第1話 「魔力ゼロ、追放決定」
「――レイナ・アル=サン。魔力測定、ゼロ」
水晶球の前で、教官がはっきりと言い切った瞬間、
講堂に集まっていた生徒たちが、ざわりと空気を揺らした。
「ゼロって……測定ミスじゃないの?」
「ありえないでしょ、魔力がない人間なんて」
ひそひそとした声。
嘲笑、同情、好奇の入り混じった視線。
レイナは――内心で、少しだけ首を傾げていた。
(あれ? 思ったより静かだな)
叫ばれると思っていた。
絶望して膝をつく自分を想像していた。
でも実際は、ただ一つの感想しか浮かばなかった。
(なるほど。“ゼロ”か)
「王立魔法学院の規定により、魔力を持たない者は在籍を認めない」
教官の声は事務的だった。
「よって、レイナ・アル=サンは本日付で学院を追放。
三日以内に王都を離れ、辺境領へ向かってもらう」
――追放。
その言葉に、周囲が一気にざわめく。
「かわいそう……」
「でも仕方ないよね、魔力ゼロじゃ」
レイナは、ゆっくりと一礼した。
「分かりました」
あまりにあっさりした返事に、教官が一瞬だけ眉をひそめる。
「……何か言い残すことは?」
レイナは少し考えたあと、正直に答えた。
「一つだけ、質問いいですか?」
「なんだ」
「皆さんって、魔法を使うとき
“なぜその手順でやっているか”考えたことあります?」
教官も、生徒たちも、言葉を失った。
「……何を言っている」
「いえ、気にしないでください」
レイナは微笑んだ。
(やっぱりだ)
この世界の魔法は、
効率が悪すぎる。
前世――日本で、
レイナは無駄を見つけては改善する仕事をしていた。
感覚任せの作業。
理由の分からない手順。
「昔からそうだから」という言葉。
それらがどれほど脆いか、嫌というほど知っている。
(魔力がない? ううん)
(“無駄な魔力”を使えないだけ)
講堂を出る直前、
背後で誰かが小さく笑った。
「ゼロ点魔法使い、辺境で何ができるのやら」
レイナは振り返らなかった。
(楽しみだな)
(誰もいない場所で、思う存分試せる)
――魔力ゼロの少女が、
世界の魔法を壊し始めるまで。
それは、まだ誰も知らない。




