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とある人間界にて

不慣れですがよろしくお願いします。


今までの出来事が思い出される。





走馬灯ってやつかもしれない。





ボク……。






いまは何時で。




ここは何処なんだろう?






◇◇◇◇◇




「…エミちゃん。あのさ、ボク、エミちゃんのことがすき」


「わたしはミズキくんのことキライ」


「…え!? ど、どうして!?」


「だって、ミズキくんってオンナノコみたいなんだもん」






それは忘れる事の出来ない保育園卒園時での苦い思い出。


ボクの名前は来栖くるす 瑞希みずき


日本人と西洋人とのハーフであるボクは幼い頃から「ミズキくんは女の子みたいな顔している」って周囲のオトナ達や同い年の友人たちに言われていた。

でもそれで特に損する事も無かった。

だから「へー、そうなのか」って漠然と考えていた。


だけど…。

そのことで損…つまり女顔それが原因で失恋するなんて思いもよらなかった。



それが切っ掛けで、ボクは「よし! 誰にも女の子みたいだなんて言わせないぞ。強い男になるんだ!」と、小学校入学を皮切りに一念発起したんだ。





ボクは強い男になるために自宅から一番近い道場に入門した。


道場主は親戚のお兄さん。


若くて、カッコ良くて、爽やかで…「ボクもこのお兄さんみたいにカッコよくなりたいな」って思うくらい憧れのお兄さんだった。


その道場は……うーんと…“強くなれるなら古今東西何でもいい”的に無節操な道場で、日本の古武術からそれこそ街頭での近接格闘っていうか(つまりはケンカ)まで全体的に教えてくれる道場だ。

当時はよくわかんなかったけど、とにかく浅く幅広く教えてくれる事になったんだ。



でも道場のお兄さん…師匠は変わったポリシーを持っていた。



入門時の出来事だ。



「ボクはオトコらしくなりたいんです!」


「そうか。良く分かった。…では瑞希よ、入門にあたって一つ言っておく。髪は切るなよ。そうだな…差し当たって腰くらいまでは伸ばすように」


「え? どうしてですか? それにボク、女の子って言われたくないのに…髪を伸ばしたらそれこそ女の子みたいだし…」


「…なんだと?」



お兄さんは真剣な表情でボクを見据える。



「ナニを言ってるんだ! 女子の格好が大切なんだッ!」


「…?? …あの…ボク、男らしくなりたいのに…。なんで女の子の格好を?」


「オマエが真の男なら、見た目がどうであれ身体から溢れ出す男らしさは揺るがないんじゃないのか? たまたま男に生まれついただけで、メソメソ、ナヨナヨしたやつが男らしいといえるのかッ!?」


「ッッ!? よくわかんないけど、分かる気がします!」



お兄さんはボクの答えに満足して、ドヤ顔で尤もらしいことを言ったのだ。



「女の格好をする程度でオマエが女っぽくなるなら、既にオマエの男気は外見に負けてるんだ! オマエの男気はその程度のものなのか!? オマエは男だろ!」



当時、ボクはお兄さんの言う事が良くわかんなかったけど、なんとなく「ボクは男なんだから、髪の毛を伸ばしたくらいじゃ女の子みたいだって思われないんだ」って納得したんだ。



「すいません! ボクが間違ってました! ボク、頑張ります!」



それから、ボクは必ず女の子に間違われちゃったんだ。


ホントにこんな事をしていて男らしくなれるんだろうかと子供心に感じた。





師匠の特訓は厳しかったけど、同時に優しくもあったし6年間も続けることが出来た。

まあ特訓とはいっても、武術の為の基礎トレーニングみたいなものだったけど。


だけど、カラダを動かし続けたお蔭で、ナヨナヨ・・・・なんてことはなかった。


両親…特にお母さんはすごく喜んでくれた。

お母さんは強い男が好きなんだ。



小学校卒業時に、気になる女の子に告白してみたんだ。



「…美香ちゃん。あのさ、中学にいったらさ、ボクの彼女になってっていうか…付き合ってほしいっていうか…あの…」


「イヤ」


「…え!? ど、どうして!?」


「だって、瑞希みずきくんって私よりも可愛いだもん」


がーん。


「ボク、男らしくない…の?」


「男らしいとかじゃなくて、…それ以前に女の子にしか見えないの」



そ、そんな。

ボクの6年間は…。


いや、ボクはこの6年間トレーニング、つまり基礎特訓をしていただけて実際に戦うすべを教えてもらったワケじゃないんだ。


だけど強くなれば今度は変われるはずだ!


良し! 中学生になったら師匠に戦い方を教えてもらおうっと!


ボクは中学生活に期待したんだ。





中学進学のとき、たまたま父親が母親の故郷…良くわかんないけど、ヨーロッパ(?)…に転勤だかナニかすることになった。


いい年して夫婦仲がすこぶる良好な両親にとって単身赴任なんて論外らしく、里帰りも兼ねて夫婦連れ添って行くことになったみたい。


ちなみにお父さんは…なんでも企業戦士・・って言われるくらいスゴイ人らしく、お母さんはそんなお父さんに一目ぼれして押しかけ女房しちゃったんだって聞いていた。



「瑞希。お前も父さんたちと共に母さんの国・・・・・に行くことになるんだが…大丈夫か?」


「ミズキサン、シンパイしなくてダイじょうブ。ママのクニ、きっとキにイルから」



ボクはお母さんが大好きだ。

一緒に付いていきたかった。


両親…特に母親と離れ離れになるのはイヤだけど…でも、それは男としてどうかと思ったんだ。

いつまでもお母さんに甘えるわけにはいかないって思ったんだ。


そんな思いも後押ししてか、ボクは師匠との修行を中途半端にしたくない一心で、両親を説得し、師匠の所に内弟子…住み込みでの修行を申し出たんだ。


両親は最初渋っていたけど、お母さんが「ミズキサンがツヨクなるなら、ママうれしいワ」と許してくれたんだ。



「…あとでムカえにくるカラ、それマデ、ゲンキでね」



お母さんはそう言って日本を…ボクの前から去っていったんだ。



…ホントは、お母さんと離れたくなかった。

でも、ボクが一度決めたんだ。

次にお母さんに逢う時は、ビックリするくらい男らしく、強くなってみせるんだから!





「師匠、ボクを内弟子にしてください。本格的に強くなりたいんです。戦い方を教えてください! ボク、なんだってします。どんなつらい修行にも耐えます!」



ボクは師匠に自分の決心を告げる。

師匠は、ボクの決意を知っているんだろう。いつになく真剣そうだった。

これから本格的な修行が始まるんだと思うと身震いしちゃいそう。



「よし、男子に二言は無いぞッ! …では質問するッ! …男と女、強いのはどちらだッ!?」


「男です!」



ボクは自信満々に応える。

しかし、師匠の考えは違うようだった。



「違うなッ! 瑞希よ、想像してみろ。男女共に修める事ができる戦闘術と、女しか出来ない戦闘術をッ!」


「…………?」



よくわかんない。

そんなボクに師匠は分かりやすく教えてくれたんだ。



「…忍者は知っているか? 忍者でもクノイチと呼ばれる女は戦い方がまるで異なるぞ」


「え、そうなんですか? クノイチさんしかできない戦い方があるんですか?」


「うむ。クノイチというのは一例にすぎん。剣、ナイフ、長刀、弓術、徒手格闘術、暗器など…これらは男も女も修めることが出来る。しかし、女だけ・・・の戦術は様々にして確実にあったのだ。故に女の方が戦術の幅は広いのだ!」



がーん。

知らなかった。

女の子にしか使えない戦法があったなんて…。



「そんな…。女の子の方が…いろんな戦い方が出来る…。つまり強いってことですか?」


「そうだ」


「で、でもっ。女の子って…チカラが弱いんじゃ…」



すると師匠はお裁縫セットから小さな針を取り出した。



「…この針。刺さり処によっては相手を殺すことは容易だ。そして、針を急所に刺すという行為だが、女子が針を隠し持ってオマエに近づいて来たら…どうだ?」


「…ゴクリ」



た、たしかに、可愛い女の子が密着してきたら…デレッとしちゃうかも。そしてチクっ・・・て…。



「…あっさり刺されちゃうかも…です」


「そうだ。これが厳つい男ならそうはいかん。男がカラダを寄せ合おうと近づいて来たら警戒するだろう」



な、なるほど。

女子の方が相手を無防備にしやすいのか。



「男相手では警戒するし、そういう相手から即死級の一撃を貰うことはなかなかないだろう。だが女に油断して刺されたら即死なのだ。…残念ながらオマエは非力だ。よって女子のような戦い方が向いているだろう。だから瑞希よ、これからは髪を伸ばすだけではない。この道場にいる間は女装をするのだ。差し当たって……これだ!」



師匠は奥の秘密部屋から女の子の服を取り出した。



「多少擦り切れようが気にするな。いくらでもあるからな。他にも様々なデザインを多数そろえてある。さあ、ビシビシしごくからそのつもりでいろ!」


「は、はい、師匠! よろしくご指導ください!」


「よし、良い返事だ! 瑞希よ、更にコレを着るんだ。パットも忘れるなよ!」



次に師匠は……信じられないモノを出してきたんだ。

色とりどりの…女の子の下着類。

は、初めてみる。

ちょっと気恥ずかしい。


…え、ちょっと待って…。


コレを…着るの?



「え…これは女の子用の下着…。ぶ、ブラジャーもですか…? これ…ボクの修行に関係あるんですか?」



ボクがいきなり尻込みしちゃったのが気に入らなかったのか、師匠が吼えた。



「馬鹿者ッ! オマエは一般の男よりも身長は低い故にリーチも短い。故に女の立場となって修行に打ち込むのだ。そうすれば自分よりも大柄な男に対処しやすくなる!」


「な、なるほど。…で、でもっ。女性の立場というのは解りますけど…。なんで下着まで女物に…」


「分からないなら教えてやろう。どんなに激しく、素早い運動をしようとも胸パットがずれないように気をつけるのだ。これは無駄な動きを制限する訓練になる!」


ッ!!


「なるほど!」


「それに女物の下着パンツなどを穿いているところなど見られたら困るだろう。故にスカートが必要以上にめくれ上がらない様に動きを最短、最小限に止めるのだ」



そうだったのか。


男子でありながら女子の身になって様々な戦い方を訓練する為。

ボクの無駄な動きを制限し、さらに最小限の動きを鍛錬する為。つまり最速最短な武術のためにってやつだ!


すごい!

さすが師匠だ!



「は、はい、分かりました師匠! ……でもこんなミニスカートじゃ……あの…」


「馬鹿者ッ! 見えそうでなければ鍛錬にならんだろうがッ!」


「それに下着ぱんつも…面積が小さすぎ…」


「知らんッ! 見せたくなければ努力しろッ!」



ううっ。

すごいスパルタだ。

女物の下着を見られたくないなら、気合を入れて頑張らないといけないんだ。





だけど、そうは言っても…理屈は分かっても…。


色々な鍛錬をしながらパンチラを防ぐってのは…難しくて…。




ボクは武器を用いた戦闘を中心に稽古をしていた。

何故かって、武器を持てば男女の差なんてなくなるから。


今日は片手で小太刀を持ちながら、腰のポーチから万力鎖を瞬時に取り出す訓練をしている。



カシャカシャ。


「…し、師匠。 なんだって録画を…それに写真撮影なんか…?」


「ナニを言っている! オマエの癖を見抜くためだ! 師としてお前の欠点を見抜くために必要な事なのだ。さ、そこで蹴りだ。もっと足を上げろ!」


「は、はい。師匠…。 でも…下着パンツ見えちゃ…。…は、はずかしいよぉ…!」


「うむ! いいぞ! その調子だ!」


「ううっ。せめてお尻から撮ってください…。前は色々と…あの…」


「ナニ? 最初から撮られる前提で稽古してどうする!?」


「そ、そんなつもりは…っ」



ううっ。

ボク…至らない弟子でゴメンナサイ…。






とある日。


セーラー服を着たボクと、胴着を着た師匠が道場で対峙している。



本格的な実戦稽古だ。


ドキドキしちゃう。



「よし、これから組手を行う。これから俺がオマエを襲う。打拳、爪剥ぎ、指折り、あらゆる方法を用いて俺を全力で仕留めろッ!」


「はい師匠!」






そしてボクはあっという間にボロボロにされちゃったんだ。




「…ふう。これから稽古中でもオマエに隙があれば今後も同様の訓練を行うぞッ!」


「し、師匠しひょう…あ、ありがとうござ…ました」






とある日。


ボクはセーラー服にエプロン姿で台所に立っていた。



「…ふう。掃除、洗濯、…ご飯の支度も完璧だ。でも強くなるのに家事までする意味あるのかなぁ。師匠は女子力を鍛える事で漢気を逆境に置くことができるとか何とか…ホントかなぁ。…あ、師匠が帰ってきたぞ。お帰りなさい、ししょ…きゃあああッッ!?」





「……あふぇえ…」


「もうへばったのか! 第一隙だらけだったぞ!」


「らって…らってぇ…いきなりなんだもん」


「言い訳は聞かん! さぁ、この状況から俺を制圧するんだッ!」


「手…足…にチカラが…はいりませ…ん それに…ゴハン冷めちゃう…」


「オマエは強くなる気があるのか!?」





とある日。


ボクはお風呂上りに髪を梳いている。

ボクの髪は師匠に言われた通りに結構長く伸ばしているけれど、全然櫛に引っかからない。

肌も…ボクは西洋人とのハーフなせいか、白い肌にはくすみもない。


さっきの稽古の時にも師匠に言われたんだ。「オマエの身体は、柔らかさとしなやかさを兼ね備えている。素晴らしいぞ」って。



うふふ。

これも修行の賜物かなー。



さっきまで師匠と稽古しまくっていたんで全身気怠いけれど、自分の身だしなみはきちんとしなくちゃダメなんだ。



ふと、師匠がボクの背後に立った。


いつもみたいに襲い掛かってくると思ったら、何だか様子が違う。



「…瑞希。今連絡が入った。…オマエのご両親が…」


「…え?」




なんでも、ボクのお父さんとお母さんが行方不明・・・・らしい。


大好きだった両親が死んでしまったじゃないかって思うとボクは目の前が真っ暗になった。



だけど、師匠が優しく抱きしめてくれたんだ。



「瑞希…。強くなるんだ。そうすれば…きっと大丈夫だ」



そうだ。

お母さんは強くなったボクを迎えに来てくれるんだ。


ボクは師匠の胸の中で声を押し殺して泣いた。








それからボクは一層稽古に励んだんだ。

今まで気乗りしなかった女子力を全面的に押し出す稽古だって頑張っちゃうぞ。



「お帰りなさい師匠。 ……立ち技稽古にします? 武器術稽古にします? それとも…ネ、ワ、ザですかぁ♡?」


「……なんだその言い回しは?」


「女の子っぽくないですか? だって師匠が良く言ってるじゃないですか。女の身になって武の腕を磨けって。それに漢っぽくなるためには漢気を女子力で押さえつけることが大切だって♡」


「………」






バキィッ!

「うおおぉッ!?」


「えへへ。どうしちゃったんですか。動きが鈍いですよ?」


「くっ。頭で分かっていても、瑞希が…本当の美少女にしか見えん…。それに、動作の一つ一つが…悩殺してくるようだっ!?」


「驚きましたか? ボク、男性を惑わす女の子について勉強したんです。こんな風に♡」



ボクは自分からミニスカをチラリとめくり、見えそうで見えないギリギリで蹴りを繰り出す。

唐突な事に驚いた師匠は、ボクの蹴りをまともに鳩尾みぞおちに喰らう。


ボグゥッ!

「ッッ!? ぐわぁッ!!??」




あは。

あれだけ強かった師匠が、ボクの前に倒れ伏している。

やっぱり師匠の言う事は正しかった。

これからも『理想の女子』を追及するぞ。

そしてもっともっと強くなるんだ!



理想の女子。

それは……。


身長は…ボクと同じかやや高い。

体幹がしっかりして、下半身の安定感が凄いから、お尻が大きくて太ももも鍛えられている。

師匠がいつも言ってるようにおっぱいが大きい。(けど無駄な動きをしないからあんまり揺れない)

それでいて女子力が高くて、家事とか万能なんだ。


……。


なんか違うかもしれないけど、師匠が言った事を考えるとこうなっちゃうんだ。

だから、そういう女性に近づくようイメージトレーニングを頑張るんだ!






中学の三年間もあっという間だった。


ボクは3年生のある日、意を決して意中の女の子に告白した。



「…沙織ちゃん。あのさ、高校生になったらさ、違う高校にいっても…ボクの彼女になってっていうか…付き合ってほしいっていうか…あの…」


「イヤ」


「…え!? ど、どうして!?」


「だって、瑞希みずきくんって普段は可愛い…いや、可愛すぎるんだもん。そして部活やってる時は可愛さ余って凛々しさ倍増ってかんじ」


「か、可愛いってなんだよ。ボク、剣道部で頑張ってるし。…結構強いよ」


「それは知ってる。でもニキビとは無縁のキレイな肌。長い睫毛まつげ。目鼻立ちは女の子の誰よりも整っているし。それにその枝毛一本も無いようなしっとり艶やかな髪。どうやって手入れしているのかと思えば量販店の安物シャンプ―とかで適当に洗ってるだけなんて何の冗談よ。私がどんだけ苦労していると思ってるの…ブツブツ」


「……え、えー…っと…」


「それに毎日持ってくるお弁当って手作りでしょ? お裁縫ソーイングセットとかも学校に持ってきてるし」


「あの…それにはワケが…」


「だからね。私、自分より綺麗で可愛いくて女子力が高い男の子とはお付き合いしたくないの。ゴメンね」



そんな…!

ボクの道場通いは無駄だったの?


いつの間にか家事が万能になっちゃったのだって、師匠が「オマエの漢気は女子力とやらに負けるのかッ! もっと精進しろッ!」「世の軍人にとって炊事・洗濯・裁縫は基本技能だ!」とか言ってくれたから…。


いや、無駄じゃない。

現にこうして誰よりも強くなれたんだ。

だから中学三年間誰からもいじめられたりしなかった。


なら…師匠の言う通りボクの内面からにじみ出るっていうか、溢れ出す漢気が足らないんだろう。



それにはどうするか。

やっぱり師匠の言う通り、漢気を逆境に置くしかない!

甘えちゃダメだ。

もっともっと女子力を鍛えて、そして強くなるんだ!







中学卒業を間近に控えたある日。


…そんな風に親身になって指導してくれた師匠との別れが唐突にやって来た。

そして共に汗を流してきた…通算にして九年もの間修行に励んだ道場が突然閉鎖してしまっていたんだ。


固く閉ざされた道場の玄関先で見知らぬオバチャンがいろばた会議している。



「…聞きました? この道場…。問題あったらしいわよ。夜な夜な男女の叫び声が聞こえるとかで、近所の人が通報したんですって…! そしたら…!」


「ええ。変質者・・・が道場主みたいね。何でも女物の服やら下着やらが大量に見つかったとか」


「そればかりじゃないわ。女の子・・・を盗撮した写真やら録画映像やらも大量に見つかったとか」


被害者の女性・・・・・・から被害届が出たのかしら? 彼女も勇気を出して早く申し出ればよかったのにね…」


「…なんでも任意同行されたこの道場主…犯罪者が「もう限界だ」「自分を抑えられそうにない」とか錯乱した事を言っていて詳しいコトはが分からないんですって。だから被害者女性も特定できないらしくて…」



え…?

なんなの?

師匠が…女の子・・・を……?




そんな……。ボク、内弟子になってまで一生懸命師匠に師事してきたのに、その裏で師匠がそんな事をしていたなんて…!?



…師匠。

あんなにも強くて…男らしくて…逞しくて…憧れていたのに…。

どうして女の子に乱暴なんか?


そんな事する人には見えなかったのに…。




確かに師匠の指導にはおかしいと思うところが無い訳ではなかった。


でも師匠の「強くなる第一歩は女装から」っていう方針には最初は半信半疑だったけど、実際に師匠のお蔭で強くなれたんだ。


この間も剣道は全国大会のいいところまでいったんだ。


だけど肝心なところで攻めきれなかったのは師匠の稽古を思い出しちゃったから。


…つまり師匠の指導が実戦形式、つまり人を戦闘不能にしちゃうっていうか…「これ、下手しなくても相手死んじゃうんじゃない?」ってモノばっかりだったんだ。それに古流剣術って剣道のルールと全然違うから実際の試合では上手く動けなかった。

つい相手の脚とか狙ってみたくなったり…手裏剣投げたくなったり…甲冑組手っていうか…色々・・したくなってしまうんだ。



今まで色々なケイコを頑張ったのに…。



ボクがあまりの出来事に混乱して道場の玄関で呆然としていると、ふと、師匠の声が聞こえた気がした。





「真の男になるためにオマエには試練が待っているだろう。焦らず、精進を怠るな」







…師匠。


弟子であるボクが師匠を疑ってはなりませんよね。


師匠がそんな人じゃないのはボクが一番よく知っています。

きっとナニかの間違いです。



ボク、高校に進学しても師匠の教えを守って…髪を切りません。

師匠が好きだったこの髪型でもっと強い男になってみせます!








ボクは高校進学を機に師匠の指導から離れる事になった。


そして「男にまみれた学生生活を送ることで今度こそ男らしさを身に着けてやる!」と意気込んだ。



選んだ高校は男子校。

それも地元で有名な質実剛健を尊ぶ校風で知られた学校だ。


しかし現にふたを開けてみれば、高校に入学したボクを待っていたのは、覇気が暑苦しいまでに燃え上がる眼力ではなく、チラチラどころかジロジロした好奇心にあふれた視線なのだ。


昇降口でクラスメイトAに確認してみたところ「気を悪くするなよ? 女子が男装しているのかと思ったんだよ。声も……殆ど声変わりしてないしな」だって。


失礼な! ボクの事を“女っぽい”とか“女顔”どころじゃなくて“女子”だって?



丁度廊下の壁に鏡が掛かってあったので自分の姿を確認してみた。



女顔で、色白で、肌理きめ細かい肌、細いおとがいと首回り。ほっそりとした肢体。そしてポニーテール。



……………。



ううっ。

師匠が「武術に筋力は不要だ。屈筋を鍛えると筋力は付くがその分動きが鈍る。伸筋を鍛えるのだ」とかいうもんだから、これでも全身的にしなやかな筋肉で覆われているハズなんだけど…。


師匠も「柔らかさとしなやかさ。そしてよく引き締まった見事な肢体だ」って褒めてくれたし…。


だから(辛うじて)細マッチョだからっ。多分っ!




しかし落ち込んでばかりはいられない。

気を取り直してボクの男気育成計画を実行しなくちゃ。


高校でも武道系の部活に入部するんだ。

有望株な新人として認知されれば、『女子みたい』から『気鋭の新人』へ周囲の印象が変わるだろうという目論見なんだ。

しかも中学時代と異なり、男子高の武道系っていう男臭い連中に囲まれていれば朱に交われば赤くなるじゃないけれど、自然に男の気概みたいなものが身に付くっていう一石二鳥の作戦だ。


唐突に師匠の指導を離れる事になっちゃったけど、その直前まで師匠とは武器有り無しに関係なく、立ち技寝技共に実力が伯仲するまで実力を伸ばしていた。

いや、実力伯仲どころかボクが本気で女子モードで戦えば、ボクが必勝だったんだ。


それに中学の剣道部時代も実力はあったほうだから、おそらく実戦形式に慣れ親しんだボクでも道場武道でいいトコロまでいけると思う。


よし、剣道部を見学だ。中学でも剣道部だったしね! 

空手部は(相手が)アブナイから止めておこうっと。





裂帛の気合い、竹刀の音、摺り足の音。そんな心地よい空間を想像してウキウキしながら練習場だという体育館に向かってみると……





……剣道部員は誰も居なかった。


そこで練習していたのはバスケ部が数名のみだったのだ。

部員さんを捕まえて「あの…剣道部は?」と聞いてみたら、「剣道部は3年が主でなぁ。ウチは普通校だから進学を考えて俺たち3年の練習は希望者のみなんだ。2年は…確か今日は模試が近いってんで誰も部活に来ないんじゃないか。ところでキミ、女子校からの見学者? 何校? 他校のでもマネージャーは大歓迎だから!」とのことだった。



そんな…!?

学校案内パンフレットに『質実剛健』って物凄い毛筆で書いてあって、しかも剣道部と柔道部の写真がデカデカと貼ってあったのに…。


進学とか模試が近いからって練習をないがしろにするなんて…。


ああ、こんな事ならスポーツに力を入れている高校を探せばよかった。

男子校と質実剛健に騙されてしまったカンジだ。

自宅から通えればいいなって安易に考えなければ…。



そうだ!

柔道部と空手部に行ってみよう!

今までの実戦的(?)な鍛錬が役に立つぞ!

色々と対戦相手がアブナイけど気をつければなんとかなるかも…!





…だめだ。

体験入部とか言って空手着に着替えてさせられて……。

乱れた襟元や胸元への視線は気色悪いなんてもんじゃなかった。

ボクはオトコだっていうのに…なんだよあのイヤラシイ視線は!


実力や男気以前にあの好奇で好色な視線に耐えられない…!!


ボクを……ボクをあんな目で…ああああ。


同じ組手でも師匠の真剣な眼差しとは大違いだよっ。





…ホントにだめだ。

ボク、男子校の運動部がこんなにも女子に飢えているなんて思いもよらなかった。

色んな部に顔を出しても「女子マネージャー大歓迎」「付き合ってください」的な提案ばっかりだったのだ。

ボクがいくら男だって説明しても…身の危険を感じてしまう。

だからといって自衛のためについ・・ヤッチャッタりしたら…。


ううっ、こんなんじゃあ武闘系の部活に入れないよ。

かといって文科系の部活は門外漢だし…。






仕方ない。何かと落ち着くまで帰宅部しかない。


さっさと帰って自主練でもしよう。

師匠の道場がああなっちゃったけど、師匠に課された日課は守らないといけない。





一旦家に戻ったボクは、着替え・・・を持って公園のトイレへ。



「…はあああ。ボク、これからどうすればいいんだろう。武術の腕を磨くのは自主鍛錬でいいけれど、せっかく男子校で漢気を磨こうと思ったのに、色々台無しだよ、もうっ!」



そしていつもの格好・・・・・・に着替えてから、周囲に人がいないのを確認して外へでる。



今のボクは女子高生の格好をしている。

以前に師匠から大量の女子高制服やら女物の服を受け取っていたんだ。


スカートのウエスト部分を折り込んで膝上20センチ程度のミニスカ化したうえでのニーソックス。

胸パットや腰パットも忘れずに。

腰パットだけど、積み重ねた鍛錬のお蔭で今ではパンモロどころかパンチラもしないまで工夫できるようになっているから、このくらいまでミニスカにしたところで関係ない。

胸パットは師匠に言われた通り、完全にズレないようになったら段々と大きくしているから今では結構な巨乳さんだ。

ひっつめ髪ポニーテールも解いて、三つ編みに大きいリボン。

リップを唇になじませて…と。

最後に伊達メガネ。


……完璧だ!


何処から見ても文学少女の出来上がりだ!


………顔は眼鏡を除いてすっぴんだけど、それでも全く問題ないのが気になるんだけどね。




ボクは好き好んで女装しているわけではない。師匠から言いつけられた鍛錬の一環なのだ。


「瑞希よ、女の格好をして街を歩くのだ。声をかけてくる軟派な男を周囲に悟られないよう・・・・・・・・・・撃退しろ」


…ということ。つまり、この姿は悪漢を誘うためのエサなのだ。




今日の暗器は…栓抜きにしてみた。

栓抜きを逆手に持つと、柄の部分で相手の急所を突くのに便利なんだ。

それに栓抜きは穴に親指を添えられるので固定しやすいし、しかもこの栓抜きは小型なんで手の中にすっぽり隠れてしまうんだ。





今日は少し風が吹いているので片手でミニスカのお尻を若干抑えながら街を歩く。


文学少女にしては攻め過ぎな気がしないでもないけれど、まあいいや。



ちょっと歩くだけで後ろから不穏な気配。


通り脇のショーウインドウを横目で見ると、明らかに軽薄で頭悪そうなチンピラさんがいた。

ニヤニヤしている口元から覗く歯はあちこち抜けていて、どう見てもまともな生活を送っている人には見えない。

それでいて自信たっぷりに肩で風切って歩いているんだけど、明らかにボクを狙っているようにも見える。



ボクが嫌いなタイプ。



よし、コイツにしよう。

ターゲットを決めたらそいつに声を掛けてもらうために思わせぶりな素振りをするワケなんだけど、コイツの場合は必要なさそうだ。

  




ボクはとあるお店の前で立ち止まると、いかにも気弱な女の子っぽくソワソワしてみた。

イメージは“学校帰りに待ち合わせ”だ。


案の定、チンピラさんが食いついてきた。



「俺ぇあぉ、きみみらぃなコに逢いたかったんだよねぇ~」



げ、頭悪そうな口調でいきなり後ろから抱き着いてきたぞ。



「うひひ、やわらけぇ~。いいにおいだねぇ~~」


「や、やめてください…」



ボクははっきりと拒絶の意志を示しながら気弱そうに身じろぎする。だけど周囲のひとたちは、恐る恐るといった様子で遠巻きに見ているだけで助けてくれない。


ボクは「いや…いや…」と硬直して震えている。

チンピラさんは調子に乗って頬ずりまでしてきた。

アクセサリーが当たって痛い。


そして誰かが小さい声て「止めろよ」と声を掛けた。

その途端周囲をチンピラさんが恫喝する。



「見てんじゃねぇッ! …えへ、こわがらせちゃったかなぁ~~? うひゃ~、足もキレイでか~わいいぃ~~。なあ、いいトコいこうぜぇぇ~~、ヒマしてんだろぉ~~?」



ボクは自らの身体を抱きすくめるようにして小刻みに震えながらモジモジして脱出を試みるけど、チンピラさんが後ろから抱きすくめているのでビクともしない・・・・・・・振りをする・・・・・



「おれぁ、ヤバいクスリのバイやってうからよぉ。カネはあんだよぉ~。ひひッ。キモチよくなるクスリぃ、きょおみあんだろぉぉ~~、ひひひひひひ」



なんだこのダメなヤツは!

こんな社会の敵は退治確定だ!



「いや…離してぇ…」(涙目)


「へっへっへ…泣いちゃってるぅぅ~~? 俺が慰めてやるおぉ~~ いひひひっ」



そろそろかな…。


ボクは自分ボクの腰に回っているチンピラさんの手を抱きかかえるようにして死角をつくりつつ、指に栓抜きを捻じ込ませて、そのままテコの原理で指を折る。


ビギッ

「ギッ!?」


さらに偶然を装ってかかとでチンピラさんの足の指先を踏む。

体重移動を上手く利用しての踏みつけ。しかもこのローファーは改造して踵の部分を重く固くしているから結構痛いはずだ。



「ッ!?」



そのチンピラさんが更に怯んだことで、密着していた身体に隙間が出来た事を見計らい、身体を思い切り身じろぎして偶然・・に肘鉄を水月みぞおちに。



「ぐぇッ!?」



チンピラさんの身体がくの字に折れたところで、振り返きざまにチンピラさんの足を震脚気味に踏みつけると、チンピラさんの足甲の骨が砕けたようだ。でもそのまま意に介さず足を踏みつけたまま追撃した。


体勢が崩れたチンピラさんの顔を手のひら・・・・で突き飛ばす。

そして女の子っぽく悲鳴をあげる!



「いやぁッ! 離してぇッ!」

ズグッ!

「がッッ!!?」



実は手に隠し持った栓抜きで人中を強打している。

一瞬だから周囲のギャラリーには両手で突き飛ばした様に見えるだろう。

足を踏みつけて固定しているから、チンピラさんの足首もグキンと音がした。



絶好の具合に人中を撃ち抜かれたチンピラさんは悶絶してしまっていた。

若干狙いがずれたのか、足元には黄色い歯(?)も落ちてる。



ボクは口に手をやり、「あ…ああ」と泣きながら・・・・・その場を逃げ出した。





……ふう、今日もまた一人この街に巣くう悪者を退治したぞ。


この悪者退治もボクが男らしくなって女装が似合わなくなったらできなくなるなぁ。


“武術とは無縁そうな気弱な女の子が偶然に”ってトコロがみそなんだ。

もし男らしい人が悪者をやっつけたら、過剰防衛になっちゃうからね。



でも悪者退治後に、こっそりそれを視察していた師匠から至らなかった点を指導してもらうのが日課だったのに、もう師匠はいないのだ。


これからは本当に自分の力だけで男らしくなるために頑張らなければならない。


そう思うと、これからの高校生活が不安に思う。



「…ボク、今度こそはちゃんと男らしくなれるかなぁ」




だけど…男らしい人がいない男子校って何の役に立つんだろう?


今更ながら女子がいない学校を選んで失敗したかもしれないと思った。







そうはいっても不満だらけの高校生活もしばらく経てばなんとやら。


そして“朱に交われば赤くなる”っていうのもよく言ったもので…。



ボクはなんだかんだ言ってクラスの連中と仲良くなっていた。



毎日の様に顔を突き合わせているせいか、皆はボクを奇異の目で見る事もなくなって、今では普通に接している。


でも慣れていない連中の所にいくと、相手の無遠慮な視線が鬱陶しいので、そういう意味でボクはクラスの連中のコミュニティの外には出る事が無かった。


剣道部だけど、覇気漢気とは関係ない単なる運動部となっている剣道部にはなんの魅力も感じなかったので、未だ入部を考えていない。


空手部、柔道部は初日の印象が最悪だったので、足を向ける気にもなれなかった。



そんなんで、ボクは“早朝と夜の鍛錬トレーニング、学校帰りは友人と約束していないときは女装で世直し”という毎日を続けている。


だけど、指導アドバイスしてくれる人がいないからかな。

なんかこう…このままでいいのかなって不安もあったんだ。






ある日、クラスメイトの一人が小説を読んでいた。


どんな内容なのかって聞くと『とある国のお姫様が騎士団長を務める国が滅ぼされて、その姫騎士は剣闘士奴隷にされちゃう。彼女には様々な苦労が降りかかるんだけど、決して故国と騎士の誇りを忘れずに強く生きていくという物語』なのだという。


「この姫騎士のクレメンタインってのがいいカンジに“くっ殺系”でさ。俺、好みなんだわ~」


「“くっころ”って?」


「あ、ああ。…まあ、なんだ。そうだなー。敵に敗れて生き残ったが、囚われちまったとするわな。おめおめ生きているのが辛い。かといって自決でもしたら護るべき主君や国を見捨てたっていうか、騎士の任務や誇りを放棄したって意味で騎士としては失格だろ? 騎士は主君の為に戦って死ぬもんだしな。だけど、生き恥を晒したくないっつーか…。だから相手に「くっ…殺せ!」って吐き捨てるんだ。それが似合う騎士の事を“くっ殺系”っていうんだ」



なるほど!

「さあ、私を殺してみろ」って…カッコいいな…。


ボクは今まで武術一辺倒で、マンガやゲームについてそれ程夢中になったワケじゃなかった。

そういう小説とかを本格的に読んだことが無かったから、女の人がそういう誇り高い騎士という話に興味を覚えた。


女の人でも騎士として堂々としているトコロが良いね。


でも、ボクが「面白そうだね。良かったら貸してよ」っていったら、そいつは「い、いや、瑞希にはまだ・・早いよ」だって。


今更だけど、ボクが知らないコトってたくさんあるんだな。


ボク、男っぽくなりたいって思って、その為には強くなろうっとカンタンに考えていたけど、強くなる以外に男らしくなる方法もナニかあるかもしれない。



それで、武術以外の他の事を新たに始めてみようと思ったんだ。

 


「ねえ、強くてカッコイイ主人公が活躍するマンガとかがあったら貸して欲しいんだ」


すると、皆がボクに声を掛けてくれる。


「お! 瑞希もマンガの魅力に目覚めたか? そうだな…女の子が無双する話なんかあったっけなぁ?」


「戦記物もいいよな。屈強な男共に混じって女武将が活躍するのもおもしれーぞ」




「………」


な、なんで女の子が活躍する作品ばかり…。







休み時間。

友人と一緒にマンガを読んでいる。


ファンタジー物で、可愛いヒロインが一杯出てくるんだけど、こういうファンタジー系創作物に出てくる女の子ってみんな露出高いよね。


なんでなんだろう?



「どうしてマンガに出てくる女の人って、戦うってのにこういう軽装しているのかな?」


「そりゃあ、剣の腕が未熟な時はお色気で強い奴に庇護してもらうとか、相手の油断を誘うとかしてんだろ。強くなったらなったで今度は敵の攻撃なんか当たらないし、スピード勝負で一気に敵をせん滅したりするんじゃないか?」


「へー。なるほどね」



なるほどね…。

単なるお色気で男性読者を煽っているだけかと思ったけど、色々考えられているんだなぁ。

だけどこのマンガの主人公…男性キャラって周囲に露出系な女の子たちが群れててもナニも思わないのかな。

物語通して爽やか系イケメンだし。

でももしかすると、彼は「女の子にカッコいいとこ見せるぜ」っていう下心満載かもしれない。


下心。


そういえば、ボクが武術を始めたのも幼い頃に女の子に告白して「女の子みたい」だってフラれたのが切っ掛けだったなぁ…。



そして師匠に会って「女子力を鍛え、強さを鍛えるのだ。そうすれば漢気などおのずと身に付く」って言われて…。



女子力か…。

今まで家事とか女の子っぽい仕草とかに気をつけていたけど。

もうちょっと違うアプローチってないかなぁ。


そんな事を考えながら手元のマンガに目を落とすと、そこには半裸な鎧で身を固めた美少女が剣を振るっている。



この子もこんなお色気な鎧着ているけど、命がけで戦っているんだなぁ。



ふと思った。


闘う女の人って…。

どういう体型が理想形なんだろう。


そういえばこのマンガの女騎士って、身長も高いし、カラダもボン、キュッ、ボンで凄い恰好だ。



女騎士さんの身長は…目測で170センチくらいかなぁ?

お尻は大きくて、太ももも鍛えられたりしているのは、体幹とか下半身の安定さかな。

胸も大きい。



……。


あ。

そう言えば、コレって師匠が言ってボクが理想とした『女性のカラダ』そのままじゃないか!


やっぱり師匠は正しかったんだ!


ボクは嬉しかった。

そして今は会えない師匠に、改めて感謝した。







季節が進んで文化祭の準備が校内のあちらこちらで始まる頃、事件は起こった。


ボクは帰宅部だったこともあり、部活関連の用事もない。

さっさと帰って武術の鍛錬頑張ろうと帰ろうとしたところ、剣道部員に声を掛けられたんだ。


どうやら剣道部は一年生がたくさん入部したらしくて普通に活動していたらしい。ボクはあれから全然剣道部に足を運んでいなかったから気づかなかった。



「きみ…来栖…。来栖瑞希だろ? 中学の時に全国大会でいい成績とった?」


「剣道やめたんだってな…」


「ウチの剣道部は弱小だから興味をもっていないかもしれないけど……残念。って、違う。今日はそういう話をしにきたんじゃないんだ。…実は文化祭の剣道部の企画ネタに協力してほしいんだ」


「これが企画書だ」



そういって出された企画書のタイトルは…



『ドキッ☆ 剣道小町共の大艶武~漢の陣』



…うわ…あたま悪そう…。


なになに?



『一般参加者モノ。迫り来る妖怪の集団をプラスチック模擬刀で退治する。迫りくる妖怪(女装した部員)を退治するのだが、捕まったら熱い抱擁と口紅べたべたのベーゼ塗れにされてしまう』


『剣道小町(友情出演・来栖瑞希)を筆頭とする集団剣舞』



…だって!?

小町(・・)ってことは女装!?

ナニ考えてるんだ!

ボクの女装しての世直しは秘密の活動なんだ。

人前で堂々とするワケにいかないんだ!



ボクは即座に断ろうとした。

だけど、それを聞いていたクラスメイトが悪ノリして「協力してやれよ」「おもしろそうじゃないか」っていうんだ。


ボクは空気読めないヤツって思われるのが怖くて、渋々ながらそのまま胴着の採寸合わせに行くことになった。





「……はぁ。女装かぁ。何も校内でやることになるとは思わなかったよ…」



そしてボクは更衣室でいつもの習慣・・・・・・のままに胴着…この場合は剣舞用ということで胴着に着替えて、剣道部と野次馬クラスメイトの待つ体育館の一角に向かったんだ。




そしてボクを見た連中は…。



「…なんだありゃ? まるっきり女じゃないか」


「胸…でけえ。おい…あんな小道具用意していたのか?」


「ぜんぜん知らねえよ! それに腰つきも女にしか見えな…」


冗談シャレになってねえ…」




……?


ッしまっ!!??



いつもの癖・・・・・で、胸パットに腰パット…更には化粧までしてから胴着に着替えちゃった!!??



パシャパシャ


一人がスマホでボクの写真を撮り始めると、続けて一斉にシャッターが切られる。



「…ッ! やめ…ッ!!」


「へへッ。すげえ!」


「おいおい。そんな特技があったなら隠さなくたって良いだろ?」


「そのデカい胸どうなってんだ…?ちょっと触らせてみろよ…。うおおお柔らけえ…!!」



ボクの両手を捕まえて身動き出来なくしてからジェル入りパットが揉みしだかれる。



「なんだって? おい、俺にも揉ませろ!」


「普段からこんな胸パットとか持ち歩いてんのか? 女みたいな顔してるとは思ったけどそういう・・・・趣味だったなんてな…!」


「…いや…、いやぁ…!」



ボクが身をよじると更にシャッター音!



パシャパシャ。



こういう時こそ師匠に習った武術の出番なのに、友人を傷つけちゃうと思うと手足が竦んでしまう。


既に胴着は乱れてブラは露出し、そのまま揉みしだかれる胸はメチャクチャな事になっていた。



「放してっ」



ボクは上手く逆間接を極めて拘束を解き、両腕を自由にするとそのまま体育館から逃げ出した!





走りながら乱れたブラを引きちぎる。



どうしよう。



ボク、明日からどんな顔で登校すればいいんだ…!


きっと「瑞希ちゃ~ん。男の子の格好してどうしたの~?」とか言われてバカにされちゃうに決まっている!


ああ、どうしてこんなことに…!!





そして校門を出たところで、ボクの意識は唐突に消失した。







◇◇◇◇◇









長い夢を見ていたみたい。









今何処にいるのか分からない。













一目散に校門を飛び出したはずなのに、いつの間にか得体の知れない空間(?)のような処にいた。


















光源もないのに暗くもなく、重力もあるようなないような不可思議な空間はどこまでも乳白色で、空と地の境すらはっきりしない。


ボクの服装は、なんていうか…素朴なシャツというか…貫頭衣(?)に変わっていた。

ブラはさっき引きちぎったので当然身に付けていなくて、腰パットもいつの間にか外れていたんだ。






「ここは…どこなんだろう」



ぼーっとしているボクに、誰かがふと声をかけてきた。



「……あら、ようやく気が付いたようね」



いつの間にか目の前で誰かが微笑んでいる。



いや、“誰か”なんて失礼だ。プラチナブロンドとサファイアの瞳のとんでもない美女…いや美少女がそこにいた。


…彼女の美貌に見惚れる以前に、何だかボクという存在自体がその輝きに塗りつぶされそうで…むしろ神々しいっていう印象が先行するような、とんでもない美少女。


そしてその絶世の美貌の少女が口を開いた。



「…は、初めまして。貴方様。私はフレイヤ。ヴァルキュリーを統括している女神よ。見つけるのがもう少し遅かったら、危うくギョル川の流れに乗ってしまうところだったわ。…さっそくだけど、貴方様は私の館フォールクヴァングに来なさい! 反論は許さないわ!」




……………………え?



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[一言] 師匠……www まあ気持ちはわからんでもない。
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