第26話「分かれた未来」
一年を待たずに、
差は現れた。
【中間報告】
技術選択制導入後 六か月
・技術継続地域:生産効率 微増
・部分導入地域:安定
・全面停止地域:事故ゼロ/生活負荷増大
数字は、冷酷だった。
誰の思想も、
誰の善意も、
平等に切り分けていく。
「……思ったより、早いな」
カイが、報告書を閉じた。
「はい」
レイナは、静かに答える。
「“結果”は、
人を黙らせます」
評議会。
今回は、
地方代表の発言が中心だった。
「我々は、続けている」
北部代表が言う。
「事故は、起きていない」
「自分たちで管理しているからだ」
「こちらは、止めた」
南部の代表が続く。
「正直に言う」
「不便だ」
「だが」
「誰も、失わなかった」
空気が、重くなる。
「……つまり」
議長が、まとめる。
「どちらも、
間違いではない」
「だが」
「差は、広がる」
沈黙。
その日の夜。
王都の外れ。
レイナは、
止まったままの水装置の前に立っていた。
南部から来た視察団の村。
装置は、覆いをかけられ、
使われていない。
「……後悔は?」
同行していた村の女が、聞いた。
レイナは、少し考えてから答える。
「それを、
私に聞かないでください」
「え?」
「後悔するかどうかを、
決めるのは」
「あなたたちです」
女は、黙った。
一方。
東部の工業都市。
新しい装置が、
静かに稼働していた。
「……便利だ」
職人が言う。
「怖いけど」
「もう、戻れない」
レイナは、
その言葉を、否定しなかった。
王都に戻る馬車の中。
「……世界が、割れてきたな」
カイが言う。
「はい」
レイナは、窓の外を見る。
「でも」
「最初から、
同じ未来なんてありませんでした」
「選ばなかっただけです」
評議会・非公式会合。
「このままでは」
官僚の一人が言う。
「技術を使う地域と、
使わない地域で」
「経済格差が生まれる」
「対策は?」
視線が、
再びレイナに集まる。
レイナは、
はっきり言った。
「是正しません」
ざわめき。
「……何だと?」
「格差は、
“選択の結果”です」
「王国が、
帳消しにしてしまえば」
「選ぶ意味が、
消えます」
沈黙。
「ただし」
レイナは、続ける。
「命に関わる部分は、
別です」
「水」
「医療」
「最低限の安全」
「それは、
選択の外に置きます」
「……線引きか」
「はい」
「曖昧なままでは、
壊れます」
夜。
一人になったレイナは、
机に向かっていた。
(同じ世界に、
違う未来が並ぶ)
(それを、
許した)
怖さが、
なかったわけではない。
だが。
(選ばせなかった世界より)
(ずっと、正直だ)
魔力ゼロの少女は、
世界を一つにまとめなかった。
分かれることを、受け入れた。
それは、分断ではない。
選択が、
本物になった証だった。




