第28話「奪えないもの」
最初の報せは、短かった。
【緊急報告】
西部境界・ハルド街道
技術輸送隊、行方不明
「……来たか」
レイナは、目を閉じた。
ハルド街道は、
技術継続地域と停止地域を結ぶ要路だった。
装置部材。
説明書。
代替部品。
どれも、武器ではない。
だが。
「狙う価値は、十分ある」
カイが、地図を見ながら言う。
「奪えば」
「交渉材料になる」
「脅しにもなる」
「ええ」
レイナは、静かに答える。
「“選択”を、
力で歪めるやり方です」
現地調査。
街道脇に、
転がされた馬車。
壊されてはいない。
ただ、
止められている。
「……死人は?」
「いない」
調査官が答える。
「連れて行かれただけです」
「……見せしめですね」
レイナは、地面に残る足跡を見る。
(訓練された動き)
(だが、軍ではない)
評議会・緊急会合。
「軍を出すべきだ!」
声が上がる。
「力には、力で――」
「待ってください」
レイナは、即座に制した。
「それは」
「相手の望み通りです」
ざわめき。
「彼らは」
レイナは、円卓を見渡す。
「技術を、
“支配の道具”に戻したい」
「軍が出れば」
「“王国が技術を守るために
武力を使った”という物語が、
完成します」
沈黙。
「……では、
どうする」
ディートリヒが問う。
レイナは、答えた。
「奪われたものを、
価値のないものにします」
「は?」
数時間後。
王都の掲示板、
地方の通信板、
すべてが更新された。
【告知】
ハルド街道での事案を受け
当該技術部材は
全仕様を公開
代替生産を、即時解禁
「……まさか」
カイが、目を見開く。
「奪われた装置、
もう“秘密”じゃない」
「はい」
レイナは、うなずく。
「交渉材料になりません」
さらに。
【追記】
誘拐された輸送員の安全を最優先
身代金・交換条件には応じない
ただし、対話は拒まない
「……冷たい、と思われるぞ」
「ええ」
レイナは、否定しなかった。
「でも」
「“応じる”と、
次が必ず来ます」
三日後。
接触があった。
街道近くの、
廃屋。
武装した一団。
「装置を止めろ」
リーダーが言った。
「使う地域を、
一つにまとめろ」
「無理です」
レイナは、一歩も引かずに答えた。
「選択は、
誰にも奪えません」
「なら――」
「もう、奪えていますか?」
レイナは、静かに問い返す。
「装置を」
「未来を」
男は、言葉に詰まった。
「あなたたちは」
レイナは、続けた。
「“持っているつもり”でいます」
「でも」
「仕様は、公開された」
「部材は、再生産されている」
「あなたたちが縛っているのは」
「人だけです」
沈黙。
夜明け。
輸送員たちは、解放された。
理由は、語られなかった。
だが。
「……もう、意味がない」
誰かが、そう言ったのだろう。
王都。
無事の報告が届いたとき、
誰も歓声を上げなかった。
代わりに。
「……終わったな」
そんな声が、静かに広がった。
夜。
レイナは、窓辺に立っていた。
「……怖くなかった?」
カイが聞く。
「怖かったです」
レイナは、正直に答えた。
「でも」
「力で奪われるなら」
「最初から、
誰のものでもなかった」
魔力ゼロの少女は、
剣を取らなかった。
奪う意味そのものを、消した。
力は、確かに恐ろしい。
だが。
共有された未来は、力では持ち去れないのだった。




