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第52話「タヌキなのに雌豹です」

 ふむ、そうです、以前からちょっと気になってました。

 わたし…店長さんに相手にされないのは、中学生だったりどら焼き級だったり。

 でもでも、コンちゃんやミコちゃんに手を出さないのはなんで?

 本当、パン屋さんはレッド以外は女の子ばっかりのハーレム状態。

 店長さんってまさか女の子に興味ないんでしょうか?


 今日も山のパン屋さんは営業しています。

「ポンちゃん」

「あ、店長さん……」

 先日の「身に危険」発言から、ちょっと店長さんをまっすぐ見れません。

「俺、村長さんに呼ばれてるから、ちょっと行って来るね」

「む……あの熟女の所に行くんですか?」

「村長さんだし……ついでに学校の配達もやっとくから」

「口実……」

 わたし、店長さんをジト目で見つめます。

 店長さん、配達のバスケットを手にしてから、

「打ち出の小槌で結婚をせまる女の子がいます……」

「う……言わないでください、あれは夢の世界のお話です」

「ポンちゃん、たまに暴走するからなぁ~」

 店長さん、手をヒラヒラさせながら行っちゃいます。

 目が笑ってるの。

 ドアが閉まるのに、カウベルがカラカラ鳴りました。

「これ、ポン」

 あ、テーブルでぼんやりしているはずのコンちゃんが隣に立ってます。

「これ、ポン、何故何もせぬのじゃ!」

「は?」

「今、チャンスであったろう」

「どこがチャンスだったんですか!」

「店長と一緒であったろう」

 そんなのしょっちゅうです。

「それってチャンスなんですか!」

「ふむ……おぬしに店長を落とすのは、やはり無理かのう」

「なんですってーっ!」

「これ、怒るでない……しかしわらわは失望した」

「もう、さっきから言いたい放題」

「おぬしはわらわの先輩であろう、店長の事をよく知っておるのであろう」

「先輩なんだから当然です」

「本当かの?」

 む……そう言われると、ちょっと不安かも。

「おぬしの本心は店長との結婚じゃったのう」

「うん、そうだよ」

「で、おぬしは店長の事を知らんようじゃ」

「えー、よく知ってるよ~」

「絶対知らん」

「な、なんでそんなに断定できるんですかっ!」

「さっきのチャンスを逃したからじゃ」

「どこがチャンスだったんですか」

「ポン、おぬしは何じゃ、仔タヌキ、タヌキ娘じゃろう」

「いまは人です、しっぽあるけど」

「店長はなんじゃ」

「人ですよ」

「バカ……やはりわかっておらぬ」

「……」

「店長、あれは草食男子なのじゃ!」

「そそそ草食男子っ!」

「そうじゃ、おぬし、おかしいと思った事ないのかの?」

「え? そ、それは?」

「わらわ、そしてミコ」

「コンちゃん、ミコちゃん……それが?」

「何故店長は手を出さぬのじゃ」

「!!」

「もし、嗜好が違ったとしても、おぬし、たまお、シロもおる」

「おお!」

「あやつ、ハーレムにおるのに、誰にも手を出さん」

「た、確かに!」

「それはあやつが草食男子だからじゃ」

「そ、そうだとしたら、どうしたらいいのかな?」

「むー、おぬしには一から教えねばならんのかのう、エロポンなのに」

「だ、だって~」

「こっちからアタックするに決まっておろう」

「えー!」

「何が『えー!』じゃ」

「だって~」

 わたし、いろいろ想像してモジモジしちゃいます。

 顔もちょっと熱いかも。

 そんなわたしにコンちゃんチョップしながら、

「何を浮かれておるのじゃ、アタックせねば話が進まんのじゃ」

「ほ、本当にそうなの?」

「あやつは草食で自らは動かん、だからこっちからなのじゃ」

「その辺がたまらなく不安なんだけど……」

「ポン、おぬし、店長が好きなのであろうが」

「う、うん……でも、店長さん『身に危険』とか言うし……」

「バカポン、店長はおぬしの事を好いておる」

「え! 本当!」

「本当じゃ、本当に危険だったり、嫌いだったら追い出しておろう」

「そ、そうかな……」

「わらわやミコを追い出すと呪われる、しかしおぬしを追い出しても何もない」

「……」

「あやつがおぬしを好きでなければ、ここに置いておる筈がなかろう」

「そ、そう言われるとそんな気がしてきました」

「そうじゃ、あやつ普段はテレて恥ずかしがっておるだけじゃ」

「でもでも、さっきは暴走とか嫌味言ってたよ」

「しかし笑っておったろう」

「むむ……そうですね」

「そんな事も気付いておらんかったのか、ダメポンじゃの」

「だ、だって~」

「ほれ、見るのじゃ、あやつ戻って来おった」

 あれれ、店長さん戻って来ました。

 きっと忘れ物かなにかです。

「ポン、行くのじゃ、決めて来い!」

「うう……」

「おぬしが行かねば、わらわがモノにするぞ」

 む……コンちゃんの目、本気です。

 あれ……でも、ちょっと笑ってますね。

「ポン、おぬしは今から肉食になるのじゃ!」

「わたし最初から雑食だけど、今から肉食です、がおーっ!」

「そうじゃ、その意気じゃ、おぬし今から雌豹じゃ雌豹」

「店長さんを食べちゃうぞ、がおーっ!」

 コンちゃんクスクス笑ってますよ。

「頑張るのじゃぞ」

 言ってから、トイレに入っちゃいました。

 もしかしたら、応援してくれたのかも。

 いつもは恋のライバルなコンちゃんも、今は恋の戦友とか?

 って、ドアが開いて、カウベルが鳴ります。

「ごめん、ちょっと老人ホームの分、忘れた」

「店長さんっ!」

「なになに、ポンちゃん?」

「チュッ!」

 もう、いきなりです。

 いや、見詰め合ったりしたら、こっぱずかしくて出来ません。

 わたしに出来る事、それは店長さんの首にしっかり腕を回すくらい。

 絶対、逃がさないんだから!

 キス終了。

 離れたら、店長さんポカンとしてるよ。

 見つめられたら、ほっぺた熱々なの。

 店長さん口をパクパクして金魚の息継ぎ状態。

 ここで告白するしかないですね。

「店長さん、好き、結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!」

「……」

「いきなり結婚じゃないですよ?」

「……」

「妹も却下です、彼女じゃないと嫌!」

「……」

「て、店長さん……大丈夫ですか?」

 って、コンちゃんトイレから出てきました。

 わたしの肩を揺すってから、

「ポン、よくやった、さすがエロポンじゃ!」

「えへへ、わたしやったよ、コンちゃん応援ありがとう!」

「そして愛とは奪うものなのじゃ!」

「へ?」

 って、コンちゃん廃人状態の店長さんに抱きついていきなりキス!

 もう、ドラマも真っ青な長時間の接吻。

 どんだけチューしてるんですかっ!

 今度はわたしがパクパク状態、あきれて言葉も出ません。

 でもでも、なんだかすごい絵になるシーン。

 コンちゃん美人だから、本当ドラマみたい。

 と……忘れてました、妨害しないとダメなところです。

「コラー、この泥棒ネコっ!」

「ふふ、じっくりたっぷりキスしてやったぞ」

「わわわわたしの店長さんになんて事を!」

「わらわがキスしてはならん法律はない」

「この雌キツネーっ!」

「その通りじゃ」

「ケダモノーっ!」

「その通りじゃ」

 コンちゃん、腕組みして細めた目で、

「どうせおぬしの事じゃ、キス程度で先輩面するのであろう、そんなのわらわは堪えられん」

「ぬぬぬ!」

 わたし、コンちゃん、臨戦態勢。

「ぽぽぽポンちゃんにキスされた……」

「……」

「こここコンちゃんにキスされた……」

「……」

「けけけ獣にキスされた……人の格好だけど……」

 店長さんフラフラと奥に行こうとしているけど、今は目の前のコンちゃんから目が離せません。

「わたしが最初にキスしたから先輩なんだから!」

「わらわの方がずっと長かったぞ」

「う……それはそうかも」

「ほれほれ、どうじゃ」

 ジリジリと詰まる間合い。

「老人ホームの分のお菓子、入れ忘れが……」

 ミコちゃんの声。

「あら、店長さんどうしてフラフラして……」

 店長さん、ついにダウン。

 ミコちゃんがそんな店長さんを支えようとして、でもでも一緒に倒れちゃいました。

「!!」

 わたしとコンちゃん、目が点。

 ミコちゃんが身を呈して店長さんを守ったようにも見えます。

 でも、店長さんがミコちゃんを押し倒しているようにしか見えません。

 だ、だって倒れた店長さん、ミコちゃんにキスしてるんだもん。

「ちょ、ちょっと店長さんのバカーっ!」

「くっ、ミコは関係ないと思っておったのにっ!」

 わたしとコンちゃんで店長さんを引き剥がし。

 う、うわ……

 店長さん、口が血まみれ。

 ミコちゃんも涙ポロポロこぼしながら唇押さえてます。

「ちょ、店長さんのケダモノーっ!」

「な、何故っ!」

「血が出てるじゃないですか、この下衆野朗っ!」

「くくく唇切ってるだけだろーっ!」

「大体わたしとコンちゃんで足りないでミコちゃんにもキスするなんて、欲求不満もどこまでですかっ!」

「たたた倒れた拍子だってば!」

 もう、店長さんポカポカ叩いちゃいます。

 わたし、もう店長さんを独り占めって思ってたけど……

 コンちゃんもミコちゃんもキスしちゃいました。

 最終回の最終回で振り出しに戻っちゃった気分です。


ポンと村おこしもついにこれでおしまいです!

今まで読んでくれてありがとうございました~


でもでも…わたし、店長さんと結婚してなーい!

とほほ…もうちょっとアタックしてればよかったのかな??


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