第44話「レッド、ヌシに食われる」
バーベキューをした川に、またしても巨大白ナマズが現れたらしいです。
シロちゃんは警察の犬なので、パトロールとかいそがしいみたい。
わたしとレッドも、神社の池にヌシを見に行きます。
「あんな大きなの、もう移せませんよ」
たまおちゃんの言葉、気になるところですよ。
「ごほん、よんで」
「レッド、寝る時に本読むのはいいけど……」
「なに、ポン姉」
わたし、レッドと一緒にお布団に入ります。
「しっぽ禁止」
そう、わたしの近くにいる時、レッドは必ずしっぽをつかみました。
勘弁してほしいですよ。
「えー、なんでー!」
「嫌なんです、モフモフされるの」
「きもちいいのに……モフモ~フ」
「こっちは嫌なの」
チョップして、絵本開きます。
ここのところ「ピノキオ」。
「ねぇ、レッド、ちゃんと話、解ってる?」
「はぁ?」
「だってレッド、いっつもすぐに寝ちゃうんだもん」
「うそつきは、はなたかだか」
ちょっと違う気がするな~
でも、いいでしょう、昨日の続きです。
「で、ピノキオはクジラに呑みこまれて、そこでおじいさんと再会しました」
って、しっぽまだ握ってます。
それも強烈に握ってますよ。
「レッド、しっぽ痛い!」
「あわわ……クジラとは!」
「大きなお魚みたいなのです、水の中に住んでるんです」
「はわわ……そのまま、みずのなかにいけるの?」
「さぁ……絵本じゃそんな感じですよ」
「すご……みずのなかで『め』あけれません」
ふふ……ちょっとおどかしちゃえ。
「レッド、人の嫌がる事したら、クジラが来ますよ!」
「ひえ!」
「しっぽ、放してください」
「ポン姉はにんげんでないのでは」
「今は人間なんです、チョップチョップ!」
「クジラ、いいな~、みずのなか」
「食われてるんですよ、本当にモウ」
「みずのなか……」
ああ、レッド、おねむです。
急速潜航夢の中……クジラに会えるといいですね。
朝ごはんのテーブルで、
「先日、村の人から言われたであります」
「へぇ、なんて?」
「バーベキューの時、ヌシを捕まえたであります」
「うん、大きな白ナマズ、捕まえたね……わたし食われかけたけど」
「また、巨大な魚が現れたと連絡です」
「巨大な魚? またヌシ? どんなの?」
「それが……白い巨大ナマズとの報告で……」
わたしとシロちゃん、たまおちゃんを見ます。
ヌシは神社の池に逃がしたんです。
「ヌシ、ちゃんと池にいますよ、稼ぎ頭」
「か、稼ぎ頭……たまおちゃん、本当?」
「あんな大きなの、もう移せませんよ」
「は……大きなのって、どゆこと?」
「ポンちゃん、配達ばっかりで見てないんですか?」
「だ、だってわたし、食われかけたんだよ、近付きたくな~い」
「参拝に来た人達が、毎日お供えでどら焼きあげてるんです」
「はぁ……」
「今はもう、クジラを思わせる大きさになってるんです」
「えー!」
そんな訳でレッドや店長さんと一緒にお出かけ。
例のヌシ確保の現場に行きます。
「店長さん、別にヌシがいるのかな?」
「そうだね……伝説があるの、話してなかったっけ?」
「あ、なにか行ってました……お祭りのとき、白ナマズの絵を提灯に描くんですよね?」
「うん、伝説というか、言い伝えでは、昔、お武家さんが戦の時に……」
「戦の時に?」
「なんでも不利な戦いで、絶対負けそうだったらしいんだけど……」
「はぁ」
「霧に乗じて敵の裏をかく作戦で……」
「そこでヌシが出るんですね?」
「そう、お武家さんは白ナマズに導かれて、敵の裏をかくことに成功したんだ」
「そんな話があったんですね」
「うん……神社に奉納されている絵にも、そんなのあるんだよ」
って、レッド、川に入っちゃいそうです。
「レッド、危ないよ」
「ポン姉、なにがあぶないの?」
「ヌシがまだいたら、食べられますよ」
「ヌシとは?」
「ヌシ、知らないんです? 神社にいるのに」
「しりませぬ」
「よく神社に遊びに行ってません?」
「たまおちゃすきすき」
あー、そうでした。
レッドは眼鏡娘が好きなだけです。
たまおちゃん目当てで神社だったんですね。
そんな訳でレッドと一緒に神社に来ました。
半分は配達もあってです。
「たまおちゃん、どら焼き持って来たよ」
「いらっしゃい……あ、レッドもいる」
「うん、レッド、ヌシを見た事ないって言うから」
「レッドよく遊びに来るのに……ヌシなら池にいるからいつでも見れるのに」
たまおちゃん、どら焼きを売り場に並べると出てきました。
「参拝者がこのどら焼きをえさ代わりにあげるんです」
「へぇ……このナマズ印のどら焼き、そんな使われ方してたんだ」
三人揃って池の縁。
「いないよ、たまおちゃん」
「朝一番だから……でも、手を叩くと……」
パンパン……ああ、濁った水に白い影。
水面が盛り上がってヌシ登場です。
ヌシ登場……って、この間の何倍も大きいですよ。
「ちょ、なんですか、この大きさは!」
って、たまおちゃん知らん顔でナマズ印のどら焼きをヌシの口に投げます。
「ほら、ご挨拶」
「オヒサシブリ」
そうです、ヌシはしゃべれるんですよ。
じっとわたしを見つめています。
にらみ返して、
「しっぽ噛んだら蒲焼にしますよ!」
「シマセン」
って、言ったものの、もうヌシはわたしがどーこーできる大きさじゃないんです。
えーっと、工事のダンプくらい?
「キツネ?」
「あ、この子はレッドっていうの」
「レッド……」
ヌシ、レッドに近寄ってじっと見つめます。
「はわわ、クジラ?」
「コンニチハ」
「こんにちは~、ぼくレッド、けのいろがあかいからレッド」
「ヨロシク」
「ふわわ、すごいすごーい!」
って、レッド、ヌシの背中に乗っちゃいました。
ヌシもレッドを乗せて池をグルグル回ってくれます。
「たまおちゃん、ヌシ、すごく大きいよ……びっくり」
「私もそう思うけど……大きいと触りやすくて参拝する人に受けるからいいか~って」
「クジラみたいだよ」
「ですね……だからもう、ここから動かすとか出来ない」
「って、たまおちゃん、なんでわたしを押すの?」
「ポンちゃんヌシに食われたら、下克上でわたしが一番」
「む……やりますか?」
わたし、配達の時は打ち出の小槌持ってるんです。
「ふふ、冗談じょうだん……こっちこっち」
「なになに?」
って、拝殿の裏に来ます。
洞窟がありますよ。
「ほら、ここ、洞窟からちょろちょろ水が流れて池に溜まるんです」
「ここが水源なの?」
「池の底からも湧いているけど……ココ、なんだかあやしくないです?」
そう言われると、そんな気がしてきました。
どうなってるのかな?
ちょっと覗き込んで……殺気!
たまおちゃん、大きな岩を押そうとしてます。
「なにやってんですかー!」
「ポンちゃんここに閉じ込めて、下克上」
巫女なのに、下克上ばっかです。
「チョップチョップ! もう、先輩は敬うものです!」
「ふふ……冗談じょうだん」
ほ、本当かなぁ……
でも、拝殿の裏にあんな洞窟があるなんて、神秘的。
「店長さんがいろいろ言い伝えがあるって言ってたよ」
「言い伝え……洞窟は昔、修験者が修行で篭ったそうです」
「へぇ……中、なにかあるの?」
「入って確かめてみては!」
絶対嫌……それは罠です。
わたしとたまおちゃんが社務所に戻ろうとしていると、レッドとヌシが向き合っています。
なにか話しているみたいだけど……
あっ!
ヌシが「あーん」って感じで大口開けました。
レッド、ピョンって感じで口の中。
「レッドーっ!」
わたしとたまおちゃんダッシュです。
ヌシ、わたし達を見ながら「ズズズ」って感じで潜っちゃいます。
「レッドーっ!」
「ちょ、ポンちゃんっ!」
「追っ掛けるんです!」
飛び込もうとするわたし。
たまおちゃんが羽交い締め。
「ポンちゃんヌシにかなうはずないっ!」
「でもっ!」
ああ、ヌシ、池の濁った中に消えちゃいました。
「レッド……食べられちゃった」
わたしもたまおちゃんも震えるばっかです。
「わ、わたしが手を握ってればよかったんです」
「ポンちゃん、ともかく店長さんに伝えましょう」
「う、うん……」
池から離れるの、ちょっとつらい。
なんだか見捨てる気分。
こんなになるんだったら、しっぽ握られても小言言わなかったのに。
「わたしが手を握っていれば……」
涙ポロポロあふれます。
店長さんもコンちゃんもびっくりしてます。
「私も見ました……レッドが騙されて口の中……ピョンって飛び込んでました」
「わーん、わたしのせいなんだー!」
もう、怒られたってしょうがないし、狸汁もしょうがないです。
わたしが狸汁になっても、レッドは戻って来ないんだから。
お店のドアが開いて、カウベルがカラカラ鳴りました。
「ただいま~」
レッドの声がします。
幽霊かな!
しっぽ、いつもみたいに「ギュッ」。
「ポン姉、きいてきいて!」
「れ、レッド……なんで!」
わたし、思いっきりレッドを抱きしめます。
本当にレッドです、赤いしっぽをフリフリしてる。
「レッドー!」
「ポン姉、いたいよー!」
後からミコちゃんとシロちゃん入ってきます。
「噂の現場に張り込んでいたらヌシが現れたであります」
「口からレッドちゃん、出てきたの……」
も、もしかしたら池と川、繋がっているとか!
「ポン姉、きいてきいて!」
「……」
「ヌシにせんすいかんごっこ、やってもらった」
「……」
「まど、なかったのでまっくらでした」
「……」
「ごほん、よんで」
レッドと一緒にお布団に入ります。
「レッド、これじゃなくて他のにしようよ」
「どして?」
「今日、レッド食べられたと思っちゃったもん」
「では……」
レッド、別の本持って来ました。
「ぼくといっしょのあかいの」
「あかずきん……はいはい、昔むか~しあるところに……」
レッド、しっぽを握ってます。
今日はゆるしてあげましょう。
「ね、コンちゃん」
「なんじゃ、ポン」
「コンちゃん、お豆腐食べたら、胸大きくならないかな?」
「わらわ、そんな伝承を知らんぞ」
「だってこんなにプルルンとしてるし」