第13話「線を、引く人」
王立魔法学院の奥、
使われなくなった講義室。
そこに集められたのは、
“改革派”と呼ばれ始めた人々だった。
若い研究者。
地方出身の官僚。
学院を追われた元教授。
数は、十数名。
(思ったより多い)
レイナは、内心でそう思った。
「今日は、非公式だ」
そう切り出したのは、白髪交じりの男――
元教授のバルドだった。
「王国としても、まだ結論は出していない」
「だからこそ」
視線が、レイナに向く。
「君の考えを、聞きたい」
レイナは、少しだけ考えた。
(試されてる)
「……私の考えは、前と変わりません」
ゆっくり、言葉を選ぶ。
「技術は、管理するものじゃない」
「使われ方を、説明するものです」
「その説明を、誰でも検証できる形で残す」
「それだけです」
一人の官僚が、口を挟んだ。
「理想論だな」
「現実は、もっと荒れる」
「だからこそ」
レイナは、即座に返す。
「隠すほど、荒れます」
空気が、ぴんと張った。
「……では」
別の男が、手を上げる。
王国中枢に近い立場の、改革派官僚。
「君の通信技術」
「王国管理下で、“段階的に”公開する案は?」
(来た)
レイナは、目を伏せた。
「段階的、とは?」
「まずは、王都のみ」
「次に、許可制で地方へ」
「管理局が、内容を確認する」
(つまり、検閲)
「……それは」
レイナは、顔を上げた。
「改革じゃありません」
「形を変えた、統制です」
ざわめき。
官僚は、眉をひそめた。
「だが、急激な解放は危険だ!」
「暴動が起きる!」
「責任は、誰が取る?」
レイナは、静かに答えた。
「“誰か一人”が取ろうとするから、歪むんです」
「皆で使って、
皆で間違えて、
皆で直す」
「それが、現実です」
一瞬、沈黙。
「……甘いな」
官僚が、低く言った。
「君は、民衆を信じすぎている」
「信じてません」
レイナは、はっきり言った。
「だから、隠しません」
「隠さないから、考えさせるんです」
その言葉に、
若い研究者の一人が、目を輝かせた。
「……そうだ」
「間違える自由が、必要なんだ」
だが、官僚は引かない。
「それでは、王国が持たない!」
「持たせるために、
ここまで来たんでしょう?」
レイナの声は、冷静だった。
「壊れないために、
変わる必要がある」
「……変わり方を、間違えると」
「壊れます」
「だから、慎重に――」
「いいえ」
レイナは、はっきり遮った。
「慎重に“遅らせる”ことが、
一番の近道だとは思いません」
空気が、凍る。
バルドが、重く息を吐いた。
「……分かった」
「線を、引こう」
全員が、彼を見る。
「通信技術の公開」
「全面か、管理か」
「中間は、なしだ」
官僚が、唇を噛んだ。
「それでは、私は――」
立ち上がる。
「王国側に立つ」
「急進的すぎる」
数人が、彼に続いた。
椅子が、きしむ音。
部屋の人数が、半分近く減る。
(……分かれてしまった)
レイナは、胸の奥が痛んだ。
だが。
バルドが、残った人々を見回す。
「こちらは?」
若い研究者が、一歩前に出た。
「俺は、残ります」
「考える力を、信じたい」
次に、地方官僚。
「地方は、もう限界です」
「隠されるより、知りたい」
次々に、声が上がる。
レイナは、静かに頭を下げた。
「……ありがとうございます」
バルドが、苦笑する。
「いや」
「これは、賭けだ」
「負ければ、我々は消される」
「分かっています」
レイナは、まっすぐ言った。
「でも」
「何もしなければ、
もっと多くが、黙って消えます」
その夜。
レイナは、地下工房に戻った。
「……分かれたか」
カイが、短く言う。
「はい」
「でも」
レイナは、少しだけ笑った。
「線は、引けました」
「どっちが?」
「“変わりたい人”と、
“守りたい人”です」
カイは、うなずいた。
「じゃあ、次は?」
レイナは、机の上に、
新しい設計図を広げた。
通信装置の、簡易版。
「次は」
「王国を通さず、
地方同士を、直接つなぎます」
「……完全に、戻れなくなるな」
「はい」
レイナは、静かに答えた。
「でも」
「戻らない人たちが、
もう、ここにいます」
地下工房の明かりが、灯る。
魔力ゼロの少女は、
改革派の“分裂”を受け入れた。
それは、敗北ではない。
本当に味方になる人だけを、選び取った夜だった。




