表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/44

第7話 楽しい楽しいお茶会になるはず……そう思っていた。

 迎えたお茶会当日。カゴの中にアップルパイを二個入れた。


 私はパイ作りが終わった後、徹夜して作ったドレスを着て、馬車に乗った。


 ドレスは森を抜けた所にある花畑を摘み取って散りばめてみた。


 王族クラスの上等な布はなかったが、普段着ている薄汚れたものよりはマシだ。


(喜んでくれるといいのだけれど)


 私はカゴの中に入っているパイを見ながら思った。もし美味しくないと言ってフォークを投げられたら……そんな未来は考えたくもなかった。


 でも、大丈夫。王子がいるからそんな事にはならない……はず。


 あぁ、シナーノ王子に会えると思うと、心臓がドキドキしていた。


 会ったらすぐにあの晩について謝ろう。私はそう決めて、カゴの持ち手をギュウと握った。



 そうこうしていると、お城に着いた。あのパーティーの時みたいに浮いていた格好ではないので、見張りの兵士達も二度見する事なく通してくれた。


 メイドに招待状を見せると、すぐにお茶会が開かれている場所まで案内された。噴水のある庭園だった。


 あれを見ると、王子と踊った日を思い出して、胸が張り裂けそうになった。けど、そんな気持ちも今日でおしまい。


 私は爛々(らんらん)とした心地で王子を探した。


 その前にベニーを見つけた。噴水の前でテーブルと椅子が置かれていて、そこにはお淑やかな陶器のティーポットやカップが置かれていた。


 テーブルの上には既にクッキーやスコーンなどが置かれていたが、何も乗せていない皿が二つあった。それを見て内心ホッとした。


「ユキ!」


 私を呼ぶ声がしたので向いてみると、姉のベニーが赤を基調とした優雅なドレスを着てやって来た。


 私のドレスが貧相に見えるくらい豪華だったので、恥ずかしくなってしまった。


「あの、お姉様……これを」


 私は恐る恐るカゴに入ったアップルパイを差し出すと、ベニーが抱きついてきた。


「ありがとう。楽しみにしてたわ」


 その言葉に胸がジーンとなった。けど、招待客達の前だからそう言っているのか、本心なのか分からなかった。


「みんな! 私の妹のユキよ」


 ベニーが友人達に私の紹介をしてくれた。

 友人達は立ち上がると、「ご機嫌よう。ユキ様」と一礼した。


「ご、ご機嫌よう……」


 私はしどろもどろになりながら挨拶をした。


「さぁっ! 主役もご登場した事ですし……お茶会を始めましょう!」


 ベニーがそう言って手を叩くと、メイド達がやってきた。


 私はメイドにカゴを渡すと、彼女はアップルパイを取り出してお皿に乗っけた。


「どうしたの? あなたも座ってちょうだい」


 ベニーがそう促され、私は「失礼します……」と縮こまりながら座った。


 ふと隣に空席がある事に気づいた。なるほど、ここにシナーノ王子が座るんだなと思った。


 そんな事を思っていると、私の作ったアップルパイが切り分けられ、彼女達のお皿に盛り付けられた。


 ベニーや友人達が「美味しそう!」「これが噂のパイね!」と嬉しそうな顔をしていた。よかった。本当に食べたかったんだ。直接姉達の反応を見て胸を撫で下ろした。


「それではいただきましょう」


 ベニーがナイフで一口サイズで切った後、フォークに刺して食べた。すると、姉の目がさらに大きくなった。


「なんて美味しいの! みんなも早く食べて!」


 ベニーにそう言われて、友人達も同じような切り方で一口食べた。


「美味しい!」

「あなたの妹は天才ね!」

「私のお菓子職人が作るものよりも美味しいわ」


 皆、アップルパイを絶賛していた。


「ユキ、こんなに美味しいのを食べさせてくれてありがとう」


 ベニーに感謝の言葉を授けられたが、私は何だか恥ずかしくなり「きょ、恐縮です」とドギマギしながら紅茶を一口飲んだ。



 お茶会は大いに盛り上がっていた。主にベニーと友人達が各々興味のある事を話題にして盛り上がっていた。


 私はそれを静かに見守りながら紅茶を飲んだり、パイを食べたりしていた。


 姉の友人達はどれも豪華で優雅な雰囲気をまとっていたが、どことなくベニーと同じ雰囲気を感じた。


 しかし、中にはそれを一切感じさせない人もいた。けど、今はシナーノで頭がいっぱいだった。


 彼はいつ来るのだろう。きっと手が離せない野暮用があるのね。


「あ、そうそう! ユキ」


 すると、ベニーが突然私に話しかけてきた。


「えっと……何でしょうか?」


 私は緊張しながら聞くと、ベニーは「実はあなたに内緒で作ってきたものがあるの」と言うと、メイドに持ってくるように命じた。


 友人達はニコニコ(ニヤニヤ?)しながら私を見ていた。一体何だろうと思って見てみると、小さなパイだった。


 ちょうどお皿に乗る大きさで、一人分しかなさそうだった。


「もしかして……私のために作ってくれたんですか?」


 私がそう聞くと、ベニーは「そうよ。あなたばかり苦労させて、私が何もしないのは姉として恥ずべき行為。だから、お礼もかねて作ったの」と笑顔で答えた。


 姉の特製のパイ……姉が私のために?


 今までそういう事がなかったので、嬉しくなって感情が込みがってしまった。


「もしかして嫌だったかしら?」


 ベニーの表情が曇ったので、私はすぐに首を振った。


「いえ! そうではないんです。本当に嬉しくて……」


 私は涙を拭っていると、姉は「涙が出るほど嬉しいなんて……作った甲斐がありますわ」とハンカチを取り出して目元を拭っていた。


「さっ、冷めないうちに早く……」


 感動的な雰囲気の中、私は「いただきます」と言った。


 これはナイフで切るとグチャグチャになってしまうので、クッキーみたいに手で食べるタイプだった。


 手に取ってパクっと一口食べてみた。


 うん、美味しいブルーベリージャム……だけど、食感が変だった。なんて言うのだろう。グニャグニャというか、グニグニというか……。


 それに少し苦い。中身を確認するためにパイの方を見てみた。食べて欠けた部分から芋虫の死骸が顔を出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ