異世界へ
よろしくお願いします。
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ロキさんとベルフィさんが出立前に申し送り(?)をしている間、トールさんがボクに話すことがあるという。
「ぼほほほ。それにしてもジエラちゃんのセンスって良いわねぇ! 私にも一着プレゼントしてくれないかしら♡」
え?
このオカマさんに鎧を!?
「ぼほほほっ。ジエラちゃんは知ってるかしら? 戦士の魂はお父さまのヴァルハラ宮とかお義母さまのフォールクヴァング宮にやってくるんだけど、ウチにやってくるのは善良なる奴隷の魂なのよ。だから奴隷たちを可愛がるのに相応しい恰好が良いわねぇ♡」
「………は、はぁ」
そして。
「んまーーっっ♡ 素敵! なんて素晴らしいの!」
トールさんはブーメランパンツにエナメルなズボン釣り。そして素肌に革のベストを羽織り、ファッション性の高い細いチェーンでカラダを飾った恰好になった。
勿論、ぶっ太い剛腕と剛脚にぴっちりとフィットしたエナメルロンググローブにブーツ。
そして顔には女王様っぽい仮面
ビザールっぽい変態…げふんげふん…女王様の出来上がりだ。
あまりの破壊力に正視できない。
…でもこれでムチを持ってないのはおかしいので、ボクは試しに『黄金の首輪』からSM用のムチを創ってみた。
すると、しっかりしたSMムチ…音ばっかりでダメージを与えられない特殊ムチが創れたんだ。
怪我の功名っていうか、エロ鎧ばっかり出してくる腕輪と違って、この首輪はかなり融通が利くことがわかっちゃった。
SMムチが創れたなら、おおよそボクが構造を理解していて、武器と解釈できるものは創れるっぽいぞ。
トールさんは「こんな素敵な衣装をタダでもらっては雷神の名が廃っちゃうわ♡」と、『力の帯』という宝物をくれた。これは着用者の腕力や脚力など、とにかく力を増大させるアイテムであるという。
貴重なモノかと思ったら、トールさんは刺繍やらデコりまくった『力の帯』を何十本と所有しているらしく、そのうちにシンプルなモノを何本かボクに渡してくれたんだ。
「ジエラちゃんや妖精のお嬢ちゃんなら、武器や魔法もあるし、異世界でも十分に戦えると思う。でも、もし異世界で仲間ができたとき、その者に力不足を感じるようならこの帯をつけてあげるといいわよ♡」
トールさんは続けて言う。
「お義母様の想い人である貴方は、いうなれば私の妹みたいな存在なの。私も妹の為に協力するのは当然でしょう♡」
トールさん…。
ボクはトールさんの心遣いに感謝した。
でもさすがにこのSM女王なオカマを「義姉さん」と呼ぶのは気が引けるけど…。
そこへロキさんとベルフィさんがやって来た。
ベルフィさんは「うっ」とか言いながら立ちくらみしてしまったけど、ロキさんは相変わらず表情が見えないニヤニヤ顔でトールさんを絶賛している。
「なんだいトール。ますます素敵になったじゃないか!」
「ぼほっ。ロキったら正直ね♡」
トールさんが照れ隠しに「ゴウッッ」と、SMムチを振るうと、近くにあった世界樹のご太い枝が数本まとめて薙ぎ払われた。
ロキさんはそれを無視して何事もなかったようにボクに話しかけてきた。
ロキさんからもボクに渡すものがあるという。
「ジエラちゃん、異世界を旅行するのに、先立つモノはあるの?」
ボクは何のことか分からなかった。
そんなボクに呆れ顔のロキさん。彼は「仕方ないコねえ。旅慣れていないコはこれだから…」と、『黄金の指輪』という魔法の指輪をボクにくれた。
これは黄金を産みだすことが出来るという。
「一応は産みだす黄金を正確にイメージしなきゃいけないから…。そうだね。現地の金貨なんかは創るの難しいと思うけど、砂金とかなら簡単だよ!」
ボクはそれを聞いて、そのあまりの能力に「こんな凄い指輪なんていただけませんっ」と断ろうとしたけれど、ロキさんは「おカネがないのは辛いよ。女の子二人連れで、おカネもなのにどうやって生活していくの?」と諭された。
もしお金が無かったら…?
□ 妄想 □
ボクは路地裏に立っている。
安宿にはベルフィがお腹を空かせてボクの帰りを待っている。
そういうボクも、最近満足に食事をしていない。
だからこれから…ボクは最後の手段に手を染めようとしていた。
「…へへっ。姉ちゃん、いくらだい? っ? おいおい、すげえ美人だな? アンタみたいな上玉がこんな薄汚えところで客待ちかい?」
「あ、あの…ボク…」
「へへっ。震えているのk
□ □ □
うぎゃあああぁぁあああぁあぁーーーーーーーーッッッ!!!!???!
ボクは両腕をぶんぶん振り回して悪夢を振り払う!
いやだ!
そんな異世界生活なんてまっぴらだ!!
ボクはロキさんから有り難く『黄金の指輪』を受け取る。
よかった!
これで異世界では貧乏から無縁でいられそうだ!
ボクは少し考えた後、異世界で男性除けの為にと左手薬指に指輪を嵌めてみた。もちろん、異世界でその手の風習があるなら、あちらの世界に応じて指を変えてみようと思う。
ロキさんに指輪の対価を聞いてみると、彼は「私の息子…フェンリルとジエラちゃんの子供が仲良くなってくれればいいさ」と言って笑った。
「…何から何まで…ありがとうございます」
「いいのいいの! 最近退屈してたからね! ジエラちゃんがこれからナニをするのか楽しみなんだ!」
ロキさんは上機嫌。
「じゃあ異世界性活楽しんできてねーっ」と、ものすごい笑顔で笑っていた。
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ロキさんに促されるまま、世界樹のうろに立ち入る。
スレイプニルに乗ったままだと頭がつかえちゃうし、それにベルフィさんもいる事なので、皆して徒歩で歩いている。
当たり前だけど、内部はとても暗くて、足元が覚束ないどころの話じゃない。
結構な時間を歩いている気がするけど、逆にそうでない気もする。
真っ暗なのが時間感覚を狂わせているだけかもしれない。
その暗闇なのだけど、何となく暗闇を合わせ鏡で無限に増殖させたかのような、同じような暗闇が続いている。
傍にいるはずのスレイプニルやベルフィさんの姿も見えない程だ。
いつまでたっても前に進まないような感覚もしないでもない。
でもいつの間にか既に入口も定かではなくなってきたのだから、前に進んではいるんだろう。
緊張しているのか、誰も何も話さない。
静かだ。
何の音もない。
いや、逆に遠くの方から声が聞こえている気がする。
ちょっと不安になったんで皆に話しかけてみる。
「…ねえ…スレイプニル。ベルフィさん。大丈夫?」
(…なんだ? はっはっは! 戦乙女よ、心細いのか? 戦乙女とは“戦の運命を支配する”という噂を聞いておったが、案外肚がすわってないのだな? …何なら我の背に寝ておってもよいぞ)
ち、ちがうよっ。
うう。馬に笑われちゃった。
「…そ、そうだ、ベルフィ…。そんな堅苦しいのは止めようよ? ボクの事はジエラって呼んでよ。「ジエラ殿」ってのはちょっと…」
「べ、ベルフィ? ですか!? 私を呼び捨てにしたいなんて…そんなに親しい関係でもないのに…。でもジエラ殿が望むなら、この服の対価ということで…。で、でもっ、勘違いなさらないでくださいっ。我ら白妖精は貴方たち戦乙女と慣れあう訳にはいかないのです! この服で多少は見直しましたが、それはそれです! 異世界では私たち白妖精が優れた種族であると戦乙女に示してみせます!」
「……そっか…」
「でも」と、ベルフィは話を続けた。
「…ですが…私、今だから言えますけど…妖精国でもジエラ殿のように素敵な感性をもった女性に出会った事なかったです。それにライバルである私たち種族の事を考えてくれる広い度量をお持ちだなんて…。私はこれまで他人を尊敬したことがありませんでした」
「…へ、へぇ、そうなんだ? こ、光栄だね」
「で、ですから、異世界ではジエラ殿の事を…ジエラだなんて呼び捨てるわけには…。その代わり“ジエラさん”とお呼びする事にします。…それでいいですか?」
…なんだか、ベルフィとの距離が縮まったみたいだ。
ツンケンされるよりはずっといいね。
「うん。よろしくお願いします」
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何となくだけど、もうすぐこの暗闇が終わりそうな気がしないでもない。
そう思った途端に、彼方に何やら出口らしき明かりが見えた。
その向こうには何があるんだろう。
未だ異世界を臨んでいない身に解るわけもない。
しかし、どんな世界であろうとも、頑張って自分のやるべきコトに全力を尽くそうと心に決めた。
「スレイプニル、ベルフィ、異世界でもよろしくね」
(うむ。異世界での戦働き、期待してもらおう)
「ええ、白妖精の優秀さをお見せしましょう!」
「あはっ。頼もしいな!」
そしてボクたちは光に包まれる。
さあ、異世界だ…!