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第34話 森の住民達によるお別れの会

 カラスの導きによって、私は森の奥へと進んでいった。しかし、何故かこの通り道に見覚えがあった。


 幼少期に来ていたっけ? いや、違う。


 歩いていくと、小屋が見えてきた。あの綺麗に青と白が塗られている壁、雑草一つない庭……間違いない。


 私はローリエの所に来たのだ。だけど、以前と違うのはテーブルの周辺に動物達がいる事だ。


 切り株のような椅子に十二匹の生物が座っていた。まず、目についたのが鹿だった。あの茶色い毛並みは私がコールト王国からこの森まで運んできてくれたのと同一に違いない。


 その隣に小鳥が座っていた。なんでだろう。見覚えがあったが、それがいつなのか……いや、あった。


 確かベニーに芋虫入りのパイを食べさせられた時に、むしゃくしゃして来たので、その衝動を抑えるために林檎の木を斧で切り倒そうとしていたら、やめなよと止めに来ていたのと同じだった気がする。


 そのときの鳥かもと思いながら隣を見ると、狼がいた。いつも私を食いちぎろうとしてアップルちゃんと争っていたが、今日は神妙な顔をしていた。


 アップルちゃんとは終始仲が悪かったが、失って初めて気づいたのか、この会に出席したのだろう。


 その隣にいたのは、リスだった。茶色いモフモフとした毛並みで、手にクルミを持っていた。


 私はリスをこの森で見たのは初めてだった。それまでは本でしか見た事がなかった

なので、他所から来たのかなと思った。


 アップルちゃんとはどういう関係だったのか気になる所だが、その隣には……あまり、詳しく言うと長ったらしくなってしまうので、ここから簡略的に説明すると、リスの隣りから時計回りにイノシシ、フクロウ、キツネ、タヌキ、カラス、ハチ、蝶、幼虫が座っていた。


 確か案内状には『森の動物達』と書かれていたけど、もしかして虫も含まれているのだろうか。


 だとしたら、『生き物』の方が正しい気が……と指摘したかったが、公共の場なのでグッと堪えた。


 また、この会に猿が出席していない事に気づいた。


 やはり、彼は使い魔でも森の動物でもなく、悪魔だったのだろうか……。


 そう思っていると、鹿が「ようこそ、ユキ様。アップル様のお別れの会へ」と丁寧に頭を下げた。


 私も同じくらい下げて挨拶した。鹿はゆっくりと頭を上げると、「では、まずはアップル様への黙祷を」と言って目を閉じた。


 鹿がそのようにしたので、他の生き物達も同様に目を閉じた。私も同じようにする。


(アップルちゃん、どうか安らかに……)


 私は心の中で時間の許す限り、亡き熊への哀悼の言葉を捧げた。


「では、目を開けてください」


 鹿にそう言われたので、私はゆっくりと目を開けた。鹿は私達をザッと見渡すように首を振った後、今度は一匹一匹の顔をじっくり眺めていた。


「それでは各自、アップル様への言葉を捧げてください。では、まずは小鳥様から……」


 鹿がそう言うと、小鳥が今にも泣き出しそうな顔で話した。


「あ、アップルさんとは生前文通するような仲でした。文通とは言っても、恋文のような甘い言葉ではなく、単なる日常会話だったんですけど……」


 小鳥はその後もピチュパチュとアップルさんとの思い出を語っていた。その後は時計回りに皆、語っていた。


 どの生き物も熊は良い奴だったとか、こんな事を教えてくれたなどと、良い話しかなかった。


 狼も口が悪かったが、最後は目元を拭っていた。ただカラスだけは何も話さなかった。


 カァとしか鳴いていなかったが、鹿はそれでいいのか、次の生き物に話を振っていた。


 そして、本来であれば私の番のはずなのに、何故か飛ばされてしまった。


 それを聞こうと思ったが、しんみりとした空気を壊すのは良くないと思い、口を(つぐ)んだ。


 鹿も熊との思い出を語った後、ようやく私にまわしてきた。


「では、最後にこの会唯一の人間で恐らく一番付き合いが長いであろうあるユキ様、アップル様との思い出をお話ください」


 私は深呼吸した後、口を開いた。


「私とアップルちゃんとの馴れ初めは決して穏やかなものではありませんでした。私が住んでいた小屋に食べ物を狙って襲撃しようとしてきたんです。私は咄嗟に斧で追い払おうとしましたが『いや、待てよ』と思い留まりました。

 追い出しても恨みを買って戻ってくるなら、素直に食べ物をあげたら平和的な解決ができるのではないか……と思いました。

 私は近くにあったアップルパイを持って彼にあげました。

 すると、アップルちゃんは私を親のように面倒を見てくれるようになりました。

 たった一個のアップルパイが私と彼と切れることのない絆を……」


 私は頭の中にアップルちゃんの思い出が蘇ってしまい、一気に感情が溢れそうになった。


 喋る事もできないほどシャックリが出てきて、目の前がボヤけるほど涙で埋まってしまった。


 私が話せない状態だと察した森の生き物達は近寄ってきて、慰めの言葉をかけてきた。


 私は泣きじゃくりながら何度も感謝の言葉を述べた。そして、カゴの中に入っていた手ぬぐいを取って目元を拭った。


「ユキ様、よくぞお話してくださいました。我々もアップル様がいなくなったことで、とても悲しい気持ちで胸がいっぱいです……では、アップル様への哀悼の言葉はここまでして、次は各自アップル様に捧げる贈り物を見せ合いましょう」


 鹿に促された森の生き物達は次々とテーブルの上に、プレゼントを置いた。


 花畑で摘んだと謂われる綺麗な花、爪で研いだアップルちゃんの木の彫像、蜂蜜、木の実が数個、川野近くで拾ったピカピカの石、枝で作った冠……など、アップルちゃんが喜ぶであろう品々が出されていた。


 だが、カラスだけは何も出さなかった。ただカァとしか鳴かなかった。ちなみに鹿は紅茶の茶葉を出した。そして、私の番になった。

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