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超科学守護少女パクス・バニー ~神への階梯~  作者: 森河尚武
第三章 日常の崩壊、黒い戦乙女
8/10

日常の崩壊と黒い戦乙女 Bパート


残酷な暴力・流血シーンがあります。ご注意ください。

なおパクス・バニーさんはコメディの皮をかぶったダーク・サイエンス・ファンタジーです。(たぶん


あとなんかいろいろもうあきらめました。

具体的には、ブラッシュアップしてライトノベル一冊分ぐらいに納めようと思ってたんですが――無理だわ(汗

こんだけ好き放題にネタ積み込んだら最低でも新書一冊分はありますわー。ようやくあきらめがつきました。


というわけで、ブラッシュアップはしますが、自重はやめましたw



――は?

 玲は頭が真っ白になった。それは致命的な隙だ。

「聖武神皇の御前であるっ! 頭が高い。跪け、人の子よっ!」

「――ぐぶぅっ!」

 傍仕えの男が叫び、同時に重力が増大化。呆けていた玲は、姿勢制御もできずに地面に押しつぶされた。

「聖武神皇様の御前におられるというのに礼を尽くさぬとは、万死に値するわっ!」

 激昂して剣を抜こうとするが、黄金の男が口を開く。


「よい。人の子などに礼など求めぬ。それらには礼など理解出来ぬのだからな」

「ははっ! さすがは聖武神皇様。その空よりも広き御心に矮小たる臣、感服いたしましたっ!」

『感服いたしました』

 男は歓喜に震えながら一礼をする。ひざまずいた童子童女もまた平伏するように一礼をする。


――なに、この茶番劇……いや、本気なのかな?

 重圧のかかる身体を持ち上げながら玲は思う。こういう連中なのだとは聞いていたが、実際に目にするとインパクトが強い。


「さて、そこな人の子よ。今日は、汝らに伝えるべきことがあるがゆえに足を運んだ」

「……なにかしら?」

 玲はここまできたら、もう少し情報を集める必要があると判断した。

 離脱はおそらく不可能ではないが、強引な行動は起こしたくなかったのもある。

 こいつらは、おそらく周囲のビルを破壊し尽くすことが出来る。街への余計な被害は極力避けたかった。


「虫けらの分際で、なにを直答しようとしておるかっ!」

「なに、かまわぬ、直答させよ」

「ははっ!失礼をいたしましたっ! おい、そこな虫けらよ、海よりも深き温情にて特別に直答をさし許すと仰せである。ありがたく思い、感謝するがよい!」

「……」

 尊大な傍付の男の態度にさすがに毒づきそうになったから無言で耐える。

 黄金の男は彼女を見るでもなく、言葉を発した。

「今一度、汝らに伝えよう。かの愚か者〝堀越〟とやらがつくりしもの、そのすべて放棄し、その身柄を我らに引き渡せ。ナノマシン技術を汝らが扱うはあまりに愚か、かつ不遜である。あれは間違えばこの星を滅ぼすものであるがゆえに」

 腕を組み、傲然と自らの要求を突き付ける。いや、彼らはそれが正しき答えだ。

「汝らにはこれまでにも警告はしてやった。言葉だけでは通じぬ虫けらどもだ、多少の実力行使も交えてのことであるが」

 一度目は堀越博士を狙ったテロ、二度目は軌道エレベータベース破壊事件のことだろうと思った。

それらは厳重な警戒をあざ笑うかのように起きた。国連や各国政府関係者の重要人物に命を落としたものこそいなかったが、一般人にかなりの被害が出た。

 そして、三度目が国際艦隊演習事件だった。

 それは、同時期に違う場所で行われていた米国第七艦隊と中華人民共和国太平洋艦隊の演習中に発生した事件で、全艦艇のうち半数以上がほぼ半壊したと云われている。

 その中心に居たのは、黄金の光を纏う人物――〝聖武神皇〟を名乗るこの男だったと記録にある。

「人の世には〝仏の顔も三度まで〟という言葉があるそうだな? 我らは仏などよりも寛容であるために四回の警告を下した」

 四回目は、この前から続く一連の突発性テロリスト事件ことだと玲は直感した。

 銀行強盗や泥棒が最後に引き起こした奇妙な行動。あれは深層心理に仕掛けられた洗脳によるものと判明している。

 条件がそろったときに自動的に自爆テロを行うようになっていたと分析されていた。

 それは、情報を共有した各国の治安関係者を震撼させた。

 いったい何人の人間に仕掛けられているのかは判明していない。

またその条件も事前検査の方法もまだ完全には判明していない。

 一般人に仕掛けられ、発生まで判別する方法すらないテロリスト。

それは各国の潜在的恐怖になりつつあった。


「しかし、愚かな汝らは〝神の言葉〟を省みることもなく、なにやら戦力を用意し始めたというではないか。まったく愚かなことをするものよな」

 やれやれと云わんばかりに頭をふってため息をつく。

 黄金の男は心底から落胆していた。――すなわち神々にたかが人間がたてつくなど無駄なことをすると。

「まぁ、それはよい。とりあえず寛大なる我が慈悲で最後の警告を与えてやろう。汝ら人の子が、我ら神々に勝てるはずもないことを今一度認識せよ」


 玲はなんの感慨もなく、ただ無言で映像音声を保存しながら戦術立案システムと対話していた。


 ――危険度判定はこれで間違いない?

   YES。現行装備および定格出力で十分に対抗できると判断できます。

   仮想敵の戦力分析も終了しています。周囲のエネルギーフィールドの正体も判明しており、対抗措置も完了しています。


 ――じゃ、撤退。離脱可能な状態だよね?    

   YES、NMドライブはすでにミリタリー出力で待機中、NMクラフトも0.5秒で最大速度に加速可能です。


「だが、我々が相手をしては遊戯にもならぬ。ゆえに、汝の相手は――ああ、そこに居たか」


 なんの気配もなかった。瞬きをした次の瞬間にそこに居た。

 その事実に玲は総毛だった。


 黒いスーツの女性がそこに正座していた。


 空間微動レーダーもナノマシン連結座標把握システムですらも、その一瞬前にはなにもなかったとログは伝える。

 それは一切のタイムラグなしに、まるで紙芝居の一コマをめくったように、そこに居た。

 これは瞬間移動、空間跳躍などといった技術ですらない――これが、〝神々の一族〟のもつ力なのかと玲は戦慄したが。

 〝神々の一族〟を名乗る男たちは、ようやく視界に入った女を見下ろす。

いや、それはただそこにあるものを見ている眼だ。

  こいつらは、気が付いていないどころか疑問にすら思っていないと玲は直感した。


 彼らは、単に気が付いていなかった。それが自分たちに脅威を与えるものではないと、根拠もなく確信していたために。

 強大な力を持つがゆえに危機感覚は鈍くなっていたのだ。


 謎の女性が上半身をおろして両手をつき、頭を下げる。

 腰下で結ばれた濡れ羽色の髪が女の背中に美しく広がる。

 正座の最上礼。


 武神を名乗る男はその礼になにも応えず、ただ顎で指示をだした。

「それと戯れよ。そうだな、神々に逆らう愚かなモノだ、四肢を切断して見せしめにでもしよう」

 女はなにもいわずにもう一度深々と礼をすると、するりと立ち上がる。

「ああ、無知蒙昧な汝に教えてやろう。これは、汝ら人間を元にして作った〝戦闘人形〟である。我らに比べれば塵にも等しき程度だが、まぁ、なかなかな出来である。汝ら程度なら充分であろう」

 自らがわざわざ手を下すまでもないと言外に云う武神。


――違う。これはそんなものじゃない。

 玲は悪寒が全身を駆け巡り、冷や汗が止まらない。

 人間を素材に作ったというおぞましさだけではない。そんな話はすでに聞いている。

 その程度のことはもはや問題じゃない。 


 女が彼女のほうを向く。重心は微塵も乱れなく、隙のない挙動。

 ふわりと黒髪が舞い整う。

 顔はわずかにうつむき、表情は確認できない。だが、それは無表情だと玲は確信していた。


 ないはずの心臓が激しく動悸し、鼓動が高まる。


 だめだだめだだめだ、それを認識するな。逃げろ逃げろ。

 むだだ、それからは逃げられない。


 恐怖で彩られた鼓動とは裏腹に、冷静な思考があきらめる。


 黒いスーツの女が顔をあげる。

 露わになる顔。ほっそりした卵形の顎、大きめの黒い瞳。

 美少女といってもよいほど整ったその顔は――少女の成長した顔だった。


――《緊急警告。最上位存在を確認》

 玲の視界内に表示されていた各種インフォメーションの色が反転する。

 インフォーメーションが拘束スクロールしていく


《モード変更、対星神モード》

《補機NMドライブ出力上昇140パーセント》

《重力子フライホイールに動力伝達、コンタクトタイミング調整……主機ジオドライブにコンタクト……起動に失敗》


「がぁっっっ!」

 臓腑を抉るような激痛が体内に生じ、玲は思わず声を上げた。体内から幾千本の針に貫かれたような痛み。


《補機NMドライブの出力を変更200パーセント、主機ジオドライブにコンタクト……起動に失敗》


「ぐぅう……が、ぁっ!」 

 更なる激痛が襲う。思わずお腹をおさえて、吐いてしまう。


《補機NMドライブの出力を変更300パーセント、主機ジオドライブにコンタクト……起動に失敗》


「っ――!!!」

 全身をのけぞらせて、絶叫。全身の神経を引き剥がされるような激痛。


《エラー! 主機ジオドライブへのアクセス権限が認められていません、至急アクセス権限を取得してください》

《補機NMドライブの出力を変更、160パーセントにて対星神モードを起動……起動に成功。ただし定格出力の……》


 膨大なインフォメーションが玲の視界内を流れ、全身の神経が焼き尽くされるような激痛。

 腕で身体を抑え込んで震える少女のむきだしの背中から膨大な光の粒子が空に向かって放出される。

 それは光の翼となって、夜空を切り裂く。



「あははははっはっ! やはりやはりやはり! 現れたかっ! そこにいるんだな、歴史の転換点に現れる観測者、星の代弁人っ!」

 白衣の青年が独り踊り狂う。

 その視線の先には、高層ビルを超えて揺らぎはためく光の翼。 



「ほう、なかなか面白そうなことになっている」

 〝武神〟は突如光の翼を広げた少女を見下ろして、悠然とつぶやく。

 さほどの脅威とは思っていない。最悪でも自らが少し力を揮えば納まる程度だと思っていた。

 だからこそ焦りもしない。そもそも神の一柱たる自分に脅威を与えるものなどない――。


「ぐ、ぎぃ……はぁ、はぁ……」

 光の翼が消え、出力が安定した玲は苦悶の声を上げながら立ち上がる。その姿がゆらゆらと揺れている。

 莫大な余剰出力が大気を歪め、彼女の全身を内部から焼き焦がしながら増幅再生する。

 少女の白銀のバニースーツは変形して、テールコートのようにフィンがのび、足元のブーツも膝上まで覆うロングブーツ状になっている。

 上腕部まで覆うロンググローブもまた、手首と拳を保護するように大きめの袖口のようなフィンが追加されている。

 頭の上のうさみみヘアバンドは、耳から後頭部を保護すように回り込んで後頭部を覆う世菜リング状になり、ポニーテールは大きめのリボンでまとめられている。

 それはパクス・バニー・モードの最終形態。

 名はまだない。本来ならば、このモードはまだ実装されていないはずだからだ。



「ふふふ、返信するとはなかなか楽しませてくれる。せいぜい抗ってみせよ。なにせ下等生物は脆すぎて面白くない。汝が、人の子の切り札と聞いたから少しは面白きことになろう。我を楽しませよ」

 姿の変わった少女に驚く様子も見せず、むしろ面白がっている様子をみせる黄金の男。

 ぱちんと指を鳴らした。


 気づいた時には目の前に黒いスーツ姿の女が居た。

「ぐぅっ!!」

警告:α0が接近――

 遅まきながら警告が飛ぶ。しかし、すでに腹部に拳がめり込んだ後だった。

 戦車砲の直撃に耐えるNMスキン装甲をものともせずに、玲自身へダメージが通る。

 普通の人間なら内臓破壊はおろか背中まで拳が突き抜ける威力だった。

 

 崩れ落ちる玲は、その勢いを利用して女の脚を抱え込みタックルをしようとする。

しかし女はそれを予測していたのか、半身だけ身体をずらして、玲の背中に手の平をぽんとあてた。

 玲はとっさに脚を踏みしめ大加速、しかしわずかに間に合わない。

 背中を貫く衝撃。背骨が軋みながら地面に激突、がりがりとアスファルトを削りながら滑る。

 引き抜いていたバニーウィップで追撃に来ていた女を牽制し、体勢を立て直す。

二秒にも満たない攻防で、玲はぼろぼろになった。だが、それは気にするレベルではない。むしろ彼女にはもっと気になることがあった。


「どういうこと……なんで、ボクの顔なの……」

 改めて、その女を見る。見れば見るほど自分にそっくりだった。いや、自分を数年ほど経たせたような――


 女は無表情にただ立っているが、隙が絶無だった。

「ふむ、いま気づいたが……それと汝は似ておるな。あの愚か者の親族か? 壊したアレの妹以外にも親族がいたのか」

「――っ!」

 ドクターには自分以外に妹はいない。どういうことだと疑問に思った。

「あの人のメスは戯れに情けをくれてやったら壊れてしまったからなぁ。まったく人など脆いものよ。その残骸で戯れにそれを作ってみたが、なかなかよく出来たものだ」

 壊れる……残骸……自分のこの身体……。

 気がついてはいけない事実につながろうとしていたその時――戦闘思考に入った。


 ふわりと持ち上げられた黒ストッキングの脚。折りたたまれた足先が鋭く伸びて、がりっと玲の側頭部をかする。

 蹴撃を避けてバランスを崩した玲は、そのモーメントを利用して手刀を女の腹めがけて鋭く繰り出す。

 が、いつ引き戻されたのか、膝頭と肘に挟まれて威力が殺される。

 パワーに任せて強引に引き戻すことにより、女の姿勢を崩し――


 手刀と拳と蹴りが交差し、攻防の連鎖が加速する。

 秒間十を超える拳打蹴打の交差。拳速は音速を超え、めまぐるしく体を入れ替えて攻防がスイッチする。 


 強敵だと悟っていた。この強大な敵に少しでも勝つ確率があるのは、超至近距離戦しかないと思った。

 玲の戦術量子コンピュータがフル回転、状況を分析し対応策と攻撃手段のプランが数千通り作成され、最適なプランが選ばれて実行する。

 しかし、どれもこれもが防がれる。相手の攻撃もまた防ぐが、そのどれもが紙一重だ。


(戦術予測が間に合っていないっ!? 量子コンピュータの演算に勝っているというの!?)

《報告:予測演算は正常、しかし方法不明な対抗演算が行われていると推測。これにより予測演算に無視できない狂いが発生。》


 女の掌底がこめかみをかする。伸びきった腕めがけて拳を突きだすが腕が蛇のようにしなって拳は外れ、逆に手首を絡め取られて躊躇なく逆関節方向に極められようとするのを跳んで回避、身体ごと回して膝頭を女の側頭部めがけて繰りだした。

 しかし女の頭部はすでにその位置になく、からぶった膝の裏に女が手刀を差し入れて腱を絶とうとするが、それは反対の脚を打ちこみ防御させることで回避。崩したモーメントを利用して女の背面に回り――


 戦術量子コンピュータによる位置予測演算は秒間百万を超えてNMクラフトによる姿勢制御を支える。

人間の武技ではない領域、いまだかつて人類が編み出したことのない超近接空中戦技。

だというのに、女は苦も無く追従し、あろうことか圧倒している。

地に足をつけた人間の武技で。


(相手の演算速度を上回れないってことっ!?)

《報告:同等かそれ以上。予測演算による勝利は困難と判断、即時撤退を勧告。》  


 少女は空中で、女は地に足をつけたまま、一瞬たりとも間断ない攻防。

 もはや常人には追いつけない速度で、重力を無視した空中戦技と攻防一体の極限の武技が絡み合う。


二人の凄まじい攻防を見て武神は鼻を鳴らす。

「なんと無様な。たかが人間一匹程度にあのような攻防をするとは。所詮は下等な〝人形〟よな」

「はい、我らでもあの程度の虫けら、一太刀で充分であります。武神たる閣下ならば、指先だけでも充分でありましょう」

「そうだな、だがお主とてもそう捨てたすでもあるまい?」

「ははっ、そのようなことは在りませぬ。閣下の御足下も及びませぬ若輩者ゆえ」

「ふふ、謙遜するでない。我と三合も打ち合える汝もなかなかである。わが側近にふさわしき強さじゃ」

「――っ! ありがたきお言葉にございまする」



《警告:即時撤退を勧告。》

(できないから、戦っているんじゃないっ!)


 玲は一瞬でも気を抜いたら倒されると解っていた。それは予測演算などではない。

 確定した事象だと、乏しい戦闘経験から導き出していた。それくらいその女の実力は圧倒的だった。

 単純な出力だけなら、個人を超えて軍艦一隻分を優に超える彼女と互角以上に打ちあえ、技量では完全に上回っている。

 知る限り最強の武術家である副長すらも超えているかもしれないと、背筋が寒くなるのを覚える。


 もはや何度目かわからない、交差する拳打。

 致命傷ではないが、いくつもの攻撃を食らっている玲に対して、女はスーツが破れているくらいで、髪すら乱れていない。

 その黒髪がぶわっと広がる。玲の目を覆って、相手を視界から隠す。これはフェイント――攻撃はどこから?


「粘るね――でも届いていない、まだ」

 耳元でささやかれる声。ぞわっと総毛立つ。

「なっ!?」

 反射的に頭をサイドスウェーして、同時に肘打ち。それは相手に掴まれて不発。しかし、本命は脚を絡ませて引き倒すこと――

 だが、それすらも読まれていた。女は重心を落とした姿勢で、いかに圧倒的なパワーがあるといっても咄嗟では大した力が入らない。特に体重の軽い玲では。

 だが、人外のパワーを持つ玲に対抗できるということは、すなわち同等クラスのパワーをもつということである。

「終わりにしようか。――あの人が来る前に」

「っ!?」

 あの人とという単語を聞いて、玲はなぜか彼の顔が浮かんだ。動揺する。

 その隙を見逃すほど、女は甘くない。玲の脚をはらって、頭を掴み地面に叩きつける。

「ぐぅううっ!」

 地面に叩きつけた玲をそのままに、女はとんっと軽やかに跳んで、距離をとる。


 女が着地した瞬間、背後の空間が開いた。

 そこから現れてくる漆黒の――


それは、闇を固めたような漆黒だった。

それは、世界全てを切り裂ける大剣だった。

それは、〝世界〟に告げた。

この世全てを超越する必滅必生の転身。

ゆえにすべてを体現する完全なる黒――


「あ、あ、あ……っ!」

 顕れるそれを見て、玲は戦慄する。視界いっぱいに膨大な警告が顕れて、戦術量子コンピュータが瞬時撤退を勧告する。

 知らない知ってるあれはなにそれはあってはならない、あってはならない、あってはならないっ!

 知らない単語、知らない思考、既知でありながらそれは知らない。

 混乱する思考が少女を染め上げる。いつの間にか肩を抱いてがたがた震える。


 黒いスーツの女はそれを掴んだ。瞳の色が紅く変わる。

と、するりと歩くように疾る。

 玲は混乱してもなお反射的に後方に跳びながらバニーウィップを揮う。

 

 少女と女が交差する。


 何かが斬り飛び、空中に赤い帯をひいてアスファルトの上に落下する。

 それは、ウィップを握ったままの玲の右腕だった。


「ぐぅっ!!!」

 玲は痛みを感じる前に神経遮断して、即座にNMクラフトを最大出力、離脱を――

だが、女のほうが疾かった。

 交差した直後からさらに加速して高層ビルの壁を駆けて跳躍、奇怪なことに空中で軌道を変えて、こぼれるようにきらめく光の粒子と共にその身体が加速した。

(NMクラフトっーーーー?!)

 一瞬でそれがなにかを玲は理解した。

 彼女にしかないはずのものを、女が使ってみせた。それは、もはや彼女になんのアドバンテージもないことを意味した。


黒い大剣がヴェイパートレイルの尾を引いて、超音速で彼女に襲い掛かる。

「ーーーーーーーーっ!」

 絶叫しながら玲も左腕で、揮われた黒の大剣を迎撃した。

 拳椀装甲が砕かれながらその大剣の腹を叩いて斬線をそらし、NMクラフトを最大出力で稼働。

刹那の間で大加速が始まる――その瞬間を狙ったかのように大剣が跳ね上がる。


 その刃は玲の左腕を肩から切り払った。

 斬撃と身体の質量変化によってNMクラフトの軌道計算が狂って失速、加速状態のままアスファルトを砕きながらビルの基部に激突してようやく止まった。 


 うさみみヘアバンドと両腕を失い、額や頬からどろりと赤い血を流して、バニースーツもほとんど引きちぎれた無残な姿。

「ぐっ……あ……」

 それでもなお、少女の意識は健在だった。


 何事もなく着地した女は、そのまま少女に無造作に近づく。

 そうして黒い大剣を振りかぶり、少女にだけ聞こえる小声でそっと云う。

「さぁ、終わり……何も知らぬまま、ここで死ねるなら幸せだからね、〝ボク〟」

「……が、はぁ……あ、なた、いったい……?」

 少女は口元から血を流し弱々しい声でたずねるが、彼女はそれには答えず、慈悲の大剣を振り下ろそうとしたとき。 





「玲っ!」

 少年の声が戦場に響いた。


 


 残念、本気になったパクス・バニーが最強だといつから誤解していた?>挨拶


 パワーアップしたヒロインがあっさり負けるこの展開、当初からの予定です。

 ヒロインがズタボロになるっていいよねっ!<趣味最悪



 戦闘シーンだとおもわずのりのりで書いてしまいますが、どうでしょうか。

 迫力があるように見えるでしょうか?



 相変わらず評価も感想ももらえたことがほとんどないですが、お待ちしてます。

 自分は楽しんで書いているのでいいといえばいいんですけど、人が楽しんでくれている手応えを感じるのも楽しみなんですよ



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