第6話「それは、許可されていない」
王都は、息苦しかった。
人は多いのに、声が低い。
建物は立派なのに、空気が重い。
(……村の方が、ずっと自由だったな)
レイナは、魔導管理局の建物を見上げた。
高い。
威圧するためだけに作られた高さ。
「追放者、レイナ・アル=サンだな」
受付の男は、書類を見もせず言った。
「第三応接室へ」
案内もない。
自分で探せ、ということらしい。
(分かりやすいな)
部屋に入ると、三人いた。
見覚えのある視察官ディートリヒ。
そして、初老の男が二人。
服の質で分かる。
――上だ。
「座りなさい」
言われる前に、レイナは座っていた。
「単刀直入に言おう」
初老の一人が、書類を机に叩きつける。
「君は、違法行為を行った」
「どれがですか?」
即答。
空気が一瞬、止まった。
「魔道具の無許可改変」
「技術情報の無断配布」
「王国魔法体系への混乱誘発」
「三つとも?」
「そうだ」
レイナは、少し考えてから言った。
「全部、“誰かが困りましたか?”」
初老の男が、眉を吊り上げる。
「困るに決まっている!
魔法は管理されるべき力だ!」
「でも、水は出ました」
「結果の話はしていない!」
「結果が、全てじゃないですか?」
――ピシッ。
机を叩く音。
「生意気だな」
その言葉に、レイナははっきりと顔を上げた。
「はい。そうですね」
一同が言葉を失う。
「でも」
レイナは続けた。
「王国の許可がないと、水を出しちゃいけないんですか?」
沈黙。
「喉が渇いてる人より、
書類の方が大事なんですか?」
初老の男の顔が、赤くなる。
「君は……王国を敵に回している自覚があるのか!」
「あります」
即答。
「でも」
レイナは、にこりと笑った。
「もう、止められませんよ」
「何?」
「説明書、百部以上配りました」
ディートリヒが、目を見開いた。
「な……!」
「写した人もいます。
もう、どこまで広がってるか分かりません」
レイナは、淡々と言う。
「禁止するなら、王国中の村を一つずつ回ってください」
「……」
「たぶん、その方が非効率です」
沈黙が、重く落ちる。
初老の男は、歯ぎしりしながら言った。
「……処罰は保留だ」
「代わりに」
「今後一切、魔法に関わる活動を禁ずる」
レイナは、首を傾げた。
「それ、無理です」
「何?」
「魔法は、もう“私の外”にありますから」
立ち上がる。
「私を止めても、意味ありません」
「――出ていけ」
そう言われ、レイナは扉に向かった。
出る直前、振り返る。
「あと一つだけ」
「?」
「魔法って、誰のものですか?」
答えはなかった。
建物の外。
レイナは、大きく息を吸った。
(……嫌われたな)
でも。
(やっとだ)
ようやく、
“本当に壊すべき相手”が見えた。
その頃。
王都の裏通りで、
同じ図面を持つ人間が、静かに増え始めていた。
止められない。
もう、誰にも。
魔力ゼロの少女は、
王国の「管理」という幻想に、最初の亀裂を入れた。




