第43話「レッドと山の神さま」
村の温泉、みなさんご存知?
あの、やたらとマナーにうるさい龍の格好した神さまがいるんですよ。
わたし、掃除当番で行かないといけないんだけど…
たまおちゃんを連れて行くのもどーかと思うわけですが…
レッドを連れて行くのも、間違いなく出現フラグ立てちゃいそうで…
「こんにちわ~」
「あら、いらっしゃい、お豆腐だね」
今日はお使いでお豆腐屋さんです。
ほら、コンちゃんが家出したとき、約束でもらえるようになったんですよ。
「こんにちわ」
レッドが持っていたお鍋を渡します。
おばあちゃんニコニコして、お鍋にお豆腐入れてくれます。
「前々から思っていたんだけどねぇ」
「なんです?」
おばあちゃん、お鍋をわたしに渡そうとして、結局レッドに。
「この子は……この子は……」
「この子はレッドって言うんです」
「うん、知ってるよ、レッドちゃん」
おばあちゃん、レッドの頭をなでながら、
「この子はどっちの子だい、あんたかい、キツネのかい」
「はあ!」
「どっちの子?」
「どっちの子でもないです……って、わたしの子のはずないでしょ!」
「ってもねぇ……あのキツネの子にしてはちょっと勢いがないというか……」
「じゃ、わたしの子なんですかっ!」
「うん、なんとなく、ねぇ」
でも、よくよく考えたら、わたしと店長さんの子供って設定ですよね。
それなら喜ぶところかな?
「ああ、そうそう、これもあったんだ」
って、おばあちゃん、温泉の鍵をくれます。
「掃除当番、パン屋の番だから、よろしくね」
はわわ、温泉の掃除当番です。
レッドがじっと見てますよ。
「ポン姉~、なになに?」
とりあえず、黙っておきましょう。
説明が面倒くさいし……レッドが掃除についてきたら、絶対「アレ」が出てくるんだから!
って、せっかくはぐらかしたのにお店に戻ったら、
「温泉の掃除、ポンちゃんとたまおちゃんで行ってね」
「え……ミコちゃんそれ本気?」
「うん……なんで?」
「わたし、レッドに言わなかったんだよ」
「だ、だから?」
「レッドが温泉に行ったら、絶対出るよ」
「出る……何が?」
「山の神」
「山の……神……それが?」
「レッドに黙ってました……たまおちゃん連れてっても、絶対出るよ」
ミコちゃん、呆れた顔して手をヒラヒラさせながら、
「もう、さすがに出ないわよ」
「じゃ、ミコちゃん一緒に来て!」
「嫌」
「なんでー!」
「だって……たまおちゃん百合でかなり危険」
「その百合ってなんですかー!」
「いいからポンちゃんとたまおちゃんで行くの、行かなかったらごはん抜き」
「えー!」
って、レッドがノコノコ出てきました。
わたしのしっぽにつかまって、
「ぼくもいく~」
「レッド……」
「ぼくもいく……たまおちゃもいっしょなら」
そう、レッドは眼鏡っ娘スキーでした。
「ぼくもいく」
「いいから、しっぽを放してください!」
「ぼくも!」
「モウ……連れて行くから、放してー!」
「ぜったいですよ?」
「はいはい……どうなっても知らないんだから」
「やったー!」
ふふ、レッド大喜びです。
どうなるか、不安だけど、もうどうでもいいや。
いいタイミングでたまおちゃん帰ってきました。
「う……レッドちゃん連れていっちゃうの?」
あれれ、ミコちゃん不安そうな顔してます。
「山の神にいじめられないかしら……私も後から行くから」
ふふ、ミコちゃんがいれば山の神もこわくありません。
レッドと一緒だとミコちゃんもついてくる……パターンかも。
レッドに感謝かんしゃ!
「いいですか、ちゃんと守ってください!」
わたし、たまおちゃんとレッドを見て語ります。
「お風呂に浸かる前に、ちゃんと体を流すんです」
「あの……ポンちゃん……」
「なんですか、たまおちゃん!」
「そんな説明しないでも……」
「たまおちゃんが一番危なそうじゃないですか」
「え……そう……もうやらかさないよ」
「本当かなぁ……最近温泉掃除やった?」
「いえ……あの時以来全然、だってお仕事忙しいし」
この間、なんだかココの方が楽っぽい事言ってなかったっけ?
「ともかく、山の神が現れたら厄介だから、マナー守ってください」
「はーい」
最後のはたまお・レッド一緒です。
ふふ、これだけ釘を刺していればバッチリでしょう。
実はわたし、ちょっと楽しみにしてたんですよ。
温泉……大きなお風呂、なんだかすごくリラックスするの。
さて、全部脱いだら掛り湯を浴びて……って、
「コラーっ!」
「!!」
「なに掛り湯も浴びないで入ろうとっ!」
「だって掃除するからいいっていいって」
って、たまおちゃんザブンと浸かっちゃいます。
ああ、お湯がプルプル震え始めました。
お湯が持ち上がって龍の姿。
「このタワケ者っ!」
出で来た山の神さま、口からお湯を吐いて一瞬でたまおちゃん茹であがっちゃいます。
「この娘はこの間も手ぬぐいを湯に浸けた……」
「あの……山の神さま」
「ぬ、タヌキ娘、おぬしはマナーを守っておるからよかろう」
「ほどほどにしといてください、湯煙殺人事件になったら困るから」
「わかっておる、殺してはここのおそろしさを伝える者がおらんようになるからのう」
ああ、レッド、手桶を抱えて龍の姿の山の神さま見つめています。
「はわわ……」
山の神さまにびっくりしているみたい。
ちょっと心配だったけど、たまおちゃんが犠牲になってくれたから、こわさもわかったでしょう。
たまおちゃんも役に立った……のかな?
「どちらさま?」
「うむ、おぬしは……キツネのようじゃの」
「こんにちは、ぼくはレッド、けのいろがあかいからレッド」
「ふむ、レッドというのか」
わたし、山の神さまを手招き。
耳元で囁きます。
『山の神さま、レッドにお風呂の入り方を教えてください』
『躾は親の仕事……』
『……って、ミコちゃんが言ってましたよ』
『む! ミコとは卑弥呼のことだったな!』
わたし、プカプカ浮かんでいるたまおちゃんを引き上げながら、
『レッドは元ペットだから、親知らず』
『ふむ、それは不憫じゃのう……仕方ない、躾てやるとするかのう』
『じゃ、よろしくお願いしますよ、わたし、男湯掃除してきますから』
一人で掃除するのはなんですが、山の神さまが荒れるよりはマシですね。
とっととお掃除終らせちゃいましょう。
一人でお掃除は大変です。
でも、正直な事を言うと最初からたまおちゃん当てにしてないかな。
なんとな~く、最初から、こーなるのはわかっていた感じ。
「さて、じゃ、女湯を掃除しますか」
ちょっと、レッドが心配になりました。
男湯掃除している間、お隣がちょっと騒がしかったです。
もしかしたら、たまおちゃん復活してケンカになってるとか?
「神さま~、騒がしいけど~」
女湯覗いたら、レッドが日本昔話状態。
龍に乗って楽しそう。
「それそれー!」
「きゃー!」
「どうだー!」
「わーい!」
どことなくジェットコースターみたいです。
レッドがいじめられていないのはわかりました。
でも、これはこれでいけない気がします。
手桶シュート、見事に山の神さまにヒット。
ムスッとした山の神さま、こっちに来ます。
にらんでますが、こっちもにらみ返し。
「何をするのじゃ、タヌキ娘」
「躾はどーしたんですか、モウ!」
「ちゃんと体を洗ってから湯に入れた」
「じゃなくて遊んでるでしょー!」
山の神さま、とぐろを巻いて背中のレッドを見つめます。
レッドもじっと山の神さま見てますよ。
ああ、山の神さま、目じり下がりっぱなし。
「このレッドとやらは、可愛いのう」
こ、子煩悩っ!
「こんなに可愛いと、かまってやりたくなるのじゃ」
「神さま威厳台無し~」
「誰も見ておらんから、よいのじゃ」
「お風呂で遊んだらダメじゃなかったっけ?」
「ワシが許す」
「神さまはモウ……ほどほどにしといてくださいよ」
「わかっておるのじゃ、ふふふ、レッド、それそれ~」
「きゃー!」
女湯掃除、今日は無理っぽいですね。
今度からレッド連れて来れません。
山の神さまダメダメになっちゃうからね。
って、ミコちゃんが来ました。
「ぽ、ポンちゃん、これは?」
「ミコちゃん……山の神さまレッドを溺愛してます」
「あらあら……」
ミコちゃん、微笑んで日本昔話状態を見ています。
見て……肩がかすかに震えて、微笑みのこめかみに怒りマーク。
ああ、手に光の槍が「ブウン」なんて音をさせて現れました。
「ゴットランス!」
光の槍、山の神さまに刺さっちゃいました。
ああ、山の神さま、崩れ落ちてピクピクしてます。
「ぬ、ぬお……ひ、卑弥呼ではないかっ!」
「山の神が何やってんですか!」
「こ、子供と遊んで……」
「一緒に遊んでどうするの、バカっ!」
「馬でも鹿でもない、龍じゃ」
「ゴットランス! ゴットランス! ゴットランス!」
あ、最後の「馬でも鹿でもない、龍じゃ」は余計ですね。
三連発食らってもしょうがないです。
わたし、レッドを連れてとりあえず退場。
「ポン姉、かみさまが!」
「レッド、いい、お風呂で遊んだらダメなんだよ」
「そうなの~」
「ミコちゃんに怒られるよ」
「はーい」
さっさと着替えて……あれれ、レッド寝ちゃいました。
あれだけ遊んでもらったから、きっと疲れちゃったんですね。
「ふう……もう、このボンクラ山の神は……」
「あ、ミコちゃん終った?」
「コテンパンにしました、今日は帰りましょう」
「うん、そうだね……レッドはもう寝ちゃったよ」
「そう……」
「レッド、もう連れて来ない方がよくないかな?」
「でも、山の神の気持ちもわかるから、ちょっとくらい、いいかも」
ミコちゃんもレッドにゾッコンだから、気持ちがわかるみたい。
「今度からは、私も一緒に掃除に行って、監督します」
「ふふ、わたしもそれがいいと思うよ」
帰り道、お空に丸い月がぽっかりと浮かんでいます。
隣にはミコちゃん。
背中にはレッド。
「ミコちゃん……」
「どうしたの、ポンちゃん?」
「なにか……忘れているような……」
立ち止まって、月を見上げます。
「あ、たまおちゃん、置いてきちゃった」
「ごほん、よんで」
「レッド、寝る時に本読むのはいいけど……」
「なに、ポン姉」
わたし、レッドと一緒にお布団に入ります。
ここのところ「ピノキオ」を読んでいるんですが…