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第41話 また会えて嬉しいわ

 私と母はテリーシャ王国の城下町を歩いていた。


 なんでだろう。前に来た時は白い目で見られていたはずなのに、今日はそんな視線が全くなかった。


 みんな私達を見るやいなや、急に建物の中に飛び込んで、鍵をかけていた。そして、窓からチラッと見て様子を伺っていた。


「今日はとても静かですね」


 私がそう言うと、母は「国全体がお休みの日なのよ。きっと」と返した。


 そんな会話をしていると、城門前に辿り着いた。大勢の兵士達が一塊になって槍や剣を持って構えていた。


「止まれ!」


 兵士の一人が叫んだ。


「王妃のご帰還です。道を開けなさい」


 母がそう言った瞬間、兵士達は素直に端に寄って一本の道を作った。


「さぁ、行きましょう」


 母は私の手を握って城の中に入っていった。



「だ、誰かーー!!」

「厄災だ! これは神の罰だ!」


 メイドや執事達が好き放題に言って部屋の中に飛び込んでいった。大臣を見かけたが、私達を一目見ると泡を吹いて倒れてしまった。


「大変!」


 私は彼の元へ駆け寄ろうとしたが、母に「アップルパイが冷めてしまうわ」と止められてしまった。


 私は大臣の事は放っておいて、再び廊下を歩いた。


「それにしても、お父さんとベニーはどこにいるのでしょう?」

「聞いてみた方が早いわ。ほら、あそこにいる人に聞いてみましょう」


 母が指差した方を見ると、メイドが立っていた。足元に皿の破片が割れていた。


 それを見て私は彼女と前にあったような気がした。あぁ、思い出した。


「あの人……」

「知り合い?」

「えぇ、ベニーとお茶会して家に帰る際にぶつかってしまったメイドです」


 私が指差して言うと、メイドは大袈裟に声を上げて謝っていた。母は「泣くのは止めなさい」と言うと、メイドの涙が引いていった。


「あの人とベニーはどこにいるの?」


 母の瞳がギラッと輝いた。メイドはスラスラと「庭園です。そこでお茶会しております」と話してくれた。


「まぁ、庭園!」


 母は嬉しそうな声を上げた。


「ちょうどパーティーを開くのに庭園でやった方が楽しいと思っていたの。いるのは、その二人だけ?」

「はい、そうです」

「そう。あわよくば、コールト王国のご家族をご招待したかったけど……」


 母は最後まで言わずに眼で訴えた。しかし、メイドは半泣きになりながら首を振るだけだった。さすがにそこまでの決定権はないらしい。


「まぁ、いいわ。会いに行きましょう」


 母はそう言って歩いて行った。私は時が止まったかのように立ち尽くすメイドを通り過ぎて、母の後を追った。



 外はカラスがやかましいぐらい鳴いていた。まるで私達のご帰還を祝福しているかのようだった。賛美歌みたいに。


 メイドの言った通り、庭園に父と姉がいた。召使い達はご主人達を放っておいて、我先にと逃げてしまった。


「……お母様!」


 ベニーは立ち上がって、夢見心地で母を見ていた。


「ベニー、大きくなったわね」


 母はそう言って微笑んだ。ベニーは母の再会に嬉しかったのか、いちも意地悪な顔をしたり蔑むような表情をしている彼女が、目に涙を浮かべていた。


 対して、父は死人のように青ざめていた。極寒にいるかのように身体が震えていて、大袈裟に口からブルブルと声に出して言っていた。


「どうしたの、あなた? 愛する妻が帰ってきたのよ。何か言う事があるんじゃないの?」


 母がそう言うと、父は「うわああああああ!!!」と急に叫んで転がるように席から外すと、どこかへ走ってしまった。


「お父様!」


 ベニーが慌てて追いかける。私と母だけが取り残されてしまった。庭園の周りにはカラスがグルッと囲まれていた。


「……そういえば、あなた、カラスと約束していたんじゃなかったっけ」


 母が静かに一切抑揚(よくよう)なく聞いていた。カラスとの約束――その言葉に私はカラス男のアダムから母と血縁関係にあたる人物から心臓を取って渡すように言われていたっけ。


「でも、アップルパイパーティーはどうするんですか?」

「そうね……」


 母は頬を少し掻いて考えるような仕草をした後、カゴを見た。


「冷めてもいいわ。今夜、パーティーを開催するように手配しましょう」


 母がそう叫んで両腕を上げると、大勢のカラス達が飛び立った。敵に回せば凶暴になる鳥が従えるなんて……もしや。


「もしかして、お母さんの使い魔なんですか?」


 私はカラスを指差して聞いた。母は「うーん、それに近いかな」と空を見上げたまま答えた。



 そこから先は面白いぐらいに事が進んだ。カラスの伝言のおかげか、コールト王国の一族が転移魔法を使って私達の国にやってきてくれた。


 国王夫妻はもちろん、オーリンもいた。けど、シナーノ王子はいなかった。彼の病気は長引いているみたいだった。


 私と母は彼らが到着するまでに準備しておいたパーティー会場に案内した。庭園に置かれたテーブルの数を倍に増やした。


 皆、席の前にワンホールぐらいのサイズのアップルパイが置かれている。コールト王国の一族はあまり嬉しそうでない顔をして席に腰掛けた。


 父とベニーは庭園を飛び出して以降、暫く姿を見かけなかったが、ベニーだけ戻ってきた。


 母は参加者がほぼ全員集っている事を確認すると、父の到着を待たずにパーティーを開催した。


 皆、恐る恐るアップルパイを食べていた。しかし、美味しさに気づいたのかガツガツ食べ始めた。


 ただベニーとオーリンだけは口にしなかった。母はそれを咎める事なく、ジッと見ていた。


 皆、パイを貪るように食べていた。最初はフォークとナイフを使っていたが、手掴みに変わった。


 全部平らげてしまうと、放心したように椅子に持たれかけて、大人しくなった。

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