第7話 楽しい楽しいお茶会になるはず……そう思っていた。
迎えたお茶会当日。カゴの中にアップルパイを二個入れた。
私はパイ作りが終わった後、徹夜して作ったドレスを着て、馬車に乗った。
ドレスは森を抜けた所にある花畑を摘み取って散りばめてみた。
王族クラスの上等な布はなかったが、普段着ている薄汚れたものよりはマシだ。
(喜んでくれるといいのだけれど)
私はカゴの中に入っているパイを見ながら思った。もし美味しくないと言ってフォークを投げられたら……そんな未来は考えたくもなかった。
でも、大丈夫。王子がいるからそんな事にはならない……はず。
あぁ、シナーノ王子に会えると思うと、心臓がドキドキしていた。
会ったらすぐにあの晩について謝ろう。私はそう決めて、カゴの持ち手をギュウと握った。
※
そうこうしていると、お城に着いた。あのパーティーの時みたいに浮いていた格好ではないので、見張りの兵士達も二度見する事なく通してくれた。
メイドに招待状を見せると、すぐにお茶会が開かれている場所まで案内された。噴水のある庭園だった。
あれを見ると、王子と踊った日を思い出して、胸が張り裂けそうになった。けど、そんな気持ちも今日でおしまい。
私は爛々とした心地で王子を探した。
その前にベニーを見つけた。噴水の前でテーブルと椅子が置かれていて、そこにはお淑やかな陶器のティーポットやカップが置かれていた。
テーブルの上には既にクッキーやスコーンなどが置かれていたが、何も乗せていない皿が二つあった。それを見て内心ホッとした。
「ユキ!」
私を呼ぶ声がしたので向いてみると、姉のベニーが赤を基調とした優雅なドレスを着てやって来た。
私のドレスが貧相に見えるくらい豪華だったので、恥ずかしくなってしまった。
「あの、お姉様……これを」
私は恐る恐るカゴに入ったアップルパイを差し出すと、ベニーが抱きついてきた。
「ありがとう。楽しみにしてたわ」
その言葉に胸がジーンとなった。けど、招待客達の前だからそう言っているのか、本心なのか分からなかった。
「みんな! 私の妹のユキよ」
ベニーが友人達に私の紹介をしてくれた。
友人達は立ち上がると、「ご機嫌よう。ユキ様」と一礼した。
「ご、ご機嫌よう……」
私はしどろもどろになりながら挨拶をした。
「さぁっ! 主役もご登場した事ですし……お茶会を始めましょう!」
ベニーがそう言って手を叩くと、メイド達がやってきた。
私はメイドにカゴを渡すと、彼女はアップルパイを取り出してお皿に乗っけた。
「どうしたの? あなたも座ってちょうだい」
ベニーがそう促され、私は「失礼します……」と縮こまりながら座った。
ふと隣に空席がある事に気づいた。なるほど、ここにシナーノ王子が座るんだなと思った。
そんな事を思っていると、私の作ったアップルパイが切り分けられ、彼女達のお皿に盛り付けられた。
ベニーや友人達が「美味しそう!」「これが噂のパイね!」と嬉しそうな顔をしていた。よかった。本当に食べたかったんだ。直接姉達の反応を見て胸を撫で下ろした。
「それではいただきましょう」
ベニーがナイフで一口サイズで切った後、フォークに刺して食べた。すると、姉の目がさらに大きくなった。
「なんて美味しいの! みんなも早く食べて!」
ベニーにそう言われて、友人達も同じような切り方で一口食べた。
「美味しい!」
「あなたの妹は天才ね!」
「私のお菓子職人が作るものよりも美味しいわ」
皆、アップルパイを絶賛していた。
「ユキ、こんなに美味しいのを食べさせてくれてありがとう」
ベニーに感謝の言葉を授けられたが、私は何だか恥ずかしくなり「きょ、恐縮です」とドギマギしながら紅茶を一口飲んだ。
※
お茶会は大いに盛り上がっていた。主にベニーと友人達が各々興味のある事を話題にして盛り上がっていた。
私はそれを静かに見守りながら紅茶を飲んだり、パイを食べたりしていた。
姉の友人達はどれも豪華で優雅な雰囲気をまとっていたが、どことなくベニーと同じ雰囲気を感じた。
しかし、中にはそれを一切感じさせない人もいた。けど、今はシナーノで頭がいっぱいだった。
彼はいつ来るのだろう。きっと手が離せない野暮用があるのね。
「あ、そうそう! ユキ」
すると、ベニーが突然私に話しかけてきた。
「えっと……何でしょうか?」
私は緊張しながら聞くと、ベニーは「実はあなたに内緒で作ってきたものがあるの」と言うと、メイドに持ってくるように命じた。
友人達はニコニコ(ニヤニヤ?)しながら私を見ていた。一体何だろうと思って見てみると、小さなパイだった。
ちょうどお皿に乗る大きさで、一人分しかなさそうだった。
「もしかして……私のために作ってくれたんですか?」
私がそう聞くと、ベニーは「そうよ。あなたばかり苦労させて、私が何もしないのは姉として恥ずべき行為。だから、お礼もかねて作ったの」と笑顔で答えた。
姉の特製のパイ……姉が私のために?
今までそういう事がなかったので、嬉しくなって感情が込みがってしまった。
「もしかして嫌だったかしら?」
ベニーの表情が曇ったので、私はすぐに首を振った。
「いえ! そうではないんです。本当に嬉しくて……」
私は涙を拭っていると、姉は「涙が出るほど嬉しいなんて……作った甲斐がありますわ」とハンカチを取り出して目元を拭っていた。
「さっ、冷めないうちに早く……」
感動的な雰囲気の中、私は「いただきます」と言った。
これはナイフで切るとグチャグチャになってしまうので、クッキーみたいに手で食べるタイプだった。
手に取ってパクっと一口食べてみた。
うん、美味しいブルーベリージャム……だけど、食感が変だった。なんて言うのだろう。グニャグニャというか、グニグニというか……。
それに少し苦い。中身を確認するためにパイの方を見てみた。食べて欠けた部分から芋虫の死骸が顔を出していた。