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初陣

よろしくお願いします。



ボクたち一行はこの先に村があるであろう道を軽快に進んでいく。



いつの間にか日差しが強くなったし、気温も随分高くなってきたみたい。

どうやら今の季節は夏か、あるいは残暑厳しい秋口のようだね。


でも小道の木陰を疾走しているせいか、自然の中ならではの涼しい風がふいているので特に不快には感じない。



「…いい気持ち」



ベルフィはスレイプニルの隣で地上すれすれを滑空・・しているみたい。

きっと風か何かの精霊の能力かな。


相変わらず短い裾なんでお尻が見えそう…って、ジロジロ見ちゃまずい。

バレたら軽蔑されちゃう!



「ジエラさんっ、見てみて!」



時折、ベルフィがこちらを向きながら…それでも後ろ向きに飛びながら、遠くの景色を指さしてはしゃいでいる。


きっと妖精国アールヴヘイムからこんなところまで遠征するのが初めてなんだろうな。

色々なモノに興味があるようだ。


で、でもパタパタはためくベルフィの短衣の裾が気になって、景色どころじゃない!




ベルフィは下半身が無防備すぎるんだよ。

妖精国(アールヴヘイム)では裸族っていうから、きっとそれが影響しているに違いない。

そうは言っても、もうすぐ人里に着くんだからちょっと自重したほうが…。



「あの…さ、ベルフィ。その…裾の短い短衣チュニックだと…色々見えちゃってるし…。これから他の人もいるわけだしさ…。着替えない?」



こんな事を言うと「ジエラさんがこの服を創ってくれたんじゃないですか」って言われちゃうかもしれないけど、自分の精神の安定のためにもベルフィに提案してみた。

彼女は一瞬キョトンとしたあと、ポッと赤くなる。



「…私ったらうっかりしてました。妖精国アールヴヘイムでは裸だったので気にならなくて…。外の世界ではあまり肌を晒さないんでしたね。…ですが、草木や動物が服を着なくても恥ずかしいと思わない様に、自然・・があるがままの姿でいるように、私たち白妖精も肌を見られて恥ずかしいと思う感情はありません。ご心配しなくて大丈夫ですよ? それとも…ジエラさんはこういう恰好はお嫌いですか?」



ベルフィはボクの方…後ろを向きながら滑空している。



「ジエラさんは凄いカラダしているから…私の貧弱なカラダは見苦しい…ですか?」


「そ、そんなコトないよ!」



スラリとした上半身に比べて細身ながら肉感的な下半身。

きっと妖精さんだから森の中で活動するのに鍛えられているのかな?



「…い、いいと思う、よ?」



ボクの感想にベルフィは満面の笑みだ。



「本当ですかっ。良かった…!」



ベルフィは満面の笑みだ。滑空しつつ、器用にクルクルとアクロバティックに宙返りとかしている。

相変わらず目に激毒だった。



それから色々会話する。

会話の内容なんか上の空な気持ちで相槌していたら唐突にベルフィが振り向いた。



「…ジエラさんったら。つまり私を他の男の下卑た視線に晒したくないのですね。うふふ。なんだか嬉しいです♡ 私もジエラさんの事を男から護ってあげるんですから、おあいこですね?」



それにしてもさっきからこの娘は何言っているんだろう?

男嫌いなのかな?



「…あ、あのさ、あんまりボクにばかり拘らなくても…ほら、故郷にいいカンジの同族の男の人とかいなかったの?」



するとベルフィはちょっとびっくりした顔になった。



「私たち白妖精リョースアールヴは女性だけの種族なのです。同族に男性なんかいませんし、他の種族の男性も必要ありません」



「へ?」





それからベルフィに色々な白妖精の常識・・・・・・を教えてもらった。


彼女たち白妖精リョースアールヴは下級神であると同時に精霊に近い存在であり、女性のみで構成される一族であること。


原初の自然の中で、永遠に青春しながらキャッキャウフフして過ごし、お互い気に入った者同士で愛を育くみ、女性同士で子を成すということ。


時折、妖精国アールヴヘイムの何も変わらない日常に飽きた変わり者が人間界ミズガルズに亡命する場合もあること。


人間界ミズガルズに亡命したアールヴは神性を失ってハイエルフ・・・・・という別の不老種族なってしまう。その場合は人間界の法則にしたがって男女の性に分れるということ。


亡命者の第一世代であるハイエルフは不老。でも彼らの子孫たちの中には更に年月を重ねた結果、精霊としての特性を失うことで単なるエルフとなってしまう場合がある。その場合、寿命が定まってしまうこと。


余談だが、小人族ドヴェルク人間界ミズガルズに亡命する場合もあり、その場合はドワーフという別の種族になって、小人族のように優れた魔法の道具を創ることが出来なくなること。




「私の場合は単に世界転移しただけですので、今もれっきとした白妖精リョースアールヴです。…この世界が自然豊かということは、遥か昔に私たち妖精アールヴがこの世界に渡ったかもしれませんね。私たち妖精アールヴは下級とはいえ豊穣神ですから、神性を失っても草木を育む力は多少は残っているのです」



なるほど、勉強になる。

言われてみれば、アールヴとエルフ、ドヴェルクとドワーフって響きが似てるかもしれないな。



「…ねえ、スレイプニル。神馬であるキミの種族ってどんな感じなの?」


(…我はロキを母として産まれた、ただ一頭だけの存在だ。あらゆる馬の頂点たる我に同族などない)



何だかかわいそうだな。友達とかもいなかったのかな?



「友人みたいなのはいなかったの?」


(…………ふむ。友か…。友という程ではないが……)



すると突然スレイプニルが警告を促した!



(…むっ? 無駄口はそこまでだ。これから先で人間と魔物が争う気配がするぞ)



なんだってっ!?

ベルフィはスレイプニルの言葉(念話?)が聞こえないのか、相変わらずスカートをヒラヒラさせて飛んでいる。


心なしか下半身をアピールしている気がする。

もしかしてワザとやってるんじゃ…?

ボクに向かって…?

ま、まさかねっ。


ああっ。いけないっ。

ベルフィの下半身よりも今は別の話だ!



「ベルフィ、どうやら人間と魔物が戦ってるみたいだ!」


「…ひゃい!? すいません。ちょっと夢中になってて……」



彼女はそういうと目を閉じて口元でぽそぽそ話している。精霊さんと交信しているのかもしれない。




…そして。



「…ひっ。……そんな……。こ、この魔物は……豚…豚鬼オーク…!」



ベルフィの端正な顔が恐怖に歪んだ。




ベルフィが立ち止まってしまったので、ボクも傍に寄る。



「ジエラさんっ! オークですよオーク! この道は危険です。反転して逃げましょう!」



ベルフィは震えている。

さっきまて軽快に滑空していたのに、今は立っているのがやっとの状態だ。膝もガクガクみたい。


…オークって何だっけ。

そうだ。生前に見たマンガでは性根が腐ったような豚みたいな顔をした肥満体のモンスターだ。


でもベルフィが怯える程強いのかなぁ。

ベルフィは…言うなればハイエルフの更に上位種族で神様しょ?



「わ、私たちの伝承によると、人間界ミズガルズにおいてオークはエルフの天敵らしいのです! エルフの祖である私たちもその影響を受けており、あの禍々しい豚顔には…理屈ではない恐怖が…」



ベルフィが不安そうにボクを見つめている。

よし、ここはボクが漢らしくカッコいいとこ見せてあげなくちゃね!


そう思った矢先、かなり前方から煙が見えた。

炊煙にしては黒く、規模も大きい。

さっきの情報を知らなければ山火事かと考えるかも知れないけれど…どうやら人間とオークが争っているに間違いなさそうだ。



「スレイプニル、駆けるよっ! …ベルフィは身を護る事に専念してっ。オークはボクたちで何とかするからっ」


(うむッ!)


「…ッ。お、お待ちください! わ、私もお役に立ってみせます…からぁッ!」



ベルフィも慌てるようにスレイプニルの背に乗り、ボクの後ろで腰にしがみ付いてきた。





スレイプニルは力強く馬蹄を響かせながら疾風の様に駆ける。


ボクが知る馬という生物はこんなケタ外れのスピードで走ることはできない。しかし異常な速度に似合わない安定性のある乗り心地に不思議と恐怖は感じなかった。



恐怖どころか…正直に言って…ワクワクが収まらなかった。



ボクが生前に修めた武術を思いっきり試せるんだ。


それによくよく考えたら、相手を殺しちゃったりしてもそれで人生が終わっちゃうんじゃなくて、その後はアース神国アースガルズやら死国(ヘルヘイム)霧国ニヴルヘイムに魂として転移・・して、そこで新たな生活が待っている。



ボクが死なせるワケじゃない。

生活する場所が変わるだけだ。



そう思ったら相手を殺しちゃう事に関しても気が楽になっていた。

もっとも今回相手するのは人間じゃないく怪物になりそうだけど。





目に見える煙が大きくなるにつれて、少なくない人の悲鳴と、争う音が聞こえてくる。


ボクはスレイプニルを止めると周囲を見渡した。

ベルフィはボクの背中に頬を摺り寄せている。

くすぐったいけれど、いまはそれどころじゃない。


遠目からだと顔つきがイマイチとわからないけど、体高2メートルくらいのデブってる巨漢が村人を追い回している。アレがオークなんだろう。


オークは女の人を肩に担ぎあげていたり、髪を掴んで引きずりまわしている。

とあるオークは片手で女の人を抱え込み、もう片方の手で棍棒やら剣とかを振り回している。

どうやら女の人を攫おうとしているみたいだ。


そんなオークたちに男の人たちが「女房を離せ!」とかなんとか叫びながらくわすきで応戦しているけど、オークたちは数が多い。村人の方が劣勢のようだ。




逸る気持ちを抑えつつ、鋼の槍の握りを確かめながら目を凝らして状況を確認する。



真っ先に突撃すべき…救出すべき集団はどのあたりなのか。



すると、村人の中でもひと際立派な体格をしている男の人が斧と剣を振り回して善戦しているのが見えた。

彼の周囲は村人の被害が少なそうだ。


よし、あの男の人に助けは必要なさそうだね。

じゃあボクはあの人から離れた村人を助けに行こう!



すると村の端近くまで逃げていた女の人が、こちらに気付いて必死の形相で駆け寄ってきた。



「ッ! 騎士様! たっ、助け! お助けください!! 豚鬼オークが村を! 皆がぁぁァァ!!!」



彼女はそう言うやいなや、気を失ってしまったように倒れこんでしまった。




騎士様・・・




こんな状況で不謹慎だとは思う。

でもその響きに嬉しくなってしまった。


ボクは戦乙女ヴァルキュリーにして騎士…ジエラ!


イイね!


ボクはスレイプニルの胴体を両足で絞めると、両手で鋼鉄の剛槍を振りかぶり、名乗りをあげた。



「ボクは旅の騎士、ジエラ! 女の人を離せっ! オマエたちの相手はボクがしてあげるよっ!」



すると、ボクの近くにいたオークが肩に担いだ村娘を放り出してこっちに近づいてきた。



「…イ、イイ…メす…だア…。お、オマえ…オイラがモラッタ…!」


「ぶヒヒ! でかいメス…。ジョウぶナガキヲ…ガンがンウメソうだぞ!」





「ーーッッ!!?」



ひええッ!?

ぼ、ボクが相手するって、そそそそういう意味じゃないよっ!


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