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超科学守護少女パクス・バニー ~神への階梯~  作者: 森河尚武
第三章 日常の崩壊、黒い戦乙女
10/10

今週のパクス・バニーさん 日常編 『変身せよ! パクス・バニー!』

久しぶりに評価がついてたので、本編ではないですけどまだ投稿していなかった外伝を。


本編再開は、滅国が一段落ついてからですかね……



「で、テストする新装備というのはどこにあるんですか」

 デスクの上に鎮座するそれをないものとして、婦警服の少女がもう数えるをやめた台詞を繰り返す。

「うむ、それがそうだ」

 そして課長用デスクの上で手を組む課長の答えも変わらない。

 何度繰り返したのかはもう数えていないが、一周するたびに気温が3℃はさがり、いまは氷点下である。

 プライバシーガラスの向こう側で、書類仕事をしている熱い筋肉男たちがおびえて震えるくらい、部屋の空気は鋭く冷え切っている。


 さすがに話が進まないことにつかれた彼女がそれに目をやる。

そこにあるのは、一言で言えば不細工な耳の長い狸だ。色は白。


 でろんとしたどこをみてるかわからない濁りきった赤い目。ゆがんでるとしか思えない―――――公式には「笑み」ということになっている。―――――口を表す線。

 長い耳に、なぜか三本指の両手と水かきのように平べったいつま先。足はない。

 はっきりいって不気味このうえないというか、薬物でもやってんじゃないかと思われるくらいキモカワ系といわれそうにもない危険物。

 しかし、これが最先端医療都市「瑞穂」の公式マスコット「ハクトちゃん」である。


 目をやった瞬間に、それは赤い目をビカビカ光らせて

「やぁ、ボクはハクトちゃん。ボクと契約して、魔―――――」

 ぐしゃり。

 即座に速攻に躊躇なく容赦なく問答無用に叩きつぶした。

「……なにをするのかね?」

「いえ、最後まで言わせるとまずい気がしまして」

 主にこう、著作権的に。と内心だけでつぶやく。

「そうか」

 課長もそれ以上口を挟まなかった。おそらくだが、同じ気持ちなのだろう。

「じゃぁ、新装備の試験はなかったということで」

 少女が踵を翻し、今までのやりとりで気温が下がっていた特殊機動二課を出て行こうとしたところで

「それは、困る! 困りまくるのですっ!」

 バターン!と扉を開けて、白衣のメガネ青年がオフィスに入ってくる。

 でたな、変態とやっぱり心の中だけでつぶやく少女にかまわず、青年はシュタっと机の前に移動し、ドデンとそれをデスクの上に置いた。

「そーんなこともあるだろうとっ! そこにあったのは実物大外見試作モデルを置いておいたのです、ハラショー! というわけで、実物はこれなのです」

 ビシッと指さしたそれは、先ほどぶっ潰したそれと寸分変わらないモノだった。

「とゆーわけで、ラブリーMYエンジェル妹よ! 君にこの新装備をテストしてもらいたいのでーす。というか、君のために作ったんだから、君しかテスト出来ないのですっ!」

 くるくると三回転ほどして、びしっと差した指はなぜかひげの課長だった。目を回したのだろうと部屋の誰もが思った。

「また予算で個人装備を作ったのですか……」

 はぁーとこれ見よがしにため息をつく、少女――結城玲。この青年が出てきた以上、彼女は絶対に逆らえない。なぜならば、兄で□□□であるから。


「で、どうやって使用する……というか、これはいったい何なんですか、ドクター。 ペットロボットにしか見えないのですが」

 不細工なとかはいえない。仮にも行政府に属する身だ、上層部が推進したモノを批判は出来ない。

「うむ! これはマスコットだ! そして優しく『兄さま』(はあぁと と呼びたまへ、MY妹よ」

「……マスコット?」

とりあえず後半はスルーして、でも意味がわからない。そりゃ、公式キャラクターだから、マスコットだろうけど。

「そうだ、魔法少女にはマスコットがつきものだろう?」

 それでようやくわかった。さて、兄がみたのはどのタイプだ……?

 密かに身構える少女に気がついた様子もなく、世界絶頂絶後のナノマシン開発研究者堀越博士は、ぐっと親指を突き上げた。

「そして、魔法少女といえば変身だっ! そういうわけで、これは展開防護服なのだっ!」

 なにがそういうわけなのか、さっぱりわからないが、聞き慣れない単語の説明を求めようとする玲。

「コマンドワードは、『バースト・チェンジ』だっ! さぁ、大きく叫ぶが良い良い良いっ!」

 ノリノリになった博士には何をいっても無駄なことは長年の経験でわかっているので、不承不承つぶやいた。

「バースト・チェンジ」

『コマンドワードを確認しました』

 突如 女性型の機械音声が聞こえた。

『防護服展開プログラムVer.0.90起動します。現在デバッグモードのため、二秒間の動作保持とログ表示を行います』

 青年が持つタブレット端末から聞こえてくるそれは、画面表示とともに音声で読み上げていく。

『光学迷彩エフェクト エラー! 可視光レーザー投影装置が見つかりません。プログラムを停止します』

『衣服強制排除モード』

 ぱんっと間の抜けた音が、少女の全身で鳴る。

「え…?」

 すとんと足下にスカートや水色の縞々パンツが落ち、上半身からはブレザーやシャツの残骸がはらりはらりとはがれていった。

 一瞬にして全裸になった玲は、なにが起きたのかわからなかった。状況を認識するより前に悲鳴と体を隠そうとすると、無情にも次のプログラムが動作する。

『自動ポージングモード』

 一瞬で身体の操作権を体内ナノマシン管制機構に奪われ、そして玲の意志に関係なくバレエのように優雅な動きで、両手を広げ、片足を持ち上げていく。

「ぎゃー、痛い、痛い、勝手に動くっ!」

「ふむ、エフェクトがありませんと、間抜けですねー」

「……それは、ちょっとひどくないかね、ドクター」

 超音速でプライバシーガラスのモードを変えて目線をそらした課長がつぶやく。


『防護服展開』


 デスクの上に鎮座していたマスコット・ハクトちゃんの濁った目がビカビカひかると、でろんとほどけて帯状になってポージングをしている玲にむかって飛びかかる。

「ぎゃー、ねとねとして気持ち悪いっ!」

 玲は口だけは自由に動くようで嫌悪の悲鳴を上げている。

 しかし彼女の悲鳴などまったく無視して帯状のそれは彼女の手足に巻き付いていく。全裸の少女に巻き付く白帯状のぶよぶよしたなにか。 

 ほとんど悪夢のような光景である。子供ならしばらく夢に見るに違いない。

『防護服固定』


「ぎっ!、の、のどが締まる~!」

 帯状のそれが、形を変えていく。


『表面迷彩変更』


 形が整った防護服の色が変わり、


『自動ポージングモード』


「いあたた! あし、あし、つっちゃう、つっちゃうよ!」

一瞬で白銀のバニーガールができあがって決めポーズ。


『自動台詞モード』


「国家最強の番犬 超科学守護少女パクス・バニー!  いけない犯罪者どもは国家権力でお仕置きよ!」

なんかすごく危険な台詞とともにちょっと舌を出して、ぱちんとウィンク。

白いウサミミが頭の上でゆらゆらと揺れている。


『以上展開終了。動作が正しいことを確認してください』


「ふむ、エフェクトはこの部屋に装置がないので仕方ありませんが、そのほかのプログラムきちんと動いているねっ! さすがオレ! 超エクセレント!」

「……そもそもエフェクトする意味があるのかね?」

「魔法少女は変身することに意味があるのですっ。様式美なのですっ!」

「……ごちゃごちゃいうまえにわたしにたいしていうことがあるんじゃないですか」

 ゆらりと底冷えする声が、怒りを通り越して声に込められた憎悪だけで人を殺せそうなくらいの殺意を乗せた声がする。


「防護服展開動作に問題はない。十分実用に耐えることが実証された。これでいちいち着替えなくて良いというのになにを怒っているんだい?」

「うむ、これが量産の暁には防護服脱着手順の大幅な改善が見込めるな」

「ボクをひとまえでぜんらにしといていうことがそれですか」

 平板な声で上げられた罪に青年は何を言っているんだいと言わんばかりに首をかしげる。

「調整の時にいつも見てるじゃないか」

「そういうことをいってんじゃないですっ! ボクは露出癖なんてないんですっ! もっとデリカシーというものを……」

 ぎゃぁぎゃぁと延々と兄妹げんかを続ける二人を見て、サングラスで表情を隠している課長は思う。


 まぁ、喧嘩してもこの兄妹は仲が良いというか。……いや、これだけセクハラされても兄を許す玲くんも少し基準がおかしくなってきているのか? まずい、どこかで矯正しておかないと将来彼氏が出来たときにでもまた大変なことになりかねん。うむ、彼氏になるようなヤツならば、まずは副長に勝ってもらわねば。あいつもなんだかんだと過保護だからの……Sだが。しかし、見事にスレンダーな身体だったな。あれはもう幼児体型を通り越して、人形のようだ。ちゃんと飯を食っているのか? 栄養状態とかは大丈夫なのか? ああ今度“食堂の主”に言っておかねば。わしのポケットマネー払っても良いから……


……なんだかんだと玲を心配する親心満載な課長であった




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