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第36話 これは逃げようのない現実なんだ

 私は眼を擦った。だが、全然景色が変わらなかった。


 もう一回擦ってみた。それでも景色は変わらなかった。あぁ、これが現実なんだ。私は避けようのない現実を見せられていると思うと、吐き気を催してきた。


 私は一体何をやっているのだろうか。

ただみんなで仲良くアップルパイを食べたかったのに。


 狼が独占した事で何もかも……。


 いや、相手のせいにするのはよくない。私のせいだ。私がアップルパイを作ってしまったから。


 もしもパイを焼かなければ、今頃平和なままお別れの会が終わっていたかもしれない。


「私のせいだ。私のせいだ……」


 何度も呟きながら頭を抱えて震えていると、パイを食べ終えたイノシシと目が合った。


 片足をザッザッと擦りつけながら睨んでいた。まさか突進するのではと直感した。


「こ、来ないで……」


 私がか細い声で言うが、そう簡単に従う相手ではなかった。イノシシは豪華に鳴いた後、猛突進してきた。


 間一髪かわした事で、私の血肉が彼の牙に刺さらずにすんだ。だが、避けた時にバランスを崩し、足を(くじ)いてしまった。


 うまく立ち上がれない中、イノシシはチャンスとばかりに鳴いて突進してきた。


「いやぁあああ!!!」


 私は何か対抗できないかとポケットの中に入れた。すると、パイを切り分ける時に使ったナイフが出てきた。


 これを使えば――いや、でも、そしたらイノシシが……。


 いや、自分の命を守るためだ。私はそう自分に言い聞かせて、ナイフを突き出すように持った。


 イノシシは真っ直ぐ私の方に向かってくる。彼は私が鋭利なナイフを持って待ち構えている事に気づかないまま眉間にグサリと刺さった。


 即死だったらしく、一切悲鳴を上げる事もなく事切れてしまった。


 私はイノシシを放ったらかしにして、足を引きずりながらローリエの家に向かった。


「開けてください! 開けてください!」


 私は地面に座ったまま何度も呼びかけたが、全く応答がなかった。城下町でお薬を売っているのだろうかと思っていると、「気になるかい?」と背後から声が聞こえてきた。


 振り返ると、猿だった。猿は「よく生き残ってくれた。もし君がいなくなったら、この家を見る事ができなかったからね」と嬉しそうな顔をしていた。


「どうして私がいないとこの家に入る事ができないんですか?」


 私はそう尋ねると、猿はニヤッと笑った。


「来てからのお楽しみさ」


 どういう意味なのかなと思っていると、またしても声をかけられた。声のした方を向くと、ローリエが唖然とした顔をして立っていた。


「なんだ、これは……まるで大災害が起きたみたいじゃないか!」


 かなり混乱しているようで、眼を右往左往させていた。


「ローリエさん!」


 私は足を引きずりながら近づいた。ローリエはようやく私の存在に気づいたのか、「もしかして君の仕業かい?」と聞いてきた。


「違います! これはその……いや、でも、私が原因というか……えっと」

「君は有罪なのか無罪なのか、どっちなんだい」


 私がしどろもどろになっている事に苛立ったのか、ローリエは強めに聞いてきた。


「私のせいです。私がアップルパイさえ作らなければ……」


 そう言って、今まで起きた事を全て話した(猿の事は除いて)。すると、ローリエの顔色が変わった。


「入りなさい」


 私は立ち上がろうとするが、足を挫いて動けない事を伝えると、肩車してくれた。中に入れさせた後、ドアを閉めて鍵をかけた。


 私は山積みになっている本の上に腰をかけた。


「ちょっと待ってて」


 ローリエは慌てて引き出しから瓶を取り出すと、怪我した足の方に(ひざまず)いた。


 パカッと開けると、白いクリームみたいなのが現れた。


「それは?」

軟膏(なんこう)さ。これを塗れば少しは良くなるよ」


 ローリエはそう言って、クリームの塊を出すと私の足に塗った。ヒヤッとしていて気持ちが悪かったが、痛みが和らいできた。


「どう?」

「えぇ、凄い効き目ですね」

「あぁ、いずれは治癒魔法みたいに体内に取り込んだら中も外も癒せるようにできたらと思っているんだ」


 ローリエはそう言って、ボサボサの頭をかいた。



 ローリエに香の良い紅茶を淹れてもらった。一口啜ると、懐かしい味がした。


「ここに来るのは久しぶりだね」


 ローリエはそう言って、カップに口をつけた。


「ごめんなさい。あなたの助手になると言っておきながら黙って出ていってしまって……」

「いや、良いんだ。それよりも今の君の方が気にかかる」


 ローリエは真剣な顔をして私の方を見た。分厚い眼鏡のレンズ越しでも鋭い眼光を放っている事は分かっていた。


「今までの事を踏まえると、君が誰かに呪いをかけられている可能性が濃厚だね。ただその呪いは何なのか……」


 ローリエは腕を組んで唸ったが、何も出てこなかったのか、ホゥと息をついた。


「何か呪いを解く薬でもあればいいんですけど……」


 私はあえてオーリンも呪いの調査している事を黙っておいた。まだローリエの事をよく知らないからだ。


「呪い解く薬ね。それがあったら苦労しないさ……いや、待てよ」


 ローリエは何か思い出したのか、近くにあった本を手に取ってパラパラと(めく)っていた。


 しかし、「違う」と言って放り投げてしまい、次の本を読み出した。恐らく呪いの解除に関する書物を探しているのだろう。


 私も協力して探していると、「あった!」という声が聞こえた。


 ローリエが嬉しそうな顔をして本を見せていた。少し距離が離れているのでタイトルが見えなかったが、呪術関係の本なのは間違いない。


「ほんとで……」


 私はローリエの近くにある棚の上に猿がいる事に気づいた。猿は不気味な笑みを浮かべていた。


「ちょっと待っててくれ! すぐに向かう」


 ローリエが私の方に向かってきた。すると、さっきまでいたはずの猿がいなくなっていた。嫌な予感がした。


「ローリエさん、こっちに来ないでください!」


 私は叫ぶと、ローリエは「え?」と首を傾げた。その時、一つも動かなかった棚が大きく揺れてローリエの方に覆い被さるように倒れてきた。

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