第47話「あのホシを撃て!」
パン屋さんに緊急事態。
いきなりやってきた凶悪犯に店長さんが人質にされちゃいました。
『この銃でやります』
『え……おもちゃだよね』
し、シロちゃん、おもちゃの拳銃で本当に大丈夫なの!
お客さんのいなくなった午後、お店のカウベルがカラカラ鳴ります。
「あ、シロちゃん、おかえり~」
「お昼ごはんで戻ったであります」
「うん、今日、お弁当持って行ってなかったよね」
「お腹空いたであります」
「はい、どうぞ」
お昼ごはんは「さつまあげ」。
「本官の好物であります」
シロちゃん、すごく嬉しそう。
って、わたし、ちょっと眉間に縦皺発生。
「ねぇねぇ、シロちゃん」
「なんでありますか?」
「シロちゃんなにやってるの?」
「は?」
「シロちゃん、仕事なにしてるの?」
「警察の犬であります」
ですよ、警察の犬でメス犬なんです。
でも……
警察の仕事なんてあるんでしょうか?
「今日はなにやってたんです?」
「村をパトロールして、学校にも寄ったであります」
「仕事なんてあるの?」
「先日のイノシシの苦情とかあります」
「そう、そうだった、うん……」
「そんなわけで、本官忙しいであります」
「わたし……思うんだけど……」
「?」
「村をパトロールして、学校にも行くんだよね?」
「であります」
そう、わたしが学校に配達に行ったら、よくいますよ。
たまに給食ご馳走になってるもん。
うーん、休み時間に子供達と遊んだりもしてるような。
「ね、わたし思うんだけど……」
「?」
「パトロールって……散歩だよね?」
「!!」
うわ、シロちゃん銃構えてます。
っても、コンちゃんからもらった六連発のおもちゃ。
「ちょ、なんで銃構えてるんですか!」
「警察を侮辱したであります」
「警察を侮辱!」
「タイホであります」
「シロちゃんの図星だよね?」
「うぐ……」
ふふ、シロちゃんうなだれました。
今の口撃は効いたみたい。
「ねぇ、シロちゃん、遊んでないでお店手伝って~」
「たまに配達手伝っているであります」
「そうじゃなくて……」
わたし、コンちゃん見ます。
ぼんやりとテレビを見てますよ。
画面の中ではサイレン鳴ってます。
拳銃発砲なんだって。
「ほら、お稲荷さまは『いるだけ』だから」
嫌味たっぷりで言うけど、コンちゃん一瞬視線をくれるだけ。
この雌キツネ、ふてぶてしいっていったらありません。
でも、まぁ、神さまなのでそっとしときましょう。
わたしはシロちゃんとお店で働きたい。
コンちゃんと違ってちゃんと仕事しそうだもん。
「でも、一応村人の見回りもあるであります」
「それって、午前中で終るよね?」
「であります」
「じゃ、午後からだけでも手伝ってよ~」
って、話してたらいきなりコンちゃん立ち上がります。
指を鳴らしたら、シロちゃんがメイド服姿になりました。
「シロ、わらわの代わりに働くのじゃ」
コンちゃん、わたしをにらんで、
「ふん、ポンの気持ちよくわかった、ポンなんか好かん」
って、コンちゃん出て行っちゃいました。
怒ってるふりして、お散歩に行っただけです。
「さて、コンちゃんいなくなったから、シロちゃんお手伝い確定だから」
「わかったであります!」
「あれ……わたし、てっきり嫌がるって思ってたんだけど……」
「ふふ……実は先日ポンちゃんとチェンジしてから……」
「ああ……そんな事あったね」
「ちょっとメイドもいいかなと、思っていたであります」
ああ、ニコニコして、クルクル回ってます。
そんな事だったら、もっと前からやってもらえばよかったかな。
「へぇ、そんな事があったんだ」
翌日、お店にはわたしとシロちゃん、店長さん。
コンちゃんはじゃんけんに負けて配達なの。
「シロちゃん、なかなか筋がいいんですよ」
「本当だね、やっぱり大人の女性はね」
「ちょ……店長さん、わたしは!」
「ぽ、ポンちゃん……」
今の言葉は見過ごせません。
わたし、ずっと頑張ってるのに褒めてもらわないと!
「ほら、わたしは? ねぇ!」
「うん、ポンちゃん、制服、似合ってる!」
あ、逃がしません。
店長さんの襟首がっしり捕まえて引き寄せて!
「似合ってるだけ? かわいいでは?」
「かかか……カワイイデス」
「カタカナに、棒読みです!」
「首! クビ! ギブ!」
「ああ! ごめんなさい! ついつい!」
「ポンちゃん暴走するとこわいよ」
「店長さんが『かわいい』って言えばいいだけです」
って、わたしもシロちゃんを見ます。
普段はミニスカポリスのシロちゃん。
メイド姿、わたしが見てもドキドキです。
これは失敗だったかも。
シロちゃんがかわいく見えたら、わたしのライバルがプラス1。
仕事っぷりもいいから、コンちゃん以上に強敵かも!
「シロちゃんっ!」
「なんでありますか?」
「もう、シロちゃんパトロールに行っていいよ」
「?」
いい感じでお客もはけてしまいました。
「ほら、お店空になったから、わたしだけでいいから」
「いいのでありますか?」
「その口調もダメ、シロちゃんは店員に向いてないんだよ」
「そ、そうでありますか?」
「ほら! その『ありますか』とか」
店長さん、ニヤニヤしながらシロちゃんの肩に手を乗せて、
「俺、シロちゃんを指名、ポンちゃんパトロール行けば?」
「あー! 店長さんの裏切り者っ!」
「だってポンちゃん、たまにこわい時があるもん」
「お・こ・り・ま・す・よ!」
「こわーい」
「むー!」
ポカポカ叩こうと思ったらカウベル鳴ってお客さん。
「!!」
お客さん急ぎ足で来て、店長さんを捕まえました。
すぐに別のお客さんも……お客さんじゃないです。
先に入ってきたのは拳銃持った人。
後から来た人も……なんだか危険な雰囲気のおじいさん。
「ななななんですかっ!」
今までお店で西部劇は何度かありました。
でも、今回のヤバさは、元野良のわたしでも感じます。
おじいさんが、
「一般人を巻き込むんじゃない!」
「うるせー!」
これは事件に巻き込まれちゃったみたい。
わたし、シロちゃんにすがりついて、
『ねぇ、シロちゃんなんとかしてっ!』
『大人しくするであります……あっちの刑事はここの駐在さんです』
『え……駐在さんって、シロちゃんの元ご主人?』
『はい……刑事になっていたでありますか……』
『おじいちゃんだけど、大丈夫かな?』
『犯人は銃を持っているであります……』
『シロちゃん、なんとかならないの?』
『本官は……おもちゃの拳銃だけであります』
『うわ……』
『店長さんも人質であります』
って、犯人が銃をおじいちゃんに向けて発射。
おじいちゃんの肩をかすりました。
『まずいであります』
『わたしもわかるよ、シロちゃんどうしよう!』
『この銃でやります』
『え……おもちゃだよね』
『本官が撃ちます、店長さんを助けてください』
『大丈夫なの?』
『本官を信じるであります』
って、シロちゃんにっこり微笑みます。
でも、得物はおもちゃの拳銃なんだよね。
しかし、今は信じましょう。
『本官が撃ったら走って店長さんを助けてください』
シロちゃん、ちらっと銃を見せてくれます。
「そこの女、何話してるんだっ!」
「パンッ」って発射音。
シロちゃんの頬にすっと傷が一本。
わたしの鼻先に撃ちぬかれた髪が舞います。
「タイホーっ!」
構えるシロちゃん。
わたしもダッシュ。
パチンと一度だけ、小さな発射音。
わたし、店長さんを犯人から引き剥がすと転がって逃げ。
「このっ!」
犯人の銃がわたしに向けられます。
うわーん、引き金に掛かった指、こんな時はよく見えちゃう。
わ、わたし死んじゃうのかな!
「!!」
でも、引き金引いても、銃から弾が出ません。
焦る犯人にシロちゃんの銃がうなります。
っても、「パチン」っておもちゃ銃の音なんだけど。
「うぐっ!」
犯人の額に当って弾ける銀玉。
びっくりした犯人が銃を捨てちゃいましたよ。
犯人、シロちゃんに向かって走り出しました。
シロちゃんピンチ!
そんなシロちゃんの前に、さっき肩をやられたおじいちゃん。
犯人の腕をつかまえて、簡単に投げちゃいました。
あっという間に犯人気絶!
おじいちゃん強~い!
「手をやかせやがって!」
手錠を掛けちゃいます。
リアル刑事ドラマ、リアル逮捕見せていただきました。
でもでも、なんで不発だったんでしょう?
わたし、銃を拾ってみたら、銀弾が挟まってました。
シロちゃん、こんなところを狙ったなんてすごい!
「犯人逮捕に協力、ありがとうございました」
おじいちゃんペコリと会釈したものの、わたしとシロちゃんに固まってます。
特に……シロちゃんの……しっぽを見てますよ。
それからじっとシロちゃんの目を覗き込んでいます。
シロちゃん目が泳ぎまくり。
「シロ?」
おじいちゃん、しっぽを触ろうとします。
でも、シロちゃんスッと引いてから、
「お店の修理代は後で請求するであります」
「……」
「早く凶悪犯を連行するであります」
「あ、ああ……協力ありがとうございます」
おじいちゃん、最後にちょっと微笑んで、店を出て行っちゃいました。
店長さんが、
「シロちゃん、なんなら追っ掛けてもいいよ」
シロちゃん伏せめがちに、
「駐在さんが元気なのを見れただけでよかったであります」
でも、シロちゃん、駐在さんが見えなくなるまでずっと見送ってました。
今日は「なにもしない神さま」と店番です。
「わらわも捕り物見たかったのう」
「コンちゃんしっかり働いてください!」
そう、今はお客さんたくさんいるんです。
「しっかり働いておろうが、レジをやっておる」
「はいはい、テキパキやる」
「ポン、お客の前では笑顔なのじゃ」
「誰が不満を募らせているの~」
わたしとコンちゃん、ブツブツ言いながら営業スマイル。
しかしすごいお客さんです。
シロちゃんもいてくれればよかったのに。
「あの……白いしっぽの店員さんは?」
よく見たら、あの時のおじいちゃんの刑事さん。
「えっと……今日はお休みです」
「そう……ですか……」
本当は今の時間はパトロールなんだけど、本能でウソついちゃいましょう。
おじいちゃん、たくさんパンを買ってくれました。
おつりもいらないって。
『ポン、このじさまはシロのなんなのじゃ、気前よいのう』
『駐在さんとか……前のご主人さま』
『おお、確かに以前、こんなのがおったのう』
おじいちゃん、わたしをじっと見て、
「あの時の店員さんですよね?」
「は、はい……」
おじいちゃん、カバンから袋を出してレジに置きました。
「シロによろしくお伝えください」
それだけ言って、行っちゃいました。
おじいちゃん、シロちゃんに気付いていたみたい。
うわーん、入れ代わりでシロちゃんが戻ってきました。
「シロちゃん、駐在さんが来たんですよ!」
「え……そうでありますか!」
「早く追って!」
「……いいであります」
「な、なんで!」
「本官、今はここの住人ですから」
「シロちゃん……」
コンちゃんが袋をシロちゃんに渡しながら、
「じさまの置き土産じゃ」
出てきたのは「さつまあげ」。
シロちゃん笑っていたけど、ちょっと涙目だったよ。
「プリンを食うヤツなぞ、わかっておろうが」
って、かすかな物音。
振り向けば柱の影からレッドが半分顔出してます。
わたしと目が合った途端に逃げやがりますよ。
モウ、レッドなんか嫌いっ!