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間話  世界樹にて

よろしくお願いします。

「ロキ、さっきジエラちゃんにプレゼントした『黄金の指輪アンドヴァラナウト』だけど、黄金を産みだす指輪ですってぇ? アンタ、よくそんなお宝を手放す気になれたわね。それに何時そんな指輪を手に入れたのかしら~~っ?」


「あははー。アレってさ、先日とある小人から拝借しちゃったらさ、その時に呪われちゃったんだ。持っていると災難が降りかかるんだってさ」


「…な、なんですって!? ジエラちゃんに何てモノを渡すのよ!」



トールがロキに詰め寄るが、当のロキは涼しい顔で切り返す。

罪悪感なんて全然感じられない様子だ。

「怒る前にまず話を聞け」と、ロキはトールにヘラヘラした様子で説明を始める。



「トール、よく考えてごらんよ。黄金をザックザク産みだすなんて、周囲が羨ましがったり、妬んだり、やっかんだりするでしょ?」


「そりゃあ…そうでしょうねぇ」


「加えてジエラちゃんは…その辺の女神なんか太刀打ちできない程の美貌だねぇ」


「そうねぇ。ま、私には及ばないけど…ぼほほほ♡」


「じゃあ質問だ。人間界で、トラブルやらもめ事、その原因の最たるものといったら?」


「……?」



トールは首をかしげる。

雷神たるトールは人間の海賊ヴァイキングたちから絶大な信仰を受けている。

よって彼ら海賊を通してしか人間の考え方や行動を推測するしかないのだが、先程のロキの前ふり話から脳筋美女たるトールでも容易に答えに行きついた。



「…カネと女ね」



その答えにロキはニンマリと笑う。



「そう! ジエラちゃんは傾城傾国絶世の美女! そして無尽蔵の黄金を産みだす! これは世の男共が放っておかないねぇ。きっとジエラちゃんはトラブル続きで大変な目に遭うと思うよ! …指輪の呪いとはきっとこのことだったんだねえ…。あっはっは!」


「……ロキ、アンタってヤツは…」



雷神トールはまるで地鳴りような声を振り絞る。いや、彼は雷の怒りの具現。であるから地鳴りというより遠雷が轟いているような様子で、今にも爆発しそうな程だ。

ロキの物言いは、まるで自分の妹分(と、勝手に思っている)であるジエラを破滅させようとしているにしか聞こえないからだ。


しかし、怒れるオカマなSM女王を前にしてもロキは平常運転。

笑顔でトールの不明を諭す。



「トールもこれから大変だよ! ジエラちゃんに寄ってくる見てくれだけの軟派な連中に留まらず、ジエラちゃんは大きな争いの中心になるだろう。ジエラちゃんは魂を誘う戦乙女ヴァルキュリー。彼女に関わり死んだ者の魂は私たちの許にやってくる。きっとたくさんの男共の魂が今までになく大挙してやってくるはずさ。魂の行先は死国ヘルヘイム霧国ニヴルヘイムばかりじゃない。トールの屋敷ビルスキールニルも男共で埋まると思うよ!」


「な、なんてこと…なの♡ ロキ、やっぱり貴方って最高ねぇ! 実はジエラちゃんは戦乙女ヴァルキュリーでありながら人間界で英雄といわれる程に戦わなければならない運命にあるわぁ。英雄には試練が必要よねぇ! ロキの機転に感謝しなくちゃ♡ さぁーて、私も忙しくなりそうねぇ! ぼほほほーーーッ♡♡」


雷神も自らの欲には逆らえない。

ロキの「トールの屋敷ビルスキールニルも男共で埋まる」という話で一気に機嫌が良くなった。




しかし、ロキはトールの何気ない一言に注目する。



「…ふぅん。戦乙女自身が英雄になるために戦う? そんなの聞いたコトないよ。 …やっぱり、フッラが武器をかき集めたのはナニか理由があるみたいだねぇ」



ロキは義兄であるオーディン関連の人脈から、フッラがヴァルハラ宮の開かずの・・・・武器庫から戦士エインヘルヤルたちの生前の武器をごっそり持ち出した事を知っている。

無論、黙っていた方が面白そうなのでオーディンを含め他の者にも報告していないが。


ロキは「これはしばらくフッラたちの動きからは目が離せないねぇ。これから何が始まるんだろう。面白ければいいけど」と、こっそりほくそ笑むのだった。






トールとロキがジエラ達が這入ったうろ・・の前を去ったあと、

その様子を世界樹の茂みの中で隠れて見ていた者があった。



「…いったようね」

「…そうですわね」



明らかに対照的な二人。


一人は戦乙女ヴァルキュリー

そしてもう一人は黒い妖精…デックアールヴである。地球世界の者が見たらダークエルフかと思われるその容姿は、白妖精リョースアールヴであるベルフィよりも背は高く、メリハリのあるカラダをしていた。


戦乙女ヴァルキュリーの名はブリュンヒルデ。

黒妖精デックアールヴの名はサギニといった。



「…ジエラ様ったら…。私というものがありながら、あんな小娘を従者にするだなんて…!」



ブリュンヒルデの悪態に、傍らにいたサギニが吼える。



「小娘とは何ですか! べルフィお嬢様は妖精アールヴのなかでも由緒あるビィ一族のご令嬢なのですよ! ったく、戦乙女ときたら血の高貴さも分からないだなんて…。これだから野蛮人は…!」


「そんな田舎の家名なんて知らないわよ。その点ジエラ様はフレイヤ様直轄よ! 田舎貴族なんかジエラ様の隣に立つ資格なんかないわ!」


「な、なんという無礼な!」

「なによ…!」




「「…………ふんっ」」


暫く睨みあったのち、ぷいっと顔を背け合う二人。


この二人、ブリュンヒルデとサギニは先程逢ったばかりである。


ブリュンヒルデは密かにジエラのストーカーをしていたので物陰から今夜の出立を見ていた。


そしてサギニは妖精国アールヴヘイムに古くから続く白妖精一族・ビィ家に仕えるベルフィ付の侍従兼教育係兼護衛であった。


しかし彼女の愛すべきベルフィは妖精国を訪れたロキに「キミたち妖精の優秀さを戦乙女に知らしめるチャンスだよ?」とそそのかされてしまったのだ。


当然、ベルフィ好き好きなサギニはこの出立に大反対。

しかし、ベルフィは「もう子供じゃないからっ」「フレイ様の為にも戦乙女なんかに負けないんだからっ」などと言いながら家を飛び出してしまったのだ。



「ああ…。私が付いていながら…。私がお嬢様に弓術の嗜みばかり教えてしまったからあんなに活動的に…。もっとお淑やかに育てればよかった。なのに戦乙女なんかと共にいたらどのような悪影響があるか…。今からでも遅くないわ。連れ戻さないと…!」



嘆くサギニに対し、ブリュンヒルデも己が都合というか願望を呟いている。



「私も…ジエラ様の人間界ミズガルズでの任務に無理やりにでも同行すれば…好感度も急上昇だったのに…! あんな妖精ごときに出し抜かれるなんて…!」



そして二人は睨みあう。



「…分かってるでしょうね。アンタを野放しにするとオジョウサマとやら可愛さでジエラ様に危害を加えそうだから、監視の意味で仕方なく一緒に居てあげるだけなんだから…!」


「それはこちらのセリフです。貴女こそジエラとやら恋しさにベルフィ様に暴力を振るいそうですからね!」



そして二人は悪態をつきながらジエラ達の後を追う。


ブリュンヒルデはジエラの従者となるため。

サギニはベルフィを連れ戻すため。



「ジエラ様―っ。どちらにいらっしゃるのですかーっ」

「お嬢様ーっ。本国に帰りましょうっ。サギニがお迎えにあがりましたーっ」



二人の声は暗闇に飲まれ、ジエラ達に届いているのすらも分からない。


そしてまだ彼女たちは知らないことだが、同じ“うろ”に這入ったのにも関わらず、ジエラ達とブリュンヒルデ達は少々離れたトコロに出現する事になる。



果たして、ブリュンヒルデとサギニはちゃんと目的を果たせるだろうか?





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