第46話「モフモフしないで!」
「モウ、レッド、嫌いっ!」
頭にきました。
もうレッドと一緒にいてあげないんだから!
「シロちゃがいるから、いいもん」
って、レッド、シロちゃんと一緒に行っちゃったんだけど…だけど!
「ただいま~」
レッドが千代ちゃんと一緒に帰ってきました。
すぐにミコちゃんのところに行ってメロンパンをもらってきます。
コンちゃんがぼんやりしている席に行きますよ。
レッドと千代ちゃん一緒に食べ始めました。
お茶の一つも出すとしますか。
「レッドは千代ちゃんが好き?」
「すきすき~」
ああ、なんだか嬉しそう。
なんたってレッドは眼鏡っ娘スキー。
「じゃ、千代ちゃんとわたし、どっちが好き?」
「千代ちゃ~」
「ほほう……そうきますか……一緒にお風呂に入ってるのは誰ですか?」
あ、レッド、黙っちゃいました。
千代ちゃんの視線感じます。
小声で、
『千代ちゃんなになに?』
『レッドちゃんをいじめて楽しいの?』
『いじめてないもん』
『そうかな~』
『一緒にお風呂に入ってるのは誰かって聞いただけだもん』
『ダシに使って「好き」って言わせようとしているのでは?』
『だってわたし、結構レッドの世話焼いてるもん』
『だからって……』
わたし、改めてレッドに、
「レッドは誰が一番好きですか? え?」
「……」
「一番優しくしてくれるのは誰ですか?」
「……」
「一番かまってくれるのは誰ですか?」
「……」
メロンパン持った手が止まってます。
うわ、なんだか恨めしそうな目でこっちを見てる。
わたしを上から下までじっと見てから、
「そうだ!」
「?」
「モフモーフ!」
「きゃっ!」
「モフモ~フ!」
「ちょっ! レッド、なにするんですか!」
「モフモフです、モフモ~フ」
うわ、超嬉しそうにわたしのしっぽ触ってます。
「ちょ、レッド、モフモフなし、ダメ!」
「モフモフ……ポン姉すきすき、しっぽがすてき」
もう、本当にこの世の春といった、恍惚とした目でモフモフしてます。
「ち、千代ちゃん助けて!」
「ポンちゃん好かれてよかったね」
「こ、こんなふうに好かれるのは嫌ですっ!」
一日の疲れをとってくれるお風呂。
今日はコンちゃんとレッドが一緒なの。
「これ、レッド、動くでない」
「きゃっ! きゃっ!」
「大人しくせぬか、まったくモウ」
「くすぐったーい!」
コンちゃんがレッドの背中を洗ってるんだけど、苦戦してるみたい。
わたし、湯船に浸かりながら、
「コンちゃん、しっぽ、しっぽをつかまえて」
「ふむ……こうかの?」
コンちゃんがレッドのしっぽをつかまえます。
とりあえず逃げられなくなりました。
でも、レッド、今度は余計に体をくねらせますよ。
「ポン、あまり変わらんのじゃが……」
「ふふ、レッド嫌がってます、どんどんやってください」
コンちゃん使ってさっきのモフモフの仕返しです。
「嫌がっておるのかのう?」
「だって、体くねらせまくってるじゃないですか」
「喜んでおらんかの?」
「う……」
わたし、レッドをじっと見て、
「ね、レッド、どう、嫌?」
わたし、レッドのしっぽをモフモフします。
レッド、体を揺らしながら、
「くすぐった~い!」
「ほれ、嬉しがっておるではないか」
「本当だ……コンちゃんしっぽ触ったら怒るよね?」
「そうじゃの、わらわのしっぽに触れてよいのは店長くらいのものじゃ」
「普通、しっぽ触られたら嫌がるんじゃ?」
わたしとコンちゃんでレッドのしっぽをモフモフ。
レッド、キャッキャッ言って……喜んでますね、明らかに。
「まぁ、しっぽをつかまえれば少しは洗いやすい」
コンちゃん、レッドの体のお湯を流してしまいます。
今度はわたしが体を洗う番。
そんなわたしをコンちゃんとレッドが湯船からじっと見ながら、
「ぼくも、モフモフする~」
「ちょ、今、体洗ってるからナシです」
ああ、レッドの魔手がわたしのしっぽに……って、コンちゃんが止めてくれました。
「これ、レッド、しっかり肩まで浸からぬか」
「は~い」
「ゆっくり十数えるのじゃ」
「は~い」
コンちゃんの援護に感謝。
って、そのコンちゃんがわたしのしっぽを手にして、
「ふむ……ポンのしっぽ」
「ちょ……コンちゃんなにを……」
「いや……昼、こやつが千代と一緒におやつを食べておったであろう」
「あ、うん、昼のこと」
「そうじゃ……レッドはこのしっぽにご執心じゃったろう」
「寝てたんじゃなかったんですか?」
「寝てなどおらん」
コンちゃん、しっぽの感触を確かめながら、
「ふむ……確かに、なかなかのものじゃ」
「ちょ、コンちゃん、人のしっぽをモフモフしないでくださいっ!」
「よいではないか、減るものでもなかろうに」
「コンちゃんのしっぽも触るよ、モウ!」
「わらわのしっぽは店長だけじゃ」
「じゃ、わたしのも触っちゃダメ」
「ちょっとぐらい、よいではないか」
「わたしも触られるの、嫌なんですからモウ!」
「ちょっとくらい……ダメ?」
「ダメ」
「……わらわのしっぽを触ってよいので、おぬしのをモフモフさせるのじゃ」
「え……そこまでしてモフモフしたいの!」
「うむ……レッドが病みつきになるのも納得じゃ」
コンちゃんダメって言ったのに、嬉しそうに触りまくりです。
わ、わたしのしっぽって、なんかすごいのかもしれません。
でも、わたし、しっぽはやっぱり許せません。
レッドは朝起きてから、学校に行くまでずっとしっぽを握ってるんです。
帰ってきても、わたしと一緒にいる間はずっとなんだから。
ずっとしっぽをにぎられてたら、わたし、ストレス溜まりまくり!
寝る時間になってわたしの怒り、爆発です。
「モウ、レッド、嫌いっ!」
「なんでー!」
「しっぽは嫌なんですっ!」
「そんなー!」
「もう、一緒にいてあげないんだからっ!」
「……」
わたしとレッド、にらみあい。
って、レッド、プイってそっぽ向くと、シロちゃんのところに行っちゃいました。
シロちゃんの後ろに隠れて、
「ふん、ポン姉きらい」
「……」
「シロちゃがいるから、いいもん」
「……」
「シロちゃ、いこう」
レッド、シロちゃんの手を引っ張って行っちゃいました。
コンちゃんがやって来て、
「ポン、おぬしも大人気ないのう」
「じゃ、コンちゃん触らせたらいいのに、しっぽ」
「ぬう……わらわのは、神のしっぽゆえポンとは格が違うのじゃ」
「触られれるの嫌なだけだよね」
「……」
「ああ、レッドいなくなってスッとした~」
「本気かの?」
「本気だよ、本当、本心」
「後で『レッドが触ってくれなくてさみしい』とか言って泣くのではないかの?」
「ふん、絶対そんな事、ないんだから」
なんとな~く数日が過ぎました。
「パトロールで寄ったであります」
お客さんがいない時、シロちゃんが帰ってきました。
せっかくだから休憩しちゃいましょう。
店長さんもパン工房から出て来て、ミコちゃんもおやつを持って来てくれたよ。
寝ていたコンちゃんも顔を上げて、
「ふむ、揃ったのう」
「コンちゃんおはよう」
「うむ、おはよう、ポン、座るのじゃ」
「言われなくても」
わたしが座ると、初めてみんなが見つめてるのに気付きました。
どうしたのかな?
「ポン、おぬしレッドと仲直りする気になったかの?」
「さぁ、最近顔を合わせるのはごはんの時くらい……」
「え……一緒にお風呂とか入ってないの?」
「ミコちゃんなにを……うん、入ってないね」
「一緒に絵本とか、してないでありますか?」
「うん……してないね……シロちゃんがやってない?」
って、みんな深刻な顔でうつむいちゃいます。
店長さんが表情をこわばらせて、
「最近のレッドがどうなってるか、知ってる?」
「え……普通じゃないんですか?」
「ポンちゃんは……何ともないの?」
「わたしは……店長さんから見てどこか変わりました?」
「……」
「え? え!」
って、レッドが帰ってきました。
千代ちゃんとたまおちゃんが一緒です。
すぐにミコちゃんがメロンパンあげて、レッドは千代ちゃんと遊びに行っちゃいました。
「レッド、元気ですよ」
たまおちゃんがやってきて、わたしの肩を揺すります。
「ポンちゃん、いいかげんレッドと仲直りしてください!」
「え! なんで!」
「レッド、今にも死んじゃいますよ!」
「遊びに行きましたよ?」
「ほら!」
たまおちゃん、携帯電話出して画面見せてくれます。
ああ、なんだか元気のないレッドが写ってますよ。
「ポンちゃんが相手しなくなってから、どんどんやつれてるよ」
「そ、そんな……わたし知らない」
「ポン、おぬし、わかったであろう」
「は? なにが?」
「おぬしがしっぽをさわらせればよいのじゃ!」
ミコちゃんも顔を寄せてきて、
「レッドと仲直りしないと……ごはん抜き」
で、出ました、兵糧攻め。
って、みんなが窓の方見てます。
レッドと千代ちゃんがこっちを見てますよ。
コンちゃんが大号令。
「シロ、たまお、ポンを押さえるのじゃ」
「了解であります!」
「お姉さま、おまかせくださいっ!」
「ふ、二人ともなにするんですかっ!」
ミコちゃんお店のドアを開けて、
「ほら、レッド、ポンちゃん仲直りしようって」
「しよう」ってお願いするのはレッドの方なのに!
でも、店長さんもにらんでいます。
それにわたし、シロちゃんとたまおちゃんにテーブルに押さえ込まれてます。
間抜けにしっぽ、丸見えなの。
「ポン姉、なかなおりしてくれる?」
間近で見るレッドの顔、確かにやつれまくり。
「なかなおり、してくれる?」
「はいはい、仲直りします、しますよ、死にそうな顔してモウ!」
「モフモフしていい?」
「……」
「嫌」って言いたいところです。
でも、周囲の空気がそれ、許してくれません。
「はい、いいですよ、思う存分モフモフしてください」
「やたっ!」
レッドの手が、わたしのしっぽモフモフしまくり。
「ふわわ、モフモ~フ」
「ポンちゃんのしっぽ、気持ちいいよね」
ちょっ……千代ちゃんまで触ってます。
ああ、千代ちゃんのモフモフは野良の時からされてますよ、よく考えたら!
「モフモーフ!」
わたしだけじゃないです、みんなびっくり。
さっきまでひからびかけていたレッドが、どんどん元気になっていきます。
「モフモーフ……モフモ~フ……うふふ~」
ああ、レッド、至福の表情。
「うむ、わらわも改めてモフモフじゃ」
「私も触ってみたいわね……」
「俺も久しぶりに……」
コンちゃん・ミコちゃん・店長さんが触ります。
みんな、ほんわかした顔になりました。
わたしのしっぽで、世界平和が訪れるかもしれません。
『ねぇ、シロちゃんなんとかしてっ!』
『大人しくするであります……あっちの刑事はここの駐在さんです』
『え……駐在さんって、シロちゃんの元ご主人?』
パン屋さん、凶悪犯と刑事さんの登場で再び西部劇の様相です。
シロちゃんのおもちゃの拳銃で犯人やっつけられるのかな?