第24話「誰が、背負うのか」
責任を問う声は、
怒号ではなかった。
それは、もっと静かで、
もっと重い形で現れた。
【請願書】
技術運用責任の明確化を求める
署名:王都・南部・東部 各地より
「……来たな」
ディートリヒが、紙束を机に置いた。
「ええ」
レイナは、目を伏せたまま答える。
「想定より、早いです」
評議会。
いつもより、席が多い。
王国上層部。
地方代表。
そして――
一般市民枠。
犠牲者の家族も、いた。
「……説明を」
議長が言う。
レイナは、立ち上がった。
「ミルハ村の事故は」
レイナは、はっきり言った。
「人為的破壊によるものです」
「ただし」
「防げなかったのも、事実です」
「王国の責任は?」
遺族の一人が、問いかける。
震える声。
レイナは、目を逸らさなかった。
「あります」
一瞬、会場がざわつく。
「……なら」
別の声。
「誰が、責任を取る?」
「首だ」
「役職だ」
「誰か、差し出せ」
言葉が、重なっていく。
(来る)
レイナは、深く息を吸った。
「“誰か一人”が」
静かな声。
「責任を取ることは、できます」
「でも」
「それで、何が変わりますか?」
ざわめき。
「次の事故は、防げますか?」
「信頼は、戻りますか?」
沈黙。
「責任とは」
レイナは、続ける。
「終わらせるためのものではありません」
「続けるためのものです」
「……逃げるな!」
怒号が飛ぶ。
「誰かを、罰しろ!」
「罰は、必要です」
レイナは、否定しなかった。
「だから」
「“私たち全員”が、
責任を引き受けます」
会場が、静まり返る。
「具体的には」
レイナは、紙を一枚掲げる。
「・技術評議会の権限縮小」
「・運用停止の即時判断権を、地方へ移譲」
「・事故時の補償基金を、王国主導で設立」
「……自分たちの力を、削るのか」
ディートリヒが、低く呟く。
「はい」
レイナは、うなずく。
「それが、責任です」
「……それでも」
遺族が、言った。
「戻らない」
レイナは、ゆっくり頭を下げた。
「はい」
「戻りません」
「だから」
顔を上げる。
「あなたの怒りを、
正しい形で残したい」
「二度と、同じ理由で
誰も死なないように」
長い沈黙。
やがて。
「……逃げてはいないな」
誰かが、ぽつりと言った。
「逃げてない」
「軽くもない」
同意が、少しずつ広がる。
その日。
評議会の決定が、公開された。
【決議】
責任の集中を否定
権限分散・補償制度の即時施行
技術は続くが、形を変える
王都は、荒れなかった。
完全な納得も、なかった。
だが。
「……これなら」
「続けられるかもしれない」
そんな声が、残った。
夜。
レイナは、一人で灯りを見ていた。
「……重いな」
カイが言う。
「はい」
「でも」
レイナは、小さく息を吐く。
「誰か一人を、
犠牲にするより」
「ずっと、ましです」
カイは、黙って頷いた。
魔力ゼロの少女は、
英雄にも、罪人にもならなかった。
責任を、分解した。
それは、派手ではない。
だが。
壊れにくい社会が、
確かに一歩、前に進んだ瞬間だった。
次に問われるのは――
「それでも、続ける価値はあるのか」。
最後に、もう一度だけ。
重たい物語を誠実に積み上げるための思考の支点として




