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第40話「レッドとウリボー」

「店長さん、レッドが仔ブタゲットです、今夜はトンカツ?」

 わたし、冗談まじりで言ったのに、店長さんドン引きです。

「トンカツは冗談ですよ」

「ポンちゃん……これはイノシシの子供なんだよ、ウリボー」

 レッド、イノシシの子供を連れてきちゃいましたよ!


 今日も山のパン屋は静かな時間が流れています。

「ふう……なんだかお客さんが多い時と少ない時が……」

「て、店長さん、わたし言わないでいたのに」

「そ、そうなんだ……とほほ」

「でもでも店長さん、今から騒がしくなりますよ」

「うん? 何で?」

「ほらほら、仔キツネがしっぽをフリフリ」

 窓からレッド・シロちゃん・千代ちゃんが見えます。

「ただいま~」

 レッド、早速奥に行っておやつのパンをもらって戻ってきます。

 今日のおやつはメロンパンみたい。

 レッド、メロンパンをシロちゃんや千代ちゃんにあげています。

 ああ、なんだかすごく美味しそうに食べてますよ。

 なんだかレッドの食べっぷりを見てると、お店のパンが何倍も美味しく見えます。

 きっと笑顔がそうしてるんだね。

「店長さん、ポンちゃん、ちょっと……」

「なに、シロちゃん?」

「ちょっと……いいでありますか?」

「??」

 神妙な顔のシロちゃんに、わたしと店長さん、ちょっと奥に移動です。

「シロちゃん、どうかしたの?」

「ポンちゃん……最近なにか悪さしてませんか?」

「なんでわたしが悪さをするのー!」

「いや……その……」

「悪さをするならコンちゃんです」

「でも、ほら、コンちゃんはあんな感じであります」

 わたしと店長さん、言われてお店のテーブル見ます。

 コンちゃん異性に見せられない格好でスヤスヤ。

 テーブルを枕に爆睡中。

「コンちゃんは基本何もしないであります、面倒くさがり」

「そ、そうだね……」

 店長さんが首を傾げて、

「何があったか話してくれないとなんとも……」

「今、村の近くで道路工事があってるであります」

 そうそう、ダム工事は噴火でなくなったけど、道路工事中。

「工事現場、ことごとくイタズラされているであります」

「工事現場でイタズラ……」

「資材が壊されたり、車がパンクさせられたり」

「へえ……」

 店長さん黙っちゃいました。

 わたしだって考えちゃいます。

 ダムを作る時は工事現場の人は敵に見えました。

 でも、今は道路を作ってくれる神さまに見えるところです。

 お客さん……お得意さまだし。

「こんな感じあります」

 あ、写真が出てきました。

「あ……これ……」

 店長さんが一枚手にしました。

 壊されたプレハブの引き戸です。

「ここ、ここ」

「?」

 ガラスが割れている……店長さんの指差したのは下の板のところ。

 穴がたくさん開いています。

「これ、きっとイノシシだよ、イノシシ」

 イノシシは知ってます。

 大きくなるととんでもないの。

 わたしなんか跳ね飛ばされちゃいます。

「この辺あんまり開発されてないから人前に出ないって思ってたけど……」

 店長さんのシリアスな顔に、わたしもなんだかわかってきました。

「ててて店長さん、まさかここにもイノシシ来るとか!」

「う、うん……シロちゃん、被害ってもしかしたらお弁当とか?」

「そうであります、休憩所がひどいであります」

「イノシシが食べ物目当てなら、ここも当然狙われるよ」

「ててて店長さん、わたしこわいっ!」

 えへへ、どさくさ紛れに抱きついちゃえ。

 って、なんでわたしの頭、押し退けようとするんですかモウ!

「ポンちゃんはイノシシ知ってるの?」

「ええ、ちょっとだけ」

「なら、いいけど……レッドは?」

 見たらレッドと千代ちゃん、駐車場でボール遊びしてます。

「ポンちゃん、レッドはイノシシ知ってると思う?」

「店長さん、なんでわたしに聞くんです……多分知らないと思うけど」

「元ペットだからね……」

 店長さん、疲れた顔で駐車場に行っちゃいました。

 レッドと千代ちゃんになにか話しているみたいです。

「ねぇ、シロちゃん」

「なんでありますか?」

「シロちゃん、イノシシ見た事ある?」

「本官、一応村在住であります、見た事あります」

「勝てる?」

「……」

「ねぇ……」

「では、本官パトロールに行くであります」

 ああ、シロちゃんはぐらかして行っちゃいました。

 でもでもしっぽがしょんぼりしてます。

 この調子だと、シロちゃんは当てにならないみたい。


 次の日のお昼。

 レッドが帰って来るのにあわせておやつの時間です。

「ただいま~」

「はい、おかえり~って、今日は千代ちゃんいないの?」

「うん、シロちゃといっしょ~」

「はい、今日のおやつはホットドックですよ」

「ソーセージがすてき」

「ケチャップとカラシはどうですか?」

 えへへ、先にカラシをみせびらかし。

 レッドすごく嫌そうな顔してます。

 お子さまだから、カラシは苦手なの。

「シロちゃんもカラシは?」

「本官の舌には合わないであります」

 って、ここの居候でカラシがOKなのは人間とコンちゃんくらい。

 わたし、二人のホットドックにたっぷりケチャップします。

 レッド大喜びで、口の周りベロベロ。

「では、本官はこれで……」

「あれ、シロちゃん食べないで行っちゃうの?」

「これはまた後で……工事現場にイノシシがまた出たらしいので」

 シロちゃん、ホットドックの包みを手に行っちゃいました。

「食べながら行けばいいのに~」

「お行儀が悪いでありますから」

 店長さん、そんなシロちゃんを見送りながら、

「シロちゃん、レッドを送ってくれたんだね……でも、イノシシ被害ひどいみたいだね」

 店長さん、あっという間にホットドック食べてしまうと、

「ポンちゃんもレッドをよく見ててね」

「わかりました……って、わたしじゃイノシシに負けて……」

 わたしと店長さん、モソモソとホットドックを食べているコンちゃん見ます。

 コンちゃん、なんだか魂の抜けたような目。

『コンちゃんじゃ当てになんないからさ』

『はーい』

 店長さん行っちゃいました。

 言われたので、お店の中からレッドを見ていると……

 駐車場の隅に行って……なにかみつけたみたいです。

 おお、両手で抱えて戻ってきました。

「ポン姉、うさぎさん!」

「れ、レッド、それ、うさぎじゃなくてブタさん」

 レッドの持ってるのは毛むくじゃらの仔ブタ。

「ふわわ、ぶたさん」

「ブタの子供は毛むくじゃらなのかな? シマシマ模様」

 あ、足に怪我してます、店長さんにお知らせしましょう。

「店長さん、レッドが仔ブタゲットです、今夜はトンカツ?」

 わたし、冗談まじりで言ったのに、店長さんドン引きです。

「トンカツは冗談ですよ」

「いや、トンカツじゃなくてさ、それ、どーしたの?」

「レッドがゲットしてきて……足に怪我してるから消毒を」

「……」

「ブタって子供の頃は毛むくじゃらなんですね、シマシマ」

「ポンちゃん……これはイノシシの子供なんだよ、ウリボー」

「え……イノシシの子供!」

 店長さん消毒してくれます。

 ウリボー暴れるの、おさえまくりなの。

 店長さんむずかしい顔で、

「早く逃がして」

「いやーっ!」

 あ、レッド、ウリボーを奪取。

「店長さん、レッドお気に入りみたいですよ」

 ウリボーもレッドのこと、そんなに嫌いじゃないみたい。

 一緒に駐車場で追っ掛けっこしてます。

 でもでも店長さんビクビクしながら、

「ポンちゃん、ウリボーがいる、子供がいるって事は……」

「!!」

 わたしと店長さんが見守っていると、遠くからなんだかすごい音とシロちゃんの声。

 樹が折れる音がどんどん近付いてきます。

「わ、わたし、嫌~な予感がします」

「お、俺だって……」

 って、ドカーンって感じでイノシシ登場です。

 超巨大、耕運機くらいの大きさ。

 イノシシ、ウリボーとレッドに向かって一直線。

「待つでありますっ!」

 シロちゃん登場。

 イノシシの進路に立ち塞がり。

 拳銃構えましたよ。

「タイホー」

 出ました、タイホ即発砲。

「うわーっ!」

 やられました……シロちゃんの鉄砲って銀弾なんだよね。

 ああ、シロちゃんやられて血まみれです。

 し、死んじゃうのかな?

「きゃー!」

 あ、レッド、ウリボー抱いて叫んでるよ。

 イノシシ、シロちゃんの死体を確かめてから、改めてレッド見てます。

 あれは「ロックオン」ですね。

 ああ、死の体当たり開始です。

「これ、何事じゃ……」

 コンちゃんが出てきて、右手を伸ばして宙をモミモミ。

 久しぶりの「必殺心臓マッサージ」です。

 効果てきめん、イノシシ倒れちゃいました。

「これ、おぬしら、さっきわらわを役立たずとか思ったであろう」

「……」

「今夜はぼたん鍋じゃ」

 って、ウリボーがイノシシの鼻先を舐めてます。

 あれを食べるの、ちょっとかわいそうかな。

 わたしが店長さん見たら、店長さんもわかってくれたみたい。

「コンちゃん、イノシシ生き返らせて」

「なんじゃ店長、こやつを食わぬのか、しし鍋」

「親を食べたら、ウリボー養わないといけないだろ」

「……」

「そしたらコンちゃんのせいだから」

「うむ……しかたないのう」

 コンちゃんがまた心臓マッサージしたら、イノシシ生き返りました。

「イノシシよ、もう人里に来るでないぞ」

 イノシシ親子、行っちゃいました。

 茂みに消える時、振り向いて一礼。

 イノシシもコンちゃんはこわいんだろうね。

「店長さん、あれ、親子だったんでしょうね」

「そだね」

「あ、シロちゃん……」

 わたしと店長さんダッシュ。

 シロちゃん血まみれで転がってます。

 こ、今回のタイトル「シロ、殉職す」になっちゃうのかな!

「うう……死ぬかと思ったであります」

「し、シロちゃん、血がすごいよ、痛くないのっ!」

「うう……クラクラするであります」

 でも、血のわりに、なんか大丈夫そうな目です。

「ん?」

 わたしとシロちゃん、においに感じて一緒にクンクン。

 血って思っていたの、ケチャップ。

 たいした事なくてよかったです。


 わたしのしっぽをレッドがつかみましたよ。

「レッド、しっぽはやめて~」

「ポン姉~」

「なに?」

「おやことは?」

「うーん、お母さんと子供かな」

「おかあさんとは?」

「レッド、前、わたしの事お母さんとか言ってなかった?」

「さぁ……」

「お母さんは産んでくれたり育ててくれる人かな……」

「はぁ……」

「レッドのお母さんはどうしたの?」

「さぁ……ペットゆえにしりませぬ」

 なるほど……なんだかちょっとかわいそうになっちゃいました。

 わたしだって、お母さん覚えてますよ。

 自動車に跳ねられて死んじゃったけど。

「おかあさん……」

 レッド、わたしのしっぽをギュッてします。

 しっぽを握られるの嫌だけど、今日だけは我慢しましょう。


「どうしたの、ミコちゃん?」

「あ、ポンちゃんおかえりなさい……私、すぐに出かけるから」

「お買い物?」

「ううん、村長さんに言われて、給食当番に行くから」

 ふふ、ミコちゃん、給食当番なんだか嬉しそうですよ。


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