第42話「お祓いの父登場」
たまおちゃんのお父さんが迎えに来るんだって。
さようならたまおちゃん、いろいろあったけど、お別れです。
でもでも、たまおちゃん、あんまり喜んでないみたい。
「実家の神社に戻ったら、お父さんにアレコレ言われると思うと……」
た、たまおちゃんダメ巫女ですよ~
朝ごはんのテーブル。
わたしがごはんを食べていると、隣に座っていたたまおちゃんから変な音がします。
「ブーン」って感じの音ですよ。
ごはん食べている最中だから、お腹の虫ではないはずです。
なにかな?
「たまおちゃん、変な音がしてるよ」
「え……変な音?」
たまおちゃん、ごはん食べながらポヤポヤしてます。
朝は弱いみたい。
「ブーンって感じの音……蜂の羽音……たまおちゃんから」
「ああ!」
思い出したみたいにたまおちゃん、袖の中からなにか出しました。
「これこれ」
「なに、それ?」
「携帯電話」
「携帯電話? なに、それ?」
たまおちゃん、開いて見せます。
わたし、一瞬わからなかったけど、これは知っていますよ。
「たまおちゃん、携帯なんか持ってたんだ」
「普通と思うけど……」
「そう? 村で持ってる人、わたし知らないよ」
「村の人はあんまり持ってませんね……って、アンテナは道沿いでしか立たないし」
「アンテナ?」
「道の近くでしか使えないの……このお店は電波届いているから使えるの」
「で、どうしたの、なになに?」
「メールが着たみたいです……誰からだろ」
「男? ヒューヒュー!」
「う……」
って、冷やかしたからかな、たまおちゃん眉間に縦皺作ってます。
わたしに画面見せながら、
「お父さんから……」
「たまおちゃんのお父さん……」
画面に文字並んでます。
「迎えに来る」だって。
「たまおちゃん、帰れるの!」
「そうかも……」
それを聞いて、みんながパチパチ拍手です。
「よかったね、お家に帰れて!」
わたし、本心で言ったけど、たまおちゃん恨めしそうな目で見返してきます。
「わ、わたし、なにか悪い事言った?」
「ううん……でも……」
「でも?」
「私、ここの暮らしに慣れちゃって……」
「は?」
「ここの神社は……私一人でやってるでしょう」
「うん、そうだね」
「こう、朝ごはん食べてのんびり神社に行って、のんびり掃除して、適当にお客さんに対応」
な、なんだかさっきから聞いていると「のんびり」二回に「適当」一回。
「実家の神社に戻ったら、お父さんにアレコレ言われると思うと……」
「た、たまおちゃん、ダメ巫女だよ」
コンちゃんが不思議そうな顔で、
「そうじゃそうじゃ、おぬしのようなダメ巫女が何故実家の神社に戻れるのじゃ」
そうそう、わたしも思った!
「その事なんですけど……神社にヌシがいるでしょ」
あの、でっかい白ナマズですね。
「あのヌシに触れると美肌になるって噂が流れて、参拝客が爆発的に増加」
「って、たまおちゃんが頑張ってるからじゃなくて、ヌシのおかげ?」
「お掃除して、その分参拝客が増えるなら、どこの神社も苦労しません」
「たまおちゃん……お客さん増えて……すごいの?」
「平日なら、実家の神社よりいいかも……神社はイベントで稼ぐけど、ヌシは年中無休」
「い、イベントって言っていいの?」
「そんな訳で、お父さんが迎えに……」
なんだかたまおちゃん、どんよりした顔で立ち上がると行っちゃいました。
一度振り向いて、わたし達の方見て、ため息ついてました。
「ふう、これで居候が一人減ったのう」
「コンちゃん、なんか冷た~い」
「本当の事を言うたまでじゃ」
「コンちゃんはさみしくないの?」
あ、コンちゃんとミコちゃん、シリアス顔です。
「どうしたの? コンちゃんもミコちゃんも」
「うむ、ポンはあやつに何も感じんのかのう」
「なんの事?」
ミコちゃんが渋い顔でごはんを食べながら、
「私もあの娘、なんだか苦手なのよね」
「え、なんで? なんで!」
「わらわもじゃ……あやつ、風呂に入ろうとするとやってくる」
「私の時も……なのよ」
「一緒に入ってあげたらいいのに」
二人とも黙って全部食べちゃうと席立っちゃいました。
「店長さん、コンちゃんとミコちゃん、たまおちゃんとケンカしてるの?」
「ポンちゃんわからないの?」
「え、なんでわたしが?」
「いや……俺もなんとな~く感じてたんだけど……」
「え? え!」
「たまおちゃん、コンちゃん達の事、お姉さまって言うよね」
「別に……いいんじゃないですか?」
「ポンちゃん、エロポンなんだよね」
「え? え!」
エロポン関係ですか?
ちょ、ちょっとよく思い出してみたいと思います、はい。
でもでも、コンちゃんもミコちゃんもたまおちゃんも女なんだけど……
配達から帰り道。
ボンネットバスがやってきて、バス停をタッチアンドゴー。
降りた人……たまおちゃんのお父さんです。
神主さんルックだから一目でわかるの。
「あの……神社へはこの道でしょうか?」
「はい、この道まっすぐで、階段あるから上がったところです」
「どうもありがとうございます」
しっかりした感じの人です。
たまおちゃん嫌がっていたけど、きっとテレてるだけですね。
わたしもお店に帰りましょう。
……って、なにかすごい「殺気」感じまくり!
「ちぇすとー!」
「!!」
振り向けば、お父さんお祓い棒アタックです。
たまおちゃんの「ちぇすとー」とは比べ物にならない「キレ」。
でも、わたしも雌キツネに雌犬に人柱と住んでるんです。
「殺気」には敏感なの。
ひょいと避けちゃえ。
「ぬぬ……この化けタヌキめ!」
「い、いきなりなんなんですかっ!」
「神職である私を騙そうなど、たいしたタヌキ!」
褒められてるのかな……でも、お祓い棒アタック止めそうもない。
「ちぇすとー!」
「このーっ!」
こーゆー時は打ち出の小槌。
これを出したら「ダンボールの刑」なんだけど、正当防衛だからOK。
お祓い棒、打ち出の小槌で防御成功。
「むっ!」
「ふふふ……負けないもんね」
「よくぞ申した、こちらも本気で行くぞ」
え……今までは本気じゃなかったんだ。
うわ、すごいオーラを背負ってます。
こーゆー時はちょっとためてから、思い切り突き飛ばして、
「さよ~なら~!」
「逃げるなー! 化けタヌキー!」
ふふふ、逃げ足だけは……うわ、お父さん速っ!
追っかけて来ましたよ!
神社に逃げ込んで、たまおちゃんに言ってもらいましょう。
「たまおちゃーん!」
「ポンちゃん、どうし……げっ!」
たまおちゃん、お父さんに気付いたら社務所の窓から玄関から鍵かけちゃいました。
「たまおちゃん、ひどいっ!」
「今日はお休みなんです」
「わ、わたしたまおちゃんのお父さんに祓われます」
「く、供養くらいしてあげますから」
って、そんな話している最中にも、
「ちぇすとー!」
戦うしかないです。
でもでも、さっき防御しただけで、お父さんの強さは大体わかりました。
少なくとも、へたれ巫女のたまおちゃんよりずっと強いでしょう。
「ちぇすと! ちぇすと! ちぇすとーっ!」
「この! この! このっ!」
一度離れてにらみ合い。
なんだか本気で「戦うオーラ」背負ってるのが嫌なんですよね。
なんとかして、わたしのペースに持っていきます。
コメディはシリアスに勝つんだから。
「必殺、打ち出の小槌シュート!」
ふふ、シロちゃんもやっつけた必殺技。
でもでも、今日のは一味も二味もちがうんだから。
って、打ち出の小槌投げたつもりが真上に飛んでいっちゃいました。
大暴投です。
「あ……」
「化けタヌキ、覚悟っ!」
わーん、お父さん突っ込んで来ます。
この「ちぇすとー」は避けられそうにないの。
「もらったーっ!」
「きゃー! 『ちぇすとー』はどーしたんですかっ!」
「妖怪退散っ!」
ふふ……「ちぇすと」忘れましたね。
へへ……お父さんの負け確定なの。
ほほ……さっき明後日に飛んでったの、わ・ざ・と!
突っ込んでくるお父さんの頭に、落ちてきた打ち出の小槌直撃!
崩れ落ちるお父さん。
わたし、そんなお父さんの前で仁王立ち!
わたしの勝ち、おほほほほ。
「ちぇすとーっ!」
「え!」
って、わたしいきなりやられました。
たまおちゃんの不意打ちで、バンソウコウ頭にべったりなの。
『ちょ、たまおちゃん、なんでわたしを叩くのっ!』
『いいから、しばらくお芝居打ってください!』
『な、なんで……』
『いいから!』
『じゃ、やられたふりすればいいの?』
とりあえず、死んだふり。
「お父さま、大丈夫ですか!」
「た、たまお、よくやった!」
「この辺にはタヌキやキツネのバケモノが出るんです」
なんですか「バケモノ」って、死んだふりしてて文句言えません。
「バスを降りたらいきなりで……」
「ずっと私がバケモノ達を封じていたんです、これからもずっと封じていますから」
「うむ、たまおはここで、この地を守るがいい!」
あ、なんだかたまおちゃん、帰らなくてよくなったみたい。
とりあえずお芝居成功かな?
「たまおがお世話になってます……」
「あの……お父さん、もう『ちぇすと』しませんよね?」
「たまおのお友達でしょう」
わたし、お父さんと一緒に神社の階段下りているところです。
「さっきたまおが鍵を閉めてるので、なんとなくわかりました」
「お芝居バレバレだったんだ」
「迎えに行くってメールしたけど、なんだか嬉しくないみたいで……なんでだろうって思ってたんです」
「そうなんですか……」
お父さん、わたしをじっと見つめます。
「こんな友達がいるとは……たまおも変わりました」
「そ、そうなんですか……」
「下の神社で手伝っている時は問題ばかり起こしていて」
「ふふ……たまおちゃん、ちょっとドジっ娘ですもんね」
「いや……そんなんじゃなくて……」
またお父さん、わたしをじっと見て、ちょっと首を傾げます。
「いや……たまおも……趣味が変わったなって……」
「そうなんです?」
「百合は百合でも、どっちかというと……」
お父さん、またわたしを見てるよ。
「百合」ってなんでしょうね?
「あなたみたいなタイプではなく……」
「とりあえず、お店に寄って行きますか?」
「はい……たまおが世話になっていますから、挨拶の一つも……」
「ただいま~、たまおちゃんのお父さん連れてきたよ~」
って、お店に入ると、わたしの代わりにミコちゃんがレジに立ってます。
コンちゃんはあいかわらずテーブルでぼんやり。
お父さん、ミコちゃんとコンちゃん見て固まりました。
「ど、どうしたんですかお父さんっ!」
お父さん、顔がどんどん青くなります。
むむ……コンちゃんのしっぽを見ちゃったからかな?
ぬぬ……ミコちゃんが人柱なのを見抜いたのかな?
でも、お父さん戦闘モードに移行しません。
コンちゃんミコちゃんを見て視線移りまくりなの。
それからにっこり微笑んで、
「いや、たまおの趣味が変わったかと思いました」
「?」
「お二人を見て、納得です、たまおが帰りたがらないわけです」
わたし、全然わかりません。
でもでも、コンちゃんミコちゃんの表情、どんどん険しくなります。
「神社に連れ戻すと、問題になるので、お二人によろしくお願いします」
って、お父さん、脱兎のごとく店を出ました。
「待たぬか、たまおの父よ!」
「ちょ、たまおちゃんのお父さん待ってーっ!」
コンちゃんもミコちゃんも術で攻撃。
って、お父さん簡単に弾いちゃいます。
もしかしたら、すごい術者なのかも。
わたしにやられたの「ふり」だったんですね。
「二人とも、なに攻撃してるんですっ!」
とりあえず、コンちゃん達をストップさせます。
お父さん、計ったようにやってきたバスに乗って行っちゃいました。
あっという間です。
「二人とも、どうしたんです」
「ポンよ、おぬし、厄介払いされたの、わからんのかの」
「さ、さあ……わたし、たまおちゃん居てもいいもん」
「ふ……おぬし『百合』を解るかの?」
「花ですよね?」
「エロポンのくせに……まだ修行が足りんようじゃ」
う……なんかすごく悔しいです。
でもでも「百合」って一体なんでしょうね?
「はわわ……」
レッド、山の神さまにびっくりしているみたい。
「どちらさま?」
「うむ、おぬしは……キツネのようじゃの」
「こんにちは、ぼくはレッド、けのいろがあかいからレッド」