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彼と彼女の事情~そうして二人は再び出会った Bパート

敬語や報告の仕方や用語は雰囲気で作ってます。実際のそれとは全然異なることはご了承ください。


8/4 主人公をはじめとするキャラクターの名前を変更。

12/29 誤字脱字・一部文章を修正

   ほかに全体的に文章表現の見直しをしました。

瑞穂警察署 警備部特別機動二課オフィス 課長室



 その部屋には三人がいた。

 一人は銀髪の少女―――結城玲。今はタイトスカートの婦警服を着ている。

 一人はサングラスをかけた壮年の制服姿の男で、革張りの椅子に鎮座しながら重圧なデスクの上で手を組んでいる。

 その横で端末を片腕にもった神経質そうな痩身の男は、玲のほうをやぶにらみの目で見ている。

 二人は彼女の上司だった。

 彼女が所属する特別機動二課のオフィス。

その一角に半透明ガラス壁の部屋があり、課長室になっている。

 その壁は電圧をかけると不透明になるプライバシーガラス製で、今は非透過状態になっているため、外からは様子はうかがえない。

「すでに連絡は受けた。K392X001号特務巡査、口頭での説明報告を」立っている男――実働部隊の副長。現場の指揮は彼がほとんど執る――が彼女を促す。

「はっ、報告いたします。本日1630頃、通常任務への着任移動のため特務装備 基本A型ボディースーツを着用して瑞穂第四高校特別教室棟3Fより多段跳躍移動を開始。

同1631頃 瑞穂第四高校当区別教室棟外周部1Fにて同高校二年A組所属三浦隼生徒と遭遇、風圧により露出した基本A型ボディースーツを視認されました」

「彼――中島隼と君との関係は?」

「自分が所属している同高校同クラスの生徒であります。また八日前、5月14日の通常任務において、恐喝未遂の被害者と同一人物に当たります」

「よりにもよって、クラスメイトか? いつかやらかすとは思っていたが……」

「はい、もうしわけありません」

 直立不動の姿勢のまま謝罪の言葉を告げる少女に対して、副長は今回の不始末を数え始めた。

「緊急任務時以外での基本装備着用! 不完全着用時における高機動能力の発揮! そして機密保護契約外の民間人への正体露見! いったいどれだけの服務規程違反をしたのか、わかっているのか!?」

「はいっ、もうしわけありません」

「君の謝罪はいいかげん聞き飽きている。だいたい君は……」

ねちねちくどくどと文句をつける副長。少女は顔を蒼白にしながらも、姿勢を崩さない。

「……副長、その辺でいいだろう」

「よくはありませんっ! だいたいこの娘は規律を守るということに非常に無頓着です! 機密の塊ですぞ、この娘はっ! 本来なら研究所に拘束して、世間との接触を断つ処置が必要なくらいです! それを人並みの生活をし、普通の学生生活を過ごすという甘い処置をとられているにもかかわらず、その意味を考えようともしない!」

「副長、それくらいにしろ」鋭さを増した課長の言葉に、副長も言葉を止める。

「……すみません、課長。特務巡査にもいいすぎた、すまない」

「はい、いいえ。自分の立場はわかっております」

 少女は顔面を蒼白にしながらも、気丈にふるまう。

「報告はわかった。詳細な報告書と関連する始末書を作成して提出しろ。期限は明日の定期任務出動前までだ。処分もその時に言い渡す。ただし、減俸は覚悟しろ」

「はい、了解しました」

「退出してよし」手を振ってドアを指し示す課長。

「はい、退出します。ですが、退出前に質問をよろしいでしょうか」

「……質問を許可する」

「彼の処遇についての詳細をお聞かせ願いませんでしょうか」

「それは、追って通達する。ただし、甘い処遇ではないことは言っておく。……お前の行動ひとつで人の人生を左右させることがある、そのことをよく考えろ」

「はい、わかりました。K392X001号特務巡査、退出します」

 びしりとした敬礼をみせて、彼女は退室した。


 少女が出て行った扉を無言のまま見つめながら、課長がつぶやいた。

「いやな役目をやらせてすまんな、副長」

「いいえ、あの娘には誰かを恨ませねばなりませんからな。うちの連中はあの娘に甘すぎますし、ちょうど良いでしょう」

 周りが甘くていい人間ばかりでは、あの娘はそのうち壊れてしまうでしょう。

うすく嗤いながら副長は答えた。

「……君も充分甘やかしていると思うがね。――やるかね?」

 デスクの引き出しから健康タバコを取り出して副長に聞く。

「ええ、いただきましょう」

 火をつけ、二人はしばらく無言で紫煙をくゆらす。

「……あいかわらず、マズいですな」

「……ああ」

 そのまま無言で苦い紫煙を吐き出し続けた。

 ちなみに、あとで秘書からしこたま怒られる二人の姿が見られた。

 あたりまえであるが、署内は禁煙である。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「それでは、ここに署名してくれるかしら。ああ、印鑑はないでしょうから親指の捺印でかまいませんよ」

にこにこ笑いながら、眼前の眼鏡の女性――婦警服姿だ――は、書類の署名欄を指し示してにこにこしている。

その横には分厚いA4ファイルがあるが、まだ開かれてはいない。

「質問は随時受け付けますので、わからないことがあったら聞いてください」

「……質問していいですか」

「はい、どうぞ」笑みを崩さないまま、特別機動二課 樫宮風香と名乗る女性は質問を促す。

「普通は契約内容を説明してから署名捺印ではないでしょうか」

「まことに残念ですが、今回のケースでは、まず機密保護契約をしていただきます。そうでないと拘束・拘留の対象になりますので」

「それって、不当拘束とか脅迫になるのでは」

「いいえ、今回のケースでは法律でそう決まっておりますので、該当いたしません」

「つまり、署名捺印しないと、契約内容の説明はできないし、また逮捕歴にもなるという理解でいいですか?」

「はい、その通りです」

 なんて一方的不平等契約だろうかと、彼は思う。しかしこのままだと埒はあかないし、交渉の余地もまったくなく、進退窮まっている。

「わかりました」

 署名捺印をして、書類を渡した。

「それでは署名を確認します。……確認しました。ではこれで、機密保護契約の効力が即時発生します。以後は『機密保護ではないと宣言された』場合と定められた公開可能情報以外はすべて非公開とし、機密保護が解除されるまで機密保護契約者以外の者に伝達することを禁じます。契約違反すなわち国家機密保護法違反における最高罰則は国家反逆罪による死刑です。ここまではわかりましたでしょうか?」

「……見たり聞いたりしたものは、公開を可とするもの以外はすべて非公開、同じ機密契約者のみとの情報交換は可能で、それ以外の者はすべてNG。最高刑は死刑ということですか」

「すごいですね、まったくその通りです」

 樫宮は目を丸くして驚いた。

 わたしが覚えて理解するまでずいぶん時間かかったんですけど、などと言っている。

「その要約が理解できていれば、この規約集のほとんどは参考にするだけでかまいません。つまるところ、公開してもよい情報以外はすべて禁止ということなので。解らないことがありましたら随時、聞いてください」

 相変わらずにこにこわらって、巨乳のお姉さんはなにかタブレット端末の操作を行って僕に聞いてきた。

「さて、わたしに聞きたいことがあるんじゃないでしょうか?」

怪訝な顔をすると

「ここに来る原因となった彼女のことです。現在のあなたの機密レベルC3級で、わたしに答えられる範囲で教えます」

「……正直に言って、あまり深入りしたくないんですが」

「知っておいたほうがよい情報というものはありますよ」

「たとえばなんですか」

「そうですね……たとえば、あの子。実は相当のドジッ娘だとか」


『なに教えてんですかー!』

 突如、端末のスピーカーから怒鳴り声が発せられて、彼はびっくりした。

 樫宮は、にやりと眼が笑っていた。

「あらあら、まさか聞いていたの?」

『樫宮さんっ! ボクの無線通信に介入接続したでしょう!』

「あら、つながってたの。きがつかなかったわー」わざとらしく棒読みなセリフ。

『ふざけてますね。ボクは受信拒否できないの知ってるでしょうっ!』

「ちょうどいいから、ちょっとこちらにいらっしゃい。入室許可は出してあげますから」

『無視して話を進めないでください!』

「ちゃんと自分のことを彼に紹介しないと。良好な友好関係はまず自己紹介からよ」

『ボクの話を聞いてください~!』

「待ってるわよー」

 タブレット端末を操作して、通信機能を終了する。最初から最後まで彼女を無視して一方的に話をすすめた樫宮だった。

「……そんな一方的な会話でいいんですか?」

「まあね。見てればわかったと思うけどあの子、押しに弱いのよ。だから、ちょっと強引に話を持っていけば素直に言うことを聞いてくれるの」

 心の隅にでも覚えておいてねと、樫宮風香――――筆頭秘書官を名乗る女性は笑いながら言った。



「コールサイン『パクス0』です。入室許可をお願いしますっ!」

 インターホンのスピーカが割れんばかりの大きな声で、彼女が入室許可を求めた。

「あの子、ここでは本名ではほとんど呼ばれないから。『パクス・バニー』か、またはコールサインの『パクス0』と呼んであげて」

 樫宮さんは小声でそう教えてくれたあと、入出許可を出した。

 ほとんど叩きつける勢いで、ドアが開くと銀髪の少女がずかずかと入ってきた。

 今日はあの〝うさみみ〟をつけていないし、そもそも樫宮と同じ婦警服だ。

 ただ―――その胸のあたりは実に慎ましやかで、樫宮との差がありすぎて、彼はそっと目を外した。


 うん、スイカとまな板というたとえでよくわかるだろう。または日本古来の伝統的な体型とだけ云っておこう。


「いま、すっごく慰められている気配を感じたんですけど」

「気のせいじゃないかしら」

 すいっと腕を組んだ樫宮を、隼はおもわず凝視する。。


 うぉ、すげぇ、腕でさらに盛り上がっているっ! 僕だって健全な男子高校生です、おっきいことはいいことだっ!


「今度は、なんか貶められているような感じが」

「そんなことはどうでもいいから、彼に自己紹介しなさい」

 わりと容赦がない樫宮さん。ひどいぜ、でも大きいは正義だっ!

「コールサイン『パクス0』、愛称は『パクス・バニー』です。階級は特務巡査です」

「ご趣味は?」すかさず樫宮が茶々を入れる。

「読書と食べ歩きです、ってなに言わすのですか!?」

「と、このようにポカが多いのよ。公式設定では『街の平穏を守ること』ね。あと好きなものは『野菜スティック』、苦手なものは『タバコ』よ。あと付け足すことは?」

「『良い子のみんなは悪いことしちゃだめだよ』」ちょっと顔を赤らめて標語を言った。

「だーめ。ちゃんと笑顔といつものポーズで。いつも『自動操作』はイヤでしょう?」

「やるほうが嫌なんですが」

「練習したら、そのうち快感になるわよ」

「快感感じるようになったらヒトとしてダメな気がするんですが」

「それは役者に対する侮辱よ。彼らは演技することが快感なんだから」

「ボク役者じゃないんですけど。というか、それは偏見な気が」

「似たようなものよ。あなたは今、『結城玲』ではなくて『パクス・バニー』なんだから。基本装備でなくてもね」

樫宮秘書官はわずかに険しい目をする。玲は口をすこしかみしめ、きっと決意した顔になる。そしてそのポーズを決める。

「良い子のみんなは悪いことしちゃだめだよ♪」

 きゃるーんと満面の笑みを浮かべて、ちょっと唇に指をあてて小首をかしげて決めセリフを言った。

 ああ、うん。かわいいんだけど、知人がやるとやっぱりイタいなぁ……。そんなことを隼は思った。

 そして、少女は顔を耳まで真っ赤にしてがっくしと床に手をついていた。

「まだまだ照れがあるわねぇ……」

「……ボクのこのストレスはどこにぶつければいいんだろう」

 うなだれて、ぶつぶつ床に向かってつぶやく銀髪の少女。そうとうストレスたまっているらしい。

「それでは、彼女の面白機能をちょっとご紹介。たとえば髪の色は自由に変えられるのよ、ほら、たとえば緑~、ピンク~、青~」

「あ、ちょ、遊ばないでくださいっ!」

 樫宮のタブレット端末操作で、次々に色を変えてく玲の髪色。

「そして禁断のレインボーカラー!」

 長いポニーテールの上から下までが七色のグラデーションを作る。

「凄い技術ですね、一体どうやっているんですか?」素直に感嘆してたずねてみる。教えてくれるならそれでいいし、機密性が高いなら答えてくれないだろうし。

「簡単に言えばナノマシンで髪の表面構造を変えて、構造色を付けているだけなんだけどね。彼女の本来の色はもちろん黒なんだけど、色を変えるだけでも印象が変わるからね」

「だから、無視して遊ばないでください~」

 玲の声にすこし泣きが入ってきた。そろそろからかうのもやめないと、本当に泣いてしまうかもしれない。

「こういった髪色や髪型変化に、普段の雰囲気調整などのちょっとした印象操作で人間の目はごまかされやすいわ。結果、正体はまずわからないものなのよ」

 ここで、樫宮さんは急に真顔になった。

「なのに、どうしてキミは彼女が結城玲であることが判ったのかな?」


……別に隠しているわけではないが、彼にはちょっとだけ特殊な能力がある。

 正確に言えば、それは遺伝子のちょっとした悪戯で、それがこの街に居る最大の理由だった。


「調べたらすぐわかると思いますけど、僕の目はですね―――」


「ラブリー・スイート・マイ・リトル・シスターはここか~~~~~~~!」

 どばんっと効果音つきで、それは現れた。

「どこ♪どこ♪どこにいーるんだ、マ~イりとぅるシスター!、学校で押し倒した男を署内に連れ込んだという風のうわさ(By食堂のおばちゃん)を聞きつけて、この超☆絶※大★天*祭たる兄が今観察もとい助けに惨状っ!」

黒髪を後ろで縛り、白衣を着た青年だった。

ドアのロックはどうしたとか、なんでこうも脈絡なく現れるのかとかそういった疑問すべてを吹き飛ばす不条理存在。

 だれもが反応できない。いや、正確には約一名が、こめかみに手をやってため息をついている。

「――そこか、マイシスターっ!!」

 机の脇に立っていた銀髪の少女をロックオン。

 ばびゅんと一瞬で少女の背後をとると、がばりと後ろから抱きつくとすりすりすりと超高速で顔を背中にすりつけた。

 さらに両手で胸のあたりをやはり超高速ですりすりすりすりと撫でまわして揉み倒す。

「ぎゃーーーーーーっ!」

ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに

指先がかすむほどの超高速指揉み。

「むう、胸がごつごつ固くて、背中が柔らかいぞ! もももももしかして病気かねっ! 病気なのかねっ! ラブエストマイシスター! いかん、診察と解剖と投薬と改造をせねばっ! まずは17分割からっ! さぁ、マイシスターすぐに服を脱ぐんだっ!」

タイトスカートをがばりとめくりあげて、お尻を丸出しにさせる。ちなみにフリル付きの白だった。なにがとかいうな。察しろ。

「×○▽♪★※~!!?!!!」

 真っ赤で真っ青と器用な顔色で硬直したまま、もう悲鳴なのか人間の声なのかわからないものを挙げている玲。

「玲ちゃんが壊れちゃうから、そろそろやめなさい」

 ぐいっと男の首根っこを掴んで、涙目で痙攣し始めた玲から引きはがす。

「うぐぅ、苦しいではないか! っと、そこにいるは無駄巨乳ではないか、なにをするのかねっ!」

「話が進まないから、少しおとなしく…」

「ふーはははっ、吾輩に自重を求めてもムリムラムチャムダの四段活用なのである。吾輩は猫であるは夏目漱石であるからして、むぅ文豪になるしかないではないか、どうしてくれる、ムダ巨乳・略してダムっ!」

「いいからそこに座れ」

「はい」無表情になった風音が座った目で言った瞬間、白衣の青年は残像すら残らない速度で正座した。

「ごめんね、この人ちょーっと残念系なんで……。顔はいいんだけどね」

 もうなにが起きていたのか理解できずに硬直していた隼に風音はあやまる。

「この人は玲ちゃんの実のお兄さんで」

「何者かと問われれば、答えようっ! 問われてないけどっ! 吾輩は全世界で阿鼻叫喚の大絶賛! 最叫の超・絶・大・天・才! ドォクタァアアアーノォ~スウェストっ! であるっ!」

どこから取り出したのか、べべんと三味線を引きながらコサックダンスを踊る。もう意味が解らない。

「ああ、今日はそっち(エロゲー)方面なのね」と風音も意味不明な一言をつぶやく。

「真冬の~空より~きたりてヒグラシ、日々~うつりゆく~よしなきことを~つれずれと~」

 べべんと三味線を弾きながら古典を歌い上げる。なかなか見事な音階だった。

「話がすすまないから紹介すると、ナノマシン医工学の堀越和輝博士です」

「……あの堀越博士ですか」

「ええ、間違いなく想像通りの人よ」


 堀越和輝。

 医療博士にして工学博士をもつ若き天才。

 理論上の産物でしかなかったナノマシンを理論から実証試験を遥か彼方に置き去りにして、わずか一年で万能工作機械にまで完成させた青年である。

 彼の登場で、ナノマシン工学は500年進んだとまでいわれる現代最高のナノマシン工学と医学の天才。


「おー! いえー!」現代の偉人に数えられるそんな人物が、三味線弾きながら一人ステージ独壇場。

「……こういう人だったんですか?」

 息を荒げている倒れている銀髪少女の乱れた服装を直してやっている風音。上気した顔の朱い唇と剥きだしになった細い太腿がちょっとエロティクス。

「……天才とアレは紙一重とはいうけど、まさにそのもの――」

「天才ではないっ! 吾輩、超・絶・大・天・祭っ! ろぉおおおっっくん・ろぉーる!」べべん。

……やっぱりただのアレである。そしていいかげんに再起動した銀髪の少女。ゆらりと立ち上がる。

「にいさん」

「うむ、なにかねっ! かわいいかわいいわが最愛のラブリエスト妹よっ! 吾輩、マインシスターのためなら地球破壊爆弾でも――」

「そこにすわってください」ハイライトの消えた瞳。でも顔は嗤っている。だがそれは無表情だと、瞬時に皆がわからされた。

「はい」即座に正座する白衣の青年。それを確認した少女がうなづくとハイライトの消えた瞳で、嗤ったまま口を開いた。

「いつもいつもいつもいつもいつもいつもい(以下百行くらい続く)いっていることですが」

 まるで抑揚のない声でお経のように続く言葉。青年も黙って聞く。

「にいさんのすきんしっぷはもういじょうをこえてれ○ぷです。わかりますか。れ○ぷですよ、れ○ぷ。ボクおこりたくないんです。にいさんだいすきですから。でもこんなことがまいにちつづいているからボクのしゅうちしんはとっくにぜろでまいなすになったらどうするんですか。あれですか。ちじょになるんですかねうふふふふふっふふふふふふっふふふふふふふふふふ……」

 ハイライトの消えた目でドクターを見ながら感情のない平坦な声で嗤う銀髪の少女。怖いを超えてもう戦慄である。子供が見たら悪夢を見そうなぐらい。

それもあって、セクハラ以上の行為をスキンシップで済ませる彼女も少しおかしい基準になっていることは誰もツッコまない。

「さて、にいさん。わかりましたか、にいさん。わかったらお返事。しなかったらコレです」

そういって、胸ポケットのボールペンを指し示す。

「むぅ、それでいったい何をするのかね」

「うふふふ、サすんですよ、まえのほうに。うふふふ」

 まえのほうにあながあるのはべつにおんなのこだけじゃないんですよね? 

嗤いながら無表情に言う彼女を見て、男性陣二人は下半身がきゅっと締まった。


そのまま5分くらい壊れたように嗤っていただろうか。

すこし生気を取り戻した少女はいちおう血のつながった兄にたずねた。。

「ところで兄さん。なぜこちらに?」

「うむ、それは噂を聞いたのでマイシスターを探したのだ」

「うわさですか? そういえばそんなこといってましたね。ほとんど記憶が飛びかけていましたが」

「うむ、男にだまされて首輪をつけて全裸調教中といううわさがながれておるが、本当かね?」

「どこのエロ小説ですかっ! というか、ここに普通にいます!」読んでるのか、エロ小説。

「むぅ、違ったのか。……どこが違うのかね?」

「全部ですっ!」

「では、男は連れ込んでいないと?」

「いえ、それは、その……」今までの勢いはどこへやら、玲はとたんにしどろもどろになる。

「博士、それはわたしから説明します」さすがに見かねて、樫宮が助け船を出した。

「彼女は本日服務規程違反になる正体が露見する行為をこちらの彼に対して行いました。その関係で彼は機密保護契約をしました。その意味では彼は被害者です」

「ああ、それでこちらに連れてきたのか……。なにせマイ・リトルゥ・シスターが同級生をこちらに連れてくるなんて初めてだからね、ちょっと吾輩も浮かれたようだ」

 ふむふむとつぶやきながら、鋭い眼光のドクターに、隼はわずかにひるむ。べつに悪いことをしているわけでもないのだが。

「ご紹介します。中島隼君です。中島君、こちらが堀越和輝博士です」

「君が、玲が連れ込んだ彼氏か、ふむふむふむふむ…」

素早く隼の全身を見て回って、最後に瞳を覗き込んだ。

「彼氏ではないです……」疲れ切った玲の言葉を誰も聞いていない。

「ふむ、名前は『中島隼』っと。パスワードはちゅうちゅうたこかいな……」

 どこから取り出したのか、いつのまにやらタブレット端末を操作し始めて、ぶつぶつつぶやく。

「ほう、君は『赤外線視』症か」

 さらりと隼の秘密を暴露し、少女の肩がピクリと震えたが、隼は気が付いていない。

 彼の秘密が書かれているデータのほうに気がとられていた。そして、そのようなデータは一つしかない。

「……僕のカルテをみてるのですね?」

「この街で吾輩にアクセス出来ぬ情報なぞ独立回線以外はないからな」

自慢するでもなく白衣の青年はひょうひょうとしている。

「うん、よし。中島君。取引をしよう」

「……どのような内容、っとそのまえに僕に拒否権はあるんですね?」

「ふむ、なかなか将来有望だね。きちんと情報管理の基本を理解していると。なに、大したことではないから、聞いてから拒否しても構わない」

「堀越博士」警告するように樫宮秘書官が青年の名前を呼ぶ。

「ああ、大丈夫だ。別に人体実験をするわけでもない。おそらく、樫宮君が提案しようとしていたこととほとんど同一だ」

「お待ちください。彼に助言をしたいと思います」

 そういって、返答を待たずに隼の前にきて肩を掴み、小声で教える。

「よく聞きなさい。堀越博士は間違いなく現代世界最高の頭脳です。それと同時に狂ってもいる。普段はそう見えないけれども、彼には倫理観がない。すべての基準は彼女。彼女のためなら何でもするといってもいい。だから、よく考えて自分のためにならないなら断固断りなさい。彼女以外への執着心はないから、断っても大丈夫だから」

 樫宮はひどく真剣な目で隼に教える。彼はわかりましたというしかない。

さぁ、どんな内容なんだろうか?と彼はある意味で期待していた。答えはほとんど決まっていたが。

「終わったかい?」

「ええ、彼も真剣に考えてくれると思います」

「ではあらためて。まず取引の交換条件は、君の遺伝子病治療だ。カルテから推察するに、このタイプは多少改変した専用ナノマシン治療で一か月以内に治癒できることは確実だ」

「それは臨床試験で、ということですか?」

「遺伝子改変型ナノマシン治療は、すでに実績がかなりある。いまも病気への最終手段として様々な技術が研究開発されている。身体のほとんどすべてを失ってもほぼ元通り回復したデータもある。危険性は並みの予防注射より低いことは間違いがない」

「交換条件はわかりました。では、取引の内容はなんですか?」

 悪くはない条件だった。通常医療に比べてナノマシン治療は高額だ。それは医療用ナノマシンは事実上の個人専用であるため、調整開発費用がかさむのである。

 僕がこの街に住んで通常の遺伝子治療をしているのも、結局は費用が理由だ。臨床試験を兼ねているので、通常より安いとはいえ、数年にも及ぶ経過観察の両親の負担を考えると飛びつきたくなるとさえいえる。

「取引の内容は、そう難しいことじゃない。私の助手となって『結城玲』を支援してくれないか?」

「お断りします」

 ノータイムで即答した。だれが死亡フラグを立てるものか。


 唖然とした三人の表情はなかなか面白い。さすがに即答で断るとは誰も思わなかったらしい。

「……むぅ、マイ妹が気に入らないのか?」 

「そういう問題ではないです」

 そう、そういう問題ではない。なにせ自分の命がかかっている。死亡フラグは全力で回避。彼は自分が平凡な人間だとわかっていた。

 平凡な顔立ち、背は平均身長より少し高いくらい、運動は少し苦手、趣味は読書と絵を描くこと、あとは健康的男子高校生ぐらいにはかわいい女の子が好き。

 ちょっとだけ特殊な目を持っているが、何の役に立つわけでもなく、ただの遺伝子の悪戯だ。

 世の中に出回るエンターテイメントなら主人公も脇役も敢然と危機に立ち向かうが、僕はどんなに頑張っても名もなき一般大衆。テロップに名前も載らない、いや、むしろ画面にも出てこないようなキャラ。

異星人が攻めてきたら、『日本壊滅』とテロップされて被害者数にカウントされる程度だろう。しかも端数。いてもいなくても大勢に影響がないような。

「その問題というのは?」

「僕が役に立てるとは思えないからです。むしろ足を引っ張るとしか思えない」

 マンガやライトノベルじゃないんだ、勇気や高校生程度の知恵で現実がなんとかなるわけがない。主人公補正? そんなものが現実にあるかっ!

「なに役に立つ立たないというかだな、学園でのMy妹のサポートをしてくれれば……。ほら、なにせこの子はあわてんぼうさんだから…」

「なおさらいやです。僕の手に負えません、こんなドジッ娘」

「……ドジッ娘」ぼう然とした顔つきで銀髪の少女がつぶやいた。ちょっとかわいいけど、しかしそれに負けてはならぬ。なにせ命がかかっているんだ。全力全開で逃げるっ!

「うむ、それは否定できんな」「そうね、無理ね」

 うんうんうんと激しく肯定するドクターと同じくうなづく樫宮さん。この二人妙に息が合っていないか?

「みなから根本的人格否定されてる……」だばだば涙こぼれそうです、これでも女の子ですから。


 しかし、二人の間にはそれどころではない緊張感に包まれている。

 次の口火をどちらが切るか……互いの呼吸で間合いをうかがう。

 白衣の青年が九×八=七十二!と目を見開いた。

 ぐわしと玲の肩を掴んで、ぐいぐいと前に押し出してくる。

「気に入ったっ! うちの妹とフ○ックしていいぞっ! ただし中田氏だけはかんべんなっ!」

「なななななななにいってるんですか、にににににににいさん! ボク達そういう関係じゃないっ!」

 顔を真っ赤にして抗議する玲。単語わかるんかい。

 一方の隼は、もうだいたいドクターの言動パターンがわかってきていた。そう、彼の言動はまともに受け止めてはダメだということに。

「いやいやいや、彼女とは付き合っているわけではないですし」

「マイ・ラブリー・スイート・シスターの何が不満かねっ!? そりゃチチもしりも身長も小さいが、こんなにかわいいだろう?」

「身長はともかく、チチがちいさい……」

「それは否定しませんが」「否定してほしかった……」

そこに反否定がかかっているわけじゃないんだが、とちょっとだけ思ったが反応するのもどうかと思ったので置いておく。

でも、『小さい』じゃなくて『ない』のほうじゃないか?と彼はけっこうひどいことを思った。

近くに樫宮風香がいるのだから仕方がないが。


「うぬぬ、かわいいかわいいマイ妹を差し出してもダメだというのかね?」


 妹を生贄に差し出すなと突っ込みたくなるがスルーだ、スルー! ここで突っ込んだら負けだ! 逃げる、逃げ切るんだ! こういう『主人公』クラスに関わっちゃいけない!

 僕はかわいい嫁さんもらって、平穏な人生送って最後は孫たちに囲まれて息を引き取るんだ……っ!


 彼は気が付かなかった。それが究極の死亡フラグだということに。


「君の覚悟はよくわかったっ! ならば究極の世界の秘密を教えてやろうっ!」

「っ! 何をする気ですかっ!」

 制止しようとする樫宮秘書官、だが白衣の青年の眼力だけで全身が硬直させられた。

身動きできなくなった彼女から目線を外し、長身の青年は隼に近づいて上から見下ろす。

「……この地球には“神”を名乗る一族がいる。数万年前に、人類を造ったと称する連中だ」

「バカバカしいですよ。そんなのフィクションじゃ、珍しくも……?」

 隼は樫宮風音の態度がおかしいことに気が付いた。顔を青ざめさせながら怒っている樫宮風音がそこにいた。

「堀越博士っ! なんてことを……」

 それで彼は理解した。それは事実なのだと。


 いわゆるトップシークレットを上回る『ないことになっている』機密クラス。

 それを知った者は機密契約と監視から一生解放されることはない。機密C3レベルであれば、五年を目途に情報公開され、機密保護契約からも解放されることが普通だ。

トップシークレットとて、早ければ50年後には情報公開されて、契約効力を失う。

だが『ないことになっている』クラス(NOTHING)情報は違う。

 一切非公開、情報が存在することすら公開不可という機密クラス。それは文字通り墓場まで持っていかねばならない最高機密。


「証拠はいくつもあるのだが、今もっとも簡単に説明できることを言おうか。少年、ナノマシンについて不思議に思ったことはないかい?」

 にたりと粘着質な笑みを浮かべて、白衣の青年は疑問を呈した。


 そう、それは明らかにおかしかった。

 理論はあった。それこそ前世紀にSF小説で提唱され、研究されるようになって半世紀以上。

 しかし、実物の作成など夢の産物として扱われ、もっとも進歩的な科学雑誌による予測でさえ、数世紀先とされていた。

 それが、彼が理論を発表してわずか半年後。公開実用テストが行われ、土砂の山が置かれていた土地に衆人環視のなか、一晩で見事な建築物が現れたのだ。


 その後、設計データを入力するだけでナノマシン操作が可能な『ナノマシン・コンパイラ』と記憶された材質にほぼ瞬間的に変化するナノマシン素材『ナノマシン・マテリアル』が発表され、現在までの9年間でいったいどれだけ普及したことか。

 人類は未曾有の好景気に沸いている。なにせNMコンパイラと素材となるものがあれば、あとは設計データを投入するだけでありとあらゆるものが作成できるのだ。

電気もガスも水道も不要。土からも元素変換が可能なため、場所と素材と太陽があればいいそれは、爆発的に普及した。先進国が安全性を確認するとして採用に躊躇する中、特に技術的後進国では当たり前の技術となった。

 計画を立てて、必要なものを設計し、データを入力し、NMコンパイラを起動する。それだけで手のひらサイズから超巨大構造物まで作成できるのだ。

 普及しないはずがない。


 わずか数年で現代世界に不可欠になった超最先端工学技術。

 それがナノマシン工学である。


 その実証技術者にして、事実上の発明者である堀越和輝博士。

 彼の口から、その技術に疑問符をつけろと言われたのだ。

 彼は疑問に思わなかったか?と問うた。それは、その技術がおかしいのではないかと言っているのと同じ。

自らの技術の何を否定している?

今の世界。極短期間で普及した技術。

いや、そうではない。そもそも開発期間が短すぎる。

理論の発表からわずか一年で必要なものが出来上がっている、それがおかしい……。

「……モデルとなった技術、いや、素材があったということですか?」

「80%正解だ。ヒントは与えたけど、思った通りなかなか優秀だ」

 マスコミや学者の大半はそこまで辿り着けていない。ただのオカルトマニアがあてずっぽうで正解しているだけという状況だよ。

 にたにたと嗤っている青年が皮肉気に言う。


 80%正解だというならば、それが先ほどの重大機密にどうかかわるのかなんて、すぐにわかる。

「なら、それが元々は『神の一族』とやらの元にあった素材ということですか?」

「そう、それで完全正解。連中によれば私はその一族の末端に連なる者なんだそうだ」

 末端も末端、本家に名前を呼ばれるどころか、そもそも一族に数えられてもいなかったはずさ、とあざ笑う。

それが己に向けてなのか、一族に向けてなのかはわからない。

「それは、代々受け継がれてきた遺物だった。ものは大したものじゃないし、由来もわからない。ただ大昔にそれを守り伝えるようにとの言い伝えだけ残されていた」

 当時、ナノマシン工学専攻の院生だった私がそれをちょっと検査しようと思ったのは、本当に茶目っ気だったんだ。

 検査した結果も実はたいしたものではない。大昔にそういったモノが開発されていたというのはたしかに考古学的にはオーパーツな大発見だったけど、そんなの興味ないしね。

 ただ、そのデータをヒントに思いついた実験で面白い現象を発見して、いまのナノマシン理論を思いついたのさ。理論をまとめ上げるのに三日しかかからなかったよ……。

 世間に流布されているナノマシン開発話とはまったく異なる秘話を、愉快そうに語る青年。

 樫宮秘書官はもう口も挟まない。すでに究極の機密は暴露された。ここで青年の言動を止めても意味がなかった。

「そこから先は君たちが知っていることと大差はない。爆発的に普及して、現在の混沌とした世界がある」

 混乱と狂気の世界へようこそ。この国はまだ平穏だが、これがいつまで続くかはわからない。

 平穏を求めるなら、自らの判断と決断でこの混沌の世界を渡らねばならない。

「くかかかかか! さぁ、これで後戻りできないよ、少年! なにせ最高究極の秘密を知り、自分の頭脳力の一端を私に見せた。そして、それは花マル合格だ! もしこの取引をしないというならば! なにが起きるのかなんて、君ならわかるよねぇっ!」

 高らかに嗤う狂気の天才工学者。

「改めて問おう、少年よ」


 ばっと手を伸ばして人類最高の頭脳は、契約の言葉を吐いた。


「君は、『結城玲』に力を貸してくれるね?」


 白衣の青年は余人に解らぬ狂気で踊り狂う。

狂気の宿った瞳の底の底の底。


 ああ、そういうことか。

 樫宮さん、あなたのいったことは違ってる。


 彼は気が付いた。




 この人は、狂っているんじゃない。狂気を纏っているんだ。






 その日、彼は悪魔と契約して、この世界を相手にすることになった。


ヒロインは公文書にはこの番号で記載されます。結城玲というのは本名なのですが、公式には使えません。学校ではこの名前ですが、これは警察側の要請により、そう登録されているだけで例外です。

これについては徐々に説明していきます。

あ、ちなみにヒロインはロボ娘ではありません。サイボーグというほど機械改造されているわけでもありません。まったくの無改造でもありませんが、この世界では網膜投影や視線入力IFなどの簡単な機械埋め込みは普通です。


またメガネは個人映像機器、ファッションや機械拒絶反応のある人間が補助的に使用しているだけで、視力矯正の用途で使う人間は珍しい部類にはいります。

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