間話 ドヴェルクたち
よろしくお願いします。
「…ジエラ嬢ちゃんは今頃戦場を駆けておるのかのう…。ワシャあ心配じゃ。あの柔肌が敵の剣や槍に晒されると思うと、心がザワついて酒も喉を通らんわい」
そういうと彼は酒樽を抱えてゴキュゴキュと飲み干す。
「…確かに戦乙女の任務というからには…そうじゃろうなぁ。…じゃが! ワシらの支援があればそんな任務など屁でもないわい!」
「そうじゃそうじゃ! ワシらの嬢ちゃんに万が一の事があっては大変じゃ。じゃから頼まれても居ないのにこっそりと首輪に極大級の守護の効果を追加付与したんじゃろうが」
「うむ! もう忘れたのか!? ワシらが総出で『ジエラ嬢ちゃんの身体は傷つけられない』という効果を首輪に付与したではないか! これで嬢ちゃんの身の安全は保証されたも同然じゃ! 嬢ちゃんの任務の成功を祝して、かんぱーい!」
ガチンドカンと酒樽をぶつけ合いながら小人達は祝杯をあげる。
ジエラは彼らに胸をもみくちゃにされても「頑張ります♡」などと微笑んでくれる健気な戦乙女だ。
最近の戦乙女ときたら小生意気な娘が多い。
せっかく注文通りに武器を造っても、あーだこーだ文句を言うのが小憎らしい。
なんでも少子化とやらで戦乙女になる娘が減っており、そのためちやほや甘やかされて育てられたものだから、我儘であったり、こらえ性の無い娘が目立つのだ。それでいてイイ男とやらに目を光らせている。
そんななか、ジエラという戦乙女の初々しさは一抹の清涼剤だ。
小人たちはそんなジエラに心底惚れこんでいる。
あんな良い娘が戦場などに赴いて毛先ほどの傷がつくなど以ての外なのだ。
故にジエラの玉の肌を護る為に人智を尽くすのは彼らの義務なのだ。
「…嬢ちゃんのデカい胸…。また揉みたいもんじゃのう」
「ワハハ! 無事帰還した時の為にワシらで祝の品を山ほど用意しておこうかの! さすればジエラ嬢ちゃんのチチ揉みしだき大宴会じゃあーーっ」
「ぶわっはっはっは! 嬢ちゃんのことじゃ。「ボクの任務が上手くいったのも小人のオジサマたちのお蔭です。…ボクのおっぱいでよかったら…好きなだけどうぞ♡」とか言ってくれるに相違ないわい!」
「このジジイ! 気色悪いのう! 全然似とらんわ!」
「はっはっは、まあいいではないか! 飲め飲めーい!」
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ひとしきり盛り上がった後、一人の小人が告白した。
「…実はな、ワシは…その…武器が立派でも嬢ちゃんの細腕じゃあ辛かろうと思うて、首輪に付与する効果を更に追加してしもうたんじゃ。戦闘力がかなり増強するようにしておいた」
それを聞いた他の小人も「気が合うのう。実はワシもそうじゃ」追従する。
「ワシらの処には以前から雷神が『力の帯』の予備と創ってくれと注文があったじゃろう。じゃからその時に培った経験と知識を活用して戦闘に関するルーンの能力を限界まで引き上げて付与したんじゃ。ジエラ嬢ちゃんの『黄金の首輪』に比べたら、トールの『力の帯』など子供のおもちゃじゃわい!」
「ぶわっはっはっ! まあ、ええじゃろ! 嬢ちゃんが強くなるだけじゃ。なんの問題もないわい!」
「そうなるとジエラ嬢ちゃんの戦闘に関する能力は相当なモンじゃな。…それこそ本気で戦えば最強神たる雷神と一対一で戦えるくらいにはなっとるとじゃろう。無論、使う得物によっては、例えトールが『雷鎚』を持ち出したとしても嬢ちゃんに勝てんじゃろうな! じゃからジエラ嬢ちゃんが戦場で不覚をとるようなことは天地がひっくり返ってもあり得んぞい!」
ジエラのような良い娘が戦場などに赴いて、敵に不覚をとるなど以ての外なのだ。
故にジエラの勝利の為に人智を尽くすのは彼らの義務なのだ。
「…次は嬢ちゃんの尻…。揉みたいもんじゃのう」
「ワハハ! 無事帰還した時の為にワシらで祝の品を山ほど用意しておこうかの! さすればジエラ嬢ちゃんの尻揉みしだきの大宴会じゃあーーっ」
「ぶわっはっはっは! 嬢ちゃんのことじゃ。「ボクの任務が上手くいったのも小人のオジサマたちのお蔭です。…ボクのお尻でよかったら…好きなだけどうぞ♡」とか言ってくれるに相違ないわい!」
「このボケジジイ! 気色悪いのう! 全然似とらんわ!」
「はっはっは、まあいいではないか! 飲め飲めーい! もっと飲めーーい! がっはっはっはっは!!」
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ひとしきり盛り上がった後、突然一人の小人が大切なコトを思い出したようだ。
「首輪にはジエラ嬢ちゃんを強化するためのルーンやら魔術をこれでもかという程重ね掛けしたな。それがどんな副作用をもたらすか…心配じゃなぁ?」
「ナニが心配じゃ。確信犯め! あの首輪は呪われておるぞい」
「なんじゃと!?」
「ジエラ嬢ちゃんになんてことを!」
しれっと言う小人を他の者たちが責めたてる。
しかし、そういう彼らの顔はニヤけて、口元は緩みっぱなしだった。
そう。
日常的に魔術を用いる神族の者たちは知らないことだか、技術者たる小人族には魔術の副作用をよく知っていた。
その副作用とは……使用する者に性的高揚感をもたらすというモノ。
無論にして神族たちはこの副作用とは無縁だが、神族に魔術を教えられた人間の巫女や魔術師たちは、その性的高揚感からトランス状態となって神託儀式や魔術を行使しているのが現状だった。
「まあ、心配はいらん。戦乙女は神の末席に連なる存在じゃ。人間のように心神喪失まではいかんじゃろう。せいぜい…そうじゃな。今の嬢ちゃんは羞恥心のタガが若干外れとる程度じゃ」
「……しかし、異世界で…その…なあ。大胆になった嬢ちゃんに血迷った男にだな、嬢ちゃんが傷モノにされたら…どう責任とるんじゃ?」
「それは大丈夫じゃろう。ジエラ嬢ちゃんは戦乙女じゃ。何度も言うが、せいぜい開放的というか、大胆というか…まあ…その程度じゃ」
「うむ。それに嬢ちゃんの腕輪から生みだされる防具は難攻不落の貞操帯じゃしな」
「何よりジエラ嬢ちゃんに無理やり乱暴しようとしたら、そやつは容易に殺されるわい」
小人たちは「良かった良かった。呪いを受けとっても嬢ちゃんの貞操は安泰じゃ」と笑いあう。
実は彼ら小人族はオーディンの持つ神槍グングニルの他にもいくつか武器を創ったが、マトモなのはその槍程度で、他に強力な武具を創った場合にはその全てに呪われた効果を付与することでバランスをとるのを信条としてきた。
それで「小人族の武器は素晴らしいが、呪われているので微妙なシロモノ」という風評をつくり、神々の無茶な注文を逃れてきたのだ。
例えば魔剣ダーンスレイヴは『攻撃すれば必ず相手を傷つけ、その傷は決して癒えることはない』が、『一たび鞘から抜かれると敵味方関係なく生命を奪う』剣であるし、魔剣ティルフィングは『敵の防御を無効して攻撃が可能で、所有者は必ず勝利する』が、『剣によって望みが三回叶えられたら、持ち主は破滅する』などといったふうに、総合的にしてみると武器としては欠陥品が目立つのだ。
それがジエラの場合、『開放的というか大胆というか若干羞恥心に欠けるようになる』という呪いだか何だか微妙な呪い(?)なのだ。
小人たちは「清純なジエラ嬢ちゃんが…なんということじゃ。…恐ろしい呪いじゃわい」「うむ。嬢ちゃんには申し訳ないが、これも我らに定められた掟じゃ」「ワシも異世界に行きたかったのう」と嘆いてはいるが。
…呪いは置いておくにしても、誰が見てもジエラの首輪の能力は規格外すぎるだろう。
あらゆる神々や悪魔共の武装を含めたあらゆる武器を創り出し、
ジエラ自身の戦闘力を雷神と同等かそれ以上に引き上げ、
ジエラの肉体は傷つくことはない。
そしてジエラ自身を開放的というか、大胆というか、ハレンチというか…にしてしまう。
こんな壊れ魔道具を創ったことを神々、特に主神オーディンにバレたら、小人族全体がどう処罰を受けるか分からない。
「…ジエラ嬢ちゃんの『黄金の首輪』は我らの最高傑作になったのう…。そしてこの首輪はジエラ嬢ちゃんの命尽きるまで、決して壊れることなくジエラ嬢ちゃんと共に在ることになるじゃろう。…お主ら、この事は内密じゃぞ? 神族の連中に知れたら、めんどくさいことになりかねんからな」
「「「うむ!」」」
「そして嬢ちゃんはワシらに感謝感激、雨あられというやつじゃ!」
「「「然り!!」」」
ジエラのような良い娘が戦場などに赴いて、任務に失敗するなど以ての外なのだ。
故にジエラの勝利と栄光の為に人智を尽くすのは彼らの義務なのだ。
「…嬢ちゃんのないすばでー…。直に堪能してみたいもんじゃのう」
「ワハハ! 無事帰還した時の為にワシらで祝の品を山ほど用意しておこうかの! さすればジエラ嬢ちゃんが全裸で大宴会じゃあーーっ」
「ぶわっはっはっは! 嬢ちゃんのことじゃ。「ボクの任務が上手くいったのも小人のオジサマたちのお蔭です。…なんだか脱ぎたい気分♡ …ボクのカラダでよかったら好きなだけお触りください♡」とか言ってくれるに相違ないわい!」
「おえええェェッ!? このくそジジイ! 気色悪いのう! 全然似とらんわ!」
「どわっはっはっは!! まあいいではないか! 飲め飲めーい! もっと飲めーーい! 吐いたらまた飲めーーーい! がっはっはっはっは!!」
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なお、ジエラの最終目的が“異世界で戦死”であるということは小人達は知らないことであった。
であるからジエラがこの首輪の性能を知った時、彼女はきっとこういうに違いない。
「…どうやったら戦死できるの?」
…と。