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第51話「店長さんとふたりきり」

 願い事がかなうなら、それはもう店長さんと結婚っきゃないでしょ。

 打ち出の小槌を使って、店長さんに結婚を迫る…んじゃなくて「強制」です。

「じゃ、遠慮なく店長さんと結婚できます」

 ふふ、わたし、打ち出の小槌を「ポンっ」って振ります。

 途端にタキシード店長さんと、ウエディングドレスなわたし。


 夕ごはん直前のテーブル。

 コンちゃん、打ち出の小槌を見ながら、

「ふむ、大黒がくれたのじゃな」

「うん、返すつもりだったけど」

「そうかそうか」

 って、コンちゃん打ち出の小槌を振って、

「店長とわらわ、濡れぬれ」

「ちょ、コンちゃん、なんて事を!」

 わたし、思わずコンちゃんの手から打ち出の小槌奪い返します。

 でもでも、デジタル数字は「3」のまま。

「ふん、わらわでは使えんのか、つまらん」

「だから、わたししかダメなんだよ」

「今、心配したくせに」

「コンちゃんの事だからね」

「ポン、今、何ともうした!」

「だってコンちゃんいつもズルばっか……打ち出の小槌横取りかと思ったんだもん」

「ふん、わらわは神ゆえ、そんな事はせぬ」

「ほんとうかなぁ~」

「本当じゃ」

 わたし、じっとコンちゃんを観察。

 コンちゃんの視線、泳ぎまくってからプイと顔を背けて、

「普通先輩は後輩に譲るもんじゃないかの」

 うわ、本当はすごく使いたいのかも。

 さっき「店長さんと濡れぬれ」とか言ってました。

 この打ち出の小槌、コンちゃんに渡らなくてよかったですよ。

 でもでも、どうしたものでしょう。

 願い事は三つまでなんです。

「そんなの、ウソに決まっておる、使えんのじゃ」

 あ、負け犬の遠吠えが聞こえます。

 でも、わたしもちょっとそんな事思ったりします。

 打ち出の小槌は本当、紙で出来てるみたいで、軽いし安っぽいの。

 本当に願い事をかなえてくれるのか心配。

「ほれ、ポン、使ってみるのじゃ、使えなかったら笑ってやる」

 むー、コンちゃん言いたい放題です。

 頭に来ましたよ、コンちゃんに使ってるの見せてあげません。

 そう、最初のターゲットはコンちゃんに決定!

「コンちゃんなんか消えちゃえっ!」

「なぬっ!」

 って、打ち出の小槌を「ポンっ」って振ります。

 目の前のコンちゃん、パッと消えちゃいました。

「コンちゃん……コンちゃん……コン……ちゃん」

 本当に消えちゃったみたいです。

 打ち出の小槌のカウンターも「2」になってる。

「はわわ……本当に願い事かなえてくれるんだ!」

 そう判ると、急に打ち出の小槌が光り輝くよう。

 わたし、テーブルに着くみんなを見ます。

 みんな、今のわたしの行いにびっくりしてますよ。

 さてさて、願い事はあと「2」つ。

 コンちゃんをお試しで消しちゃったけど、同じようにしていたら、あと二人しか消せません。

 わたしと店長さんの邪魔をするのは誰でしょう?

 みんなが知らん顔で食事を始めましたよ。

 ミコちゃんは普段は店長さんにモーションをかけません。

 シロちゃんも、同じですね。

 たまおちゃんの興味はコンちゃんやミコちゃんです。

 レッドは……おかずのトレードくらいなもの。

 でもでも、ミコちゃんもシロちゃんもたまおちゃんも女・雌。

 いつ、店長さんにフラグを立てちゃうかわかりません。

 それにレッド……恋愛関係にはならないけど、お子さまだから店長さんに取り付いている時間が多いような気がしますよ。

 そう思うと「全員邪魔」に思えてきました。

 しかし、使える回数は残り二回なの。

「そうだ!」

 わたし、打ち出の小槌を振るいます。

「わたしと店長さん二人きり!」

 って、打ち出の小槌を「ポンっ」って振ります。

 うふふ、ミコちゃんもシロちゃんもたまおちゃんもレッドも消えました。

 店長さん、目を白黒させてわたしを見てますよ。

「ぽぽぽポンちゃん、さっきからポンちゃんのせい?」

「うふふ、店長さん気付きましたね、打ち出の小槌で願い事かなえまくりです」

「なんて事を!」

「さて、いよいよ本日のメインイベントです!」

 わたし、打ち出の小槌を振り上げます。

 最後の願い事は「店長さんと結婚」なの。

 でも、わたし、思い出しました。

 願い事は三回までです。

 そう、この願い事がかなえられると終っちゃうの。

 すると……もしかしたら「終了」って事で、すぐにこの術も解けちゃうかもしれません。

 一瞬だけかなえて終わり……そんなセコイ事になったら嫌です。

 まず、そーゆー危険を取り払うには、

「願い事の回数、無限!」

 って、打ち出の小槌を「ポンっ」て振ります。

 カウンターの数字は「横8」になりました。

 これで安心して、じゃんじゃん願い事をかなえられます、まさに無敵。

「ポンちゃん……おそろしい……しっかりしている……」

「店長さん、わたしもパン屋さんでコンちゃんやミコちゃん相手にやってきたんです、神さま相手に暮らしていたんだから『したたかさ』の経験値あるんです」

「そ、そうなんだ」

「じゃ、遠慮なく店長さんと結婚できます」

 ふふ、わたし、打ち出の小槌を「ポンっ」って振ります。

 途端にタキシード店長さんと、ウエディングドレスなわたし。

 もう、店長さんの腕を捕まえて離さないんだから!

「さぁ、店長さん、覚悟はいいですか、結婚です結婚!」

「うう……」

「逃げられるとお思いですか?」

 わたし、打ち出の小槌をグイグイ店長さんの胸に押し付けます。

 店長さん、顔を背けてさっきから逃げよう逃げようしているの。

「ポンちゃん、その打ち出の小槌、どこから……」

「ふふ、店長さん、これは前からわたしが持ってたのと一緒です」

「でも、願いをかなえるなんて機能はなかったような」

「それは大黒さまをやっつけて……」

 って、途端にわたしと店長さんの周りに暗雲が立ち込めます。

『タヌキ娘……黙っていると約束したであったろう!』

 重低音な大黒さまの声。

 ピカピカ稲光もします。

 そういえば、わたしが大黒さまを蹴ったのは内緒でした。

『約束を破ったので、この話はナシじゃっ!』

「えーっ!」

 途端にわたしに雷が直撃。

 わたしの視界、クルクル回りながら、小さくなっていきます。

 奈落に落ちるわたし……死んじゃうの!

 ちょ、ちょっと口が滑っただけなのにーっ!


「はわわっ!」

 びっくりして目を覚ますと、みんなの顔がわたしをのぞき込んでいます。

 体を起こしたら、あれれ、パン屋さんですよ。

 さっきまで夕ごはんのテーブルだったような……

「わたし……寝てたの?」

 きょろきょろ回りを見るけど、みんなの視線がすごいキツイの。

 コンちゃんは髪がうねってるし、ミコちゃん・シロちゃん・たまおちゃんは冷めた目。

 レッドはわたしの腕を揺すって、

「ポン姉はぼくがきらい?」

「レッド、なに言ってるんですか……」

 って、お店のテレビを見たら、レッドが大きく映っています。

 なんでなんで!

「わらわの術で、おぬしの見ている世界を映しておるのじゃ」

「え……それって……」

「おぬし、一番にわらわを消しておったのう」

「わ、わたしの夢がテレビで筒抜けだったの!」

「そうじゃ」

「……って、どの辺から夢だったの?」

「ふむ……『まったく、雌雄を決するどころではない弱さじゃ』辺りかのう」

 って、わたしが返り討ちにあったところです。

 あそこから夢だったの!

 コンちゃん髪をうねうねさせながら、

「ポンはわらわが一番邪魔じゃったのじゃのう」

 ミコちゃんわたしに背中を向けたまま、

「ポンちゃん、しばらくごはん抜きかしら」

 シロちゃん、銀弾鉄砲を手に、

「本官、失望したであります、残念であります」

 たまおちゃんもお祓い棒をなでながら、

「まるで私が女性に見境がないかのような……」

 レッド、瞳に涙が溜まって揺れてます。

「ポン姉はぼくがきらいなんだ~」

 店長さんは真っ青。

「俺、すげー身の危険感じてるよ」

 コンちゃん、打ち出の小槌をポンポンしながら、

「ポン、おぬし、何でここにおるのじゃ!」

「店長さんと結婚」

 って、途端に打ち出の小槌が落ちてきます。

「あうう……叩かないで下さい」

「叩きたくもある……今一度聞く、何でここにおるのじゃ!」

「そ、それは……店長さんに恩返しです」

「じゃろう、それをするには村を栄えさせるのもあったんではないかの」

「ああ、でした、温泉があればって、そんな感じでした」

「願い事をかなえるなら、村おこしとかではないのかの」

「うう……反省しています」

 もう、わたし、自分からダンボール準備します。

 わーん、最後の最後にお外でお休みです、とほほ~


「な、何故じゃっ!」

 お外でお休み、月の光りが青くてとっても綺麗なの。

「な、何故なのじゃっ!」

 さっきからお隣でうるさいのはコンちゃんです。

「何故なのじゃっ!」

「コンちゃん、うるさいよ」

「ポン、おぬしがお外でお休みなのはわかる」

「そだね」

「何故わらわまでっ!」

「それはコンちゃんがわたしを焚きつけたからだよ」

「焚きつけてなぞおらぬ、挑発したのじゃ」

「どっちもどっちだよ」

「わ、わらわは納得いかんのじゃ」

「もう、コンちゃん、静かにしてよ、せっかくのお月さまが台無し」

「ふん、おぬしが月? 笑わせるでない」

 隣でコンちゃんが怒っているのを見ていると、なんだか冷静になれます。

 そんな事ってないですか?

「ふん、ポン、今日は反省しきりじゃのう」

「そんな事ないもん」

「ふん、おぬし、わらわを一番に邪魔者扱いじゃったな、おぬしは敵じゃ敵、仇じゃ」

「はいはい、ごめんなさい」

「む……気持ちがこもっておらぬ」

「……」

「しかし謝るのが早いのう、どうしたのじゃ」

「わたし、コンちゃんをどーこーしたのは正解って思っているの」

 途端にチョップが来ました。

「何たること、おぬしなんか好かん!」

「はいはい」

「しかし、では、何故落ち込んでおるのじゃ? 反省ではなかろう?」

「うん……みんなを消しちゃったのは悪かったって思ってるけど、あれは夢だよね」

「ふむ」

「それに、願い事の最後で復活させる予定だったもん」

「ほほう、それで願い事の回数をいじったのか」

「だって子沢山になったら、コンちゃん復活させて子守を……」

 またチョップです。イタタ……

「おぬしの前向きな姿勢はよーく解った……で、どうしたのじゃ?」

 む、さすが、術でわたしの夢をテレビに映しちゃうくらいです。

 わたしの気持ちをちょっとは察しているみたい。

「さっきね……店長さんすごい嫌そうだったんだもん」

「ふむ」

「身の危険感じるなんて……わたし、すごいショック」

 返事を待っていたら、コンちゃん頷いています。

「わたしだって女の子、好きな人にあんな事言われたら死にたい気持ち」

 コンちゃん頷いてます。

「わたし、いつも一生懸命お仕事してるのに」

 コンちゃん、コクコク頷くの。

「一度は裸だって見られちゃったんです!」

 ゆっくり頷いてくれるコンちゃん。

「好きでもないなら、なんでアンパン恵んでくれたんですかっ!」

 わたし、コンちゃんの方を向いたら、寝てやがります。

 さっきから頷いてるんじゃなくて、船漕いでたんですね。

「バカコン、起きろーっ!」

 ゲンコで叩こうとしたら、その拳をキャッチされました。

「お、起きてたの?」

「ポン、おぬし、そんなに店長が好きならアタックするのじゃ」

「えっ!」

「おぬしがアタックせぬなら、わらわが落としてしまうぞ」

「そ、そんなの嫌! ダメ!」

 コンちゃん、ニヤニヤ笑ってます。

 うう……もしコンちゃんが本気になったら、わたし絶対負けちゃうよ。

「わ、わたしが先輩なんだから! 先輩が先にいただくんだから!」

「ふふ、ポン、やってみるがよい、店長を落とせるものかのう」

 ぐぐ……これは店長さん攻略を急がないといけないみたいです。

 あ、あの店長さんをわたしが落とせるのかな?


「ポン、おぬしは今から肉食になるのじゃ!」

「わたし最初から雑食だけど、今から肉食です、がおーっ!」

「そうじゃ、その意気じゃ、おぬし今から雌豹じゃ雌豹」

「店長さんを食べちゃうぞ、がおーっ!」

「頑張るのじゃぞ」


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