!



アーダさんは所謂ちょっと一方的に・・・・・・・・面倒見のいいオバチャンだ。こういうタイプは好意に乗らないと逆恨みされるのがオチだ。この村からある程度の情報を収集するためにも、良好な人間関係は必要だよね。


ボクは自分の性格的に誤魔化すのが苦手だ。

だから話してもいい事実を適当に話してみることにしよう。



ボクは「…信じてもらえないかもしれませんが」との前置きで、身の上話を彼女に聞かせた。 



自分には伴侶と子供がいること。


しかし、突然の事情で家族と離れ離れとなったこと。


家族と再会・・する為には、戦に参加して力尽きるまで戦わなければならないということ。


そして偶然にこの村の騒ぎに巻き込まれたこと。



真面目に身の上話を話しているっていうのに、べルフィの存在がアーダさんにバレないかヒヤヒヤだった。



「…そういうワケなのでボクは戦場を求めているんです。この村には偶々通りかかっただけで、ナニか調査するとかそういうワケではありません」



生前の家族の思い出や別れ。

アースガルズでのフレイヤ息子バルドルとの短い生活。

今思い返すと、家族の笑顔にどれ程癒されたか解らない。



りっぱな英雄になって、ちゃんとフレイヤの許に還れるのかな?

バルドルは大きくなっちゃって、ボクの事を忘れてやしないかな?



「…うう。んっ♡ うんっ♡」



そんな心境であったのと、ベルフィの悪戯を耐えるのに口元を手で隠しながら俯いていたものだから、その様子が沈痛なカンジに見えちゃったのかもしれない。


アーダさんはボクの話に心打たれたのか、「そうだったのかい…。思い出したくないコトを思い出させちまったみたいだね…」と、声を詰まらせている。



「…亭主も子供もこの世には居ないのかい…。死んじまったのかい…。辛かったろうねえ…。…アンタみたいに若くてキレイな女性が、家族の敵討ち・・・・・・で死に場所を探しているだなんて…死んで天国で再会しようだなんて…不憫だねぇ…」



アーダさんはそんな事を言いながらエプロンで涙を拭っている。



「………」



あれ?

何だかボクが悲劇の未亡人扱いに…。

ボクが誤解を解こうか考えていると、アーダさんが感極まってまくしたて始めた。



「ジエラさんっ。死んだ亭主に操を立てるのも素晴らしいと思う。だけど余計なお世話かも知れないけど、若い身空で死のうだなんて考えちゃダメだよ。そんな事は亭主も望んでいないはずさ。愛する妻に生きて幸せになって欲しいって思っているはずさね…。…ッ。そうだ! ウチの村でいい年頃の若いのがいてね。ヘルマンっていうんだけど、あの子ったら兵士だか軍人だった父親の跡を継ぎたいとか何とかいって、武者修行の旅に出たいって言うんだ」


「…はあ」



亭主・・はそんなコト望んでいないっていうか、フレイヤには「立派に死んできてね♡」って言われているんだけどな。



「…アタシとしては夢なんか追いかけてないでそろそろ身を固めて欲しいから事あるごとに言い聞かせてやってるんだけど中々ウンといってくれなくてねぇホトホト困っているんだよあの子ったらなまじ顔が良いモンだから本人が嫁を貰うつもりはない近いうちに村を出ていくとか言っても村の娘も諦めきれないのがいるらしくてねお蔭で女の方も纏まる縁もまとまらないんだよ村の女を取りまとめる立場としては頭の痛い問題さねあの子は木こりだけどそんな心ここにあらずに仕事していると何時か大怪我しちまうんじゃないかって気が気じゃなくてねぇかと言って村を出るように言えないんだよ腕力だけで一人旅なんて死に行くようなもんじゃないか勿論自分で猟もある程度は出来るけどそれと戦働きが出来るかっていうのは別の話じゃないかそんなこと素人のアタシだってわかるよアタシもホントはあの子には心を入れ替えて村に残ってもらい…」



アーダさんがヒートアップして機関銃みたいに喋りまくっている。



「ッッ?」



彼女の演説の最中、べルフィがもぞもぞしていると思ったら羽衣の縁…ボクのおっぱいの谷間からこっちを見上げていた。



「お姉さま、子供って何のコトですかっ? それに伴侶って…まさか男??」


「ベルフィ、大人しくしててよっ。バレちゃうじゃないかっ」



ベルフィと小声でやりとりする。幸いにアーダさんは自分の話に夢中で気づかない。



ヒソヒソ

「お姉さまは私に愛の告白をして下さったのに…それなのに男との間に子供を…。私を騙したんですかっ?」


「ち、ちがうよっ。騙すつもりなんか!」


「ううっ。純情な乙女心を…弄ぶなんて…。ヒドイです…」


「ちがうったらっ!」


「ああ…私のお姉さまが…汚らわしい戦士エインヘルヤルなんかに…犯されて…」


「ボクは無理やり犯されてもいないし、愛する人との…」


「ッ! お姉さま…が…愛する…ひと? ならお姉さまは誰との間に子供をつくったんですかっ」


「それはフレイ……」



アブナイ!

思わずフレイヤの事を漏らすところだった!

相変わらずアーダさんは自分の話に酔っている。



「あの子は顔も良いし働き者だし愛想が無いトコロがたまに傷だけど口だけの男よりはよっぽど頼りになる男さあらこういうと見てくれと性格が両方いいって事になっちまうねアタシはそんなつもりはないんだけどヘルマンが凄く良い子ってのは保証するよ何たってあの子が子供頃から面倒みてやって何処に出しても恥ずかしくない立派な男になるよう厳しく鍛えたんだだけどあの子ったらいつまでたっても身を固めようとしなくて…」



「と、とにかく、この話はおしまい! ボクは穢れの無い戦乙女ヴァルキュリーなの!」


するとベルフィはポカンと、口をパクパクしたまま大人しく羽衣の奥に引っ込んでくれた。






ボクはアーダさんの話を全然聞いていなかった。


この村も明日には出発だしね。世間話なんて適当に相槌うっておけばいいや。


やっぱり田舎の村だからあまり国の情報なんて期待できそうにないしね。



でもせめておカネだよおカネ!

おカネの情報くらいは知りたい!

ロキさんにもらった『黄金の指輪(アンドヴァラナウト)』で作る金塊とか砂金が価値があるかだけでも知りたいんだ。

可能ならそれを使って保存食とか塩とかと交換してみよう。


ああ、ベルフィがいて本当に助かるよ。

ボクだけだったら狩猟もそうだけど、水の確保も大変そうだし、雨が降ったりしたら火なんかおこせない。

その点、精霊魔法があれば何でも解決してくれそうだ!

でもべルフィはボクの子供の事でショックを受けていたみたいだから、そこらへんはフォローしておかないといけないな。

あとちょっとボクとの関係を勘違いしちゃっているみたいだから、それとなく注意しないと。



「…連れて行ってもらえないかね…。アンタみたいな女性ヒトと一緒ならアタシも安心さ」



…?

ああ、話が終わったのか。

何だか分からないけど、要は「武者修行を希望するヘルマンさんを連れて行ってほしい。道中鍛えてくれ」みたいな話かな?


…うーん。

ヘルマンさんって昼間ボクに叩きのめされたイケメン木こりさんだよね。

武者修行を希望しているって凄いね。

確かに素質は凄いだろう。

木こりさんにしておくのはもったいない。鍛えれば凄い戦士になりそうだ。


でもボクと一緒に行くってコトは戦争に参加することが前提なんだよね。

死んじゃったら…。



あ。

そうだ!

死んじゃってもイイじゃないか!


戦場で斃れるコトがあるかもしれないけれど、その時は戦士エインヘルヤルとしてアースガルズに送り込むだけだし…。

イケメンなら戦乙女ヴァルキュリーの皆も喜ぶよね!


…フッラさんは知的な男性が好みらしいからちょっと違うかもしれないけど。



ボクはそんな事を考えながら安請け合いをした。



「いいですよ」


「ッッ!!? そうかいそうかい。ジエラさんならそう言ってくれると思ったよ。アタシの人を見る目に狂いはないよ。…ジエラさんも死んじまった亭主に操を立てるのも素晴らしいコトだとは思う。だけど戦で死のうだなんて悲しいコト言っちゃだめだよ。女の幸せはそうじゃないよ。ヘルマンをよろしく頼むからね。…いや、肩の荷が下りたよ。あの子の親は早くに死んじまってね…。子供の頃から面倒みているからアタシの子も同然なんだ。…こんなに素敵な騎士様が一緒になってくれるなんてね…。…落ち着いたらでいい。一度でいいから孫の顔を見せに村を訪ねてきておくれよ?」


そしてアーダさんは「安心しな、ヘルマンの嫁ならアタシの娘同然さ、村の男共や女衆にはアタシから良く言っておくからねっ!」と、息巻いて帰っていった。






「……え、えーと…」



ボクが呆然としていると、羽衣の中からベルフィが復活した。



「お姉さまッッ!!??! …何て…何てコトを…お約束するのですか…ッ!???」


「え…え…?」



話が全然見えない。

さっきの話は「ヘルマンに稽古つけてやってほしい」っていう話じゃなかったの?



「私は最後の辺りしか聞いておりませんでしたが…、あの女は途中からお姉さまに女の幸せとやらを力説してました。旅をしながらヘルマンという男と愛情を育んで何処かいい土地で家庭を持ちなさい。ヘルマンとお姉さまとなら丈夫で強い子がバンバン産まれるとかなんとか…」



え?



「ええーーッッ!!? 何で止めてくれなかったの!?」


「お姉さまは当然お断りするものだと…。しかしあまりにあっさりと了承するものですから……」


「そ、そんな…。ボク、男性と…そういう関係になるつもりなんてないのに…」





□ 妄想 □




ドサ。

両肩を抑えられながらベッドに押し倒されるボク。



「ジエラ殿、いやジエラ。貴方と俺は晴れて夫婦となった。さ、初夜といこうか!」


「…い、いや…」


「ナニがイヤなものかっ!? 貴女が俺を受け入れてくれると…そう聞いていたから俺は貴女についてきた…辛い修行に耐えてきたというのに…!!」



ううっ。

そんなコト言われても…。

確かにボクがアーダさんの話を聞き流していたのが悪い。

だけど…ボクには…



「ヘルマンっ。ボクには愛する人と愛しい子供がいるんだっ。不幸な勘違いだけど…。許して…どうか…これだけは…!」


「なら、この下着は何なんだ! こんなにも俺を誘惑しておいて…ッ!? 貴女の態度と行動は全くかみ合わないじゃないか!?」



ううっ。

確かにボクはヘルマンの前でエッチな鎧(?)を…。

毎日のように、おっぱいやお尻なんか半分以上放り出している。



ううっ。

ボクが悪い。

その後ろめたさがヘルマンをはっきりと拒絶できなかった。

だから…ズルズルとここまで来てしまった。


ボクが悪いんだ。


だけど、ボクの愛する家族がアースガルズで待っていてくれている。



「ゴメンさないっ。ボク、これだけは…これだけはダメなのっ」


「くッ。その方は既に亡くなっていると聞いているッ。…天に居るであろうジエラの夫と子よ、俺がジエラを幸せにしてみせる! そこで俺とジエラが愛し合うのを見届けてくれッ」


「ああッ そんなぁ…」





チュンチュン

朝。




フレイヤ…。


……ボク…ボク…。


もう……。




□ □ □





…血の気が引く。


ボクはオトコ。男なんだ。


英雄になれないどころか、ヘルマンと…。

そんな展開は絶対にお断りだよ!



でも…。


仮にボクがヘルマンを拒絶したら結婚詐欺になっちゃうのかな?


そうしたら立派な戦士エインヘルヤルどころか…悪人として地獄ヘルヘイム逝きだ!


どうしよう…。

なんとか、なんとかしなきゃ…。

いっそ、結婚の約束をするだけして、身体を許す前に激戦に放り込んで戦死してもらおうかな?



「ヘルマン、この戦いに生き残ったら一緒になろう」



とかフラグを立てれば何とか…。

でも、ホントに生き残っちゃったらどうしよう…。

唯一の救いはヘルマンがイケメンさんだってくらい…。

…ッて、そういう問題じゃないっ。


あううッ。



ボクが頭を抱えていると、ベルフィが食ってかかってきた。



「お、お姉さま、ヘルマンとやらは後で処分するとして、さっきのお話は本当の事ですかっ?」


「? なんのコト?」


「お姉さまの…伴侶がフレイ・・・様って事です!」


「え?」


「…まさか…私たち妖精族の王・フレイ様が…あんなに大恋愛の末にゲルズ様を射止めたのに…。…戦乙女ヴァルキュリーとの間に子を成していたなんて…」


「え…? あ…?」


「まさか…お姉さまがフレイ様の…愛人だったなんて…。それに隠し子も…」



ナニそれっ!?

知らないよそんなの!!



「なんでそうなるの!? 違うよっ! それにボクはフレイなんて神様に逢った事もないし!」


「で、ですが、さっきフレイ様との間に子供をつくったって…。フレイ様じゃなければお相手は誰なんですかっ?」



…?

あ、そういえば…さっき…。



「フレイヤ」って言いかけて…「フレイ」って…。




「あ…の…。そ、それは…」



ここはベルフィの勘違いに便乗してフレイヤを護るべきなの…?

でもここで下手したらまた口が滑って…。

そしてどんどん詮索されちゃう…。

ますますボロが出ちゃう。


フレイヤとの関係や、子供バルドルの事は秘密にしなくちゃならないのにっ。

この話はこれで打ち切らないとっ。



「お願い…ベルフィ。ボクの家庭の事は詮索しないで」


「……お、お姉さま」


「ゴメンね。だけど…この事(・・・)は…秘密なんだ。お願い…。……おやすみ。明日も早いから、寝よ?」



そしてこれ以上は話せないとばかりに『鷲の羽衣』にくるまって横になる。



「まさか…戦乙女たるお姉さまが…フレイさまの愛人で…子供まで。でも正妻のゲルズ様のお立場は…。……このままでは妖精国アールヴヘイムのお家騒動に…! はッ! そうよ! 妖精国のためにも…わ、私がお姉さまと真の愛を育んで、フレイ様の事を忘れさせて差し上げないといけないんだわ…!」



ベルフィがブツブツ言っているけど、羽衣越しなんで良く聞こえない。



さっきの話を思い返してみる。



ヘルマンさんか…。

戦士希望の木こりさん。


でも正直いうと、ボクとしては戦乙女ヴァルキュリーとしての立場上、アースガルズの皆が歓びそうなイケメン戦士とは縁を結んでおきたい。

彼は今は未熟かも知れないけど鍛錬して立派な戦士になれば皆が喜ぶ。


ヘルマンさんと夫婦関係になる気はサラサラないけれど、一緒に旅…修行をするのは吝かじゃないんだ。



あ。

ベルフィがまだ起きてるっぽい。



「……あの」



羽衣から頭を出してみる。

するとベルフィは心配そうにボクを見つめている。



「お姉さま。愛するお方と離れ離れになって色々とお辛いかも知れませんが…これからは私がいますから! あの…わたし、頑張りますから・・・・・・・!」




ああ。

ベルフィは理解してくれたのかな。

頼りない戦乙女ヴァルキュリーでゴメンなさい。



ベルフィもさっきまでの興奮状態から回復してくれたみたいなんで、ヘルマンのことを話してみることにする。



「…あのさ、さっきのヘルマンさんの話だけど、戦士として育てたあと、戦死してもらおうと思うんだ」



するとベルフィは決意を秘めた笑顔でボクに応えてくれる。



「お姉さま。私に妙案・・があります。いくら男が傍にいようともお姉さまの貞操はこれ以上穢させません。私が護ってみせます! 私にお任せを!」




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