第45話「お豆腐屋さんのぎっくり腰」
お豆腐屋さんに行ってみると、おじいちゃんがぎっくり腰なんだって。
ふむ…配達された大豆の袋が置きっぱなし。
ここはいつもご馳走になっているので、お手伝いするしかないですね。
大豆の袋は大きくて重くて、つかみにくいの。
でもでも、ここはタヌキの意地ってもんですよ、ガンバがんば!
今日のお仕事も終りました。
わたしとコンちゃんでお風呂です。
「ほれ、わらわの背中を流すのを許す」
「なにが許すですか、わたしの背中も洗ってもらいます」
「ふむ……ポンが先輩ゆえ、しかたないかのう」
「しかたがない……言いますね、コンちゃん」
「いいから洗うのじゃ」
「はいはい」
って、わたしがコンちゃんの背中を洗っている間、コンちゃんは前の方を洗う訳ですよ。
むー、後ろから洗っているというのに、胸がチラチラ見え隠れ。
「ねー、コンちゃん」
「なんじゃ」
「なんでそんなに胸、大きいの?」
「ポン、またその話かの」
「だって……大きい」
「どうでもよい事ではないかの」
「むー、どうでもよいと!」
「うむ、どうでもよかろう」
さて、ここで選手交代。
わたしの背中をコンちゃんが洗ってくれます。
「どうでもよくない、なんで大きいの、大メロンパン級」
「まぁ、確かにおぬしよりは大きいかのう」
「でしょ」
「だからどうしたのじゃ、どら焼き級」
「どら焼き級……その通りだけど……」
「わらわの知識ではそーゆーのは貧乳というのじゃ」
「む、そんなのわたしだって知ってます」
体、洗い終わっちゃいました。
わたしとコンちゃん、一緒に湯船。
むー、コンちゃんの胸、大きいですね。
ちょっと触っちゃいましょう。
むむ、フカフカなの。
「これ、触るでない」
「どうしたら、こうなるの」
「牛乳でも飲めばいいのじゃ」
「コンちゃん全然飲んでないよね」
「大人ゆえのう」
今度は自分のを触ります。
コンちゃんと比べると……小さい……クッ!
今日の夕飯に冷奴が出ました。
コンちゃんが約束して「おあげ」を貰うはずだったんだけど、ない時はお豆腐。
こう、プルルンとして、ツルっと食べれて、わたし好き。
そんなお豆腐を食べながら、
「ね、コンちゃん」
「なんじゃ、ポン」
見ればコンちゃん、頬をポッと赤らめておとうふ食べてます。
お酒はちょっとなら、いい匂いなんだけどね。
「コンちゃん、お豆腐食べたら、胸大きくならないかな?」
「わらわ、そんな伝承を知らんぞ」
「だってこんなにプルルンとしてるし」
わたし、お豆腐を一口。
それからじっとコンちゃん見ます。
「コンちゃんの胸の感じに似てます!」
「おぬしもしつこいのう~」
「コンちゃんは大きいからそんな事が言えるんです」
「そんなもんかのう~」
あ、コンちゃん、わたしの二の腕をつかまえました。
何度かモミモミして、
「ポンの腕、プニプニしておる、豆腐と同じじゃ」
「!!」
「胸でなく、腕がプニプニじゃ」
「!!」
あ、みんながわたしを見て、クスクス笑ってます。
もう、本当に気にしてるんだから!
むー、こう、みんなを見回すと、やっぱりわたしの胸が一番小さいような気がします。
このままじゃ、店長さん争奪戦脱落必至!
こーゆー事を相談するのは誰がいいかな……
コンちゃんは……不真面目なのでダメ。
どうせまともに請け合いませんよ。
ミコちゃんも笑ってスルーされそう。
シロちゃんは……無頓着そうでやっぱりダメっぽい。
たまおちゃん……そうです、普通に女の子です。
きっとこの山の神社に来るまでに、いろいろ知識豊富なはず!
「ね、たまおちゃん、胸、大きくするにはどうしたら!」
って、たまおちゃんの箸が止まりました。
わたしをじっと見つめて、
「私……ポンちゃんにはイマイチ興味ないし」
って、コンちゃんやミコちゃんに熱い視線送ってますよ。
「なんでわたしじゃダメなんですか!」
「若い娘はちょっと……ポンちゃんパッと見中学生クラス、どら焼き級」
「う……その通りです」
「お姉さま達と同じくらいになったら、胸も大きくなるかと……」
「そ、そうかな!」
わたし、たまおちゃんを捕まえて、
「保証する? 命賭ける?」
「ぽ、ポンちゃん……」
わたしを押し退けようとして腕をつかむたまおちゃん。
目をパチクリさせて、真剣な目で今度はわたしの胸を触ります。
「どう、たまおちゃん、保証外?」
「いや……こう……その……」
たまおちゃんの、いつにないシリアス顔に静まる食卓。
頷くたまおちゃん、ポツリと、
「胸と腕、同じくらいにプニプニ」
なんかすごい嫌な気持ちになっちゃいました。
老人ホームのおやつ配達の帰り。
レッドと学校で合流して、お店に向かいます。
途中でお豆腐屋さんに寄って分けてもらうんで、お鍋持参なの。
「モフモ~フ」
「ねぇ、レッド」
「なになに~」
「しっぽ、やめてください」
「えー、きもちいいのに」
「わたしが嫌なんです」
本当にモウ、この仔キツネはしっぽスキー。
「しっぽだめ?」
「ダメです、手を繋ぐんです」
「えー!」
「コンちゃんとデートだと手を繋いでるでしょ」
「ちぇっ!」
なにが「ちぇっ!」ですか。
手と手になったけど、なんだかピョンピョンしてます。
「どうしたんです?」
「ちょっとちょっとー!」
「うん?」
レッド、わたしの肩に飛び掛りながら……二の腕をしっかとつかみます。
「どうしたの?」
「これがプニプニ」
「!!」
「プニプニ……うふふ……プニプニ」
もう、チョップですチョップ。
レッド、わたしの二の腕の感触にすごい嬉しそう。
「しんきょうち、はっけんです」
もう、今度一緒にお風呂入ったら、頭からお湯掛けて泣かせちゃうんだから。
じゃれあっていたら、トラックがやってきました。
わたし達の手前で停まりましたよ。
「おう、パン屋の姉ちゃんじゃねぇか」
「あ、現場監督さん、どうしたんですか?」
「いや、豆腐屋のじっちゃんに配達の帰りなんだ」
「そうなんですか、わたし達は今から行くところです」
「そうか、あそこの豆腐最高だからな、じゃ!」
「うちにも来てください!」
「昼はいつも行ってるんだけどな~」
トラック行っちゃいました。
昼はいつも来てるそうです……わたしが配達であけてるだけかも。
すぐにお豆腐屋さん見えてきます。
「こんにちわ~」
「ああ、いらっしゃい、ちょっと!」
「どうしたんです? 血相変えて?」
なんだかおばあちゃん、ちょっと焦った感じ。
「うん、じいさんが腰をやっちゃってね」
「腰? やっちゃった?」
「うん……さっき大豆を配達してもらったのはよかったんだけど、運ぼうとしたらね」
って、おじいちゃん、お布団で横になって苦笑いしてます。
「まだ大分残っててね……中に運ばないと……」
ああ、本当です、店先にたくさん袋が積んであります。
おばあちゃん、お鍋にお豆腐入れてくれてから、
「私にはちょっとね……」
「ふうん……これ……こっちに?」
「うん、そう、こっちに」
わたし、お豆腐の入った鍋をレッドに渡して、
「じゃ、わたしが運びます……レッドはお鍋を持って先に帰ってください、これがないと夕飯がピンチになっちゃうから」
「は~い」
「たくさんありますね、でも、頑張りましょう!」
わたし、腕まくりして袋を運びます。
大きい!
つかみにくい!
重たい!
や、やっと一つ運び込みました。
まだまだ沢山あります。
「あんた……大丈夫かね?」
「ま、まかせてください……うふふ……うふふ~」
「ほ、本当に大丈夫なんだろうね」
「お、終らない仕事はないんですっ!」
くっ……乗りかかった船ってヤツです。
さ、最後までやり遂げるんだからモウ!
は、運びに運びました。
い、いよいよ最後の一袋。
「おーい、ポン」
「!!」
「ポン、頑張っておるようじゃな」
「コンちゃん、どうして!」
「レッドから話を聞いたのじゃ」
「ふわわ……これで終わりです」
「ふむ、こんなにも運んだのか、なかなかやるのう」
「た、タヌキの意地です」
「うむ……では、最後の一つは助太刀じゃ」
って、コンちゃんが指を鳴らすと、大豆の袋がフワフワ宙に浮き上がりました。
そのままフヨフヨと飛んで、中に行っちゃいます。
「ちょ……コンちゃん反則!」
「まぁ、わらわの術をもってすれば、お茶の子じゃ」
わーん、これなら最初からコンちゃん呼べばよかったです。
超肉体労働の後のお風呂は最高です。
「今日はすごい疲れたよ、充実感最高だけど」
「うむ、わらわもポンを見直した」
「でしょ、わたしもやる時はやるんです」
湯船に浸かっているコンちゃん、縁につかまってわたしとレッドを見てます。
わたし……ふふ、レッドの髪を洗ってるところなの。
泡まみれのレッドに、ザーっとお湯掛けるんです。
「わーん、やさしくしてー!」
「男の子でしょ、我慢です我慢」
「わーん!」
ふふ……しっぽのお返しなんです。
でも、泣かしてばっかじゃかわいそうなので、最後に抱っこしてあげるの。
「ほら~、男の子は泣かないの」
「なきたいときもあるのー!」
「お湯掛かったくらいで泣きますかモウ!」
「ポン姉、わざとしてます」
ギクッ……レッドの言う通り。
もしミコちゃんに告げ口されたらお外でお休みかもしれません。
でも、レッド、なんだかじっとわたしを見つめてます。
どうしたのかな?
「ねぇ……ポン姉……」
「どうしたの、レッド?」
「うでがすごいことに……プニプニしてない」
「!!」
レッド、真剣な顔でわたしの二の腕触ってます。
コンちゃんも手を伸ばして触りながら、
「のう、ポン、おぬし……」
「な、なに……コンちゃん……」
「なかなか良い体をしておるのう」
「!!」
コンちゃん、今度はわたしの胸を触ります。
「胸、薄くなっておらぬか?」
「!!」
「胸の分が、腕に行っておらぬか……それもカッチカチじゃ」
「う……」
「まるで男のようじゃ」
それを聞いてレッドが、
「じゃ、ポン兄とよびますか?」
ダメージ大きすぎです。
わたし、このまま男になっちゃうんでしょうか!
わーん!
「モフモーフ!」
「きゃっ!」
「モフモ~フ!」
「ちょっ! レッド、なにするんですか!」
うわ、レッド、超嬉しそうにわたしのしっぽ触ってます。